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何か作戦を考えなきゃ…

キャロル嬢は黙って居れば可愛らしく女子力も高い令嬢だ。しかも父親は宰相である。マリタの父の受け継いだヴィヴィアーニ伯爵領は王都に近い栄えた街ではあるが父自身は真面目なだけが取り柄のしがない文官であるのだからどちらを嫁にすれば旨味があるかは明白だ。
そしてさらに、キャロル嬢の可愛さにフラヴィオが大好きな甘い甘いスイーツをプラスすれば良いのではないかとマリタは考えた。

マリタの体液VS旨味成分てんこ盛りの美少女キャロルとくれば誰もマリタの体液など取らないだろう。

「キャロル様、フラヴィオ様は最近、癒しブームで甘い物を召し上がると心身共に癒されると仰ってよく好んで甘いスイーツなどを食べてらっしゃいます。特にお好きなのは苺のケーキのようです。」

「フラヴィオ様が甘い物を」
キャロルはフラヴィオ様ったら可愛らしいですわ。と頬を染めている。アレに可愛さがあっただろうかと無表情で可愛らしいスイーツ達を食べる可愛らしさ皆無のフラヴィオの姿を思い出したマリタは軽く首を振り気を取り直した。
「ええ、ですからフラヴィオ様にデザートをご一緒しませんか?とお誘いしてみるのはいかがでしょうか?」
キャロルの策はどうやら初めから無い様なのでマリタはなんとかならないものかとかなり知恵を絞った。あの唐変木魔術師のフラヴィオ様でもデザートのお誘いならもしかしたら受けるかもしれない。
そしてあわよくば一緒にデザートを食べて次回の逢引日程などをぜひとも決めて頂きたい!

「それだわ!きっとキャロルとなら喜んでご一緒して下さると思います!早くフラヴィオ様を探さなくちゃ!」
キャロルは手を胸の前で組むと立ち上がり目を閉じた。
キャロルは頬をほんのり染め動く気配はなく、更に夢想する様にうっとりしだしてマリタは急かすようにキャロルの背を押して会場へと戻った。





フラヴィオ様はお友達の輪から離れ何やら眉間にしわを寄せ周囲を威嚇する野生動物みたいにうろうろとしている。
しかし、マリタの姿を見つけると更に眉間のシワが深くなりマリタはビクリと肩を震わせてキャロル嬢の後ろに移動した。
「ふ、フラヴィオ様だわ!」
マリタの前ではキャロルが頬を染めて期待いっぱいの眼差しをフラヴィオに向けている。
「フラヴィオ様…」
キャロル嬢の呼び掛けはしかし、フラヴィオには届かなかった。
「どこに行っていた。」
キャロル嬢の前に立ったフラヴィオが眉間にしわを寄せたまま不機嫌を隠さずマリタを睨みながら言った。
「す、少しだけ夜風に当たりたくて、バルコニーから外に出てたの。」
マリタはものすごく居心地が悪かった。
「バルコニーだと?」
そう言ってバルコニーの方を振り返ったフラヴィオになぜ私を無視するのだと憤慨したキャロルがフラヴィオの目の前に回り込んだ。
「フラヴィオ様!お久しぶりです!」
「…ん?君は…………」
満面の笑みのキャロルに対して怪訝な表情のフラヴィオ様は首を傾げるとしばし黙り込んだ。
「…キャロルですわ。」
ショックを隠せない表情でキャロルが名前のみ名乗るが失礼極まりない男フラヴィオは更に困惑した顔をマリタに向けた。
「マリタの部下か?」
ちょっとぉぉ!?
問題児は全てマリタの部下だと思っている様な発言だ。
マリタは脳内で盛大に不貞腐れ、思わず攻撃魔法のひとつでもぶち込もうかと思ったがフラヴィオの足を踏むに止めた。
「…ぃ」
マリタは痛みに悶絶するフラヴィオの腕をつかみ耳元に口を近づけた。
「っ…」途中フラヴィオが暴れそうになりマリタの唇がフラヴィオの耳にぶつかったがマリタは噛まなかっただけ有難く思うがいいと思ったくらいの些細な出来事だった。
対してフラヴィオは羞恥と自らの過剰な反応に大いに焦っていた。もちろんそんな場面を目の当たりにしたキャロルも好きな人のラブシーンもどきを目撃したショックで呆然としている。
「彼女はキャロル・ペッレグリーノ侯爵令嬢ですわ。宰相様の末のお嬢様の!以前お会いしてるんですよね?!」
マリタは背の高いフラヴィオの耳が自分の口元近くに来るまでグイグイと引っ張り小声で耳打ちするとサッと離れフラヴィオに合図する。
さっさと詫びろ!と。

しかし、マリタの目の前の男はまるで違う行動をした。マリタにぴったりと寄り添うと囲うように腕を伸ばしてきたのだ。
「え?フラヴィオ様??」
戸惑うマリタの腰に手を回し少し熱に浮かされた様に色気を醸し出す眼差しでマリタを見つめてくると、ゆっくりと手のひらでマリタの背中を撫でてから両腕で抱き込みマリタの耳元に唇を近づけた。

「…マリタ、耳に口付けをするなんていけない娘だな。」
低い艶めいたフラヴィオの声にマリタの中で警鐘が鳴り響きマリタは血相を変えバッとフラヴィオの胸に手を着き引き離そうとするがビクともしない。
「フラヴィオ様はな…し、て」
見上げたフラヴィオの青い目が怪しく金色に煌めいて見えた。

「……は、はは、破廉恥だわ!わ、わたくしの目の前でイチャイチャと不埒な事をなさらないでください!!」
キャロル嬢の存在を一瞬忘れていたマリタとフラヴィオは二人揃って目を瞬かせた。

真っ赤な顔で泣きながらキャンキャン吠えだしたキャロルを見てマリタは状況を思い出した。

作戦が台無しだよ?!
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