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肉を前にすると本能が全力で仕事する(言い訳)

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聖女カトリーヌが離脱してからこっち、勇者ヴァランタンはちょっとは見られる顔にまで回復して来たらしく、女性冒険者で綺麗な女性を看病させる名目で引っ張りこんで居るらしい。
しかし、勇者ヴァランタンの好みはどうやら背が低い可愛系らしい。見向きもし無かったと無駄に悔しがるベラ。
いや、知らんけど。どーでもいいし。

アユミ、現在虫の居所が悪い。アランに対してプンプン丸になっていた。

そんなやさぐれアユミは、先程上空を旋回していた巨大な鳥を射って今晩のオカズにすべく血抜き作業を魔法で簡単に処理すると呆然とそれを見ていた兵士達に「今晩は鳥肉の串焼きよ!」とドヤ顔を見せた。

巨大な鳥肉の塊を引きずって移動するアユミを兵士達は見送りながらポツリと呟きを零す。
「あの鳥って…翼竜の仲間の、ハイケツァルって……皮が固くて弓も槍も、剣すら傷をつけられないって、噂の…凶暴なやつじゃなかったっけ?」
「そ、そんな訳ないじゃないか!ハイケツァルは弓を向けた瞬間に襲ってくるんだぞ?そ、それだったら今頃この勇者軍は全滅してるぞ!」

目を盛大に泳がせる兵士達を気の毒そうに見ていたベラは呆れた顔をアユミの背に向けたが、ふとあることを思い出す。
「……ハイケツァルって、確か極上の魔物って言われてなかったかしら?」
そう呟きベラはゴクリと喉をならした。


アユミは鳥だと思い込んでいるハイケツァルを片手に野営地で飯炊き女になっている女冒険者や救護班の女性兵士達に混じって肉を焼いていた。

一応、アユミはこの勇者軍の中では一目置かれる高ランク冒険者の仲間入りを果たした『紫鳥』のパーティメンバーだと認識されていたが、実際に活躍しているのは傍目からはアランが一人飛び抜けて活躍しており、次点はモネ、その次に救護班で活躍する治癒力の高いベラだった。
彼女達からしたらアユミが活躍して居るようには見えない。とりあえずはかなりの実力を持つ『紫鳥』の仲間と言うだけの存在だった。
なぜこんな平凡な女が?と思って居るらしく先頭集団にいた女冒険者達からはあからさまに睨まれ、ひそひそとアユミを睨みながらの陰口を叩く光景が繰り広げられている。

「ねぇ、あなた。ちょっと身の程を知るべきじゃないかしら?」

一向に気にする様子の見られないアユミの態度に、ついに我慢ならなくなったのか巨乳を強調するビキニアーマーに深いスリットの入ったスカートを腰で重ねて履いた女冒険者が、ウキウキと肉を焼いているアユミの背後に立ち、仁王立ちで見下ろしている。

アユミは背後を振り返るとポカンとスカートの中を見た。

いや、見たかった訳ではなく、見えたんだ!と脳内で言い訳するアユミは罪悪感を持ちながら彼女の顔を見た。肉が焦げたらどうするんだと内心ムカムカしながら。

「『緋色の蝶』のサンドラさんですよね?はじめまして、だと思うんですが。ずいぶんとおかしな事を仰いますね?いったいどう言う意味でしょうか?」

ちょっとイライラのせいで早口になるアユミ。

「……っ、おかしな事ですって?あなたは強い仲間に甘えて、一緒に行動する事で甘い蜜を吸ってるんでしょう?害虫だって言ってるのよ。身の程を弁えてさっさとアラン様から身を引きなさいよ。」

ビキニアーマーがなんか言ってるくらいにしか思って無かったアユミの顔から何かが消えた。

「アランから身を引く?何言ってんの?
……って、あぁ、あなたアランに薬使ってまでアタックしたのに、ぜーんぜん相手にされ無かったって噂されてる人?それ私関係ないから。第一、失敗したからって私に八つ当たりとか、凄ーく、ダサいんですけどぉ?」

女冒険者サンドラ、仲良しの冒険者仲間が次々と結婚すると言う焦りからアランに強気で迫り、酒に性的興奮作用の強い媚薬を盛った女だ。
その後発情するアランとの攻防を思い出し、アユミは更にイラッとしたのでそれを匂わせるように言ったのだ。

図星だった女冒険者サンドラは顔を真っ赤に染めて剣を躊躇いなくアユミに向け振り下ろしてきた。

ザン、と空を斬ったサンドラの剣は、アユミが普通のCランク冒険者だったならバッサリと頬から肩にかけて斬られていただろう。…しかし。

地を打ち付けた後、アユミの蹴りで刃が真っ二つに折れた。

ガキン、と言う音を聞き、まさか大金を出して買った高価な剣が折れるなんて!と言う驚きでアユミを見たサンドラだったが、漸く自分が手を出してはならない女に手を出したのだと気付くが、もう遅い。

「身の程を弁えるのはあんただよ」

ヒュン、とアユミの左の拳がサンドラの腹に入り、吐瀉物を撒き散らすサンドラに無情にも追撃をするアユミ。
横腹を蹴られ、頬を殴られ、よろけたサンドラのがら空きの状態の顔にアユミが顔面から拳を叩き込む。

「次来たら容赦なく殺るから」と言ってアユミは飛び上がり、空中でくるりと回転して、回し蹴りをサンドラの顎へと叩き込んだ。

そんなアユミの手には未だに香ばしい匂いを漂わせる肉の串焼きが握られている。利き手が右手のアユミにとってはかなりの手加減を加えてやったつもりだ。

しばし静寂の後、周りで呆然とアユミ達の戦い(一方的なそれ)を見ていた兵士や冒険者達がコソコソと囁き合う。

「…なんっつー容赦の無さ。あの子が実は一番やべぇ奴だったんだな。」
「鬼だ。見ろよ。意識無くした鼻血とゲロまみれの女よか、肉の焼け具合を気にしてるぞ」
「な、なぁ?次は容赦なく殺るって、言ってたけど。えっ、アレで容赦してたって事?(戦慄)」

そんな兵士や冒険者達の人垣を分けながらアランがやって来た。

「うわっ、汚!なんだこれ。アユミ、こっちおいで。酔っ払いかな?変な人の近くにいたら危ないよ。ほら、こっち」

酔っ払いの汚物扱いで女冒険者サンドラをひょいと飛び越えたアランは、顔を赤くして暴れるアユミをニコニコとお姫様抱っこして、またひょいとサンドラを飛び越え、スタスタと去っていく。


(((うわぁ………)))

アランに問答無用で連れ去られる、未だに媚薬騒動の時のアレコレを引きずってる暴れ馬アユミを、全く媚薬騒動を覚えていないアラン。
しかし、殴られても「アユミ今日はご機嫌斜めだね」なんて呑気に言っているアランと、そんな彼の腕の中で未だ肉を握りしめたまま暴れているアユミの姿を見ながら、一番やべぇ奴はどっちだと彼らは目で会話した。
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