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チート能力

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とは言え、アユミはミミズの様なニョロニョロした物が苦手だ。しかもこの魔物、ヒュドラーなどの水龍っぽい見た目と違って腐敗した皮膚を持つ、蛇とミミズが合体した様な気味の悪い姿の魔物と戦うなんて出来れば遠慮したい。
青い顔で震えるアユミを見たアランはアユミの手を握り「アユミは救助の手伝いをしておいでよ。コレは僕が殺っとくから」と言ってニッコリ笑った。
恐怖で腰を抜かしていた兵士達や冒険者達は何を馬鹿なことを。かっこつけがあっさり犬死にするだけだと侮蔑の眼差しをアランへ向けたが、アランはアユミを岩場に行くように見送ると冷めた眼差しで腰を抜かした面々をその視界に捉え、薄く嗤った。

ガラリと変わった排他的な雰囲気に周囲は困惑し、アランから放たれる殺気に当てられ真っ青になった。

「闇の力を我が右手に」
低い温度無い声に答えて現れた闇の精霊が、アランの手に自分の持つ力を全て明け渡した。

ゆらりとアランの周囲に禍々しく濃い魔力が揺らめき、ジュワジュワジュワと黒い霧が渦を巻く。

同じ闇の力を持つくねくねとした黒い蛇(ブラック・ヘル・サーペント)はその力に反応して、ギュルギュルと身体をくねらせ空を移動し出す。

相手の力量を計り、勝ち目があると判断し、向かって行ったのだろう。
アレを喰らえれば自分が更に強くなると思ったのだろう。

「残念」
彼、アランは更に左の手を掲げる。

「我が左手に光の力を」

カッ、と眩く光出した左手に光の精霊が姿を現し、アランへ全ての力を託す。
バチバチと飛び出した稲妻が走り、まるで鎌鼬の様に空を、恐ろしい轟音と共に斬り裂いた。

光に裂かれたブラック・ヘル・サーペントがドロリと液状化し、再生を始める。

そこに右手から伸びたアランの黒い霧が纏い付く。
再生能力持ち、それはヒュドラーの特徴と似ている。この大渓谷に現れたと言う厄災級の魔物に感化され成長した魔物だったのだろう。

アユミがまだ自らの能力に振り回されながらも何とか、涙と鼻水塗れになりながら倒したあの、ヒュドラーが再び生まれたと言うのか。
アランの怒りに膨れ上がった魔力がブラック・ヘル・サーペントの息の根を止める。

『グギャァ───』
ジュワジュワジュワと黒い霧と共にブラック・ヘル・サーペントが溶けて消えて行った。

そんな光景をついつい岩場の影から見てしまったアユミは半泣きで立ち尽くしていた。
(嫌ー!無理ー!グロいー!いやー!)
グロテスクすぎる討伐風景。
救助の為に岩場の側に集まっていた治癒師や冒険者達は青い顔で口を押えながら、全員立ち尽くしている。

アランの戦い方はあの爽やかで優しそうな雰囲気からはかけ離れてるのだ。

それを目にした兵士達や、彼をからかっていた冒険者達は皆、冷や汗をダラダラと流しながら。真っ青な顔で後退り、怯えた目でアランを見ていた。
それは周りにいた他の兵士や冒険者達も同じだ。

人とは思えないその強さは、人々に畏怖を抱かせるには充分なものだった。

晴れ渡る青空を見上げていたアランとロックゴーレムを倒して斧を肩に担いだモル、息も絶え絶えな負傷者の手当をしていたベラが「また、強くなってしまった」と、なんとも言え無い顔で呟いた。

それもそうだろう。

アユミと出会って約一年と半年程で、彼等はCランクからあと少しでSSランクに手が届く所まで成長して来ている。アランに至っては果たして人と言っていいのかと悩んでしまうくらいの反則級の強さにまで成長しているようだ。

「ま、まぁ、良いじゃん。私等、冒険者でしょ?強くなって困ることなんて、無いよね?」
誤魔化すように、冷や汗を背に、へらりと笑うアユミをアランはため息混じりに「まったく、アユミは」と言って、アユミの頭を撫でた。

アランは暇があればアユミの頭を撫でる。たぶん癖になっているのだろうとアユミはアランにされるがままだ。

背が高く、真っ白な翼が太陽に照らされて純白に煌めいて見え、アユミは「アラン、今日も綺麗だね~」なんてへにょへにょ笑っている。

「アユミ、僕は一応男だから。綺麗だ、なんて言われても全く喜べないよ。」
と言うと、ムスッとした顔でアランは続けた。
「まぁ、綺麗は置いといて、アユミの言う様に強くなったり能力が上がって困ることは無いけどね。」

アランの呟きにベラがため息を吐きながら頷く。
「はぁ、まったくね。今まで真実を知りもせず、腐った駄犬を崇めて。何も知ること無く生きていたかと思うと虫唾が走るもの。もうあの頃の自分には戻りたくないわ。」

ベラの言う真実とは、もちろん、麗しき勇者ヴァランタンの事だろう。
しかしベラが勇者に一目惚れしたその時にはベラは既に現在のチート野郎であるベラに成長して居たはずだが。それについては誰も恐ろしくて突っ込めない。

勇者の鑑定結果をアランから聞いた時、ベラの淡い初恋と憧れは、無残に散った様だ。昔から白馬の王子様に夢を抱き、いつか私にもと思っていた夢見がちなベラの目の前に現れた、見た目だけは麗しい王子様。

最前列で自分の腐敗した腕を抑え、涙と鼻水に塗れた顔をした麗しき王子、勇者ヴァランタンは、百年の恋も覚める勢いで周囲に罵声を浴びせながら右往左往している。

そんな勇者を見るベラの眼差しが侮蔑に歪み、ちょっと白目を剥いている様に見えた。

「私はアユミに感謝してるよ。強くなって、仕返しがしたい、惨めな気持ちを解らせてやりたいって。そんな馬鹿な事しか考えられなくなっていた私に。そんな事すっかり忘れちまえるくらいの力を与えてくれたんだから。もう、あいつらに仕返ししてやりたいなんて全く思わなくなったよ。私は今の自分を気に入ってる」

目を眇めてモルは前方の救護用に敷いた敷き布に座り、治癒を受けている上位ランクの冒険者パーティの面々を冷ややかに見ていた。仕返しする価値すら無いとその目が語っている。

モルは元々腕利きの剣士だった。
Bランクパーティの『緋色の蝶』のメンバーで、女性ばかり十五人パーティの前衛。
サブリーダーだったモルはパーティの金の管理をしていたが、モルをよく思っていないパーティメンバーとやり合った翌日、パーティの金を使い込んだと言いがかりを付けられ、追放されたそうだ。

モルは何度も無実だと主張し、疑惑を全て否定したし、モルを敵視するメンバーに詰め寄ったけれど、結局貴族との伝を持つ彼女の言葉を否定するよりはモルを切り捨てる事をパーティら選んだのだ。

追放されたモルは金を使い込んだ恥知らずと噂を流され、相当腐っていた。
そんな時、金が底を尽き、すっからかんだったモルは臨時パーティのメンバー募集を出していたアランとアユミの臨時パーティに入り意気投合。すっかり仲良くなり、現在に至る。

怪我ばかりのモルや、チート能力をイマイチ使い慣れていなかった初心者冒険者のアユミは、次のダンジョン攻略で回復職も追加したいと言って、冒険者ギルドに臨時パーティのメンバー募集を出して、無事ベラをゲット。その後メンバーは二人程増えて『紫鳥』のパーティメンバーは現在合計六名。

そして少し慣れてきた辺りで、アユミはパーティメンバーに、通常の二倍以上、条件さえ揃えば通常の五倍の速度で経験値を獲得出来てしまう反則能力を発見し、それをこっそりと使用した。

【奇跡の強制成長】─パーティメンバーの獲得経験値二倍+α‬

しかしアユミは説明が面倒臭いから、との能力を黙って居たのだが。

HP─∞
M P─3988/5000

この世界に来た時には、いくら疲れようがHPは変わらないから、たぶんアユミのHPは無限って事かな?とアユミは思っている。

代わりに、M Pは数値化されていた。初めて自分のステータスを見れる事を知った時から比べれば結構増えて来た。

冒険者として活動しだした時に、自分にチート能力があるだなんて思っても居なかったアユミ。
アユミが初めて自分のステータスを見た時、MPの数値は1200だった。
それまでやっていたのは薬草採取の依頼のみだったし。たぶんあまり成長はしていなかったと思う。

そして、アユミはチート能力を持っている事を知り、現在、仲間もチート野郎にこっそり育てつつ、この世界で自由に生きてやろうと思っている。

なぜ仲間をチート野郎に育ててるのかって?

だって、自分だけが人外みたいな恐ろしいチート野郎だなんて、嫌じゃん?なんて、自分勝手な自己中女のアユミは考えているのてあった。





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