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5日目
観察対象
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「おい、ユーチ、これはどういうことだ⁈」
私と一緒にやって来た孤児院の子供たち――デシャちゃんとセラちゃん、それにバンチ君とコブ君から揃って挨拶をされ、戸惑いつつも挨拶を返したバルトさんは、2人の少女から良くわからない視線を向けられ狼狽えていた。
助けを求めるようにバルトさんに疑問を投げかけられるも、返答に困る。
私が提案した紙芝居が原因なのだと思うと、言い出しづらく口篭もってしまう。
デシャちゃんには、主人公をバルトさんに似せて描いて欲しいと頼んでいた。
衣服の中の肉体を透視するかのような眼差しで凝視するのはどうかと思うが、私の要望に応えようと真剣に取り組んでくれているのだと思うと、デシャちゃんの行動を阻止するのは躊躇われる。
それに物語をまとめてくれることになったセラちゃんも、バルトさんから少し距離を置いたところから観察しているようだ。
バルトさんのエピソードを聞きインスピレーションが湧いていたようだから、実際のバルトさんを目にし、さらに何かを掴もうとしているのかもしれない。
観察対象にされているバルトさんにとっては、鬱陶しく迷惑な話しだろう思ったのだが「バルトさんの、素晴らしい筋肉に興味を持ったのかもしれないですね?」などと口走っていた。
「筋肉?」
バルトさんは私の言葉に首を傾げるも、自分と子供たちの身体を見比べ、納得したように頷く。
そして、少女の期待に応えようとしたのだろう。片腕をデシャちゃんに差し出して「……触ってみるか?」と、聞きようによっては怪しげな一言を呟いていた。
バルトさんもすぐに自分の発した言葉の危うさに気付いたのだろう。慌ててなかったことにしようとしたようなのだが……
「えっ! いいの?」と、瞳を輝かせるデシャちゃんを前に断念することになった。
触りやすくなるように持ち上げた腕をそのまま維持し、硬直したバルトさんは、顔を引きつらせながらも、ペタペタとわき腹や背中を触りはじめた少女を黙って受け入れていた。
幸い、大事なところは触られなかったようだが、内心気が気ではなかったに違いない。
♢
「なあ、さっきのあれ、なんだったんだ?」
デシャちゃんとセラちゃんから解放されて、ホッとした様子のバルトさんが孤児院を振り返り呟いた。
「……よくわからないですけど? 2人とも満足そうでしたね」
私は最後に見せたデシャちゃんとセラちゃんの笑顔を思い浮かべ、彼女たちの観察が無事(?)に終わったことに安堵しつつ答える。
そして、怖がられ、避けられていた相手からの意味不明な態度を受け入れ、好きにさせてくれたバルトさんに、心の中で最大限に謝罪し「お疲れ様でした」と敬意をこめて頭を下げた。
「おお、めちゃくちゃ疲れたわ。で、結局、あいつらは何がしたかったんだ? 少し離れたとこから見てたやつは、俺の顔を見て頷きながら納得したように微笑みやがるし、近くでちょこまかと触りまくってたのは、何かブツブツ呟いてたぞ」
改めてそのときの光景を思い出し、吹き出してしまった。
理由を知っている私ですら、いかがなものかと思ったのだから、何も知らないバルトさんには、どれほど不可解に映ったことか。
バンチ君とコブ君が、見兼ねて止めてくれて良かったとつくづく思う。
ふと、いつもと違う道を歩いていることに気付く。
「あれ? 今日は遠回りして帰るのですか?」
「あっ、いや、悪い。ユーチに言うのを忘れてたわ。今夜はラッシャイさんとこの〝まんぷく亭〟で晩飯を食うことになったんだ。このまま行くつもりでいたんだが、勝手に決めちまってまずかったか?」
「いいえ、僕も行きたかったので嬉しいです。3日前にポポト料理を一緒に作って以来、顔を出せていなかったから、その後のことが気になっていたのでちょうど良かったかも。バルトさんはあれからラッシャイさんたちの食堂がどうなったか聞いていますか? 繁盛してるといいのですが」
「おお、『珍しくて美味い料理を出す店』だって、噂になってるらしいぞ。ユーチのお陰であれからずっと忙しくて、嬉しい悲鳴を上げてるってよ」
賑わっている〝まんぷく亭〟の様子が浮かび、頬が緩んでくる。
「今日、偶然マカイナさんに行き会ったんだが『ユーチを連れて来い』って、しつこく詰め寄られてな。それなら、ついでにガン爺たちにもユーチの料理を食わせてやろうってことになったんだわ」
「僕の料理ってわけじゃないですけど? ラッシャイさんの店でガン爺やカジドワさんたちと食事できるのは嬉しいです」
見覚えのある通りに差し掛かった私は、上機嫌で〝まんぷく亭〟の看板を見つけた。
「あれ? 店の前で待っている人がいますね。入れないほど込んでいるのでしょうか?」
「いや、今日は貸し切りにするって言ってたから、他の客は断ってるはずだが……」
訝しげに呟くバルトさんと一緒に店に近付くと、入り口で立ち止まっている人物の姿がはっきりしてくる。
「イモールさん?」
どうやら〝まんぷく亭〟の店の前で所在なげに佇んでいるのは、冒険者ギルドの食堂で働いているイモールさんのようだった。
私と一緒にやって来た孤児院の子供たち――デシャちゃんとセラちゃん、それにバンチ君とコブ君から揃って挨拶をされ、戸惑いつつも挨拶を返したバルトさんは、2人の少女から良くわからない視線を向けられ狼狽えていた。
助けを求めるようにバルトさんに疑問を投げかけられるも、返答に困る。
私が提案した紙芝居が原因なのだと思うと、言い出しづらく口篭もってしまう。
デシャちゃんには、主人公をバルトさんに似せて描いて欲しいと頼んでいた。
衣服の中の肉体を透視するかのような眼差しで凝視するのはどうかと思うが、私の要望に応えようと真剣に取り組んでくれているのだと思うと、デシャちゃんの行動を阻止するのは躊躇われる。
それに物語をまとめてくれることになったセラちゃんも、バルトさんから少し距離を置いたところから観察しているようだ。
バルトさんのエピソードを聞きインスピレーションが湧いていたようだから、実際のバルトさんを目にし、さらに何かを掴もうとしているのかもしれない。
観察対象にされているバルトさんにとっては、鬱陶しく迷惑な話しだろう思ったのだが「バルトさんの、素晴らしい筋肉に興味を持ったのかもしれないですね?」などと口走っていた。
「筋肉?」
バルトさんは私の言葉に首を傾げるも、自分と子供たちの身体を見比べ、納得したように頷く。
そして、少女の期待に応えようとしたのだろう。片腕をデシャちゃんに差し出して「……触ってみるか?」と、聞きようによっては怪しげな一言を呟いていた。
バルトさんもすぐに自分の発した言葉の危うさに気付いたのだろう。慌ててなかったことにしようとしたようなのだが……
「えっ! いいの?」と、瞳を輝かせるデシャちゃんを前に断念することになった。
触りやすくなるように持ち上げた腕をそのまま維持し、硬直したバルトさんは、顔を引きつらせながらも、ペタペタとわき腹や背中を触りはじめた少女を黙って受け入れていた。
幸い、大事なところは触られなかったようだが、内心気が気ではなかったに違いない。
♢
「なあ、さっきのあれ、なんだったんだ?」
デシャちゃんとセラちゃんから解放されて、ホッとした様子のバルトさんが孤児院を振り返り呟いた。
「……よくわからないですけど? 2人とも満足そうでしたね」
私は最後に見せたデシャちゃんとセラちゃんの笑顔を思い浮かべ、彼女たちの観察が無事(?)に終わったことに安堵しつつ答える。
そして、怖がられ、避けられていた相手からの意味不明な態度を受け入れ、好きにさせてくれたバルトさんに、心の中で最大限に謝罪し「お疲れ様でした」と敬意をこめて頭を下げた。
「おお、めちゃくちゃ疲れたわ。で、結局、あいつらは何がしたかったんだ? 少し離れたとこから見てたやつは、俺の顔を見て頷きながら納得したように微笑みやがるし、近くでちょこまかと触りまくってたのは、何かブツブツ呟いてたぞ」
改めてそのときの光景を思い出し、吹き出してしまった。
理由を知っている私ですら、いかがなものかと思ったのだから、何も知らないバルトさんには、どれほど不可解に映ったことか。
バンチ君とコブ君が、見兼ねて止めてくれて良かったとつくづく思う。
ふと、いつもと違う道を歩いていることに気付く。
「あれ? 今日は遠回りして帰るのですか?」
「あっ、いや、悪い。ユーチに言うのを忘れてたわ。今夜はラッシャイさんとこの〝まんぷく亭〟で晩飯を食うことになったんだ。このまま行くつもりでいたんだが、勝手に決めちまってまずかったか?」
「いいえ、僕も行きたかったので嬉しいです。3日前にポポト料理を一緒に作って以来、顔を出せていなかったから、その後のことが気になっていたのでちょうど良かったかも。バルトさんはあれからラッシャイさんたちの食堂がどうなったか聞いていますか? 繁盛してるといいのですが」
「おお、『珍しくて美味い料理を出す店』だって、噂になってるらしいぞ。ユーチのお陰であれからずっと忙しくて、嬉しい悲鳴を上げてるってよ」
賑わっている〝まんぷく亭〟の様子が浮かび、頬が緩んでくる。
「今日、偶然マカイナさんに行き会ったんだが『ユーチを連れて来い』って、しつこく詰め寄られてな。それなら、ついでにガン爺たちにもユーチの料理を食わせてやろうってことになったんだわ」
「僕の料理ってわけじゃないですけど? ラッシャイさんの店でガン爺やカジドワさんたちと食事できるのは嬉しいです」
見覚えのある通りに差し掛かった私は、上機嫌で〝まんぷく亭〟の看板を見つけた。
「あれ? 店の前で待っている人がいますね。入れないほど込んでいるのでしょうか?」
「いや、今日は貸し切りにするって言ってたから、他の客は断ってるはずだが……」
訝しげに呟くバルトさんと一緒に店に近付くと、入り口で立ち止まっている人物の姿がはっきりしてくる。
「イモールさん?」
どうやら〝まんぷく亭〟の店の前で所在なげに佇んでいるのは、冒険者ギルドの食堂で働いているイモールさんのようだった。
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