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5日目

紙芝居②

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 デシャちゃんとセラちゃんの異様な雰囲気は、しばらくすると落ち着いた。
 ホッと息を吐く私と同じように、コブ君も安堵の表情を浮かべている。目が合うと、どちらからともなく苦笑がもれた。

 ――『紙芝居』は、台本に沿って描かれた数枚から十数枚の絵を順番に重ね合わせ、読み手が1枚目から順に観客に見せながら読んでいき、見せ終わった絵を横に引き抜いて裏に回し、物語を展開させていくものだ。
 
 私は絵本とは違う『紙芝居』の仕組みをわかってもらうため、先日購入した白紙の紙を肩掛け鞄から取り出し、それを実際の紙芝居のように動かしながら説明しようとした。

「えっ、それ収納袋だったの?」

 腕時計ではなく肩掛け鞄に収納していた物だったため、特に気にせず取り出してしまったのだが、ただの鞄だと思っていたデシャちゃんたちを驚かせてしまったらしい。
 うらやましかったのもあるのか、どうやって手に入れたのかとか、いくらあれば買えるかなどと、あれこれ質問されまごついてしまう。おまけに、鞄の中を覗き込んだり手を入れたりするものだから、ポケットの中で寝ていたホワンを思いっきり驚かせることになってしまった。
 パニックになって鞄から飛び出したホワンを落ち着かせるのに苦労するも、どうにか紙芝居の話題に戻すことができたので、気持ちを切り替える。

 紙の表には絵、裏側に物語の筋書きやセリフを書き、木などで作ったわくに、絵が順番になるように収め、ページをめくるのではなく引き抜き、次の絵に替えることを説明する。
 そして抜いた絵を枠の中の一番後ろ、読み手の前にくるように戻して読み進めていくため、表になっている絵と、読み手の前にある文面の内容が同じになるように作らなければならないと付け加えた。

「絵を抜く速さは、場面に合わせて変えられるから、素早く抜いてスピード感を出したり、下にある次の絵を少しずつ見せるように抜き、見ている子供たちの興味をきながら読み進めたりできる。――読む側も、ある程度の技術が必要になるのだけれど、絵本と違ってそういう応用が利くから面白いし、より子供たちに楽しんでもらえると思う」

 私の説明をうなずきながら聞いてくれていた3人は、頬を上気させながら声を上げた。

「なんか、すごい! そんなの見たことないけど、絶対おもしろくなるよね」

「そうだね。ユーチ君が持ってる紙に絵を描くなら、大きくて見やすくなるから、小さい子にも伝わりやるくなるね」

「うん、それに……絵本より読みやすそう」

 紙芝居への期待が、それぞれの言葉から伝わってきて嬉しくなる。

「効果音を付けて場面を演出する方法もあるから、慣れてきたら試してみると良いかもしれないね」

 私の漏らしたつぶやきに、ますますやる気を見せる3人に頬が緩む。
 早く完成させて子供たちに披露ひろうしたくなったようだ。

「僕は、紙芝居のわく作りに挑戦してみるよ。仕上げはバンチ君に手伝ってもらわないとダメかもしれないけど、計算して設計するのは得意だから、ユーチ君にどういう物なのか詳しく教えてもらえたらできると思う」

 コブ君の勢いに押され、シンプルな物から、収納して持ち運びもできる扉式の物まで、思い付いた紙芝居のわくをメモ用紙に書いて説明することになった。

 デシャちゃんには最初の予定通り絵を描いてもらうので、絵の具や紙を渡しておく。
 今にも本番用の厚紙に描きだしそうなデシャちゃんを止め、下書き用の薄い小さいサイズの紙を使うように勧める。値段が高かった本番の紙に描くのは物語が完成してからだ。

 物語(台本)はセラちゃんが担当してくれることになった。
 私が考えた〝仲の良い双子の兄弟。バルニーとジャン〟を元に、バルトさんのエピソードを聞いて話をふくらませてくれたらしい。
 セラちゃんによりびっしり埋められたメモに何が書いてあるのか、残念ながら見せてもらえなかったけれど、私が考えた登場人物たちに細かな描写が加わり、暖かみのある物語ができそうな予感にわくわくしてくる。

 紙芝居の完成を目指して、生き生きと動き出したデシャちゃんたちを見やり、自分も頑張ろうと気合を入れてみるも、やるべきことが思いつかない。

 あれ? 私は何をすれば?
  
 自分が提案した『紙芝居』だったはずなのに、1人だけ仲間に入れていない気がして狼狽うろたえる。

 ここは大人の経験と貫禄かんろく(?)で、監督とかにしてもらえないかな?

 役に立たない監督はいらないと言われそうだけれど……頑張るので、なんとか仲間にしてほしい。

 


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