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5日目
紙芝居①
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紙芝居が完成するまで、幼児組の子供たちには内緒にしたいと言う私に、デシャちゃんが自信満々で受け合ってくれた。
「私たちの部屋は幼児組の子供たちがよく遊びに来てるから、残念だけど隠すのは無理ね。その点、離れた場所にあって人目につきにくいコブたちの部屋は、隠しごとにもってこいだわ」
「確かに、僕たちの部屋に幼児組の子供たちが来ることは滅多にないけど、留守にしてるバンチ君に確認してからじゃないと……」
同室のバンチ君を気にして渋るコブ君だったが、「大丈夫! バンチだって喜んで協力するはずよ」と、デシャちゃんに強引に押し切られ、紙芝居作りの拠点はコブ君たちの部屋に決まった。
私たちの話を聞いていたマーザ院長は「なんだかおもしろそうだね。私も楽しみにしているよ」と笑顔で見守ってくれている。私が作ろうとしている紙芝居を好意的に受け入れてくれたようだ。
おまけに、さっそく取り掛かろうと盛り上がっている私たちの気持ちを汲んで、「今日は特別だよ」と、魔法の練習後に行われていた、デシャちゃんとセラちゃんの読み書き計算の勉強を取り止めてくれた。
マーザ院長の許可を得られた私たちは、意気揚々とコブ君たちの部屋に集まっている。
さっそくどうやって紙芝居を作っていくか話し合うことになったのだが、その前に紙芝居を作ろうと思い立った経緯を話しておくことにした。
読み聞かせをしたときに絵本が持ちにくかったのもあるが、一番は孤児院に来たときに、デシャちゃんとセラちゃんがバルトさんを怖がって悲鳴を上げて逃げ出すのを見たからだと、遠慮がちに口にする。
「えっ? ユーチが紙芝居を作ろうと思ったきっかけが、わたし達だったの?」
デシャちゃんとセラちゃんは顔を見合わせて首を傾げた。そのことがどう紙芝居と繋がるのかわからないようだ。
「バルトさんの外見が子供に怖がられるのは珍しくなくて、だいたい同じような反応をされるらしい。『いつものことだから』と、肩を落として諦めたように溜息を吐くバルトさんの姿が寂しそうで、気の毒に思えて、どうにかできないか考えていて思い付いたのが、バルトさん似の主人公が活躍する物語を作って子供たちに親しんでもらうことだった……」
見た目は怖くても優しくて頼りになる人物を印象付けられれば、バルトさんのことも怖がらなくなるだけじゃなく、強くて恰好いいと思ってもらえるんじゃないかと考えたのだと説明する。
「バルトさんって見た目はあれだけど子供好きだから、懐かれたら絶対喜ぶと思う。力があるから、ちょっと激しい遊びも平気で付き合ってくれそうだし、自慢の体力は子供たちの期待に答えてくれるはず。……子供たちに笑顔を向けられ、強面のバルトさんの顔が締まりなく緩むところを見てみたいっていう僕の願望でもあるんだけど――『バルトさんを子供たちの人気者にし、子供たちの笑顔でメロメロにしてしまえ!』って感じで……どうかな?」
真剣な表情で私の話に耳を傾けてくれていた3人は、頬を緩ませコクコクと頷いた。
「うん、わかった。わたしも協力する。バルトさんには悪いことしちゃったから、ユーチが言うほどうまくいくかわからないけど、頑張って描いてみる」
「……わたしも、手伝う」
「僕もバルトさんの締まりのない顔を見てみたいかも」
紙芝居作りの趣旨を受けて、改めて協力を申し出てくれた3人の好意が嬉しくて笑みを返す。
「で、どんな物語にするか決まっているの?」
デシャちゃんの問いに「一応、考えてみたんだけど……」と、昨日思い付いた〝仲の良い双子の兄弟。バルニーとジャン〟の話をしてみることにした。
「ちょっとおもしろそうね。悪者(ほんとは良い人)をやっつけるシーン! 迫力のある絵を描いて、ビックリさせてあげるわ」
「いや、幼児向けの紙芝居だから、そこまでリアルにしたらダメじゃないかな?」
握り拳を作ってやる気を見せるデシャちゃんには、私の言葉は届いていないようで心配になる。
「でも、恰好よくて優しい兄弟の姿が、バルトさんと繋がらないのよね……似てなかったらユーチの作戦が失敗しちゃうと思うんだけど……」
なにやら悩みだしたデシャちゃんに、「そんなことないと思うよ。バルトさんが怖い人じゃないって、僕も少しわかってきたから」と、コブ君が口を開いた。
「大きくて強そうだったから、初めて見たときは僕も怖かったんだけど、ユーチ君を凄く優しい目で見ていることに気付いてから、怖くなくなったんだ。それに、ちょっと可愛いなって思うこともあって……」
「可愛い?」
「……?」
デシャちゃんとセラちゃんが、不思議そうに首を傾げる。
「うん、最初の印象と違ってたから僕も驚いたんだけど……挨拶をすると、ぶっきらぼうだけど挨拶を返してくれるし、ユーチ君を送り届けて帰るとき、名残惜しそうに何度も振り返ってこっちを見てきて、照れながらユーチ君に手を振り返すんだけど、その姿が似合わなくて笑えるっていうか、ちょっと可愛いかなって」
「それ、僕もわかる。バルトさんを揶揄うと真っ赤になるし、ポカンと口を開けて固まってるとことかちょっと可愛いと思う。普段とのギャップがあるからそう感じるのかもしれないけどね」
クスクスと思い出し笑いをしつつ、コブ君に同意する私を、デシャちゃんとセラちゃんが驚いたように目を丸くして見ていた。
「それに困っている人を放って置けない〝お人好し〟でもあると思う。――僕のこともそうだけど、身寄りがないとわかると、素姓のわからない怪しい子供だというのに、一緒に暮らすように提案してくれて、実際に不自由なく暮らさせてもらっているし、昨日も雨の中、一人暮らしのお爺さんを救出している。自分が着ていた雨具をお爺さんに貸して、雨の中をずぶ濡れになりながら、そのお爺さんを背負って帰って来たときは驚いたし心配した。酷く疲れた様子のバルトさんの背中に負ぶわれていたお爺さんが、安心したようにグッスリ眠っているのを見て拍子抜けしたのもあって、バルトさんを気の毒に思ってしまったんだけど、バルトさんはそんなお爺さんを自分の寝台に寝かせて安堵したように微笑むんだから、優しいとしか言いようがないよ。今も、そのお爺さんに頼まれた用事のために奮闘しているんじゃないかな? 昔、お世話になったって言っていたから、恩を返しているつもりなのだろうけれど、弱い者に優しい〝正義の味方〟みたいなバルトさんは、物語の主人公にピッタリだと思うんだけど、どうかな?」
私の話に、コブ君はうんうんと頷き、微笑んでくれているのだが、デシャちゃんとセラちゃんの反応はよくわからない。
デシャちゃんは目を瞑り、フルフルと震えながらブツブツ呟いているし、セラちゃんは無言のまま、話の途中からメモを取りだし、今も何やら書き込んでいる。
どうしたものかとコブ君と視線を合わせ首を傾げた私の耳に、突然デシャちゃんの不気味な笑い声が届き、驚いて身体を強張らせた私の目に、自分の書いたメモを握りしめ、無言で微笑むセラちゃんの姿が映った。
よくわからない2人の少女の熱量にブルッと背筋が震え、思わず隣のコブ君にくっついてしまう。
――バルトさんの話を聞いて『紙芝居』のイメージが沸いてきたのだと思っていいのだろうか?
いずれにしても、これで紙芝居の完成に大きく近付いたに違いないのだから、少しの不安は気にしないことにしよう。
「私たちの部屋は幼児組の子供たちがよく遊びに来てるから、残念だけど隠すのは無理ね。その点、離れた場所にあって人目につきにくいコブたちの部屋は、隠しごとにもってこいだわ」
「確かに、僕たちの部屋に幼児組の子供たちが来ることは滅多にないけど、留守にしてるバンチ君に確認してからじゃないと……」
同室のバンチ君を気にして渋るコブ君だったが、「大丈夫! バンチだって喜んで協力するはずよ」と、デシャちゃんに強引に押し切られ、紙芝居作りの拠点はコブ君たちの部屋に決まった。
私たちの話を聞いていたマーザ院長は「なんだかおもしろそうだね。私も楽しみにしているよ」と笑顔で見守ってくれている。私が作ろうとしている紙芝居を好意的に受け入れてくれたようだ。
おまけに、さっそく取り掛かろうと盛り上がっている私たちの気持ちを汲んで、「今日は特別だよ」と、魔法の練習後に行われていた、デシャちゃんとセラちゃんの読み書き計算の勉強を取り止めてくれた。
マーザ院長の許可を得られた私たちは、意気揚々とコブ君たちの部屋に集まっている。
さっそくどうやって紙芝居を作っていくか話し合うことになったのだが、その前に紙芝居を作ろうと思い立った経緯を話しておくことにした。
読み聞かせをしたときに絵本が持ちにくかったのもあるが、一番は孤児院に来たときに、デシャちゃんとセラちゃんがバルトさんを怖がって悲鳴を上げて逃げ出すのを見たからだと、遠慮がちに口にする。
「えっ? ユーチが紙芝居を作ろうと思ったきっかけが、わたし達だったの?」
デシャちゃんとセラちゃんは顔を見合わせて首を傾げた。そのことがどう紙芝居と繋がるのかわからないようだ。
「バルトさんの外見が子供に怖がられるのは珍しくなくて、だいたい同じような反応をされるらしい。『いつものことだから』と、肩を落として諦めたように溜息を吐くバルトさんの姿が寂しそうで、気の毒に思えて、どうにかできないか考えていて思い付いたのが、バルトさん似の主人公が活躍する物語を作って子供たちに親しんでもらうことだった……」
見た目は怖くても優しくて頼りになる人物を印象付けられれば、バルトさんのことも怖がらなくなるだけじゃなく、強くて恰好いいと思ってもらえるんじゃないかと考えたのだと説明する。
「バルトさんって見た目はあれだけど子供好きだから、懐かれたら絶対喜ぶと思う。力があるから、ちょっと激しい遊びも平気で付き合ってくれそうだし、自慢の体力は子供たちの期待に答えてくれるはず。……子供たちに笑顔を向けられ、強面のバルトさんの顔が締まりなく緩むところを見てみたいっていう僕の願望でもあるんだけど――『バルトさんを子供たちの人気者にし、子供たちの笑顔でメロメロにしてしまえ!』って感じで……どうかな?」
真剣な表情で私の話に耳を傾けてくれていた3人は、頬を緩ませコクコクと頷いた。
「うん、わかった。わたしも協力する。バルトさんには悪いことしちゃったから、ユーチが言うほどうまくいくかわからないけど、頑張って描いてみる」
「……わたしも、手伝う」
「僕もバルトさんの締まりのない顔を見てみたいかも」
紙芝居作りの趣旨を受けて、改めて協力を申し出てくれた3人の好意が嬉しくて笑みを返す。
「で、どんな物語にするか決まっているの?」
デシャちゃんの問いに「一応、考えてみたんだけど……」と、昨日思い付いた〝仲の良い双子の兄弟。バルニーとジャン〟の話をしてみることにした。
「ちょっとおもしろそうね。悪者(ほんとは良い人)をやっつけるシーン! 迫力のある絵を描いて、ビックリさせてあげるわ」
「いや、幼児向けの紙芝居だから、そこまでリアルにしたらダメじゃないかな?」
握り拳を作ってやる気を見せるデシャちゃんには、私の言葉は届いていないようで心配になる。
「でも、恰好よくて優しい兄弟の姿が、バルトさんと繋がらないのよね……似てなかったらユーチの作戦が失敗しちゃうと思うんだけど……」
なにやら悩みだしたデシャちゃんに、「そんなことないと思うよ。バルトさんが怖い人じゃないって、僕も少しわかってきたから」と、コブ君が口を開いた。
「大きくて強そうだったから、初めて見たときは僕も怖かったんだけど、ユーチ君を凄く優しい目で見ていることに気付いてから、怖くなくなったんだ。それに、ちょっと可愛いなって思うこともあって……」
「可愛い?」
「……?」
デシャちゃんとセラちゃんが、不思議そうに首を傾げる。
「うん、最初の印象と違ってたから僕も驚いたんだけど……挨拶をすると、ぶっきらぼうだけど挨拶を返してくれるし、ユーチ君を送り届けて帰るとき、名残惜しそうに何度も振り返ってこっちを見てきて、照れながらユーチ君に手を振り返すんだけど、その姿が似合わなくて笑えるっていうか、ちょっと可愛いかなって」
「それ、僕もわかる。バルトさんを揶揄うと真っ赤になるし、ポカンと口を開けて固まってるとことかちょっと可愛いと思う。普段とのギャップがあるからそう感じるのかもしれないけどね」
クスクスと思い出し笑いをしつつ、コブ君に同意する私を、デシャちゃんとセラちゃんが驚いたように目を丸くして見ていた。
「それに困っている人を放って置けない〝お人好し〟でもあると思う。――僕のこともそうだけど、身寄りがないとわかると、素姓のわからない怪しい子供だというのに、一緒に暮らすように提案してくれて、実際に不自由なく暮らさせてもらっているし、昨日も雨の中、一人暮らしのお爺さんを救出している。自分が着ていた雨具をお爺さんに貸して、雨の中をずぶ濡れになりながら、そのお爺さんを背負って帰って来たときは驚いたし心配した。酷く疲れた様子のバルトさんの背中に負ぶわれていたお爺さんが、安心したようにグッスリ眠っているのを見て拍子抜けしたのもあって、バルトさんを気の毒に思ってしまったんだけど、バルトさんはそんなお爺さんを自分の寝台に寝かせて安堵したように微笑むんだから、優しいとしか言いようがないよ。今も、そのお爺さんに頼まれた用事のために奮闘しているんじゃないかな? 昔、お世話になったって言っていたから、恩を返しているつもりなのだろうけれど、弱い者に優しい〝正義の味方〟みたいなバルトさんは、物語の主人公にピッタリだと思うんだけど、どうかな?」
私の話に、コブ君はうんうんと頷き、微笑んでくれているのだが、デシャちゃんとセラちゃんの反応はよくわからない。
デシャちゃんは目を瞑り、フルフルと震えながらブツブツ呟いているし、セラちゃんは無言のまま、話の途中からメモを取りだし、今も何やら書き込んでいる。
どうしたものかとコブ君と視線を合わせ首を傾げた私の耳に、突然デシャちゃんの不気味な笑い声が届き、驚いて身体を強張らせた私の目に、自分の書いたメモを握りしめ、無言で微笑むセラちゃんの姿が映った。
よくわからない2人の少女の熱量にブルッと背筋が震え、思わず隣のコブ君にくっついてしまう。
――バルトさんの話を聞いて『紙芝居』のイメージが沸いてきたのだと思っていいのだろうか?
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