祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲

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5日目

挨拶

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 バルトさんがガン爺とカジドワさんに、私の腕輪(腕時計)の機能を説明してくれた。
 二人とも驚いてはいたけれど、思っていたよりすんなり受け入れてくれたように思う。跳ね上がった買取価格を聞いたときのガン爺の喜びようを思い出すと、今でも頬が緩んでくる。
 異質な魔道具である腕時計を持つ私に、いぶかしげな視線が向けられるかもしれないと、身構えていたところもあったから、変わらない態度にホッとした。

 孤児院に送ってくれたバルトさんは、ガン爺の私物を回収するため小屋へ向かうようだ。
 私は目的だった『洗浄』魔法を、どうにか発動させられるようになったから、これからは本格的にギルドの依頼を受けるつもりでいる。今日孤児院に来たのは、そのことをマーザ院長やデシャちゃんたちに伝え、お世話になった挨拶をするためだ。

 バンチ君が明日からの討伐依頼を受けていることもあり、一人になるコブ君とギルドの依頼を受ける約束をしている。お勧めはムニュムの排出物を運ぶ仕事らしいので、たぶん明日はその依頼を受けることになるだろう。同じ依頼を何度か受けたことがあるというコブ君がいるので心強い。

 孤児院専用の門のところで、私が来るのを待っていてくれたコブ君と一緒に、デシャちゃんたちがいる魔法練習場(?)へ向かう。
 バンチ君は、初めて魔物討伐に参加する人たちへの説明をねた打ち合わせのため、ギルドに行っているらしい。そこで討伐に必要な武器や防具の貸し出しもしてくれるから、元手が少なくても、ある程度の装備を揃られるのだという。
  
 練習場に差し掛かると、ちょうどマーザ院長がいたのでさっそく挨拶をする。『洗浄』魔法をもう覚えたと知ると驚かれるも、にこやかに了承してくれた。

「ユーチは、大概たいがいなことは理解していたし、魔法のコツを掴むのも早かったから、私から教えられることは少なかったかもしれないね。反対にユーチの魔法の発想は面白くて、こちらが教えられたようなものだったよ」

 マーザ院長はそう言うと、思い出したようにクスッと笑った。

「それにユーチが披露ひろうしてくれた魔法は、小さい子供たちも大喜びだったからね。後からその魔法をせがまれて困ったことになったんだが、そのお陰で、どの子も魔法に興味を持つようになったようだよ。良い刺激になったのだろうね」

 たぶん、ライソン君に喜んでもらおうと張り切り、魔法でポポト掘りを手伝ったときのことを言っているのだと思うのだが、私としてはやり過ぎだったと反省する出来事であったので、褒められるとどうにも居心地が悪くなる。

「――短い間だったけれど、ユーチがいてくれて楽しかったよ。ありがとうね」

「いえ、こちらこそお世話になりました」

「暇なときはいつでも遊びに来ておくれ。子供たちも待っているからね」

「はい、ありがとうございます。是非お邪魔させていただきます」

 マーザ院長の言葉が嬉しくて、満面の笑みを浮かべる。
 懐いてくれている幼児組の子供たちに会えなくなるのを寂しく思っていたから、許可がもらえてホッとした。これで堂々と会い来れそうだ。
 できれば早く紙芝居を完成させて、喜んでもらいたいのだけれど、どうだろう? まだまだ先は長い気がする。

 マーザ院長への挨拶が終わるのを見計らったかのように、コブ君がデシャちゃんとセラちゃんを呼んできてくれた。なぜかデシャちゃんの機嫌が悪そうに見える。

「勝ち逃げなんて許さないんだからっ。ちゃんと顔を見せに来なさいよ」

 胸を反らせたデシャちゃんに、突然そう声をかけられ目を見開く。
 コブ君が私の事情を話してくれたのだと思うが……私はデシャちゃんと何の勝負をして勝ったことになっているのだろうか? 
 わからないままだったが、ツンツンしているデシャちゃんに聞き返す気になれず、とりあえずうなずき返した。
 孤児院に来ることに異存はないので、問題はないはず。
 デシャちゃんがホッとしたように息を吐くのを見て、私も安堵する。

 ふと、紙芝居のことを思い出したので、デシャちゃんに絵を描いてもらえないか頼んでみることにした。
 私が作りたい物の説明を簡単にすると、コブ君とセラちゃんも興味を持ったようで詳しく聞きたがった。乞われるまま質問に答え説明を終えると、3人の目が楽しそうに輝いているのがわかり、私も嬉しくなってくる。

「まだわからないとこはあるけど、その〝紙芝居〟っていうの、おもしろそうだよね」

「うん」

 コブ君とセラちゃんが笑顔でそう言うと、デシャちゃんもうんうんとうなずく。

「じゃあ、みんなで作ればいいよね!」

 デシャちゃんの一言で、コブ君とセラちゃんの目がさらに輝き出す。
 気付けば、皆で紙芝居を作ることが決まっていた。

 あれ? 

 確かにデシャちゃんに絵を描いてもらえたらと思っていたけれど……なんだか大事になってしまったかも。

 良かったのかな?

 私は呆けた顔で、盛り上がる3人の子供たちを眺めることになったのだった。

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