祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲

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5日目

今後のこと②

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「そうだな、ユーチの場合、内緒にしていたとしても態度に出るだろうし、そのうちうっかり口を滑らせそうだしな。ばれるのも時間の問題だとしたら、誤魔化しても意味がないか」

 腕時計のことをガン爺に正直に話したいと伝えると、バルトさんにそう言われてしまった。
 確かに、身近な人に隠しごとをするのは苦手だけれど、それはバルトさんも同じだと思う。特にガン爺への態度を見ると、とても隠しごとができるとは思えない。
 そういったことを踏まえての提案だったというのに、バルトさんにはわからなかったようだ。
 少々不満ではあったが、ガン爺に嘘を吐かずに済みそうでホッと息を吐く。

「とりあえず〝振り子付きの置時計こいつ〟を見せて、ユーチの腕時計腕輪に汚れや傷をなくす機能があることを説明するってことでいいか? 極力興味を持たれたくないから、他の機能のことは伏せたいんだが、傷や汚れをなくすのに腕時計そこへ収納する必要があるなら、収納機能があることも隠せなくなるな」

「そうですね。自分のお宝の変化は一目でわかるだろうけれど、よくある【祝福の腕輪】にしか見えない腕時計に、そんな機能があるなどとは思わないですよね。目の前で実践しないと信じてもらえないかも」

「確かに、実際にやって見せるのが手っ取り早いと思うが、その機能は一日に何度も使うことができるのか? 腕時計の魔力が溜まるのに時間がかかるって話だったが……」

「腕時計の魔力?」

 私は慌てて魔力量を確認する。
 バルトさんに言われるまで全く頭になかったのだけれど、機能を使ったのだから魔力が消費されている可能性があったのだ。

「――魔力量94%」

 昨日のうちに100%まで回復していたはずだから、汚れや傷をなくすのに腕時計の魔力が使われたとわかる。
 そういえば、その溜まった魔力でバルトさんの欲しい物を取り出す約束をしていたことを思い出す。
 昨夜はいろいろあって、すっかり忘れていたのだけれど、バルトさんは覚えていただろうか?

「意外と少ないんだな。使用した魔力は6%ってことになるのか?」
 
 約束を守れなかったことを謝罪しようと口を開くも、魔力のことが気になっているらしいバルトさんに続けて話しかけられ、先にそちらを答えることになる。

「あ、いえ、機能を使用してから時間が経っているので、その間に増えた魔力を考慮に入れると、使われたのは10%ほどではないかと」

「ほう、前はわかってなかった魔力の回復速度を把握できるようになったんだな。店からここへ来るまでに、屋台に寄ったり、ガン爺の知り合いに挨拶したりしてたから1時間くらいかかっているが、その間に4%回復したってことか?」

「はい、今の回復速度だと24時間で100%になるようなので、そのくらいかと。あ、それで前に魔力が溜まったらバルトさんの欲しい物を取り出す約束をしていたのに、忘れていてすみません」

 先ほど言えなかった謝罪をし「今夜にでも試したいので、どういった物を取り出したいか決めておいて欲しい」と伝えると、バルトさんは一瞬なんのことだかわからなかったのか、ポカンとした顔をするも、すぐに子供のような笑顔を向けてきた。

「おっ、そうだった。昨日はガン爺の件でごたごたしてたから俺もすっかり忘れてたが、目の前で腕時計それから何か出してくれるんだったな。――確かユーチがイメージできる物じゃないとダメだってことだから、いくつか候補を考えとくわ」

 嬉しそうなバルトさんに「お願いします」と返したところで、肩掛け鞄のポケットがもぞもぞ動き、ホワンが顔を出した。
 カジドワさんの家には前にも来たことがあったからか、鼻をひくひくと動かし辺りをうかがうと、すぐにポケットから出てきて私の手に擦り寄ってくる。
 誘われるようにホワンのほわほわの毛を撫でるも、落ち着きなく動き回られくすぐったい。

「もしかして、お腹が空いたのかな?」

 ホワンの様子からそう呟くと、「キュッ」とタイミングよく可愛らしい鳴き声が返された。瞬きをする私の動きの止まった手に、再び身体を寄せ促してくるホワンが可愛かわいくてクスクス笑う。

 そういえば、そろそろお昼の時間だ。

 バルトさんもホワンの様子に声をあげて笑い、ソファーから立ち上がる。

「屋台の料理を並べて、昼の準備でもしとくかな。ガン爺たちもそろそろこっちに来るだろ」

「はい、僕も手伝います」

 私はホワンを肩に乗せ、バルトさんの後を追って席を立った。

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