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5日目

お宝の価値②

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 見た目を良くできれば、ガン爺が修理した物は中古でも高額で買い取ってもらえるとわかった。

 ――ゴミになる運命だった物が、ガン爺の手によって再び命を吹き込まれ、私の腕時計の能力で価値を上げる。
 とても理想的なサイクルに思えてくる。

 アンティークな腕時計を愛用していた中田祐一郎としては〝時を経て生まれる味わい〟を否定するようで、残念に思わなくもないが……
 そういった物に需要がなく、使われずに捨てられてしまうのなら、もう一度必要とされるように新しく生まれ変わらせてあげるのも、悪いことではないような気がした。
 ガン爺も喜んでくれると良いのだけれど。

 ともあれ、このことをガン爺に伝えるには、腕時計の能力を打ち明けないといけない。
 ガン爺なら、そのことを知っても態度を変えることはないだろうし、私に不利になることもしないとわかるのだが、知ることで面倒に巻き込んでしまうかもしれないと思うと、躊躇ためらわれる。
 既にいろいろ知っているバルトさんに相談してからの方がいいだろうか。

 向かい側の店先で談笑しているガン爺と、それに嫌そうな顔で付き合っているバルトさんの姿を見付けた。

「お待たせしました」

 声をかけて駆け寄ると、バルトさんからもの言いたげな視線が向けられ、口篭くちごもる。
 腕時計の能力で、ガン爺のお宝の価値が上がったのだと、すぐにでも報告したかったが、こんなところで口にするわけにもいかない。後から説明することを小声で伝え、納得してもらった。

「その様子じゃと、気になることは解決したようじゃな」

「はい、店の方が快く応じてくれたので、いろいろ知ることができて良かったです。でも僕の勝手な思い付きで、お待たせしてしまってすみませんでした」

「よいよい、こっちの店のじじいとも知り合いじゃで、近況報告なんぞをしておったでな、ちょうど良かったぞい」
 
 ガン爺はそう言うと、そこの店のお爺さんに私を紹介してくれた。簡単に挨拶をして別れたのだが、道すがら行き交う知り合いにも紹介するものだから対応に忙しくなる。顔見知りが増えるのは喜ばしくも、覚えるのが大変で名前と顔が一致しているか不安になる。
 ガン爺に振り回されワタワタする私の様子がおかしかったのか、少し距離を取りながら付いて来ていたバルトさんが肩を震わせているのがわかり、恨めしくなる。

「のうバル坊、あそこでいい匂いさせとる串焼きが気になるんじゃが、ちと買ってきてくれんかのう」

 ガン爺はバルトさんにも容赦ようしゃなかった。目に留まった屋台の料理を買うように指示が飛ぶ。

「〝バル坊〟は止めてくれって言っただろうがっ」

 なんだかんだと文句を言いつつ、指定された屋台に向かうバルトさんの姿に、溜飲りゅういんが下がる。


「ガン爺がしばらく家にいることになったから、大家であるカジドワに挨拶しときたいんだが、これから行くことにしてもいいか?」

 バルトさんの提案に、私とガン爺が同意したので、買い込んだ屋台の料理を手土産にカジドワさんの家にお邪魔することになった。
 カジドワさんの都合を聞かず、どやどやと押しかけることになったのだが、問題なく受け入れられ拍子抜けする。
 特にガン爺の態度はここでも変わらず、親戚か何かのような気軽さでカジドワさんに挨拶をしていて、知り合いだとは聞いていたが驚いた。

 カジドワさんが武器作りを止め、新たに調理器具の量産に取り組んでいると聞いたガン爺は、興味を持ったようで、カジドワさんを引き連れ、いそいそと奥の工房へ足を向けている。
 そこで調理器具を見付けたガン爺は、子供のように瞳を輝かせた。【皮むき器ピーラー】を手に取り、カジドワさんにあれこれ質問する姿に頬が緩む。楽しそうでなによりだ。

 遠巻きにして眺めていた私とバルトさんは、意気投合した2人の邪魔をするのも悪いかとその場を離れる。
 ちょうどバルトさんと2人になれたので、先ほど話せなかったガン爺のお宝について切り出すことにした。

 腕時計の機能を使う前の状態を知らないバルトさんには分かりにくいかと思ったが、実際に見てもらった方がいいだろうと腕時計から取り出した〝振り子付きの置時計〟を差し出す。

「銀貨2枚(2万ルド)で買い取ってくれるそうです」

 私がそう告げると「おっ、なんだ? さっきの店でこの置時計の買取価格を聞いてきたのか?」と、バルトさんは手にした〝振り子付きの置時計〟をまじまじと眺める。

「ここらでは見かけない高級品のようだが……俺にはこれの価値はわからねえから銀貨2枚(2万ルド)が妥当なのかの判断はできねえぞ」

 バルトさんはよくわかっていないようで首を傾げ、不安そうだ。

「それはガン爺からいただいた中古品なんです。汚れや傷が目出つと買い手が付かないから高く買い取れないと言われたのがに落ちなくて、腕時計の機能で汚れと傷をなくしてみたんです。そしたら中古品なのにビックリするくらいの値で買い取ってくれることがわかって……」

「おい、ちょっとまて」

 バルトさんは自分の顔を片手でおおい、私の話を途中で遮る。

「これがガン爺の修理した物だって言うのか? ゴミとして捨てられてた物だと?」

 私が笑顔で頷くと、バルトさんは改めて〝振り子付きの置時計〟を眺め、大きく息を吐いた。そして「凄いな……新品だって言われても信じちまうぞ」と小さく呟く。 

「確かにガン爺の中古品はたいして金にならなくて俺も驚いたが、それにしたって――腕時計の機能で汚れや傷をなくして、新品のようにしちまうだなんて、何さらっとおかしなことをしでかしてるんだか。……簡単に言ってくれたが、ガン爺の中古品の汚れは『洗浄』魔法でも落ちなかった〝色あせ〟みたいなやつだろ? 変質しちまったもんを元の状態に戻して傷もなくすなんてこと、どうやったらできるんだ? ……ああ、ユーチの腕時計なら、魔力で『修復』できたりするのか? よくわからねえが、またとんでもないことを思い付いたもんだな」

 なにやらブツブツ呟き頭を抱えてしまったバルトさんに、申し訳ない気持ちになる。

 魔力があればなんでもできるような気にがしていたけれど……そういうものではなかったようだ。
 

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