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ガン爺が加わった朝食は、いつもより賑やかになった。
ホワンもすっかりガン爺に慣れたようで、私の肩から躊躇うことなくテーブルに飛び移り、自分の食器からお気に入りの木の実を見付けて食べはじめている。
ガン爺がその様子を嬉しそうに眺めているのを認め、ホッと息を吐く。しつけがなってないと咎められるかと、ちょっと心配だったのだが、ガン爺にとってマナー違反ではなかったようで安心した。
食事を続けながら、これからのことが話題に上がる。
明日から魔物の討伐に向かうバルトさんは、なんとしても2日で帰ってくると意気込んでいるけれど、実際は最短で2日、長引けば一週間(7日)ほどかかることもあるらしい。
今回も現地の状況によってはどうなるかわからないのだから、遅れることも頭に入れておいた方がいいだろう。
「わかりました。その間、ガン爺と協力してしっかり留守を預かります」
私が力強く頷くと、ガン爺も微笑みながら相槌を打ってくれた。
「改めてよろしくお願いします」
「ワシの方こそよろしく頼むぞい」
頭を下げる私に、ガン爺はにこやかに応じ「それにしても、ユーチはちっこいのにしっかりしとるのう。感心感心」と、子供のように褒められてしまう。
恥ずかしくなるも、新たに気心の知れた人物と出会えたことが嬉しくて、つい笑みが漏れる。
「なんか、意気投合した2人を見ると不安になるんだが……大丈夫なのか? ユーチの常識は当てにならないし、ガン爺は〝我が道を行く〟自由人。予想もつかない方向に突っ走ってそうで怖いんだけど?」
バルトさんはそう言うと、眉間に皺を寄せた。
「大丈夫ですよ。僕の常識のなさは経験豊富なガン爺に補ってもらうので、安心して魔物を討伐してきてください。あっ、でも怪我とかはダメですから、安全第一でお願いします」
「そうじゃぞ、バル坊は心配せんでゆっくりしてくるといい。ユーチと2人で上手くやっとるでな」
「クキュッ」
自分もいるぞとばかりに身体を立て、鳴き声を上げるホワンに頬が緩んだ。
「おい、いまホワンが鳴いたのか?」
バルトさんが目を見開いて驚いているがわかり、クスクス笑いながら肯定する。
「はい。そうなんです。ニーリスは鳴かない動物なのかと思っていたのですが違ったみたいです。僕も昨日の夜に初めて鳴き声を聞き、驚きました」
「キュッ」
返事をするように小さく鳴くも、今度は何事なかったように食事を再開させるホワンがおかしくて笑みが漏れる。
しばらく苦悩していたように見えたバルトさんだったが、気を取り直したようだ。
「話しは変わるが、ガン爺はこれからもあの小屋に住むつもりなのか? もしそうなら本格的に補修しないとダメだと思うぞ。雨漏りや隙間風以外にも、直さねえとならねえ箇所があるようだからな。専門家に見積を出してもらうつもりだが、金も時間もかかるんじゃねえか」
「そうじゃのう、ちと予定外じゃったが、住む場所を変えるつもりはないぞい。全財産をつぎ込んであの小屋と周辺の土地を買い取ったんじゃ、手放すなどあり得んわ」
「ああ? なんだって⁈ 小屋だけじゃなくて、あの役に立たない埋め立て場の土地も買ったのか? それも全財産をつぎ込んでって……おい、もしかしてガン爺、小屋の補修代も持ってねえとか言わねえよな?」
「もちろん現金はないぞい。じゃがお宝はあるでのう。どうにかなるじゃろ?」
「なに自信満満にぬかしてんだよ。ガン爺のいうお宝っていうのは、壊れたゴミから抜いた部品や修理した中古品のことだよな。そんなの持ってても現金が無きゃ、補修工事を請けてもらえねえことくらいわかってるだろ? どうするつもりだったんだよ」
「ちゃんと考えとるぞい。とりあえず売れるだけ売って金を作るつもりじゃでな。この後、馴染みの店に売り込みに行くんじゃよ」
部品や中古品がいくらで買ってもらえるのかわからないが、資金を稼げぐことができそうでホッとする。
ガン爺は能天気に笑っているけれど、手元にお金がない状況では不安だっただろう。
「はあ~」
バルトさんは大きく息を吐くと「……わかった。長期戦ってことだな」と呟き、表情を引き締めた。
「小屋の補修依頼は金ができてから考えるとして、今日はどうするかな? ガン爺と一緒にその馴染みの店っていうのに行って、お宝がいくらで売れるか知っておきたいような気もするが、ユーチはどうしたい?」
「僕も興味があるのでそうしたいですが、バルトさんは明日の依頼に向けて準備があるのではないですか?」
「いや、特にないが……まあ、もう少し携帯食があってもいいかな。孤児院のガキも行くようだから、後で補充しとくか……」
さすがバルトさん。毎回参加していたというだけあって余裕そうだ。
孤児院のバンチ君のことも気にかけてくれているのがわかり、嬉しくなる。
普段と変わらない気負うことのないバルトさんの姿に、ベテラン冒険者の風格を感じ、思わず尊敬の眼差しを向けていた。のだが……
「そうと決まれば、とっとと食べて出かけるぞ」
というバルトさんの言葉に急かされ、残りの料理を食べるため、止まっていた手を動かすことになったのだった。
ホワンもすっかりガン爺に慣れたようで、私の肩から躊躇うことなくテーブルに飛び移り、自分の食器からお気に入りの木の実を見付けて食べはじめている。
ガン爺がその様子を嬉しそうに眺めているのを認め、ホッと息を吐く。しつけがなってないと咎められるかと、ちょっと心配だったのだが、ガン爺にとってマナー違反ではなかったようで安心した。
食事を続けながら、これからのことが話題に上がる。
明日から魔物の討伐に向かうバルトさんは、なんとしても2日で帰ってくると意気込んでいるけれど、実際は最短で2日、長引けば一週間(7日)ほどかかることもあるらしい。
今回も現地の状況によってはどうなるかわからないのだから、遅れることも頭に入れておいた方がいいだろう。
「わかりました。その間、ガン爺と協力してしっかり留守を預かります」
私が力強く頷くと、ガン爺も微笑みながら相槌を打ってくれた。
「改めてよろしくお願いします」
「ワシの方こそよろしく頼むぞい」
頭を下げる私に、ガン爺はにこやかに応じ「それにしても、ユーチはちっこいのにしっかりしとるのう。感心感心」と、子供のように褒められてしまう。
恥ずかしくなるも、新たに気心の知れた人物と出会えたことが嬉しくて、つい笑みが漏れる。
「なんか、意気投合した2人を見ると不安になるんだが……大丈夫なのか? ユーチの常識は当てにならないし、ガン爺は〝我が道を行く〟自由人。予想もつかない方向に突っ走ってそうで怖いんだけど?」
バルトさんはそう言うと、眉間に皺を寄せた。
「大丈夫ですよ。僕の常識のなさは経験豊富なガン爺に補ってもらうので、安心して魔物を討伐してきてください。あっ、でも怪我とかはダメですから、安全第一でお願いします」
「そうじゃぞ、バル坊は心配せんでゆっくりしてくるといい。ユーチと2人で上手くやっとるでな」
「クキュッ」
自分もいるぞとばかりに身体を立て、鳴き声を上げるホワンに頬が緩んだ。
「おい、いまホワンが鳴いたのか?」
バルトさんが目を見開いて驚いているがわかり、クスクス笑いながら肯定する。
「はい。そうなんです。ニーリスは鳴かない動物なのかと思っていたのですが違ったみたいです。僕も昨日の夜に初めて鳴き声を聞き、驚きました」
「キュッ」
返事をするように小さく鳴くも、今度は何事なかったように食事を再開させるホワンがおかしくて笑みが漏れる。
しばらく苦悩していたように見えたバルトさんだったが、気を取り直したようだ。
「話しは変わるが、ガン爺はこれからもあの小屋に住むつもりなのか? もしそうなら本格的に補修しないとダメだと思うぞ。雨漏りや隙間風以外にも、直さねえとならねえ箇所があるようだからな。専門家に見積を出してもらうつもりだが、金も時間もかかるんじゃねえか」
「そうじゃのう、ちと予定外じゃったが、住む場所を変えるつもりはないぞい。全財産をつぎ込んであの小屋と周辺の土地を買い取ったんじゃ、手放すなどあり得んわ」
「ああ? なんだって⁈ 小屋だけじゃなくて、あの役に立たない埋め立て場の土地も買ったのか? それも全財産をつぎ込んでって……おい、もしかしてガン爺、小屋の補修代も持ってねえとか言わねえよな?」
「もちろん現金はないぞい。じゃがお宝はあるでのう。どうにかなるじゃろ?」
「なに自信満満にぬかしてんだよ。ガン爺のいうお宝っていうのは、壊れたゴミから抜いた部品や修理した中古品のことだよな。そんなの持ってても現金が無きゃ、補修工事を請けてもらえねえことくらいわかってるだろ? どうするつもりだったんだよ」
「ちゃんと考えとるぞい。とりあえず売れるだけ売って金を作るつもりじゃでな。この後、馴染みの店に売り込みに行くんじゃよ」
部品や中古品がいくらで買ってもらえるのかわからないが、資金を稼げぐことができそうでホッとする。
ガン爺は能天気に笑っているけれど、手元にお金がない状況では不安だっただろう。
「はあ~」
バルトさんは大きく息を吐くと「……わかった。長期戦ってことだな」と呟き、表情を引き締めた。
「小屋の補修依頼は金ができてから考えるとして、今日はどうするかな? ガン爺と一緒にその馴染みの店っていうのに行って、お宝がいくらで売れるか知っておきたいような気もするが、ユーチはどうしたい?」
「僕も興味があるのでそうしたいですが、バルトさんは明日の依頼に向けて準備があるのではないですか?」
「いや、特にないが……まあ、もう少し携帯食があってもいいかな。孤児院のガキも行くようだから、後で補充しとくか……」
さすがバルトさん。毎回参加していたというだけあって余裕そうだ。
孤児院のバンチ君のことも気にかけてくれているのがわかり、嬉しくなる。
普段と変わらない気負うことのないバルトさんの姿に、ベテラン冒険者の風格を感じ、思わず尊敬の眼差しを向けていた。のだが……
「そうと決まれば、とっとと食べて出かけるぞ」
というバルトさんの言葉に急かされ、残りの料理を食べるため、止まっていた手を動かすことになったのだった。
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