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5日目
来客②
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目が覚めると、何か重い物が身体の上にあることに気付く。
呻きながら身動きすると、ドサッとどこからか落下した。
……っ⁈
重さからは解放されたものの、落ちた衝撃で寝ぼけた頭はさらに混乱する。
おまけに突然何かが顔に貼りつき、呼吸がおぼつかなくなったのだから、パニックにならなかったのが不思議なくらいだ。
「クキャン!」
どこか咎めるような鳴き声に我に返る。
仰向けに倒れている私の顔から胸の辺りに移動し、抗議するようにぴょんぴょん飛び跳ねるホワンに、とりあえず「おはよう」と朝の挨拶をしてみた。
飛び跳ねるのは止めてくれたのだが、まだ機嫌が悪いようで、いつもの様に視線を合わせてくれない。
宥めるように撫でながら、手の平でホワンを支えるようにして身体を起こした。
薄暗い部屋を見渡し、ソファーで寝ているバルトさんを一瞥する。
どこにいるのか理解した私は、目を瞬かせる。
――どうやらあのまま、バルトさんと一緒にソファーで寝てしまったようだ。
寝ているホワンを部屋に残したまま、こっちで寝てしまったことを怒っているのだろうか。
部屋から出られるようにドアは開けておいたのだが、気に入らなかったみたいだね。
拗ねてるホワンも可愛くて、笑みを浮かべて頬ずりしてしまう。
どうにか機嫌が直ったのか、今度はしきりに部屋の匂いを嗅ぎ、ソワソワしだした。
増えた住人に気付いたのだろうか。
昨日、やっと鳴き声を聞かせてくれるようになったばかりなので、少しの環境の変化でも鳴かなくなってしまうのではと不安になる。けれど、せっかく一緒に暮らすのだから、ガン爺さんにもホワンのことを知ってもらいたいし、可愛い姿を見せてあげたいと思ってしまう。
ホワンを床に降ろし、軽く身体を解しつつ、まだ熟睡しているバルトさんの寝顔を眺める。
激しい雨の中を移動し、ガン爺さんを救出してきたのだ。さすがのバルトさんも疲れているのだろう。
ソファーでは寝にくいだろうに起きる気配がない。
背が高いので足がソファーからはみ出しているし、さっきまで私もそこで寝ていたのだから窮屈だったに違いない。申し訳なくなる。
ふと、バルトさんの身体にすっぽり納まり、抱えられて寝ている自分の姿が浮かぶ。
一瞬思考が停止するも、あながち間違った想像ではないことに気付き居たたまれなくなる。顔が熱くなるのがわかった。
居心地の悪さを誤魔化すようにその場を離れ、カーテンの隙間から窓の外を眺める。
雨はすっかり止んだようだ。
そろそろ日が昇るのか、明るくなってきた空には青空が広がっている。今日はいい天気になりそうだ。
時刻は【4時16分】。
すっかり目が覚めてしまったが、バルトさんたちはまだ起きる時間ではないだろう。
寝台にいるガン爺さんもグッスリ眠っているようだし、起こさないようにしなければ。
さて、どうしようか?
2人とも、起きたらお腹をすかせていそうだから、朝食の用意をしておけば喜んでくれそうだが……
私は腕時計に収納してある、すぐ食べられる物を取り出すことにした。
たくさんある果物は、包丁を使わなくていいものを選んで器に盛りつける。
つい習慣で水洗いをしてしまいたくなったが、覚えたての『洗浄』魔法を試してみた。便利な魔法があるのだから使わなければもったいない。
衛生面で不安なら、後でバルトさんに『浄化』の魔法もお願いすればいいだろう。
焼きたてのパンや屋台の料理もある。
腕時計に収納しておけば、そのままの状態で保存できるのだから、躊躇う理由がない。
美味しそうな匂いに誘われると、つい買ってしまうという私の食い意地(?)が張った行いも、こうして役に立つのだから悪いことではないはずだ。いつ食べるんだってほどの量になりつつあることには目を瞑り、私は満足げに笑みを浮かべる。
バルトさんが信頼しているガン爺さんなら、腕時計の秘密を知られても問題ないような気がするが、一応用心して、出来立てだとわかる物は、昨日の夕食で残った料理と一緒に腕時計から出して冷ましておくことにする。
取り皿やカップなど必要な物をテーブルに並べ、足りなかった椅子を自分の部屋から運んで来たら準備は完了だ。
次は、どうしようか?
一息ついたところで、部屋の中を探索していたらしいホワンが猛烈な勢いで戻ってきた。そしてその勢いのまま肩に移動し、驚いて目を見開く私の首の周りを、今度は忙しなくくるくると回りだす。
初めて見せる行動に困惑しつつ、どうしたのかとホワンが走ってきた先をうかがう。
どうやらガン爺さんが目を覚ましたらしい。
寝台の上で上半身を起こし、キョロキョロと辺りを見回している。
ホワンのことだから、寝ていたガン爺さんが気になり近くで観察でもしていたのだろう。
動かないと思っていたガン爺さんが動きだし、驚いて逃げてきたってとこかな。
少し落ち着いたのか、ホワンは動き回るのを止め、私の肩の上からガン爺さんに視線を向けている。
シッポと耳を立て、警戒しているのがわかるのだが、どうにも微笑ましくて肩を震わせてしまう。
呻きながら身動きすると、ドサッとどこからか落下した。
……っ⁈
重さからは解放されたものの、落ちた衝撃で寝ぼけた頭はさらに混乱する。
おまけに突然何かが顔に貼りつき、呼吸がおぼつかなくなったのだから、パニックにならなかったのが不思議なくらいだ。
「クキャン!」
どこか咎めるような鳴き声に我に返る。
仰向けに倒れている私の顔から胸の辺りに移動し、抗議するようにぴょんぴょん飛び跳ねるホワンに、とりあえず「おはよう」と朝の挨拶をしてみた。
飛び跳ねるのは止めてくれたのだが、まだ機嫌が悪いようで、いつもの様に視線を合わせてくれない。
宥めるように撫でながら、手の平でホワンを支えるようにして身体を起こした。
薄暗い部屋を見渡し、ソファーで寝ているバルトさんを一瞥する。
どこにいるのか理解した私は、目を瞬かせる。
――どうやらあのまま、バルトさんと一緒にソファーで寝てしまったようだ。
寝ているホワンを部屋に残したまま、こっちで寝てしまったことを怒っているのだろうか。
部屋から出られるようにドアは開けておいたのだが、気に入らなかったみたいだね。
拗ねてるホワンも可愛くて、笑みを浮かべて頬ずりしてしまう。
どうにか機嫌が直ったのか、今度はしきりに部屋の匂いを嗅ぎ、ソワソワしだした。
増えた住人に気付いたのだろうか。
昨日、やっと鳴き声を聞かせてくれるようになったばかりなので、少しの環境の変化でも鳴かなくなってしまうのではと不安になる。けれど、せっかく一緒に暮らすのだから、ガン爺さんにもホワンのことを知ってもらいたいし、可愛い姿を見せてあげたいと思ってしまう。
ホワンを床に降ろし、軽く身体を解しつつ、まだ熟睡しているバルトさんの寝顔を眺める。
激しい雨の中を移動し、ガン爺さんを救出してきたのだ。さすがのバルトさんも疲れているのだろう。
ソファーでは寝にくいだろうに起きる気配がない。
背が高いので足がソファーからはみ出しているし、さっきまで私もそこで寝ていたのだから窮屈だったに違いない。申し訳なくなる。
ふと、バルトさんの身体にすっぽり納まり、抱えられて寝ている自分の姿が浮かぶ。
一瞬思考が停止するも、あながち間違った想像ではないことに気付き居たたまれなくなる。顔が熱くなるのがわかった。
居心地の悪さを誤魔化すようにその場を離れ、カーテンの隙間から窓の外を眺める。
雨はすっかり止んだようだ。
そろそろ日が昇るのか、明るくなってきた空には青空が広がっている。今日はいい天気になりそうだ。
時刻は【4時16分】。
すっかり目が覚めてしまったが、バルトさんたちはまだ起きる時間ではないだろう。
寝台にいるガン爺さんもグッスリ眠っているようだし、起こさないようにしなければ。
さて、どうしようか?
2人とも、起きたらお腹をすかせていそうだから、朝食の用意をしておけば喜んでくれそうだが……
私は腕時計に収納してある、すぐ食べられる物を取り出すことにした。
たくさんある果物は、包丁を使わなくていいものを選んで器に盛りつける。
つい習慣で水洗いをしてしまいたくなったが、覚えたての『洗浄』魔法を試してみた。便利な魔法があるのだから使わなければもったいない。
衛生面で不安なら、後でバルトさんに『浄化』の魔法もお願いすればいいだろう。
焼きたてのパンや屋台の料理もある。
腕時計に収納しておけば、そのままの状態で保存できるのだから、躊躇う理由がない。
美味しそうな匂いに誘われると、つい買ってしまうという私の食い意地(?)が張った行いも、こうして役に立つのだから悪いことではないはずだ。いつ食べるんだってほどの量になりつつあることには目を瞑り、私は満足げに笑みを浮かべる。
バルトさんが信頼しているガン爺さんなら、腕時計の秘密を知られても問題ないような気がするが、一応用心して、出来立てだとわかる物は、昨日の夕食で残った料理と一緒に腕時計から出して冷ましておくことにする。
取り皿やカップなど必要な物をテーブルに並べ、足りなかった椅子を自分の部屋から運んで来たら準備は完了だ。
次は、どうしようか?
一息ついたところで、部屋の中を探索していたらしいホワンが猛烈な勢いで戻ってきた。そしてその勢いのまま肩に移動し、驚いて目を見開く私の首の周りを、今度は忙しなくくるくると回りだす。
初めて見せる行動に困惑しつつ、どうしたのかとホワンが走ってきた先をうかがう。
どうやらガン爺さんが目を覚ましたらしい。
寝台の上で上半身を起こし、キョロキョロと辺りを見回している。
ホワンのことだから、寝ていたガン爺さんが気になり近くで観察でもしていたのだろう。
動かないと思っていたガン爺さんが動きだし、驚いて逃げてきたってとこかな。
少し落ち着いたのか、ホワンは動き回るのを止め、私の肩の上からガン爺さんに視線を向けている。
シッポと耳を立て、警戒しているのがわかるのだが、どうにも微笑ましくて肩を震わせてしまう。
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