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4日目
収入
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シューセントさんが用意していた書類の内容を確認してサインをしたり、口座を作ってもらったりと、商業ギルドでの用事を済ませた。
今回の特許申請はブーティック商会の名義で行われたので、私の名前が表に出ることはない。
衣服を貸し出すにあたって、私の持ち物であることを漏らさないように契約していたこともあって、利益の分配はブーティック商会から内密に私の口座に支払われるよう手続きがされた。
これにより私は、日本で着ていた衣服などの技術で、安全に資金を増やすことができるようになったらしい。自分の努力で得た資金ではないので後ろめたくはあるけれど、現状を考え、ありがたく受け取ることにする。
それにそれらの技術で、この世界の人たちの暮らしが良いように変わるのなら嬉しいし、その様子を見るのも楽しそうだ。
商業ギルドにまだ用事があるというシューセントさんに見送られ、私とバルトさんは商業ギルドを後にする。別れ際シューセントさんに、バルトさんから香る柑橘系の香りのことを尋ねられ、ドキッとする場面もあったけれど、バルトさんがとぼけて誤魔化してくれたお陰で詳細を話さずに済んだ。
隠す必要はなかったかもしれないが、普通の『洗浄』魔法では匂いの元も消してしまうらしく、私のようにあえて香りを付ける発想をする者などいなかったと、バルトさんに驚かれたこともあり、今のところ大っぴらにしない方がいいように思っている。
けれど、香りを魔法で再現することができると知ったバルトさんが「俺も試してみるかな?」と〝香り魔法?〟に意欲をみせていたので、そのうち誰にでも使える魔法として広がっていくような気がして、ちょっとワクワクする。
それにしても、カジドワさんやショリナさんは気付かなかったわずかな香りに気付ける、シューセントさんの鋭い感覚には驚くばかりだ。
笑顔で手を振るシューセントさんの目がキラリと鋭く輝いたように見えたのは、気のせいだろうか?
昼時の賑やかな街を見渡す。
やっぱり午前中に孤児院へ行くのは無理みたいだ……私はちょっと残念い思い小さく息を吐く。
鞄のポケットを覗き、ホワンが丸くなって眠っている姿を確認する。
珍しくショリナさんやシューセントさんの前に出てきていたけれど、疲れちゃったのかな?
ゆっくり呼吸を繰り返しているホワンに目を細め、そっとポケットの蓋を閉めた。
「さて、これからどうするかな?」
邪魔にならない場所で立ち止まり、バルトさんは私に視線を向ける。
「バルトさんは、冒険者ギルドに用があったのではないですか?」
「ああ、魔物の討伐依頼の詳細が今日提示されるらしいから、それを確認して依頼を受ける手続きをする必要がある。気は進まないが、クレエンと約束したから仕方がない」
バルトさんは嫌そうに顔を歪ませた。
「なら、このまま冒険者ギルドに行きませんか? わた……僕も、どんな依頼があるのか知りたいので、掲示板を見ておきたいです」
〝私〟と言いかけ〝僕〟と言い直したことに気付いたバルトさんはニヤリと笑う。
「じゃあ、そうするか」と私の頭に手を乗せ、わしゃわしゃと髪を撫でながら「……スカート、楽しみなんだがなあ」と小声で呟くのが聞こえた。
からかうような視線を向けてくるバルトさんを軽く睨み、絶対にバルトさんの前では〝私〟と言わないようにしようと気を引き締める。
少し来た道を戻り、先ほど出てきたドアの隣にある冒険者ギルドの入り口へ向かう。
「いらっしゃ~い」
商業ギルドより狭く親しみやすい雰囲気の受付から、銀の髪が美しいアネスさんの声が響く。
「依頼を確認させてもらうな」
バルトさんはアネスさんに軽く手を振ると、私の背を押し掲示板の前に立った。
早速、上の方にある領主様からの依頼を見つけたのだろう。
「明後日かよ。すぐじゃねえか」
バルトさんが力なく呟くのが聞こえた。
確かに、思っていたよりも早い。
2日後には、バルトさんたちは魔物の討伐に向かうことになるようだ。
最短で戻れたとしても2日は家を空けることになるらしいから、その間、私は留守番になる。
少し不安はあるけれど、バルトさんのお陰で住む家があるし知り合いもできた。
下の階にはカジドワさんがいるし、孤児院にはマーザ院長も子供たちもいる。
それに『まんぷく亭』に行けば、ラッシャイさんとマカイナさんが笑顔で迎えてくれそうだ。
出会って間もない人たちだけれど、何かあれば助けてくれると思う。
ここでの自立の一歩として、しっかり留守を預かり、バルトさんに安心してもらわないと。
いつまでも私に付き合って、冒険者の仕事を休ませるわけにはいかないからね。
見たことのない〝魔物〟には恐怖を覚えるけれど、領主主導で決行される【魔物討伐】では人数が確保され、領主様が雇った補助人員や物資によって怪我の治療にも対処してもらえるというから、危険は少ないと聞く。
なので無事依頼が達成できるように、笑顔で送り出すつもりだ。
掲示板の下の方には、私のような子供でも受けられそうな依頼が並んでいる。
店の掃除や片付け、庭の草取りなどの仕事に加え、この前街で知り合った子供たちが受けていた、ムニュムの排出物を畑へ運ぶ仕事もあった。
報酬は、500ルド~2,000ルド(銅貨5枚~小銀貨2枚)ほど。
1日1つの依頼を受け1カ月(30日)休みなく働くと、15,000ルド~60,000ルド……か。
バルトさんが借りている家の家賃は、特別価格なのかもしれないけれど月15,000ルドだったはずだから、日本に比べるとかなり安い。
また〝屋台〟や〝まんぷく亭〟の料理も、随分お得な値段だったことを思い出す。自炊をすれば、さらに食費を抑えることができそうだ。
何人かで一緒に暮らすなら、贅沢をしなければ生活できないことはないのかな?
病気や怪我をしないっていうのが、必要な条件になるだろうけれど……子供たちだけでも自立できるかもしれない。
……そう思うと、気持ちが軽くなっていくような気がした。
『〝洗浄〟の魔法を覚えて冒険者になったら、いっぱい依頼を受けて、いっぱいお金をかせぐんだ!』
そう言って笑っていたデシャちゃんの姿が浮かぶ。
私も孤児院の子供たちに負けないように、自分の力でお金を稼げるようになりたいと強く思った。
今回の特許申請はブーティック商会の名義で行われたので、私の名前が表に出ることはない。
衣服を貸し出すにあたって、私の持ち物であることを漏らさないように契約していたこともあって、利益の分配はブーティック商会から内密に私の口座に支払われるよう手続きがされた。
これにより私は、日本で着ていた衣服などの技術で、安全に資金を増やすことができるようになったらしい。自分の努力で得た資金ではないので後ろめたくはあるけれど、現状を考え、ありがたく受け取ることにする。
それにそれらの技術で、この世界の人たちの暮らしが良いように変わるのなら嬉しいし、その様子を見るのも楽しそうだ。
商業ギルドにまだ用事があるというシューセントさんに見送られ、私とバルトさんは商業ギルドを後にする。別れ際シューセントさんに、バルトさんから香る柑橘系の香りのことを尋ねられ、ドキッとする場面もあったけれど、バルトさんがとぼけて誤魔化してくれたお陰で詳細を話さずに済んだ。
隠す必要はなかったかもしれないが、普通の『洗浄』魔法では匂いの元も消してしまうらしく、私のようにあえて香りを付ける発想をする者などいなかったと、バルトさんに驚かれたこともあり、今のところ大っぴらにしない方がいいように思っている。
けれど、香りを魔法で再現することができると知ったバルトさんが「俺も試してみるかな?」と〝香り魔法?〟に意欲をみせていたので、そのうち誰にでも使える魔法として広がっていくような気がして、ちょっとワクワクする。
それにしても、カジドワさんやショリナさんは気付かなかったわずかな香りに気付ける、シューセントさんの鋭い感覚には驚くばかりだ。
笑顔で手を振るシューセントさんの目がキラリと鋭く輝いたように見えたのは、気のせいだろうか?
昼時の賑やかな街を見渡す。
やっぱり午前中に孤児院へ行くのは無理みたいだ……私はちょっと残念い思い小さく息を吐く。
鞄のポケットを覗き、ホワンが丸くなって眠っている姿を確認する。
珍しくショリナさんやシューセントさんの前に出てきていたけれど、疲れちゃったのかな?
ゆっくり呼吸を繰り返しているホワンに目を細め、そっとポケットの蓋を閉めた。
「さて、これからどうするかな?」
邪魔にならない場所で立ち止まり、バルトさんは私に視線を向ける。
「バルトさんは、冒険者ギルドに用があったのではないですか?」
「ああ、魔物の討伐依頼の詳細が今日提示されるらしいから、それを確認して依頼を受ける手続きをする必要がある。気は進まないが、クレエンと約束したから仕方がない」
バルトさんは嫌そうに顔を歪ませた。
「なら、このまま冒険者ギルドに行きませんか? わた……僕も、どんな依頼があるのか知りたいので、掲示板を見ておきたいです」
〝私〟と言いかけ〝僕〟と言い直したことに気付いたバルトさんはニヤリと笑う。
「じゃあ、そうするか」と私の頭に手を乗せ、わしゃわしゃと髪を撫でながら「……スカート、楽しみなんだがなあ」と小声で呟くのが聞こえた。
からかうような視線を向けてくるバルトさんを軽く睨み、絶対にバルトさんの前では〝私〟と言わないようにしようと気を引き締める。
少し来た道を戻り、先ほど出てきたドアの隣にある冒険者ギルドの入り口へ向かう。
「いらっしゃ~い」
商業ギルドより狭く親しみやすい雰囲気の受付から、銀の髪が美しいアネスさんの声が響く。
「依頼を確認させてもらうな」
バルトさんはアネスさんに軽く手を振ると、私の背を押し掲示板の前に立った。
早速、上の方にある領主様からの依頼を見つけたのだろう。
「明後日かよ。すぐじゃねえか」
バルトさんが力なく呟くのが聞こえた。
確かに、思っていたよりも早い。
2日後には、バルトさんたちは魔物の討伐に向かうことになるようだ。
最短で戻れたとしても2日は家を空けることになるらしいから、その間、私は留守番になる。
少し不安はあるけれど、バルトさんのお陰で住む家があるし知り合いもできた。
下の階にはカジドワさんがいるし、孤児院にはマーザ院長も子供たちもいる。
それに『まんぷく亭』に行けば、ラッシャイさんとマカイナさんが笑顔で迎えてくれそうだ。
出会って間もない人たちだけれど、何かあれば助けてくれると思う。
ここでの自立の一歩として、しっかり留守を預かり、バルトさんに安心してもらわないと。
いつまでも私に付き合って、冒険者の仕事を休ませるわけにはいかないからね。
見たことのない〝魔物〟には恐怖を覚えるけれど、領主主導で決行される【魔物討伐】では人数が確保され、領主様が雇った補助人員や物資によって怪我の治療にも対処してもらえるというから、危険は少ないと聞く。
なので無事依頼が達成できるように、笑顔で送り出すつもりだ。
掲示板の下の方には、私のような子供でも受けられそうな依頼が並んでいる。
店の掃除や片付け、庭の草取りなどの仕事に加え、この前街で知り合った子供たちが受けていた、ムニュムの排出物を畑へ運ぶ仕事もあった。
報酬は、500ルド~2,000ルド(銅貨5枚~小銀貨2枚)ほど。
1日1つの依頼を受け1カ月(30日)休みなく働くと、15,000ルド~60,000ルド……か。
バルトさんが借りている家の家賃は、特別価格なのかもしれないけれど月15,000ルドだったはずだから、日本に比べるとかなり安い。
また〝屋台〟や〝まんぷく亭〟の料理も、随分お得な値段だったことを思い出す。自炊をすれば、さらに食費を抑えることができそうだ。
何人かで一緒に暮らすなら、贅沢をしなければ生活できないことはないのかな?
病気や怪我をしないっていうのが、必要な条件になるだろうけれど……子供たちだけでも自立できるかもしれない。
……そう思うと、気持ちが軽くなっていくような気がした。
『〝洗浄〟の魔法を覚えて冒険者になったら、いっぱい依頼を受けて、いっぱいお金をかせぐんだ!』
そう言って笑っていたデシャちゃんの姿が浮かぶ。
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