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4日目
解散
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無事に特許申請の手続きが終わったので、ショリナさんと一緒に部屋を出るためソファーから立ち上がる。
肩掛け鞄の位置を直すと、ポケットからホワンが顔を出した。
ずっと大人しくしていたけれど、私が動いたので外が気になったのだろうか?
ポケットの蓋の間から外を窺っている。警戒している様子も可愛くて頬を緩ませながらそっと撫でる。
「っ⁈」
すぐそばでショリナさんが息を呑むのがわかった。
顔を上げると、私の鞄のポケット辺りに視線を向けて目を見開いている。どうやらホワンのことに気付いたようだ。
伴侶動物として登録しているので、人に見られても大丈夫らしいのだけれど、ホワンが人前ではあまり出てこないから、この子のことを知る者は少ない。
ここは広くない部屋の中であるし、ショリナさんが大声を出してホワンを驚かせることはなさそうだ。
私はポケットの蓋を持ち上げ、手に乗ってきたホワンを包むように撫でながらショリナさんに紹介する。
「ニーリスの〝ホワン〟です。3日前に伴侶動物登録をしたばかりなので、まだ人に慣れてないのですが……」
手の中のホワンが見えるように近付けると、ショリナさんは瞳をキラキラ輝かせコクコクと何度も頷いた。そして目線をホワンに合わせるように屈み、とても優しく微笑んでいる。
「可愛いですね。生きているニーリスを見られるなんて、夢みたいです」
ホワンを驚かせないためか、小さな声で呟いたショリナさんは、そっと手を伸ばしホワンの鼻先に指を近付けた。
いつも触ろうとして逃げられていたバルトさんが目を見張る。
カジドワさんはこれからの展開が楽しみなのか、ワクワクしているようだ。
ショリナさんは、そんな周りの男たちをよそに「よろしくね。ホワンちゃん」と囁くように挨拶をすると可愛らしく笑う。そしてホワンが自分の指の匂いを嗅ぐ様子を愛おしそうに眺めている。
私以外の人の手を避けているようだったホワンが、ショリナさんの指に頬を寄せる姿を見て驚くと同時に、肩の荷が下りたようでちょっとホッとした。
ショリナさんに撫でられながら、私の手の平の上で大人しくしているホワンに微笑む。
「……なぜだ?」
バルトさんの声に顔を上げると、ショリナさんとホワンを見ながら驚愕の表情で「次は俺の番だったのに……」と悔しがっていた。
嘆きながらもホワンを驚かさないようにか、いつもより小声なのがバルトさんらしくて微笑ましい。
なぜかその横で、カジドワさんが納得顔で頷いていたのだけれど?
ショリナさんが動物に慣れていたのは、家に大型犬ほどの大きさの『デンリバー』という種族の伴侶動物がいるからだとわかった。
名前は〝ゴル〟君と言い、ショリナさんが子供の頃から一緒にいるのだという。
ショリナさんの事情を聞き、どうにか納得した様子のバルトさんだったけれど、「次は俺だからなっ!」とホワンを指さして宣言していた。
指を指されても全く気にせず、きょとんとしているホワンを見ると……果たしてどうなるか?
他の人もそう思ったのだろう、クスクスと笑いが漏れている。
仕事中のショリナさんをいつまでも引き留めておくわけにもいかない。ゴル君の話をもう少し聞きたかったけれど、部屋の外で別れることにした。
挨拶をしたのだが、カジドワさんはまだショリナさんと離れがたいようで、引き留めるように何やら話しかけている。
私とバルトさんは顔を見合わせ、カジドワさんを置いて行くことにした。
もう申請の手続きは終わったから、このまま解散でいいだろう。
カジドワさんにはこの後ブーティック商会へ行くことを伝えてあるので、別行動になることはわかっているはずだ。
来たときより行き交う人が増え、少し賑やかになっていた。
受付の前に差しかかると、見覚えのある人物の姿が目に留まる。
「お久し振りでございます」
「シューセントさん? こんにちは」
「どうしたんだ? これからブーティック商会に行くとこだったんだが?」
「はい、商業ギルドに先にお寄りになるというお話でしたので、こちらで待たせていただきました。御用はお済みでございますか?」
「おお、今終わったとこだ」
「左様で御座いますか。つきましては、お疲れかと思いますが、この後、商業ギルドでご相談をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、こっちは移動の手間が省けて助かるが、契約した内容はキッチリ守ってもらえるんだよな」
「はい、もちろんでございます。外部に漏れることが無いように、特別な部屋をお借りいたしました。そちらで詳しいお話をさせていただきたく存じます」
急ぎの用だと聞いていたけれど、変わらず和やかなシューセントさんの様子からは問題が起きているようにはみえない。
『特別な部屋』でなければならない相談というのが気になったけれど、シューセントさんに促されるまま移動する。
別方向なので、カジドワさんやショリナさんに会うことはなかった。
肩掛け鞄の位置を直すと、ポケットからホワンが顔を出した。
ずっと大人しくしていたけれど、私が動いたので外が気になったのだろうか?
ポケットの蓋の間から外を窺っている。警戒している様子も可愛くて頬を緩ませながらそっと撫でる。
「っ⁈」
すぐそばでショリナさんが息を呑むのがわかった。
顔を上げると、私の鞄のポケット辺りに視線を向けて目を見開いている。どうやらホワンのことに気付いたようだ。
伴侶動物として登録しているので、人に見られても大丈夫らしいのだけれど、ホワンが人前ではあまり出てこないから、この子のことを知る者は少ない。
ここは広くない部屋の中であるし、ショリナさんが大声を出してホワンを驚かせることはなさそうだ。
私はポケットの蓋を持ち上げ、手に乗ってきたホワンを包むように撫でながらショリナさんに紹介する。
「ニーリスの〝ホワン〟です。3日前に伴侶動物登録をしたばかりなので、まだ人に慣れてないのですが……」
手の中のホワンが見えるように近付けると、ショリナさんは瞳をキラキラ輝かせコクコクと何度も頷いた。そして目線をホワンに合わせるように屈み、とても優しく微笑んでいる。
「可愛いですね。生きているニーリスを見られるなんて、夢みたいです」
ホワンを驚かせないためか、小さな声で呟いたショリナさんは、そっと手を伸ばしホワンの鼻先に指を近付けた。
いつも触ろうとして逃げられていたバルトさんが目を見張る。
カジドワさんはこれからの展開が楽しみなのか、ワクワクしているようだ。
ショリナさんは、そんな周りの男たちをよそに「よろしくね。ホワンちゃん」と囁くように挨拶をすると可愛らしく笑う。そしてホワンが自分の指の匂いを嗅ぐ様子を愛おしそうに眺めている。
私以外の人の手を避けているようだったホワンが、ショリナさんの指に頬を寄せる姿を見て驚くと同時に、肩の荷が下りたようでちょっとホッとした。
ショリナさんに撫でられながら、私の手の平の上で大人しくしているホワンに微笑む。
「……なぜだ?」
バルトさんの声に顔を上げると、ショリナさんとホワンを見ながら驚愕の表情で「次は俺の番だったのに……」と悔しがっていた。
嘆きながらもホワンを驚かさないようにか、いつもより小声なのがバルトさんらしくて微笑ましい。
なぜかその横で、カジドワさんが納得顔で頷いていたのだけれど?
ショリナさんが動物に慣れていたのは、家に大型犬ほどの大きさの『デンリバー』という種族の伴侶動物がいるからだとわかった。
名前は〝ゴル〟君と言い、ショリナさんが子供の頃から一緒にいるのだという。
ショリナさんの事情を聞き、どうにか納得した様子のバルトさんだったけれど、「次は俺だからなっ!」とホワンを指さして宣言していた。
指を指されても全く気にせず、きょとんとしているホワンを見ると……果たしてどうなるか?
他の人もそう思ったのだろう、クスクスと笑いが漏れている。
仕事中のショリナさんをいつまでも引き留めておくわけにもいかない。ゴル君の話をもう少し聞きたかったけれど、部屋の外で別れることにした。
挨拶をしたのだが、カジドワさんはまだショリナさんと離れがたいようで、引き留めるように何やら話しかけている。
私とバルトさんは顔を見合わせ、カジドワさんを置いて行くことにした。
もう申請の手続きは終わったから、このまま解散でいいだろう。
カジドワさんにはこの後ブーティック商会へ行くことを伝えてあるので、別行動になることはわかっているはずだ。
来たときより行き交う人が増え、少し賑やかになっていた。
受付の前に差しかかると、見覚えのある人物の姿が目に留まる。
「お久し振りでございます」
「シューセントさん? こんにちは」
「どうしたんだ? これからブーティック商会に行くとこだったんだが?」
「はい、商業ギルドに先にお寄りになるというお話でしたので、こちらで待たせていただきました。御用はお済みでございますか?」
「おお、今終わったとこだ」
「左様で御座いますか。つきましては、お疲れかと思いますが、この後、商業ギルドでご相談をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、こっちは移動の手間が省けて助かるが、契約した内容はキッチリ守ってもらえるんだよな」
「はい、もちろんでございます。外部に漏れることが無いように、特別な部屋をお借りいたしました。そちらで詳しいお話をさせていただきたく存じます」
急ぎの用だと聞いていたけれど、変わらず和やかなシューセントさんの様子からは問題が起きているようにはみえない。
『特別な部屋』でなければならない相談というのが気になったけれど、シューセントさんに促されるまま移動する。
別方向なので、カジドワさんやショリナさんに会うことはなかった。
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