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~3日目

検証

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「バルトさんが、魔法で温めたりは……?」

「してねえよ。してたら焦げて食えなくなってる。俺の場合『火』の魔法は威力があるが加減が難しいんだよ」

 バルトさんは、なんだか疲れたように答えてくれた。

「そうなのですか? でもこんがり焦げ目がつけられたら、料理で役立ちそうですよね……今度練習してみます。わた、なら小さな火しか出せないから、いい感じにできるかも」

 自分の魔法が料理に役立ちそうだと気付きワクワクしつつ、うっかり〝私〟と言わずに済んでホッとしていた。
 スカートは嫌だから、これからも気をつけなければ。
 ついでに言葉遣いも子供らしくして、違和感なく子供たちに馴染めるようになりたいと思っているのだけれど……こちらは気恥ずかしくて、なかなか難しい。



 ――先ほどの疑問に思考を切り替える。

 バルトさんの魔法じゃないとしたら、カジドワさんだろうか……?

「カジドワもそんな器用なことはできねえし、しない」

 私がカジドワさんに視線を向けたことで、考えていることがわかったらしく、バルトさんに先に答えられてしまった。

「どう考えても、原因はユーチだぞ! 鞄の収納量もおかしいし、家に帰ってから検証だな。まあ、いろいろ気になるが、今は目の前の料理だ。しっかり食え。幸いカジドワはうのに夢中で気付いてないようだから、このままやりすごす」

 そう言って、バルトさんは自慢の揚げ物を頬張ほおばった。

「……はい、わかりました」

 自分のせいだと言われても、身に覚えがないのだけれど? 

 に落ちない気持ちで、私も食べかけの串焼きを口に入れる。

 少し冷めていたけれど、美味しい。

 モグモグと口を動かしながら、目の前で美味しそうに料理を食べるカジドワさんと、バルトさんを見やる。

 ――せっかく3人での食事なのだから、考え事はよろしくないよね。

 料理も会話も楽しまなければ、もったいない。
 いつの間にか、鞄のポケットの中から出てきたホワンが私の肩に登ってきた。
 お腹がすいたのだろうか? 目の前の料理が気になっているようだ。
 テーブルにはたくさん料理が乗っているけれど、ホワンが食べられそうなのは果物くらいかな?

「えっ⁈」

 ホワンがテーブルの上に移動し、料理の隙間をちょろちょろしはじめると、カジドワさんが驚いたような声を上げた。
 やっとホワンの存在に気付いたようだ。
 ポカンと口を開けたまま、固まっているカジドワさんに苦笑する。

「昨日は、紹介できなかったのですが、僕の伴侶はんりょ動物のホワンです。ニーリスっていう種族だそうです」

「えっ、ほんとにニーリス?」

 カジドワさんは急に立ち上がり、椅子を後ろに倒すと、身を乗り出すようにしてホワンを見る。
 大きな音に驚き動きを止めたホワンは、しばらく警戒しながらカジドワさんを窺っていたけれど、バルトさんのように手を伸ばして触ろうとしてこないので安心したようだ。
 またちょこちょこと動き出し、目当ての果物を見つけ食べはじめる。

 その後カジドワさんに、ホワンが仲間になった経緯とか普段の様子とかを尋ねられ、バルトさんと一緒にそれらに答えることになった。
 カジドワさんの好奇心と食欲が落ち着くのを見計らい、私も子供の頃のバルトさんたちのことを聞いてみる。
 
 それにより、バルトさんがカジドワさんここの家の台所に詳しく、料理の手際が良かった理由を知ることができた。

 料理上手だったカジドワさんのお母様の料理をご馳走になる代わりに、その手伝いを買って出ていたらしい。
 お弟子さんがたくさんいたその頃は、人手が欲しかったのでちょうど良かったようだ。
 手先の器用なバルトさんと違い、クレエンさんは料理に全く向いてなかったようで、鍛冶仕事の手伝いに回されたという。
 クレエンさんも最初は納得して仕事をしていたようなのだが、バルトさんが、摘み食いができたことを自慢するものだから、不満に思ったクレエンさんが、バルトさんの分の料理に手を出したとかで「よくも、俺のめしいやがったなー!」と食事中に乱闘らんとう騒ぎになったのだとか。

 ――子供の頃の2人のやり取りがありありと思い浮かび、笑いをこらえるのに苦労した。
 決まりが悪そうに顔をらすバルトさんの態度に、またおかしくなる。腹筋ふっきんがぶるぶるして困った。

 和やかな雰囲気の楽しい食事が終わり、みんなで、食べ終えた食器の片付けをしてから、特許申請の打ち合わせに入る。
 書類のほとんどはカジドワさんが記入してくれていたので、少しの確認だけで済むらしい。

 この世界の特許制度が、どのようなものかわからなかったこともあり、私は2人に任せるつもりでいた。
 カジドワさんに「なにか要望はある?」と尋ねられたので、特許これによりは利益を得る気はないから、権利はカジドワさんが受け取れるようにしてほしいと伝えて、できるだけ庶民でも手が届く価格になるようにしてくれたら嬉しいと頼む。

 けれど、それを聞いたカジドワさんに、権利に関しては「そういう訳にはいかない!」と強く反対されてしまった。
 今回申請する調理器具は、私の腕時計から出現させた3点が元になっているから〝商品の権利は私にある〟と主張され、特許権を得ることになってしまった。
 その代わり、最初の数年はカジドワさんが商品それらを独占して、生産し販売する許可を認める。という形にするようで、カジドワさんもかなりの利益を見込めるらしい。
 その期間が終われば、他の者も生産・販売それができるようにするようなのだが。

  ♢

 明日の朝、3人で商業ギルドへ特許申請に行く約束をし、私とバルトさんとホワンは家へ帰ってきている。

 真面目な顔のバルトさんと向き合う形でソファーに座り、居心地悪く思いながらシューセントさんに貰った肩掛け鞄を取り出す。

熱熱あつあつの串焼きが、バルトさんたちの『魔法』でなかったというなら、わ、は、この鞄が原因ではないかと思うのですが?」

 バルトさんは、私が差し出した肩掛け鞄を手に取る。

「ああ、そういう可能性もあるにはあるが……ブーティック商会のシューセントさんが、高価な時間停止機能が付いた収納鞄を、ただで子供がきにやるなんてことがあるとは思えねえぞ」
 
 私に許可をとり、バルトさんは鞄の中の物を取り出していく。

 ……メモ用紙・筆記用具・お金の入った袋・バルトさんが書いた地図・カジドワさんから返却された調理器具3点に、画材屋で購入した厚紙・絵の具や筆などの小物(腕時計から入手したと思われる【折りたたみ式ナイフ】も目立たないようにそっと出す)――以上だった。

「あれ? 果物も買って入れたはずなのだけれど?」

 私はバルトさんから鞄を返してもらい、自分で確かめるために鞄の中に左手を入れ、果物を探した。

「あ、やっぱり入ってましたよ」

 私は果物(アプル)を1つ取り出し、テーブルの上に置いた。

 バルトさんは、私の行動をジックリ観察していたようで「今度は右手で取り出してみろ」と、指示を出してくる。
 私は疑問に思いながらも言われた通り、右手で果物を取り出そうとした。

「……あれ?」

 何も取り出せなかったことを不思議に思い、鞄の中を覗くと黒い空間しか見えなくて戸惑う。
 鞄の口を下にして「全部出ろ!」と思いながら中身が出るように振ってみたけれど、変化がなく首を傾げる。

「やっぱりな」

 バルトさんはこうなることがわかっていたように呟いた。

「どういうことですか?」

 私の質問に、バルトさんは私の左手にある腕時計に視線を向ける。

「その【祝福の腕輪】……じゃなくて【腕時計】と言ったか? それの機能だったりしないか?」

「これですか?」

 私は、腕時計を改めて見る。
 黒色の文字盤の【0ゼロ】になっていた日付の表示が、今は【5】になっていることに気付いた。

「?」

 この数字は何だろう?

 不思議に思い、その【5】の部分を指で触る。
 ――すると画面が切り替わり、文字が読み取れた。

 アプル 7個
 メロメロン 5個
 イチゴベリー 50個
 レモジ 10個
 バナン 2房

 表示された文字は、自分が買った果物の名前と数だろうことがわかった。

「……あ」

 驚いて、バルトさんと腕時計の表示を交互に見やる。
 言葉で説明するより見た方が早いだろうと思い、腕時計の中の果物を全て取り出すことにした。
 1個ずつだと面倒なので、テーブルの上を片付ける。

「どうした?」

 私の突然の行動に、不思議そうな顔をするバルトさんに苦笑を返し、広くなったテーブルの上に果物を置くイメージをする――

 すると、調理器具を取り出した時のようにブルブルと振動するようなことはなく、気づいたときには、テーブルの上に先ほど表示されていた果物が並んでいた。

「っ!」

 そうなるように意識していたにも関わらず、小さく声が漏れる。
 バルトさんも、突然出現した果物に驚いているのがわかった。

「どんだけ、買ってんだよ」

 ――バルトさんは違う意味でも驚き、呆れていたようだ。

 腕時計の画面にあった果物の名前の文字が消え【5】と表示されていた数字が、今は【0】になっていることを確認した。
 果物が5種類だったから【5】だったのだろう。
 それらの数を表していたのだったら【74】となっていたはずだ。


「ハハハ……どうやら腕時計これのせいだったみたいです」

 私は乾いた笑いを漏らし、左手を持ち上げ事実を告げる。
 
「そうみたいだな」

 バルトさんも改めて、私の腕時計に視線を向けた。
 
「ここにある果物だけじゃなく、串焼きとか、さっき食べた屋台の料理も入っていたようだから、かなり収納できるってことだな……おまけに時間停止機能付きだっていうんだから、驚くなって方が無理だわ。それに『想像した物を創り出す』機能も、あるんだろ?」

「……そうですね。そういうことになりますね」

 バルトさんは、ソファーの背もたれに深く寄りかかり目を閉じた。
 
 私もその凄い事実を改めて思い知り、戸惑いを隠せない。

「「……は~」」

 2人が吐いた息の音が、大きく部屋に響く。

 私の足の上で首を傾げるホワンの姿に、少しだけ癒された気がした。


 
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