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アメリカ本土 1回目

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 アメリカ
 説明必要ですか? ちなみに海の向こうはアメリカと教えられた愛媛生まれのみぱぱは、広島がアメリカだと思っていました。

~*~*~

「何じゃこりゃ~!!」
「どうしたんですか? 腹に銃弾でも撃ち込まれましたか?」

 上司は新しい部品の受け入れ検査を行っているみぱぱに話しかけました。

「水漏れしているじゃないか」
「ええ、してますね。ほとんど水漏れしてますよ」
「駄目じゃないか」
「駄目ですね」

 水漏れを見ながら、みぱぱは冷静に状況を説明します。
 それを見た上司は言いました。

「う~ん、ちょっとメーカーに行って状況説明と今後の改善提案をしてきてくれ」
「ひ、一人でメーカーに文句を言いに行くんですか?」
「さすがにうちが直接文句を言えないから、代理店と一緒に行ってくれ」

 代理店の高東さんと一緒にアメリカの西海岸に行くことになりました。

「みぱぱさん、たばこ吸いますか?」
「いえ、吸いませんが、どうしてですか?」
「今回、飛行機の空きが喫煙席しかなかったんですが、大丈夫ですか?」
「まあ、我慢します」

 今ではそんな飛行機はありませんが、当時は禁煙席と喫煙席に分かれていました。
 後ろ半分が禁煙席です。
 その一番後ろの席でした。
 その席の後ろは壁になっていてリクライニングも出来ません。その上、飛行が安定すると帰国するであろうアメリカ人が、なぜか喫煙席から一番後ろに来ておしゃべりをしながらタバコを吸い始めました。
 リクライニングできない+うるさい+たばこ臭い=地獄。
 長旅なのに眠ることも出来ません。その上、初めて日付変更線を超えました。
 午前中にアメリカに着きます。
 季節は夏。
 降り注ぐギラギラした太陽の光。熱い風。これがアメリカ西海岸!!
 寝不足のみぱぱにはきつすぎます
 みぱぱ達はホテルにチェックインします。
 眠くてふらふらのみぱぱに高東さんは言いました。

「みぱぱさん、アメリカは初めてですよね。このまま眠ると時差ボケになるので、頑張って起きておきましょう」

 みぱぱの特技としてどこでも寝られますし、長時間寝ることが出来る寝るの大好きっ子です。
 しかし、日付変更線を超えるのは初めてでしたので、素直に従います。

「分かりました。でも、どうしますか?」
「近くにモールがあるからそこに行こう」
「モールってなんですか?」

 モールとは、その当時まだ日本ではそんなになかったショッピングモールのことです。
 タクシーでショッピングモールに行きます。
 もうろうとした意識でショッピングモールに行きますが、全く面白くない。

「すみません。ちょっと疲れたのでそこで座って待っていますね」

 みぱぱはギブアップしました。

「じゃあ、ちょっと買い物してきますね」

 ベンチに座っているみぱぱを残して高東さんは買い物に行きました。

「眠い」

 みぱぱはベンチでウトウトとしてしまいました。

「寝たら駄目だよ~」
「ね、寝てないですよ」

 ウトウト。

「寝たら駄目だよ~」
「ね、寝てないですよ」

 そんなことをしながら夜になるとみぱぱは速攻寝ました。
 翌朝、遅れないように少し早めに目覚ましをかけました。

「ね、ねむい。朝ご飯いらない。寝る」

 みぱぱは二度寝しました。
 そして鳴る目覚まし。

「眠いったら眠いんだよ~!!!」

 しかし、起きないと遅れてしまいます。寝不足のまま、なんとか起きて高東さんと合流しました。

「お早くございます。みぱぱさん、よく眠れましたか。時差ボケは大丈夫ですか?」眠れてた。
「はい! おはようございます」

 よく眠れたかという質問にだけはっきりと応えるみぱぱ。
 絶対にお昼寝しても夜ぐっすり眠れてたはず、と確信しているみぱぱですがあくびと一緒に飲み込みました。
 さて、お仕事タイムです。

「こんにちは、トムです」

 背の高い、学生の時はアメフトしてただろうというがっしりした体つきの男性が対応してくれました。

「初めまして、みぱぱです。もう一人も後から来ますか?」
「ん? 私一人ですが?」
「そうですか、残念です」
「まずは製造の方法と社内での検査を見てもらってから打ち合わせしましょう」

 トムについて工場内を見学します。初めて見る製造工程に眠気も吹き飛ぶみぱぱでした。
 詳細な打ち合わせは午後からする事にして、お昼ご飯を食べに行きます。
 車で少し行ったところにいくつかレストランがありました。
 天気は良く、西海岸の明るい日差しがサンサンと降り注いでいました。
 ステーキを注文する三人。

「みぱぱは何を飲むんだ?」
「え? 何がありますか?」
「そうだな、赤ワインかビールがオススメだな」

 昼間っから酒飲むの? まだ午後からも仕事あるよね。

「じゃあ、ボクは赤ワインで」

 躊躇ちゅうちょするみぱぱを差し置いて、何回もアメリカに来ている高東さんはさっさと赤ワインを頼みます。
 しかし、まだ寝不足の上、緊張の取れていないみぱぱはアルコールを飲むと、仕事にならないと思いました。そして日の高いうちからアルコールを飲む罪悪感から、コーラを選択しました。まだ若かったみぱぱです。
 出てきたステーキは赤身のステーキ。当然日本の様な霜降りではありません。脂のうまみを重視する日本と相反するように赤身のうまみを重視するアメリカ。肉を食べている! という感じはしますが、ちょっと硬い気もしますが、こういう物だと思えば後は大丈夫。ああ、ビールを頼めば良かったと後悔するみぱぱは、暖かな爽やかな風を感じながら食事を終えます。

 事務所に戻ったみぱぱは日本でまとめておいたテストデーターと応急処置方法、そして根本的な対策案をトムと打ち合わせをします。
 とりあえず根本的な対策は時間がかかるため、応急処置を行うことで話は決着しました。
 これでメインのお仕事は終了です。

「さて、明日はフィルターを作っているメーカーの見学だからね」

 こちらの工場も初めて見学するのわくわくのみぱぱ。
 次の日、やっと時差ボケも抜けてきました。

「こんにちは、ジェリーです」
「こっちで来たか~」
「え、どういうことですか?」
「いえ、こちらの話です。すみません」

 みぱぱはあいさつを済ませると工場を見学します。
 工場はちゃんと見学が出来るようにコースになっています。

「やっぱり機械化してるんですね。さすが合理化の国アメリカですね」
「ええ、そうしないと効率が悪いですからね。ではこちらがフィルターを巻きます」
「えええ!」

 そこにはみぱぱの想像を超えた風景が広がっていました。
 おばちゃんが一つ一つ手で巻いていました。慣れた手つきで次々に巻いていきます。

「ここは機械じゃないんですね」
「ええ、ここはまだ機械化が出来ていないのですよ」
「職人芸ですね」
「職人芸です」

 機械化は研究しているがまだ上手くいっていないそうです。(現在は機械化しています)

 さて、そんなこんなで仕事を終えたみぱぱは帰国します。
 恒例の報告会。

「それで、どうだったアメリカは」
「すっごく眠かったです」
「……仕事していたか?」
「していましたよ~ビールも飲まずに頑張ったんですから」
「それで、どうだったんだ?」
「アメリカは職人芸の国でした」
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