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第44話 異国のカップルはすぐに仲良くなる
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俺はガゼボに戻ると、二人は向かい合って座っていた所からいなくなっていた。
「あんたら、何やってるんですか?」
「え? 二人の距離が縮まっている証拠だからいいじゃない」
「普通は、隣に座るものでしょう。なんでバララムさんの膝の上に、座ってるんですか?」
スーツのズボンの上からでも分かる、鍛え抜かれた太ももの上にアイレがちょこんと座り、その細い腰にバララムの上が巻き付けられていた。
ぱっと見、父親の膝の上に座る幼女のようだが、アイレはれっきとした二十歳である。
ただのバカップルである。うらやましい。
「えっと、その様子を見ると、お互い気に入ったようですね」
「はい!」
「……」
はっきりと答えたアイレとは対照的に、バララムは口をつぐんでいた。
バララムの方も決して悪い気はしていないと思うのだが、何かが引っかかるようで渋い顔をしていた。
その顔を見てアイレは心配そうな声をかける。
「バララム様?」
「いえ、アイレ様が悪いわけではありません。それどころか、アイレ様はとてもステキなレディーです。ただ、……」
「ただ?」
「王国軍と魔王軍の関係ですよね」
煮え切れないバララムの代わりに俺が代弁した。愛に生きるアイレには身分や立場など関係ない。それが風の、いや愛の王女アイレなのだから。しかし、魔王軍の生真面目男バララムはそうはいかない。
いくらアイレがいるとは言え、王国を攻め込むという仕事をおそろかにするわけには行かない。また、魔王軍幹部が王女と愛し合うというのも引っかかるのだろう。
それは、バララムをアイレに引き合わせたときから、問題になると言うことは十分に理解していた。
アイレにもバララムの苦悩が分かったのだろう。優しく語りかけた。
「バララム様……障害がある方が、恋って燃えません?」
「へ?」
「ほら、今、戦っている二つの国の王子と王女の恋! 最高に燃えるシチュエーションじゃないですか?」
「はぁ?」
「さあ、この高い壁を超えて真実の愛をつかみ取りましょう」
テンションマックスなアイレを置き去りにして、俺はバララムに現実的な提案をする。
「とりあえず、ここは魔王軍も王国もやってこない。まあ、たまに魔王軍の人が遊びに来ますが……ですから、二人の密会はここでしていただいて結構です」
「しかし、それでは……」
「それに、そのうちノアールを王国の女王にすると話したと思うのですが、そうなると王国と魔王軍で不可侵条約を結ぶはずです。ただ条約だけでは長く続いた両国の恨みは晴れないはず。そこで二人が先陣を切って魔王軍と王国の友好の架け橋になって欲しいのです」
「あなたはそんなことを考えて、私を王女に会わせたのか?」
「いえ、単に王女の理想を聞いて真っ先に浮かんだのがあなただったから、声をかけただけですよ。あなたたち二人を見て、そんな未来が浮かんだだけですよ」
俺の本心だった。
二人を見て、そのようなカップルが当たり前になる世の中になれば、俺も綱渡りのような人生も終わりになるだろう。早くそんな世になって欲しい。あのバカ王を倒してノアールを女王にしても、両国の民の感情はすぐに変わらないだろう。しかし、その旗頭になるアイドル的存在がいれば、少しはマシになるかもしれない。
「まあ、あなたたち二人の気持ちが一番大事なのは変わりないので、俺の思案など関係なく、二人で愛を育んでください」
「あんたら、何やってるんですか?」
「え? 二人の距離が縮まっている証拠だからいいじゃない」
「普通は、隣に座るものでしょう。なんでバララムさんの膝の上に、座ってるんですか?」
スーツのズボンの上からでも分かる、鍛え抜かれた太ももの上にアイレがちょこんと座り、その細い腰にバララムの上が巻き付けられていた。
ぱっと見、父親の膝の上に座る幼女のようだが、アイレはれっきとした二十歳である。
ただのバカップルである。うらやましい。
「えっと、その様子を見ると、お互い気に入ったようですね」
「はい!」
「……」
はっきりと答えたアイレとは対照的に、バララムは口をつぐんでいた。
バララムの方も決して悪い気はしていないと思うのだが、何かが引っかかるようで渋い顔をしていた。
その顔を見てアイレは心配そうな声をかける。
「バララム様?」
「いえ、アイレ様が悪いわけではありません。それどころか、アイレ様はとてもステキなレディーです。ただ、……」
「ただ?」
「王国軍と魔王軍の関係ですよね」
煮え切れないバララムの代わりに俺が代弁した。愛に生きるアイレには身分や立場など関係ない。それが風の、いや愛の王女アイレなのだから。しかし、魔王軍の生真面目男バララムはそうはいかない。
いくらアイレがいるとは言え、王国を攻め込むという仕事をおそろかにするわけには行かない。また、魔王軍幹部が王女と愛し合うというのも引っかかるのだろう。
それは、バララムをアイレに引き合わせたときから、問題になると言うことは十分に理解していた。
アイレにもバララムの苦悩が分かったのだろう。優しく語りかけた。
「バララム様……障害がある方が、恋って燃えません?」
「へ?」
「ほら、今、戦っている二つの国の王子と王女の恋! 最高に燃えるシチュエーションじゃないですか?」
「はぁ?」
「さあ、この高い壁を超えて真実の愛をつかみ取りましょう」
テンションマックスなアイレを置き去りにして、俺はバララムに現実的な提案をする。
「とりあえず、ここは魔王軍も王国もやってこない。まあ、たまに魔王軍の人が遊びに来ますが……ですから、二人の密会はここでしていただいて結構です」
「しかし、それでは……」
「それに、そのうちノアールを王国の女王にすると話したと思うのですが、そうなると王国と魔王軍で不可侵条約を結ぶはずです。ただ条約だけでは長く続いた両国の恨みは晴れないはず。そこで二人が先陣を切って魔王軍と王国の友好の架け橋になって欲しいのです」
「あなたはそんなことを考えて、私を王女に会わせたのか?」
「いえ、単に王女の理想を聞いて真っ先に浮かんだのがあなただったから、声をかけただけですよ。あなたたち二人を見て、そんな未来が浮かんだだけですよ」
俺の本心だった。
二人を見て、そのようなカップルが当たり前になる世の中になれば、俺も綱渡りのような人生も終わりになるだろう。早くそんな世になって欲しい。あのバカ王を倒してノアールを女王にしても、両国の民の感情はすぐに変わらないだろう。しかし、その旗頭になるアイドル的存在がいれば、少しはマシになるかもしれない。
「まあ、あなたたち二人の気持ちが一番大事なのは変わりないので、俺の思案など関係なく、二人で愛を育んでください」
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