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第39話  異世界の光の勇者は信長だった

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「悪いな、小僧。こいつにはまだ死んでもらっては困るんでな」

 そう言って俺がとどめを刺そうとした炎夏を助けたのは、黒髪を後ろでまとめたおっさん、サブロウだった。

「サブロウさん、なんでこんな所に?」
「織田、オレはまだやれる!」

 俺と炎夏はサブロウを見て、そう叫んだ。

「織田? 織田サブロウ? いやいや、名前なんかより、なんであんたがここにいて、炎夏を助けるんですか?」
「ああ、儂の名前は織田信長だ。昔、三郎信長と名乗っていたときがあったから、その時の名前を使わせてもらっとったんじゃ」
「織田信長って、あの信長? 第六天魔王の?」
「お、その名を知っておるのか? 懐かしいのう」

 織田信長、言わずと知れた戦国時代、日本統一に指がかかっていた誰もが知る戦国武将。
 しかし、なんでそんな人物がこんな所に? そもそも本物なのか?

「いまは光の勇者と呼ばれておる。なんでここにいるかって? おまえさんに土と水の勇者を再起不能にされたからの。その上、こいつまで壊されたら、儂の手駒がおらんなるからのう」
「悪いが、俺たちの脅威になるそいつを、そのままにする気はこちらにはないんでね」

 俺は臨戦態勢を解かない。二人がかりとは言え、炎夏の戦力は落ちているはずだ。速攻でカタをつければ、炎夏は倒せる。あとは信長がどれくらい強いかが問題だ。

「ほう、つまりは儂とやり合うと言うことか……良いだろう。炎夏も手伝え、アレをやるぞ」
「あ、ああ」

 ボロボロになっている炎夏が信長の隣で答える。
 二人で何をする気だ?
 俺が警戒したその瞬間、信長はその右手を天高くかざした。

「特有結界、本能寺!」

 信長がそう叫んだ瞬間、俺たちは本能寺の中にいた。
 何がどうなったのかわからない。しかし、ここが炎に包まれる前の本能寺だと言うことを、俺は理解した。

「追加結界、本能寺の変!」

 炎夏の声に本能寺は火に包まれた。
 本能寺の変、信長が明智光秀によって討たれた事変。
 中国で言うところの背水の陣なのか?
 俺は信長が何をしようとしているのか、俺は油断なく信長と炎夏、そして周りを警戒していると、信長は扇子を片手に持っていた。

「超絶強力魔力増幅、敦盛」

 信長は「人間五十年、下天のうちを比べれば~」と歌いながら、踊り始めたのだった。
 その歌と舞に思わず俺は見惚れてしまってしまう。

『マモル、信長の魔力量がどんどん上がっています。危険水域です』
「それはどれ位だ? ベレートさんと比べて何分の一だ?」
『現在でベレートの約十倍、魔力はまだまだ上昇中』
「それって、まずいじゃないか。止めないと!」

 俺はブラスターで信長を撃つも、踊りながら扇子で防がれた。
 ならば、マモルバスターだ。
 俺は両手を信長に向ける。

「織田の邪魔はさせん」

 炎夏が槍で俺の腕を叩き、狙いを付けさせない。
 ダメージを与えるような攻撃ではないが、その分、コンパクトで隙が無い。
 俺たちは小競り合いを続ける。

「邪魔だ!」

 俺は炎夏の槍を掴むと、炎夏ごと本能寺の外に放り投げた。
 しかし、炎夏の時間稼ぎは成功してしまった。

『マモル! 信長の魔力量はベレートの百倍以上! あの魔王より多いかも知れません!』

 敦盛を踊り終わった信長の魔力を測定したナビちゃんは、悲鳴に近い声で俺に告げた。
 ちきしょう、敦盛ってなんだよ。あつ森じゃないんだよ。任天堂のキラーコンテンツじゃないんだぞ! そんな膨大な魔力で信長はどんな攻撃をするつもりだ!

「秘奥義、天上天下唯我独尊!」

 信長は右手の人差し指を天に、左手の人差し指を地に向けて叫んだ。
 その瞬間、信長の地面はまばゆい光を放った。

「ナビちゃん、フルシールド!! パワー全開!」

 信長の攻撃に備えて俺は防御態勢を取る。
 何が来る?
 俺が信長の出方をうかがっていると、信長はゆっくりとその光に吸い込まれるように沈んでいった。

「あ! しまった! この魔法は異世界転移の魔法じゃった!」

 信長は本能寺の変の最後の瞬間に、この魔法を発動してこの世界にやってきたようだった。
 俺が唖然としながら、光の地面に吸い込まれていく信長を眺めていた。
 なんとかこの世界に残ろうともがいていた信長だったが、肩くらいまで吸い込まれた時に親指を立てて、ニヤリと笑い、俺につぶやいた。

「あい うぃる びぃ ばっく!」

 それが光の勇者織田信長の、この世界での最後の言葉だった。
 信長の姿が完全に見えなくなると、本能寺も消えてしまい、そこは俺たちの屋敷の近くの広場だった。
 俺はあたりを見回すと、いつの間にか炎夏の姿も見えなくなっていた。

「え? 光の勇者との戦いってこれで終わり? なんじゃそりゃ~」

 俺は思わず何かにツッコんだ。
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