上 下
8 / 52

第8話 異世界の部長は恋愛脳だった

しおりを挟む
「ネーラをうちに出向させてほしい。先ほど言ったように俺は先日、この世界に召喚されたばかりの者だ。あんたたち魔王軍と協力するにしても、そちらの事情が分かった者がいたほうが、やりやすいだろう」

 人間側の話はノアールに聞けばいい。しかしこのままネーラがサラマンディーネといなくなれば、魔王軍側の状況が分からない。部長のサラマンディーネが俺たちと一緒に行動してくれるとは思えない。そうすれば、選択肢としてネーラに残ってもらうのが一番なのだが。
 サラマンディーネは少し驚いた様子で、ネーラと俺の顔を交互に見て、ネーラの手を取った。

「おめでとう、ネーラ。結婚式のスピーチは、私がしっかりやってあげるからね」
「ちょっと、まった! なに誤解しているんですか!! そう言う意味じゃないです。何、勘ちがいしているんだ、この恋愛脳が!」
「そ、そうですニャ。あたいたち、まだ何もしてないニャ! まだニャ」
「ちょい待て! まだってなんだ? まだって?」
「え? あたい、ワンチャンないニャ?」
「いや、そういう話してないだろう? な、おちつけ。今は仕事の話をしているんだ。ちょっと混在しないで、冷静に話をしような?」
「あなたたち、もう痴話げんか? まあ、結婚前に色々ぶっちゃけといたほうが、楽だからいいけど」
「ディーネ! おまえ、少し黙っていろ! 話がややこしくなる」
「あら、私を呼び捨てって、ちょっと魔力を分けたくらいでもう恋人気分? 私はそれでもいいけど、愛人はいやよ?」
「マモル、どういうことニャ? あたいの方が遊びったていうことニャ? やっぱりマモルも部長みたいなできる女が良いって言うことニャ? でも、マモルが良ければ、あたいは愛人でもいいニャ……」
『マモル、モテモテですね。ワタシのことも忘れないで、フフフ』

 ナビちゃんまでうるさい!
 頭が痛くなってきたぞ。

「だから、魔王軍との仲介役にネーラをうちに出向させてもらえないかという話だ。それ以上でも以下でもない」
「それはいいのだけど、この子で良いの? それともこの子が良いの?」

 仲介役ならば、もっと優秀な部下を俺につけると言ってきているのだ。
 おそらく、今の魔王軍において目下の問題は、勇者召喚というイレギュラーだろう。情報も実力も未知数。それにより戦況の変化がどうなるのか、今後の見通しが立たなくなる。その勇者の一人が魔法軍に協力してもいいと言ってきている。
 現段階での最重要事項。
 それに俺から提案したとは言え、うだつの上がらない、ほぼ平社員のネーラで良いのかと言ってきている。それと俺にとってネーラがどういう存在なのかと探りを入れてきているのだ。
 先ほどサラマンディーネは茶化して言ったように、俺たちが恋愛関係にあれば、魔王軍としては願ったりかなったりだろう。婚姻による同盟の強化は古今東西、どこでも行われている。
 そうでなければ、俺がネーラを特別扱いしている理由があるはずだと、探りを入れてきているのだ。

 俺はネーラを見ると、それこそ捨てられそうな猫のような顔でこちらを見ていた。猫獣人なだけに。

「とりあえず、ネーラがいい。こいつは信頼に値する。何の得にもならない、この二人の救出を手助けしてくれたんだ。まあ、今後状況に合わせて、お宅に人材派遣をお願いするかもしれないが」
「……わかりました。ネーラはいいですか?」
「はい! 頑張ります!」

 とりあえず、話がまとまってホッとする。

「それでは、ビジネスの話に入りましょうか? 勇者の情報の代価としてあなたは何をお望みで?」
「魔王軍側の領地に土地と家が欲しい。王女たち二人は王国から逃げてきた。俺も住むところすらない。なので、拠点となる家と土地が欲しい」
「……わかりました。それでは希望場所はありますか?」
「戦渦に巻き込まれそうにない。程よい田舎がいいな。農作物が豊富な土地。家は大きくなくていいが、畑があったほうが良いな。お勧めはあるか?」
「それだとマリーヌ地方が良いですが、マモルさん。あなたスローライフ楽しむつもりですか? 仕事するつもりありますか?」

 ギクッ
 スローライフが今、流行りじゃないのか? ほらキャンプとか、畑作りとか。メイはノアール助けたときに何でもしてくれるって言っていたから、のんびりウハウハ生活したって。

「きょ、拠点がないと仕事できないだろう。メイさんやノアールを危険にさらすわけにもいかないし」
「マモル様、ありがとうございます。しかし、わたくしも王家の血を引くものとして、このままローヤル王国が滅亡するのを見るのは心苦しいのです。どうにかできないでしょうか?」
「それはこれから考えるよ。とりあえずいろいろあったから少し休みたいな」
「ちょうどマリーヌ地方に諜報部の保養所があります。そこであれば私の裁量でお譲りできますが、いかがですか?」
「ネーラはそこに行ったことがあるか?」
「一度だけ、新年会で泊まったニャ。すごく良いところだニャ。湖畔に建てられた別荘地で、料理も美味しかったニャ」

 十年働いて、一回しか新年会に呼ばれていないってどういうことだ?
 俺がサラマンディーネを見ると、目をそらしやがった。
 本当にネーラで良かったのかな? 今更ながら心配になる。

「わかった。そこで良い。じゃあ、俺が知っている勇者のことを全部話すよ」

 俺が召喚されてからの一部始終を話した。土の勇者を殴りつけたこと、水の勇者と手合わせしたこと、おそらく風の勇者からの一撃なども包み隠さずに話した。

「悪いが、俺についてはディーネさんが知っている情報のみで良いですかね」
「分かりました。それは仕方ないですよね」

 こうして、俺たちの住み処は確保されたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

魔法の本

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女が入れ替わる話

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

テイムしたトカゲに魔石を与え続けるとドラゴンになりました。

暁 とと
ファンタジー
テイムしたトカゲはドラゴンになる

処理中です...