上 下
6 / 52

第6話 異世界の挨拶はスキルに弓矢かよ!

しおりを挟む
 街の中央広場の大きな台上に、ギロチンが一つ置かれていた。
 そこに黒髪に眼鏡の女性がすでに取り付けられて、大きな刃がその首と手首を落とそうと待ち構えていたのだった。
 その周りには見学の民衆が多数集まって、ギロチンショーを今か今かと待ち構えていた。
 俺たちは時計台からその広場を見下ろしていた。

「これより、闇の王女ノアール・ローヤルの断罪裁判を行う。ノアール王女をここへ!」

 裁判官であろうジジイが高らかに宣言すると、全身を鎧に身を包んだ屈強な男に両脇を固められた幼女ノアールがギロチンの側に連れてこられる。昨夜着ていた綺麗なゴスロリ服ではではなく、惨めで薄汚れたワンピース型の奴隷服に身を包んでいた。首と手足は鎖でつながれ、両脇の鎧を身に着けた男たちに引きずられるように現れた。
 ノアールが現れると共に民衆から声が上がる!

「殺せ!」
「魔族との混血なんて殺してしまえ!」

 その声は決してノアールに好意的な声ではない。いや、はっきりと悪意を持った声ばかりだった。

「このノアール王女は勇者召喚の儀式において失敗するならばまだしも、悪魔を召喚した上、勇者様一人に重傷を負わせて、国王陛下を危険にさらしたのだ~!」
「なんだと~!」
「我らが愛する国王陛下を~!」
「我らが希望の勇者を重傷にだと!」
「この魔族め~!」

 裁判官の言葉に民衆はますますヒートアップして罵詈雑言ばりぞうごんをノアールに浴びせかける。

「その上、ノアール王女は卑怯にもそのことを頑なに認めようとしない! そこで我々はここに一人の証人を準備した。ノアール王女付きのメイドである。さあ、メイドよ。正しくノアール王女が悪魔を召喚したことを証言すれば、そこから解放してやろう」

 裁判官はギロチンにかけられたメイに問いかける。

「ノアール王女は正しく勇者召喚を行いました。決して悪魔など召喚していません」
「ああ、民衆よ、聞きましたか。かわいそうにこのメイドは悪魔に取り憑かれています。さあ、ノアール王女よ、罪を認めなさい。罪を認めるならば、あなただけでなく、このメイドの魂も救われるでしょう」

 裁判官は嘆きながら、ノアールへ問いかける。

「なあ、ネーラ。なんであの裁判官って人の話を聞かないんだ? あの国王や勇者もそうだったのだが、この世界の人間って人の話を聞かないのか?」
「そうかもしれませんニャ。再三、魔王様から会談を申し込んでいるのですが、とりつく島もないですニャ」
「やっぱりそうか。なんか民衆も聞きたいことしか聞かない感じだな。国王が国王なら、国民も国民だな」

 広場が見渡せる高い時計台の上で、俺がネーラと話していると、考え込んでいたノアールが答えたところだった。

「……わたくしが……悪魔を召喚しました……さあ! メイを解放してください」
「姫様!」

 王女であるはずのノアールが、血を吐くように嘘の告白をさせられる。ただ、メイド一人を助けるために。

「お、これでメイさんは助かるか?」
「……」

 俺の言葉にネーラは何を言わない。黙って状況を見ていろと言わんばかりに。

「さあ、皆さん聞きましたか。ノアール王女、いや逆賊ノアールは国王の命を狙うために悪魔を召喚したと告白した! これは許させることではない! この罪は死を持って償うほか手はないのです。さあ、ギロチンをこちらへ!」

 広場の陰に隠されていた、もう一つのギロチンが広場の台に設置し始める。

「どういうことですか! メイを解放してください。わたくしを処刑するのであれば、メイを解放したあのギロチンでいいでしょう!」
「あなたは何を言っているのですか? 私の話を聞いていましたか? あのメイドは悪魔に取り憑かれているのですよ。そしてあなたは悪魔を召喚した張本人。二人ともこの聖なるギロチンで魂を救済するほか方法はないのですよ」
「わたしはどうなってもかまいません。姫様を助けてください!」

 ノアールとメイの二人はお互いにかばい合うように、裁判官の男に懇願する。

「おい、これって何がどうなっても二人はギロチンにかけられる流れじゃないのか?」
「そうだニャ。だから言ったニャ。闇の王女は処刑だって。だったら、闇の王女に関わる者もみんな処刑だニャ。まあ、もともと闇の王女に関わる者ってあのメイドしかいないけどニャ」
「ふざけるな! 俺のメイさんを助けに行く! ネーラは後の段取りを任せたぞ」

 俺は十メートルはある時計台からギロチンに向かってジャンプをする。

「蒸着!」

 俺はコンバットスーツを身につけると、メイが捕らわれているギロチンにキックをかます。
 刃は砕け散り、それを支えている柱を真っ二つにしながら、台の上に降り立つ。

「な、何者! あ、悪魔!!」

 裁判官の言葉にメイとノアールのギロチンショーを楽しみにしていた民衆に悲鳴が上がる。
 俺はそれを無視してメイを拘束しているギロチンと鎖をレーザーブレードで外すと、メイを担ぎ上げる。
 後はこのまま逃げて、ネーラと合流して、例の川下の小屋へ行くだけだ。

「ちょっとまってください、勇者様。姫様を、姫様を助けてください。わたしのことよりも姫様を助けてください!」
「へ!?」

 俺の肩でメイが叫ぶ。

「お願いします。私ができることなら何でもしますので、姫様を助けてください」

 俺がノアールを見ると、鎧を身に着けた屈強な騎士の向こうで、黒髪の少女は小さく首を横に振る。逃げて……と。

「助けたら、何でもするのか?」
「はい! お願いします。あの子は私の全てなのです!」
「分かった。約束だ。ネーラ!」
「はーいニャ!!」

 俺の言葉に、空から強襲する影が一つ。飛竜ワイバーンに乗ったネーラが空から急降下してくる。
 飛竜とは人が乗れるほどのトカゲの背中に巨大な翼をもつ、空飛ぶ恐竜と言うべき存在。
 俺はメイを放り投げると、飛竜に乗ったままネーラが受け止める。

「命が惜しければ、どけ!」

 鎧騎士は剣を抜き、俺の進路を妨害するように立っていた。

「うぉー!」

 男たちは俺の忠告を無視して、襲いかかってくる。
 ただの鉄の剣。避けるまでもないが、早くこの場から離脱したかった。
 俺は踏み込むと鎧ごと二人を吹き飛ばす。民衆を巻き込みながら転がる二人。逃げ惑い、悲鳴を上げる民衆たち。
 道はできた。
 あとはノアールを連れて逃げるだけだ。
 そのノアールが俺を指さす。

「危ない!」
流水双覇剣りゅうすいそうはけん!」

 俺は背中に二つの強烈な衝撃を受けて、膝をつく。

『ダメージ大! 修復にエネルギーを回しますか?』
「修復後のエネルギー残量は?」
『およそ四十%』
「修復してくれ」

 ナビちゃんとそんなやりとりをしながら、振り向くとそこには深い湖を思わせる髪。凛とした顔立ちの男が剣を手にこちらに向かっていた。
 昨夜、俺に剣を突き立てた剣の勇者だった。

「ナビちゃん、盾出して」
『全面シールドと部分シールドがありますが、どちらを選択しますか?』

 全面シールドにするとエネルギー消費が激しいだろう。

「部分シールドで」
『オッケー、マスター!』

 ナビちゃんの言葉と共に俺の左手にシャボン玉のような薄い膜の盾が現れ、勇者の剣をはじく。

「なんだ、お前は!」
「僕の名はランスロット・サーライオン。名誉あるサーライオン家の跡取りにして、水の勇者だ! 貴様のような偽物とは違うのだよ!」

 ご丁寧に自己紹介をしてくれる水の勇者ランスロット。
 その間にレーザーブレードを抜くと、ランスロットはひとっ飛び距離を取った。

「受けてみろ! 必殺の~~~~!!!」

 俺が叫ぶとランスロットは身構えてさらに距離を取る。
 それを見た俺はノアールの所まで後ろに下がりながら、レーザーブレードを天高くかかげる。

「目をつむれ」
「え!」

 俺は小声でノアールに指示する。

「猫だまし!」

 コンバットスーツが一瞬最大光量で光る。その瞬間俺はレーザーブレードで鎖を外すと、ノアールを肩に担ぐと一目散に走り始めた。

「ナビちゃん。近い順から他の勇者の索敵をしてくれ」
『水の勇者三百メートル、土の勇者千五百メートル、火の勇者四千メートル』

 土の勇者は王宮か? 火の勇者はどこに行っているんだ? まあ、いい。それよりも弓使いである風の勇者は?

『風の勇者索敵不可能』
「索敵不可能? 索敵範囲外って言うことか?」
『不明』

 その時だったヒューと笛のような音が近づいてきた。
 俺が走る側面方向から、俺の速度に合わせて放たれた矢をシールドではじく。
 俺に気がつくように音が鳴る鏑矢かぶらや。武士の時代に合戦の開始の合図に使われた矢。そもそも、人に当てるため矢ではない。
 それを馬よりも速い速度で走る俺に横から当てに来る。
 つまりはいつでも俺に矢を当てられるが、今回は挨拶代わりだと言っているようだ。
 しかし火の勇者が四キロ先で索敵できている。それ以上離れても狙えるのか、それほど遠くない所にいるにも関わらず索敵できないのか。どちらにしても、あの四人の勇者の中で一番気をつけなければならないのは、風の勇者か。
 俺は若葉色の長い髪をポニーテールにまとめた細身の勇者を思い出す。
 見た目だけなら俺よりも弱そうな勇者。しかしレベルは、あの筋肉スキンヘッドの次に高い。

「人は見た目によらない……か。俺の敵ならば、真っ先に倒しておかないとな」
「何か言いましたか?」

 俺のつぶやきにノアールが反応する。

「何でもない。しっかり掴まっていろよ」

 俺は追っ手が来ていないか気をつけながら、合流地点の小屋へ向かうと、ネーラとメイはすでに到着していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

【完結】炒飯を適度に焦がすチートです~猫神さまと行く異世界ライフ

浅葱
ファンタジー
猫を助けようとして車に轢かれたことでベタに異世界転移することになってしまった俺。 転移先の世界には、先々月トラックに轢かれて亡くなったと思っていた恋人がいるらしい。 恋人と再び出会いハッピーライフを送る為、俺は炒飯を作ることにした。 見た目三毛猫の猫神(紙)が付き添ってくれます。 安定のハッピーエンド仕様です。 不定期更新です。 表紙の写真はフリー素材集(写真AC・伊兵衛様)からお借りしました。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...