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第4話 異世界の女の子はチョロいのがデフォルトだよね

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 街から逃げ出した俺は、よくわからない森の中にいた。
 コンバットスーツで強化された脚力で三十分ほど走った森の中。
 俺はコンバットスーツを解除する。
 本当なら、わけのわからない異世界の森の中、朝までコンバットスーツを付けておいたほうがいいのだろう。
 しかし、ナビによるとエネルギー残量は50%を切っていた。このままでは朝まで持たないかもしれない。ならばとりあえず、解除しておこう。しばらく置いておくと少しずつエネルギーは補充されるらしい。
 木々は高く、深い森の中、遠くで狼の鳴き声が響く。

「さて、これからどうするか。腹も減ったし、喉も渇いたな」

 コンバットスーツを脱いだ俺は、鑑定したように村人以下の能力しかないはずだ。
 どこか安全な場所を確保するか、安全を確保してくれる人を探すかしかないか。
 どこか、人のいい村人でもいないかな?

「きゃー!!」

 夜の闇を引き裂く女性の叫び声。
 危険が迫っている。その正体を確認するべく、俺は声のする方へ走った。
 そこには巨大な狼がいた。四メートル以上の巨大な銀狼。
 燃えるような赤い瞳。人の脚ほどある大きな牙をむき出し、よだれを垂らしながら威嚇していた。
 その前に立つのはひとりの女性。

「猫耳!!」

 黒い頭には二つの猫耳。しなやかそうな肢体。バランスのとれたスポーツ選手のようなプロポーション。
 その顔は、困惑と恐怖の入り混じった表情をしていた。
 強いものに巻かれろなら、銀狼の味方をするのが正解だろう。

「猫耳、もふもふ!」

 ここは猫耳娘に味方するしかないだろう。

「こんばんは」

 俺は挨拶しながら、木の陰から出て行く。

「ぐるるる!!」

 返事をしたのは銀狼の方だった。
 遅れて、黒猫娘が声を上げる。

「な、何ニャ!」
「こんばんは。挨拶って大事じゃないかな? 特に初対面には?」
「あ、ああ、そうニャ。こんばんはニャ」

 俺の言葉を無視して巨大な銀狼が、その巨大な体から想像できない素早さで飛びかかってきた。

「蒸着!」

 0.05秒でコンバットスーツを着込んだ俺はアッパー一発で巨大銀狼の頭を吹き飛ばした。
 血の雨が銀色のコンバットスーツを濡らす。

「俺は人の話を聞かない奴は嫌いだ」
「きゃーーー!!!」

 黒猫獣人は腰を抜かして座り込んで、長い尻尾を濡らしていた。

「あー、もう夜遅いから、静かにしたほうがいいよ」
「あ、ああ、はいニャ」

 俺は銀狼が完全に動かなくなったのを確認して、変身を解く。

「ところで、これって食べられる?」

 ぐー。
 俺のお腹が鳴った。

「さすがに、食べられないニャ。お腹がすいているのなら、ちょっと待つニャ」

 黒猫娘はバッグから、干し肉を渡してくれた。
 俺は、黙ってそれをかじる。
 硬いな。ああ、ジャーキーか。

「ところで、それ、どうにかしたほうがいいじゃないか?」

 俺は濡れたスカートを指差す。驚いておもらししてしまった、黒猫娘。

「あ~、あの、すぐ近くに川があるので、洗ってきていいかニャ?」
「その川って魚がいそう?」
「それなりに大きいのでいるニャ」
「じゃあ、一緒に行こう」

 よっしゃ! こんな小さな干し肉一つで空腹が満たされるか!
 俺たちはその場から十分ほど行く川岸についた。向こう岸まで二、三十メートルほどの大きな川だった。

「ちょっと離れていてくれ。蒸着!」

 俺はコンバットスーツを身につけると、右手を川の中につける。

「確か、こうだったよな。ヴォルト」

 一瞬、水面が光ると魚が腹を向けて浮かんできた。
 電気ショック漁法。日本じゃ違法だから良い子はマネしちゃだめだぜ。

「あなた、魔法使いなかニャ?」
「詳しい話はあとだ。ほら、魚取って焼こうぜ!」

 俺たちは両手にいっぱいの魚を捕まえると、黒猫娘が内臓を取って、木に刺した。その間に俺は枯れ木を集めて、焚き火を始める。火はどうしたかって? そりゃ、コンバットスーツの機能で火をつけたさ。

「火は見ているから、その間に身体を洗って来たらどうだ?」
「そうさせていただくニャ」

 黒猫娘が岩陰で水浴びをしている間に、俺はコンバットスーツのナビを呼び出した。

『何か御用でしょうか?』
「ちょっと、この世界の基礎知識を教えてほしい」
『ナビちゃんはコンバットスーツのナビであり、この世界のナビではありません』
「なんだよ。ナビちゃんって。まあいいや、それでナビはコンバットスーツのみのナビシステムなのか」
『ナビちゃんとお呼びください』
「なんで、ちゃん付けなんだよ。ナビでいいだろう。ヘイ、ナビ」
『ふざけんな、ゴラ!!! ナビちゃんさんって呼ばせるぞ! ゴラ!』

 それまで可愛らしい女性の声だったのが、急にドスの利いた男の声でキレ始めた。
 やっべ、これ逆らっちゃいけない奴だ。

「ナ、ナビちゃん」
『ご用件をどうぞ』

 それまでの女性の声に戻った。

「エネルギーを補充する方法は、コンバットスーツを休ませる以外に無いのか?」
『あります。そこの魚などを取り込むことでエネルギーに変換することも可能です』
「なに! だったら、さっきのデカイ狼でもいいのか?」
『可能です。また、そこの火や太陽光、運動エネルギーなども変換可能です』

 コンバットスーツなら、さっきのところまで、一分もかからないな。俺はダッシュで、狼殺害現場に到着した。幸いなことに、狼の死体はそのまま残っていた。
 俺はナビちゃんの指示通り、左手で死体に触れると、音も無く消えてしまった。

『エネルギー二%アップ』

 あれだけでかくて、たったの二%か、それでも補充方法が分かっただけでも大きい。魚が丸焦げになる前には、何食わぬ顔で戻った。

「ところで、コンバットスーツを着ないでナビちゃんと会話することって可能?」
『可能です。イヤフォンのみ蒸着可能。消費エネルギーは極小です』
「じゃあ、常時イヤフォンのつけといてくれるかな」
『了承しました』

 魚がいい具合に焼けた頃、猫娘が岩陰から戻って来た。

「魚が焼けたぞ。あんたも食べるだろう……そう言えば、名前を聞いてなかったよな」
「ああ、そうだニャ。聞いて驚けニャ! あたいは魔王軍諜報部情報収集課人間界係主任、花の三十期入社組ネーラ様ニャ!」

 そう言って胸を張って答えた。
 なんか、魔王軍って会社みたいな組織分けしているのだな。

「ああ、よろしく。俺は伊江守だ。マモルと呼んでくれ。ちなみに三十期入社って今度入社する連中は何期なんだ?」
「ん? 四十一期のはずだけどニャ?」

 と言うことは、こいつは十年働いても主任止まりか? 確か、主任って社歴は長いけど、役職に付けない奴のためのなんちゃって役職じゃなかったか? (マモルの個人的な意見です)

「そうか、ところで俺は田舎から出てきたところで、魔王軍とか人界とかよくわからないだけど、あの魔王軍の諜報部のネーラさんに色々教えて欲しいのだけど、いいかな」
「あんたも田舎出身かニャ! あたいも田舎からの集団就職組ニャ。いいよ、いいよ。なんでも聞いてほしいニャ。助けてもらった恩もあるニャ」

 ネーラは長い尻尾を振り振りさせながら嬉しそうな顔をしていた。
 うん、チョロい! 異世界の女の子はこうでないと。
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