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第3話 異世界転生も楽じゃない

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 今日一番のざわつき。
 え!? レベル一って普通の人? いや、それ以下? 武具不明って、おいおい。俺はコンバットスーツを持ってるぞ。しっかり鑑定してくれよ。まあ、実戦に出れば俺が一番役に立つって、わかるだろうから、まあ良いか。

「ノアール! 何なんだ、こいつは! 本当は勇者召喚などできなかったから、そのへんの村人を連れてきたんだろう!」

 王様、なんで怒っているの?

「これだから、妾の子は」

 茶色の髪の毛ということは、土の勇者の王女様かな。
 妾の子ってノアールのことか? だから、他の王女と年が離れているのか?

「汚れた血で召喚した勇者ってやっぱり、役立たずなのね」

 水の王女が冷たく言い放つ。
 いやいや、実力を見ないで、鑑定だけで決めないでくれよ。

「ノアールよ。この不祥事の責任、どう取るつもりだ」
「待ってください、お父様」
「国王だ!」

 王の見る目は娘に対する暖かい物ではなかった。俺はその目を知っている。出来の悪い部下を見る駄目上司の冷たい目だ。

「国王陛下、鑑定の間違いではないでしょうか? わたくしは勇者召喚に成功しました。メイドのメイが証人です」
「メイドなど証人になどならん。本当に召喚した勇者がこんな役立たずだったのならば、そちらの方が大問題だ。失敗したのならば、やり直せばいい。しかし、一度しか出来ない勇者召喚でこんなクズを召喚したのであれば、お前自身の資質の問題だ。この勇者もどきだけでなく、お前も処分しなければならない」

 ん? 俺が本物の勇者だと認められれば、俺もノアールも処分。俺が替え玉だと言えば、ノアールは助かる。しかし、実際には召喚は成功しているから、二度と召喚は成功しない。あれ? どっちに転んでも二人とも終わっていない?

「それでも、マモルは勇者です。私が召喚した、れっきとした闇の勇者です。今はレベルが低いかもしれませんが、勇者として召喚されたマモルをわたくしは信じます」

 小さな女の子とは思えない、凛として真っ直ぐ、絶対君主の王に意見を言う。

「わたくしは処分されても構いません。しかし、マモルに関しては勇者として扱っていただきますようお願いいたします!」

 笑い声が響く。二階の貴族たちだけでなく、姉妹であるはずのその他の王女からも。黙っているのは緑色の髪の王女だけだった。
 おいおい、こんな小さい子の必死の願いをあざ笑うのかよ。人間として終わっているぜ、お前ら。

「分かった」

 その反応を見て、王様は低い響き渡る声で言った。
 とりあえず、俺はおとがめなしか?

「闇の勇者はこの場で処分。第五女ノアールは再度、勇者召喚を行い。失敗、もしくは再度、無能勇者を召喚した場合は処分とする」

 うぉぉぉーーー!!!
 王の間はどちらとも取れない叫び声で埋め尽くされる。
 あれ? とりあえず、俺、殺される? 勇者だよね、俺。それも、わざわざ召喚された。
 やっべ、逃げないと。
 俺が逃げ出そうと立ち上がった瞬間、首に剣先を突きつけられる。
 水の勇者は冷たい青色の瞳で俺を睨んでいた。

「神聖なる勇者を語る偽者め。嘘が暴かれたからと言って逃げ出すとは何事だ」
「ちょっと、待ってくれ。俺の話を聞いてくれ!」

 俺は水の勇者に話しかける。しかし、返事をしたのは別の奴だった。

「まあ、たかだか詐欺師に、武器を使うのはどうかと思うぞ」

 そう言って土の勇者はそのガタイの良さそのままの、くっそ重いボディーブローを俺に打ち込む。
 俺は胃液を吐き出して悶え苦しんだ。

「殺せ! 殺せ!」
「首を刎ねろ! 刎ねろ!」

 貴族たちが無責任に煽る。
 おい、マジか! 俺が何をしたって言うんだよ!

「衛兵!」

 左右に控えていた兵隊が俺に群がる。後ろ手に押さえつけられて、首を前に突き出させられる。

「ちょっと待て、俺の話も聞いてくれ! なあ、王様!」
「暴れるな。苦しむだけだ」
「やめてください。マモルの話も聞いてあげて!」

 黒髪の王女が叫ぶように王に嘆願する。
 しかし、国王は醜い物でも見るような目で、首を横に振った。
 他の勇者達も様々な表情で俺を見ていた。

~*~*

 さあ、斧が振り下ろされるまでに回想は終わったな。
 ここで、冒頭に戻ったよ。
 さて、さすがに誰も助けてくれなさそうだから、自分でどうにかするか。
 そうして、とうとう斧が振り下ろされる瞬間、俺は行動に出た。

「蒸着!」

 俺の言葉とともに体が光り、0.05秒でコンバットスーツが装着される。
 振り下ろされた斧は、コンバットスーツに弾かれる。
 俺が大好きな特撮の宇宙刑事がつけている戦闘強化服。
 銀色の金属で全身を包み、部分的にライトが光っている。いろいろな機能が内蔵されている機械仕掛けの魔法の戦闘強化服。
 レベル一の無能勇者だと判定されていたとしても、コンバットスーツさえ着れば無敵なはずだ。
 俺は、押さえつけている兵隊を跳ねのけて、起き上がる。

「あ、悪魔!」
『チュートリアルを開始しますか?』

 王の言葉とコンバットスーツのナビ声が重なる。

「後で」
『了解しました』
「何なんだ! お前は!」

 水の勇者の言葉を無視する。おまえ、さっき俺の話を無視したよな。
 俺はとりあえす、王に話しかける。

「王様!」
「な、なんだ」
「ふざけるな! このくそじじぃ! いきなり殺そうとしやがって! 今、謝るなら許してやる。ここに土下座して謝りやがれ!」
「ふ、ふざけるな! ワシを誰だと思っている! この反逆者を殺せ! 勇者たちも、やつを殺せ!」

 やっぱり、素直に謝らないか。それなら、仕方がない。このまま王様をぶっ飛ばしてもいいのだが、指名手配になるわけにはいかないし、何より、この勇者たちの実力がいまいちわからない。
 ここは逃げの一手か。
 俺は光の剣レーザーブレードを抜き、最寄りの壁へと飛ぶ。
 ザッシュ!
 壁が豆腐のように切り刻まれ、外の空気が流れ込む。
 ずっと、建物の中にいたため、気がつかなかったのだが、今の時間は夜だった。
 都合がいい。

「詐欺師め、逃げる気か!」

 ガタイの良い土の勇者が俺を挑発する。
 あ、忘れ物をしていた。

「ぐぁ!!」

 俺は土の勇者の腹に一発入れる。
 クの字になったまま壁に激突する。俺は胃液だったが、奴は血を大量に吐いた。
 骨が折れて、内蔵が傷ついたのだろう。

「一発は一発だからな。それから、そこのくそ国王! てめえへのお礼参りはまた後日だ! 人の話も聞かずに殺そうとしやがった報いは受けてもらうからな」

 とりあえず、土の勇者にお返しをした後、闇夜に紛れて、俺は城から離れた。
 異世界生活一日目。
 命を狙われるの巻。
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