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新歓コンパと土下座
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その合コンのあとで付き合い始めたのは中村君とまりさんだった。
無口な中村君が不器用ながらもアタックしてくる姿にキュンとしたらしい。
まあ、世の中何がどう転ぶかわからないもんだ。
バイク乗りに厳しい冬が過ぎ、学年末試験をなんとか乗り切り先輩たちを送り出したあと、新学期になった。
彼女ができずじまいの一年を悔やみながら、新入生の勧誘をする。
テニスサークルの勧誘をしながら、茶道部の勧誘をする。
「運動系? 文化系? どっちのサークル入るつもり?」
この切り口で話しかけるとどっちも準備している僕に隙はない。
どの部活も新人獲得に必死だ。
驚いたことに茶道部は多くはないものの一定数の人が興味を持つ。逆にテニスサークルは経験者は部活へ、未経験者は敬遠してなかなか集まらない。他のテニスサークルもあり、総合スポーツサークルという場所が確保できれば色々なスポーツをするサークルなど初心者のハードルが低いところもあったりと競争も激しい。
「先輩、何で茶道部に入ったんですか?」
茶道部の新歓コンパで田所 唯(たどころ ゆい)はそう話しかけてきた。
「日本人なら和の心を学ぶことは、このグローバル社会において非常に重要だろう」
「嘘くさ~い」
田所はそう言ってケラケラ笑った。
笑った顔が可愛い。ショートの髪がよく似合い、陸上部にいそうな子だ。
「まあ、嘘なんだけどね。田所さんこそ運動部が似合ってるんじゃないか?」
田所はウーロン茶で喉を潤した。
「たしかに中、高とバトミントン一筋だったんですけどね。それで友達からよく色気と落ち着きががないって言われてたんですよ。だから大学に入ったら大人の余裕って奴を身につけるために茶道部に入ろうと決心したわけですよ」
どやって顔に書いてるぞ。大人はそんな顔をしない。
「そうか。頑張れ。応援してるぞ。お前ならできる」
「先輩! 何で棒読みなんですか。ムカつく」
ぽかりと僕を叩いてくる。
「だいたい先輩なんてお茶菓子目当てでしょう」
「いやいや、大人な女性が目当てでですよ。田所さんのような」
「あら本当に。ってバカにしとんのか~い」
田所はバシッとツッコミを入れる。
「ノリいいな」
「いえいえ。すみません。先輩ってなんか話しやすいですよね」
「あら、たっくん。楽しそうね」
松本さんが隣に座ってきた。
「たっくん!? もしかして先輩たちって」
なんか勘違いしている後輩を無視して僕は言った。
「その名前で呼ばないでくれ。その名前はたった一人僕の大事な人のみに許した呼び名だよ」
「ホモですか?」
ぽかんとしている田所を尻目に笑う二人。
「ごめんごめん。田所さん。竹中君ね、男友達からたっくんって呼ばれてるのよ。たけなかたつやでどっちも始めが『た』だから」
「松本さんたちと僕の友達達で一緒に飲みに行ったことがあってね。だから、僕たちが付き合ってるとかそう言うんじゃないから気にしないでいいよ」
「そうなんですか。あたしこんな性格だからそう言うのよくわからずにみんなに接してたら、高校の時にちょっとトラブルがあったんで」
昔の嫌なこと思い出したのか暗い顔になる田所。
「泥棒猫とか言われたのか?」
「知ってます? あれってリアルに言う人いるんですよ」
「マジか?」
「マジです、マジ。あれ言われると笑いをこらえるの大変なんですから」
「田所さん、なんか大変な人生歩んでるわね。からかってごめんね」
「大丈夫ですよ」
「僕をからかった謝罪は?」
「また、合コン組んであげるわよ」
僕は土下座した。
「よろしくお願い申し上げます」
「先輩、土下座し慣れてますよ」
田所はまたケラケラ笑った。
無口な中村君が不器用ながらもアタックしてくる姿にキュンとしたらしい。
まあ、世の中何がどう転ぶかわからないもんだ。
バイク乗りに厳しい冬が過ぎ、学年末試験をなんとか乗り切り先輩たちを送り出したあと、新学期になった。
彼女ができずじまいの一年を悔やみながら、新入生の勧誘をする。
テニスサークルの勧誘をしながら、茶道部の勧誘をする。
「運動系? 文化系? どっちのサークル入るつもり?」
この切り口で話しかけるとどっちも準備している僕に隙はない。
どの部活も新人獲得に必死だ。
驚いたことに茶道部は多くはないものの一定数の人が興味を持つ。逆にテニスサークルは経験者は部活へ、未経験者は敬遠してなかなか集まらない。他のテニスサークルもあり、総合スポーツサークルという場所が確保できれば色々なスポーツをするサークルなど初心者のハードルが低いところもあったりと競争も激しい。
「先輩、何で茶道部に入ったんですか?」
茶道部の新歓コンパで田所 唯(たどころ ゆい)はそう話しかけてきた。
「日本人なら和の心を学ぶことは、このグローバル社会において非常に重要だろう」
「嘘くさ~い」
田所はそう言ってケラケラ笑った。
笑った顔が可愛い。ショートの髪がよく似合い、陸上部にいそうな子だ。
「まあ、嘘なんだけどね。田所さんこそ運動部が似合ってるんじゃないか?」
田所はウーロン茶で喉を潤した。
「たしかに中、高とバトミントン一筋だったんですけどね。それで友達からよく色気と落ち着きががないって言われてたんですよ。だから大学に入ったら大人の余裕って奴を身につけるために茶道部に入ろうと決心したわけですよ」
どやって顔に書いてるぞ。大人はそんな顔をしない。
「そうか。頑張れ。応援してるぞ。お前ならできる」
「先輩! 何で棒読みなんですか。ムカつく」
ぽかりと僕を叩いてくる。
「だいたい先輩なんてお茶菓子目当てでしょう」
「いやいや、大人な女性が目当てでですよ。田所さんのような」
「あら本当に。ってバカにしとんのか~い」
田所はバシッとツッコミを入れる。
「ノリいいな」
「いえいえ。すみません。先輩ってなんか話しやすいですよね」
「あら、たっくん。楽しそうね」
松本さんが隣に座ってきた。
「たっくん!? もしかして先輩たちって」
なんか勘違いしている後輩を無視して僕は言った。
「その名前で呼ばないでくれ。その名前はたった一人僕の大事な人のみに許した呼び名だよ」
「ホモですか?」
ぽかんとしている田所を尻目に笑う二人。
「ごめんごめん。田所さん。竹中君ね、男友達からたっくんって呼ばれてるのよ。たけなかたつやでどっちも始めが『た』だから」
「松本さんたちと僕の友達達で一緒に飲みに行ったことがあってね。だから、僕たちが付き合ってるとかそう言うんじゃないから気にしないでいいよ」
「そうなんですか。あたしこんな性格だからそう言うのよくわからずにみんなに接してたら、高校の時にちょっとトラブルがあったんで」
昔の嫌なこと思い出したのか暗い顔になる田所。
「泥棒猫とか言われたのか?」
「知ってます? あれってリアルに言う人いるんですよ」
「マジか?」
「マジです、マジ。あれ言われると笑いをこらえるの大変なんですから」
「田所さん、なんか大変な人生歩んでるわね。からかってごめんね」
「大丈夫ですよ」
「僕をからかった謝罪は?」
「また、合コン組んであげるわよ」
僕は土下座した。
「よろしくお願い申し上げます」
「先輩、土下座し慣れてますよ」
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