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第十二話 ダンジョンで死んだ魂はどこへ行くの?

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 ミズホは炉の中に水を注ぐと風の精霊を呼び出し、一目散に広場の外に移動した。
 するとそこには血だまりに横になる黒猫の獣人とそれを必死で助けようとする女神官がいた。

「お願い! 戻ってきて!」

 すでに脇の槍傷はふさがっているが、血が流れすぎている。ソリエは回復魔法で体の再生と共に心臓マッサージと人工呼吸を行なっている。

「これからでしょう! ここを出て自由になったらやりたいことがあるって言ってたじゃない! わたしが絶対死なせないから! 帰ってきて!」

 大粒の汗を滴り落としながら必死で蘇生活動をする。

 強烈な爆破音!

 ダンジョン全体を揺らすような衝撃が同時に襲いかかる。
 その衝撃にソリエの体は壁に叩きつけられる。

「なに!? 今の? クロフェ!」

 ソリエは背中の痛みも気にすることなく、床に横たわる黒猫の獣人の元に駈けもどる。

「ゴホッ。ゴホゴホ」

 先程まで自分で呼吸すらしていなかったクロフェは咳き込んでいた。

「クロフェ! よかった……本当によかった」

 ふくよかな体のソリエはその全身でクロフェに抱きつく。

「ソリエ! あたし……」
「あ、ごめん。まだ安静にしてなきゃ。あなたさっきまで心臓止まってたのよ」
「これは?」

 クロフェは自分の左手の薬指につけられた指輪を見る。銀色の輝く指輪に小さな石が一つ埋め込まれていた。
 奴隷であったクロフェは装飾品など持っているはずもなかった。

「それはまだしばらく着けておいて。長年、私の魔力を溜め込んだ指輪だから、左の薬指に着けておくと心臓が活性化するはずよ」

 ソリエは水袋をクロフェに渡す。

「それって、ソリエの大事なものじゃないの?」
「大丈夫」

 ソリエは指輪を外そうとする手をそっと押さえる。

「道具っていうのは使うべきタイミングで使わないとただの石ころと同じよ。その指輪は今、クロフェのために私はここに持って来てたんだと思う。だから体が治るまでそれを外さないで」

 クロフェはこれまで道具だった。
 ただ荷物を運ぶだけの道具。
 不満のはけ口だった道具。
 欲望のはけ口だった道具。
 道具は壊れたら捨てられる。買った金額程度は働けと罵られながら。

 その大きな黒い瞳にあふれ、こぼれ落ちる感情。

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとう……」

 クロフェは何度何度も言葉にならない感情を口に出す。

「それにクロフェは私を助けてくれたじゃない。それこそ命がけで。お礼を言うのは私の方よ。ありがとうクロフェ。大好きよ」

 二人が泣き止んだころ、金髪の美青年は長い髪をたなびかせて。広場に戻って行った。

「ちょっと待ってください。ミズホ様」

 クロフェとソリエは慌てて支度をして追いかける。
 クロフェが広場に入ると宙に浮いていたダンジョンマスターの幻は消えていた。
 そして石の壁と床に囲まれていた広場の中はひどい有様だった。
 壁には石の破片が突き刺さり、地面には大きなクレーターができていた。あれだけ大きかった生物はただの肉片となり、散らばっていた。
 そのクレーターの真ん中には人の頭ほどの大きさの球が落ちている。球は黒と白とシルバーの液体のようなものが幾つもゆらゆらと揺らめいていた。
 ミズホは剣を抜き、その球を切ろうとする。

「ちょっと待ってください! ミズホ様、それが何かわかっているのですか?」

 ソリエが慌てて声をかける。

「……魂の塊」

 ミズホは剣先を球に向けたまま答える。

「そうです! ですからそれをそのまま破壊すると中に封印されている魂が悪霊化します。少し待ってください」

 ソリエはそう言いながらバッグの中から一枚の白い布を取り出した。その布の中心には金糸で魔方陣が刺繍されている。ソリエは布を床に置き、その上に球を置く。

「神の御名において迷える魂を天へと導きたまえ」

 詠唱が終わると魔方陣が優しく光り始める。

「ミズホ様、よろしくお願いします」

 ミズホは剣先を突き刺すと球から霧のような物が出てきた。霧は光に触れると赤や青、黄色、ピンク、紫などいろいろな色に変化して消えていった。

「これでマックスもミリーも安らかに天に召されたはずよ」

 ソリエは自分に言い聞かせるように呟いた。

「……」

 クロフェはそっとソリエの手を握る。

「それであのダンジョンマスターはどこだ?」

 鈴を鳴らすような声で問いかける。

「おそらくこの奥にいるんじゃないですか? 行ってみましょう」

 クロフェはソリエの手を引いて奥へと進む。
 先程のオロバスが通れるほどの大きな通路の奥には 鉄で出来た大きな扉が現れた。
 ミズホは刀に手をかける。

「まあ待て、今開ける」

 中からミズホの動きを止める声が響いてきた。
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