金の復讐騎士(短編)

三原みぱぱ

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金の復讐騎士

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 今よりもはるか昔、まだ神と精霊と人と魔物の距離が遠くない、神話の時代。
 剣と魔法と呪術が混在し、生と死が背中合わせの世界。
 そこにひとつの伝説があった。

 金の騎士。
 
 金色の鎧を身にまとい、人とは思えぬ剣捌きで、魔物や悪人から民を守る正義の騎士。
 世界を回り、弱きを助けるヒーロー。
 そんなおとぎ話の主が、村でいじめられっ子のアラン青年の目の前でいま、息絶えようとしていた。

 村では立ち入ることを、禁じられている森の奥にある聖なる泉。
 人が立ち入らず、自然のままの太い木々、青々と生える雑草。
 青々とした匂いが立ち込め、鳥の声が遠くに響く。
 暗い森の奥に、輝くような澄んだ水をたくわえた泉。
 家一軒分ほどの小さな泉には、魚一匹住んでいない。
 その泉の側でしか咲かないと言われる幻の花、美乙女百合(びおとめゆり)。
 ラッパのように下を向いている大きな花は、見る角度によって美しく七色に輝く。
 幼馴染のマリアの十八の誕生日に、その花を持ってプロポーズするつもりだった。

 動物や魔物のいる危険な森を進み、聖なる泉にたどり着き、美乙女百合を手に入れたアランは、泉の番人であるミノタウロスに出会ってしまった。
 牡牛の頭を持ち強靭な肉体、牛の脚と人の腕、牛と人のまじりあった魔物。
 三メートルはありそうな体に、その体相当の硬い木で作った棍棒を持ってアランの前に立つ。
 やせっぽっちで平均よりも背丈も低くいアランは、ミノタウロスを見上げる。
 護衛用の短剣は持っているものの、剣術の心得もないアランは、その黒い瞳に恐怖の色を宿すことしかできなかった。
 逃げられるところがないかと、栗皮色の短い髪の毛を振り回し、あたりを探す。
 木々が生い茂る森に、逃げられるようなところはない。
 それ以前に、恐怖によって足が震えて動かない。

 ミノタウロスは、太い棍棒を振り上げる。
 そこへ現れた金の騎士。
 魔法まで使うミノタウロスに、一歩も引かずに戦う金の騎士。
 大きいとは言え、人並みの身長の金の騎士。
 頭からつま先まで包む、美しい意匠の入ったフルプレートの鎧に身を包んでいるとは思えない、軽やかなステップ。
 両手で持つほどの大きさの両刃剣を片手で軽々と扱い、人の限界を超える剣速と正確な打ち込み。
 ミノタウロスの威嚇の唸り声に対して、黙々と戦う金の騎士。
 アランは恐怖で腰を抜かしている間に、戦いは終わった。
 ミノタウロスの首が落ちる。

 しかし、それと同時に金の騎士も倒れてしまった。
 アランには、金の騎士が攻撃を受けたようには見えなかった。

 そのまま、美乙女百合も持って逃げようかと一歩踏み出したアランを踏みとどめたのは、幼馴染のマリアの言葉だった。

「あなたは、決して強くないけれど、困った人や弱い人を助けられる優しい人よ。私はそんなあなたが好きよ」

 幻の美乙女百合の花に決して劣らない、マリアの笑顔とともにその言葉が、臆病なアランを押しとどめた。

「だ、大丈夫ですか?」

 金色の鎧に身を固め、倒れながらもその手から剣を離さない騎士の元へ駆け寄る。

「……ああ、怪我は……ないかい?」

 騎士は倒れたまま、アランを気遣う。
 しかしその声には力がなかった。

「はい! 助けていただきありがとうございます」
「それは……よかった。水を……水を一口もらえるか?」

 先ほどまで、ミノタウロス相手に人間離れした立ち回りをしていた人間と同じとは思えない弱々しさ。
 アランは慌ててバッグに入れていた、革製の水袋を取り出し、騎士に手渡そうとする。

「すまないが……飲ませてもらえないか?」

 アランは騎士の体を起こして兜を取ると、ぎょっとした。
 真っ白い髪の毛、うつろな瞳、頬がこけ、皺を深く刻み込んだ顔。
 よく見るとそれほど年を取っていないように見えるが、その容貌から六十を過ぎた老人のように思える。
 干からびたその唇に水袋の口を持っていくと、せき込みながらもゆっくりと水を飲み込んだ。

「ありがとう、青年よ。おそらく私はもうすぐ死んでしまう。そこで私の願いを聞いてもらえないだろうか?」

 アランに支えられ体を起こした騎士は、何処を見ているのかわからないまま話しかける。

「ぼ、僕にできることであれば」
「このヨロイを君に譲りたい。これは魔法のヨロイだ。このヨロイを身につけて……」

 そう言うと瀕死の騎士は、ゆっくりと剣を鞘に納めた。

「この剣を世界の最果てにある、奈落の崖下に捨ててきてくれないか?」

 そう言って、剣を持った手を延ばす。誰もいない空間に向かって。
 もう、目が見えていなくなっているようだ。

「ただし、決してこの剣は抜いてはいけない。私の最後の願いを……」

 そこまで言うとアランの腕の中で騎士の力が抜け、その息を引き取った。

「金の騎士様!」

 アランはしばらく呼びかけ、体をゆらしたが、騎士はその口を開くことは二度となかった。
 深い森の奥にミノタウロスと金の騎士の死体とともに取り残されてしまった青年は、しばらくどうするべきか思案をしていた。
 遠くに鳥の声や獣の鳴き声が聞こえる。
 そのうち ここにも血の匂いを嗅ぎつけた魔物たちが、集まってくるだろう。
 そうなれば、アランなどすぐに殺されてしまうだろう。
 金の騎士の言葉を信じるならば、この魔法のヨロイの力で、金の騎士はこれまでの名声を手に入れたのであろう。
 意を決した気弱な青年は、ヨロイを外し始めた。

 ヨロイを外したアランは、自分と同じくらいやせ細った騎士を見た。
 こんな体であんな動きができるのならば、自分でも……。
 アランはつま先から頭まですべてを覆う、金色のヨロイを身につけた。
 アランより二周り以上大きいはずのそのヨロイは、なぜかアランの体にちょうどフィットした。
 その上、驚いたことにそのヨロイは羽のように軽く、まるで身につけていないようだった。
 手足を動かしてみても、どこも動きを阻害するところがなく、魔法のヨロイだと言ったあの言葉は本当だと実感した。
 
 アランはヨロイ同様に金で美しく装飾され、見たこともない七色に輝く宝石が埋め込まれた鞘に入った剣を、手に取る。真っ赤なルビーがはめ込まれた柄を握る。

「決して抜いてはいけない」

 金の騎士の最後の言葉が、アランを押しとどめる。
 なぜ、抜いてはいけないのか?
 金の騎士は、理由を言わずに逝ってしまった。
 気弱な青年は、その言葉を守り、最後に騎士に手を合わせて帰路につく。
 帰り道、ヨロイと剣の分、荷物が増えているはずなのだが、逆に疲れを感じることなく、歩き続けるアラン。
 目的であった美乙女百合を手に入れたためか、金のヨロイの効果のなのか、日が暮れ始めたころには村が見えてきた。
 赤く広く広がる夕日、広い麦畑を抜ける頃にはあたりが暗くなるはずだった。

 暗闇に赤く染まる空。
 立ち上る煙。
 村が燃えている。

 嫌な予感がして、アランは走る。
 村に近づくと、異常な喧騒が聞こえてくる。
 男たちの怒声、女性の泣き声、叫び声。
 村の入り口からアランに走り寄る、血だらけの男の影がひとつ。

「――助けてください! 盗賊団が……」

 アランよりもひとまわり以上大きなその男を、アランは知っていた。
 いつもアランをパシリのように使い、機嫌が悪いとアランに暴力を振るう、ドノバンと言う男だ。
 力に自信があるため、気に食わないことがると力にものを言わせるできれば会いたくない相手だ。
 その男が恐怖に顔を歪めてアランに助けを求めている。
 その異常な状態に思わず、声を出す。

「ドノバン……」
「その声は、アラ……」

 それがドノバンの最期の言葉だった。
 ドノバンの頭は矢で射抜かれ、アランに寄りかかるように、倒れてしまった。

「ヒャッホウ! 大当たり!」

 弓を手にした男が、隣にいるもう一人の男の肩をバンバン叩きながら、笑っている。

「チッ! 俺が先なら俺の勝ちだったのによ! お! なんだ? あの派手な奴は!?」

 二人の男がアランに気がついた。
 しかし、アランは金色のヨロイの中で、矢を受けて血を流しながらケイレンをしている知り合いを、呆然と見ていた。

 なんだこれは? 夢を見ているのか?
 森の奥でミノタウロス会ったあたりから、自分は夢を見ているのではないか?
 気がつけば、またいつもの日常が戻ってくる。
 そんな気がして、アランはただただ、立ち尽くしていた。

 カン!

「ほら見ろ! 俺だって当たりだぜ!」
「だめだ、だめだ! 全然効いてねえじゃねえか。まあ見てろ」

 男たちが放った矢が金のヨロイに当たり、地面に落ちる。
 ドノバンの頭蓋骨を貫通していた矢が、金のヨロイには全く効かない。

 カン!

 また一つ、矢がヨロイに当たり、落ちる。
 そこで、アランはやっと正気に戻る。

 魔法のヨロイは、盗賊どもの矢は効かない。おそらく剣も効かないだろう。
 それまでさんざんアランをいじめていたドノバンに対する憐みは無い。ただ驚きと嫌悪感だけが残った。
 それよりも、マリアだ。
 親を早々に亡くし、気も力も弱く、決して頭もよくないアランに対し、村で唯一優しくしてくれた女性。
 危険な森の奥にある幻の美乙女百合を、手に入れてプロポーズをしようと考えている愛すべき女性。

 マリアを探さなければ!

 アランは、護身用の短剣を手に走る。
 盗賊どもは矢が効かないとみると、斧を手に待ち構える。
 アランは両腕で頭をガードして、盗賊の脇を抜ける。

 カッン! カン!

 斧がヨロイに当たり、跳ね返される。
 痛みはない。
 アランはそのまま、振り返ることなく村の中へ走る。

「騎士が来たぞ! 金色の騎士一人だ! 気をつけろ、武器が効かねえ!!」

 盗賊の一人が大声で仲間を呼ぶ。
 アランは、村人の死体があちらこちらに転がる道を走る。
 アランの事を、いつも腰抜け呼ばわりする猟師のガドは、斧を手に服を血まみれにして首を切られて息絶えていた。
 アランの事を、ごくつぶしと言っていたアンヌ叔母さんは、弓矢を何本の刺さったまま倒れていた。

 燃える家のそばを通り、アランはマリアを見つけた。
 美しいマリア。
 初雪のような白い肌を晒し、両腕を男に押さえつけられ、汚らしい男がマリアに覆いかぶさっていた。
 下半身を出したまま、腰を振っている。
 涙を流しなら、アランを見たマリアの左目はひどく殴られたのか、腫れている。
 渇いた血がついた唇がかすかに動く。

 たすけて。

 アランは自らの血が沸騰したかのように、頭に血が上るのを感じた。
 マリアだけでなく、近くには他の若い女性たちが、同じように凌辱されているがアランには目に入っていない。
 ただ一人。
 マリアだけ。
 彼女が助かれば、それだけで良かった。
 短剣を手に、マリアに覆いかぶさる男へ突進する。

 ゴン!

 充血したその黒い瞳には、順番待ちをしている男が目に入っていなかった。
 不意に巨大なハンマーに叩かれたアランは思わず、尻もちをつき、短剣を落としてしまう。
 ヨロイのおかげでダメージはほとんどない。
 しかし武器となる物も手から零れ落ちてしまった。

「おいおい、この騎士様も俺たちの仲間になって、女どもを犯したいらしいぜ! キャハハハ!」
「騎士様よ。順番くらい守ろうぜ。お子ちゃまじゃないんだからよ」

 アランのその動きから、脅威を感じなかったのだろう。
 男たちは下卑た言葉をアランに投げかける。いつかの村人たちのように。

「騎士様はこの女がご所望か? ちょっと待ってろ。あいつで三人目だ。ちょうど緩くなって良い感じになってると思うぜ。ハッハハハハ」
「腹の中はもうたぷたぷかもしれないけど、濡れて滑りがよくなってるぜ。へへへ」

 地べたに座り込むアランを見下ろす男たち。
 その粗悪な風貌を真正面から見てしまい、恐怖に支配される青年は金色のヨロイの中で震えていた。

『力が欲しいか?』

 どこからともなく、アランに話しかける声。
 静かで力強い、それでいて優しい声。

『力が欲しければ、剣を抜け』

 再度、力強い声がアランの頭の中に響く。

 剣

 短剣は男たちに既に拾われていた。
 あたりには武器になるようなものは落ちていない。
 ただ一つ、金の騎士に託されたあの剣を除いては。

 アランは勇気を振り絞り、バックの中から剣を取り出した。
 倒れた拍子なのか、剣が少し鞘から出て、柄の赤いルビーが村の炎で怪しく光る。
 無我夢中で剣を引き抜き、唖然とする男たちを押しのけ、マリアを犯している男に襲い掛かかる。

「グッハァ!」

 金の騎士が決して抜くなと言った剣は、鏡のように光をはじく両刃の剣。
 その威力はすさまじく、一振りで男の胴を真っ二つにし、十メートル先の地面まで傷跡を残した。
 その剣戟の延長線にいる、他の盗賊たちをも真っ二つにしていた。

 その剣戟は鋭かった。男の下になっていたマリアの体をも真っ二つにするほどに……。

 どのくらいの時間が経ったのだろうか?
 男の一人が叫んだ。

「貴様!」

 アランに襲い掛かる。
 もう、笑いかけることのないマリアを見つめて、呆然としているアランの体が動く。
 アランの意識とは無関係に。
 襲い来る男たちの矢を避け、首を切り裂き、剣を受け、心臓を刺す、槍を受け流し、頭を斬る。
 何十人といる盗賊団を舞う様に次々と殺していく。

 まるでミノタウロスと戦っていた金の騎士のように。

「痛い! いたい、イタイ! いたsくえい」

 アランは金のヨロイの中で喚く。
 体中から激痛が走る。
 無理な動きをしているためもあるが、ただ立っているだけでも体中が激痛に襲われる。
 言葉にならない言葉。
 しかし何かを口に出さないと狂ってしまいそうになる痛み。
 その痛みの中、アランは確かに聞いた。

「本当に出やがった。あの人の言う通りに、金の騎士がおびき出されやがった」

 あの人とは誰の事だ?
 そう、問いただす間もなく、男の頭は体と別れていた。
 気が付くと、あたりは物言わぬ肉と血の海が広がっていた。
 盗賊団、村人問わず動くものは一つもなかった。

 痛みに耐えながら、アランは剣を鞘に納めるとそのまま、気を失ってしまった。

 夜が明ける。

 鳥の声が、聞こえる。
 アランは、朝日の眩しさに目を覚ました。
 なぜ、道端で寝ているのか、理解できなかった。
 酒を飲んで、酔っ払ったのか?
 アランは体を起こすと、激痛が走る。
 昨夜の神経を直接、刺激する激痛ではない。
 筋肉痛だ。
 
 アランはゆっくりと立ち上がり、あたりを見回す。
 生まれ育った村だった。
 もう、村と言える状態ではない。
 家のほとんどは、火事で半壊。
 血と肉の匂いが充満する。
 カラスやタカなどの肉食鳥が、あちらこちらに転がっている死体に群がっている。

 鞘に入ったままの剣を杖代わりにして、マリアを探す。
 それは運良く、マリアの形を保っていた。
 覆いかぶさっていた男が、先に鳥に啄ばまれたおかげだ。
 アランは杖がわりにしていた剣で、鳥たちを追っ払うと元マリアを犯していたものを足でどかす。
 その下から金色に輝く長い髪を広げ、目を見開いたままのマリアがいた。
 アランは金色の籠手を外し、マリアの頬にそっと手を当てる。

 冷たい。

 涙がこぼれる。

 見開いたままのマリアのまぶたを、そっと閉じる。

 声を上げて、哭く。

 涙も声も鼻水も悲しみも苦しみも、こぼれ落ちる。

 全てを失った。

 アランが生きる意味を……生きる希望を……。

 自らの手で刈り取ってしまった。
 生きてさえいてくれれば、それでよかった。
 マリアが笑ってくれるだけでよかった。

 アランはマリアの体を抱きかかえて、村はずれの丘へ向かうと、穴を掘り始めた。
 人が十分入るほどの穴を掘り終えた頃には、空は厚い雲に覆われて始めた。

 アランはそっとマリアの唇を重ねた。
 アランにとって、マリアとの二回目にして最後のキス。

 マリアの埋葬が終わり、座り込むアランに雨が降り注ぐ。
 アランは短剣を自分の首に当てたその時、雷がすぐそばの大木に落ちる。

 あの人。

 思い出した。確かに聞いた。
 何者かが、金の騎士を誘き出すために村を襲わせた。盗賊団の黒幕がいる。

「――許さない。この命を賭けてでも」

 アランは真っ白になった頭を、金色のカブトにおさめた。
 相手は金の騎士を探している。
 ならば、アランが金の騎士として、人目につくところに現れれば、相手から接触してくるだろう。
 そして刺し違えてでも復讐をする。

 復讐者となった気の弱い青年は、恐る恐る剣を抜く。
 完全に鞘から出ると同時に、激痛が全身に走る。
 まるで神経に直接針を刺したような痛み。

「な、なんだ、この剣は……」
『我はしんけんなり』
「喋った!」

 慌てて納刀する。

『汝が我に問いかけたのであろう』

 慌てたため、完全に納刀できておらず、雨の中、剣が怪しく光る。

「なんだ……お前は? しんけんって?」
『我は神剣(しんけん)なり。神の力を宿した剣』
「か、神様? 何故、そんなものが、こんなところに」

 神の助けを受けた者の話は、まれに聞く。
 しかし、それは一時的に力を貸してもらい、苦難を乗り越えたというものがほとんどだ。
 神の力を宿した道具に助けられる話もあるが、最後には神に返される。

『……世に苦痛を広めるため』
「苦痛を……」

 神が世に苦痛を広めるために遣わした剣。
 何のために。
 しかし今のアランには、その疑問はどうでもよかった。
 おそらく、剣を抜くたびに襲われるあの激痛はこの剣のせい。
 そして、あの力も。

「分かりました。それで、僕に力を貸してもらえますか? マリアを、僕の恋人を奪った奴らを全て殺したいんだっ!」
『我は剣なり。ただ抜いた者の力になるだけ』

 意志があっても剣は剣、抜いた者の力になるということなのだろうか?
 ならば、その力を使おう。例え、この身が激痛で狂い死しようが、アランは決意した。

「分かりました。僕の名前はアランといいます。あなたの名前を教えてもらえないでしょうか?」
『名前……S(エス)・B(ビー)』
「S・Bですね。これからよろしくお願いします」
『……』

 アランは立ち上がた。
 まずは隣の村を目指す。
 この村が全滅したことを伝えたい。そして盗賊団の情報も手に入れたい。金の騎士がここにいると奴らに知らせたい。
 一歩踏み出した。
 
 金の復讐者として。
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