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第三章
シルビアのルール
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曇り空はいつの間にかどこかへ行き、顔を出した太陽は傾き始めた。
どこからか涼しい風が吹き始める。
とりあえず、モナと兼光は丘に残ることになった。
食事や水、マナ石を街から供給される。
兼光は姫鶴と離れるのを嫌がったが、明日にはミクス村に戻ることと、何かあればすぐに姫鶴が来ると約束をしたため、やっと納得して丘へと戻る。
今晩はゆっくりと親子でいろいろ話ができるだろう。
俺たちは警備隊長からきついお叱りの言葉を山ほどいただいた。
最後には「もう知らん」との言葉をいただいてしまった。
そして、俺たちはいつもの酒場に集まっていた。
「それでキヨ。お金の方は大丈夫なの? 火酒もモナ様にあげちゃったし、兼光の抜け殻もマリアーヌ様にあげちゃって……」
「まあ、どうにかなるよ。まだ元金は二千万マル以上ある。しばらくはきついかもしれないけど、先行投資した村の食料が軌道に乗れば大丈夫だよ」
俺はアナグマのスープを口に運ぶ。
今日はもう酒は十分だ。
疲れが取れる体に優しいものがほしい。
「じゃあ、次はどうするの?」
「前にも話したように海に行きたいな。明日にでもシルビアのところに行って、運ぶ荷物がないか相談してみよう」
そう俺が言った途端、酒場の扉が乱暴に開かれる。
そこに立っているのは茶色の髪を丁寧にツインテールにした女の子だった。
体に合った綺麗な洋服が彼女の育ちの良さを引き立たせている。
少し垂れ目のピンクの瞳は怒りのためか、細く見開き、誰かを探していた。
「やっぱり、ここにいた!」
ソフィアの妹でシルビア流通商会の社長のシルビアが、ずんずんと俺たちのテーブルにやってきて、ごく自然にソフィアの膝に座る。
「あなた、何を考えてるの! あ、オレンジジュースで……聞いたわよ!」
シルビアはソフィアに抱っこされながら俺を指さして文句を言う。
俺は何のことだか見当がつかない。
そもそも、シルビアが一人で酒場に来るなんてよっぽどの事なのだろうか?
「何のことだ?」
「ドラゴンよ! マリーから聞いたわよ」
昼間の一戦の事か。
シルビアが俺の心配をするはずがない。
ソフィアを危険にさらしたことに文句を言いに来たのか?
「ああ、確かに無茶なことをしたとは反省してる。しかし、あの時にはもうあの選択しか思いつかなかったんだよ」
シルビアは運ばれたオレンジジュースを一口飲み、首をかしげる。
「は? 何言ってるの? なんでドラゴンの素材が手に入ったのなら、真っ先にうちに持ってこなかったのよ! ほかの商会にとられたならまだ買い戻すこともできたのに、マリーにあげた!? あんた、あれの価値をわかってるの? あんたがお母さまからしている借金なんて、三回返してもおつりがくるわよ! なんでうちに持ち込まなかったのよ!」
シルビアはその小さなほっぺを膨らませて怒る。
ただその姿を見ていると姉の膝の上で、姉に守られてわがままを言っている小さな女の子のようにも見える。
実際のところ、金の力で姉のソフィアを守ろうとしている健気な妹なのだが。
「だったら、マリーに言って買い取ればいいじゃないか」
「それは……できないのよ」
シルビアはコップをテーブルに置く。
まあ、国王を説得するためのアイテムだ。いくらシルビアといえどもマリアーヌは手放さないだろう。
「マリー以外だったら、どんな手を使っても買い取ってやるけど、あの子だけはだめなの」
マリーだけはだめだと言って、下を向くシルビア。
そのシルビアの頭をなでながら、口を開くソフィア。
「シルビアちゃん、あなた、お母様の言いつけを守ってるのね」
「ちがっ……わない」
一瞬、顔を上げるが、また下を向く。
「どういうことだ?」
「恋人と親友とだけは商売をしてはいけない。商売相手という意味ですね。どうしても利益の取り合いが出てしまうので、失いたくない大事な人とは商売をしてはいけないという、お母様の教えなんです」
「……という事は、シルビアはマリアーヌの事を」
「ええ、親友よ。たった一人のね。何よ悪い! 守銭奴! 金の亡者と言われた、わたくしにだって大事な友達くらいいます!」
顔を真っ赤にしたシルビアがソフィアの膝の上からぴょんと飛び降りる。
「今度、うちに来たらきっつい仕事を回してやるんだからね!」
人差し指をびしっと俺に向けて宣言する。
仕事!
そうだ、いい機会だ。
「シルビア、ちょっと時間があるか? 試してもらいたいものがあるんだ」
「なによ。これでも忙しい身なんだからね」
そう言いながらソフィアの膝の上に戻る。
そのやり取りをレイティアと姫鶴は微笑ましい顔で眺めていた。
どこからか涼しい風が吹き始める。
とりあえず、モナと兼光は丘に残ることになった。
食事や水、マナ石を街から供給される。
兼光は姫鶴と離れるのを嫌がったが、明日にはミクス村に戻ることと、何かあればすぐに姫鶴が来ると約束をしたため、やっと納得して丘へと戻る。
今晩はゆっくりと親子でいろいろ話ができるだろう。
俺たちは警備隊長からきついお叱りの言葉を山ほどいただいた。
最後には「もう知らん」との言葉をいただいてしまった。
そして、俺たちはいつもの酒場に集まっていた。
「それでキヨ。お金の方は大丈夫なの? 火酒もモナ様にあげちゃったし、兼光の抜け殻もマリアーヌ様にあげちゃって……」
「まあ、どうにかなるよ。まだ元金は二千万マル以上ある。しばらくはきついかもしれないけど、先行投資した村の食料が軌道に乗れば大丈夫だよ」
俺はアナグマのスープを口に運ぶ。
今日はもう酒は十分だ。
疲れが取れる体に優しいものがほしい。
「じゃあ、次はどうするの?」
「前にも話したように海に行きたいな。明日にでもシルビアのところに行って、運ぶ荷物がないか相談してみよう」
そう俺が言った途端、酒場の扉が乱暴に開かれる。
そこに立っているのは茶色の髪を丁寧にツインテールにした女の子だった。
体に合った綺麗な洋服が彼女の育ちの良さを引き立たせている。
少し垂れ目のピンクの瞳は怒りのためか、細く見開き、誰かを探していた。
「やっぱり、ここにいた!」
ソフィアの妹でシルビア流通商会の社長のシルビアが、ずんずんと俺たちのテーブルにやってきて、ごく自然にソフィアの膝に座る。
「あなた、何を考えてるの! あ、オレンジジュースで……聞いたわよ!」
シルビアはソフィアに抱っこされながら俺を指さして文句を言う。
俺は何のことだか見当がつかない。
そもそも、シルビアが一人で酒場に来るなんてよっぽどの事なのだろうか?
「何のことだ?」
「ドラゴンよ! マリーから聞いたわよ」
昼間の一戦の事か。
シルビアが俺の心配をするはずがない。
ソフィアを危険にさらしたことに文句を言いに来たのか?
「ああ、確かに無茶なことをしたとは反省してる。しかし、あの時にはもうあの選択しか思いつかなかったんだよ」
シルビアは運ばれたオレンジジュースを一口飲み、首をかしげる。
「は? 何言ってるの? なんでドラゴンの素材が手に入ったのなら、真っ先にうちに持ってこなかったのよ! ほかの商会にとられたならまだ買い戻すこともできたのに、マリーにあげた!? あんた、あれの価値をわかってるの? あんたがお母さまからしている借金なんて、三回返してもおつりがくるわよ! なんでうちに持ち込まなかったのよ!」
シルビアはその小さなほっぺを膨らませて怒る。
ただその姿を見ていると姉の膝の上で、姉に守られてわがままを言っている小さな女の子のようにも見える。
実際のところ、金の力で姉のソフィアを守ろうとしている健気な妹なのだが。
「だったら、マリーに言って買い取ればいいじゃないか」
「それは……できないのよ」
シルビアはコップをテーブルに置く。
まあ、国王を説得するためのアイテムだ。いくらシルビアといえどもマリアーヌは手放さないだろう。
「マリー以外だったら、どんな手を使っても買い取ってやるけど、あの子だけはだめなの」
マリーだけはだめだと言って、下を向くシルビア。
そのシルビアの頭をなでながら、口を開くソフィア。
「シルビアちゃん、あなた、お母様の言いつけを守ってるのね」
「ちがっ……わない」
一瞬、顔を上げるが、また下を向く。
「どういうことだ?」
「恋人と親友とだけは商売をしてはいけない。商売相手という意味ですね。どうしても利益の取り合いが出てしまうので、失いたくない大事な人とは商売をしてはいけないという、お母様の教えなんです」
「……という事は、シルビアはマリアーヌの事を」
「ええ、親友よ。たった一人のね。何よ悪い! 守銭奴! 金の亡者と言われた、わたくしにだって大事な友達くらいいます!」
顔を真っ赤にしたシルビアがソフィアの膝の上からぴょんと飛び降りる。
「今度、うちに来たらきっつい仕事を回してやるんだからね!」
人差し指をびしっと俺に向けて宣言する。
仕事!
そうだ、いい機会だ。
「シルビア、ちょっと時間があるか? 試してもらいたいものがあるんだ」
「なによ。これでも忙しい身なんだからね」
そう言いながらソフィアの膝の上に戻る。
そのやり取りをレイティアと姫鶴は微笑ましい顔で眺めていた。
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