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第三章

兼光のママ

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 目を閉じてその時を待つ。
 服の後ろエリを引っ張られ、軽い浮遊感に包まれる。
 次の瞬間、俺は地面に転がされた。

「なにやっとんねん! あほにぃ!」

 俺が目を開けるとそこには黒いバハムートに乗った背の低い女性がいた。
 黒いショートの髪の女性は怒った顔を俺に向ける。
 モナよりも一回りも二回りも小さなバハムートは、両手に掴んだレイティアとソフィアをゆっくりと降ろす。

 姫鶴と兼光がそこにいた。

『ママ~さすがに四人は重いよ~』

 俺たちと別れた時よりも一回り大きくなった兼光が、背中の姫鶴に文句を言う。

「おまえら、なんでここに?」
「なんでて……まあ、詳しい話はあとでええんちゃうん?」

 姫鶴はそう言い放つと、兼光に合図をして後ろにいるモナへ振り向く。
 何が起こったのかわからず混乱をしている大人のバハムートがそこにいた。

「それより、あれどうにかせんと、いかんのとちゃうん?」
「ああ、そうだ。兼光、一緒に来てくれ」

 俺は兼光と主にモナの前に立つ。

「兼光、こっちはモナさんだ。お前の……」

 兼光はおとなしく俺の言葉を待つ。
 俺は姫鶴を見る。
 姫鶴は静かにうなずく。

「お前の生みの親だ」
『……うみの親って、どういう意味?』

 兼光は首をかしげる。

「兼光……この人があんたの本当の親や」
『ああ、愛しい我が子。会いたかった』

 兼光を愛おしそうに見つめるモナ。
 兼光は姫鶴とモナを見比べる。

『僕のママはママだけだよ。おばちゃんじゃないよ』
「兼光、本当のことや。あんたが生まれた時に、たまたまうちがおっただけで、この人があんたの本当のママや」

 姫鶴は兼光から降りて、頭をなでながら兼光に言い聞かせる。

『やだやだ、ママと離れたくない!』
「兼光」

 モナもどうしたらいいのか、じっと二人を見る。

「モナ様、一つ質問がございます」
『何でしょう』

 俺は一つの疑問を投げかける。

「あなたの他の子たちは見当たりませんが、もしかして一人前となって巣立ったのでしょうか?」
『ええ、そうよ。他の子たちは無事に巣立ちました。それでこの子を探しに来られたのです』

 怒れるバハムートから、ただの母親に戻ったモナは穏やかに答える。

「一人前の証は産毛からうろこになることではないですか?」
『ええ、よくわかったわね。赤子の証である産毛が抜け落ち、自分で空を飛べるようになれば、巣立っていくのよ』

 やはり俺の予想通りだ。

「それであれば兼光はもう一人前ですよね。このように立派なうろこ姿の上に、空も自由に飛べる。脱皮も一度経験している」
『え、ええ、そうね。この子ももう一人前よ』
「では、これからは親離れをして兼光の自由にしていいのですよね」
『そうなるわね。あっ!』

 モナの言質は取った。

「兼光、お前のママはこのモナ様だ。だからと言って姫鶴と離れなければならないわけじゃないぞ」
『ちょっ、ちょっと待って……』

 モナは慌てて俺の言葉を遮る。

『本当! やった。ありがとう、おば……ママ』

 兼光はそう言ってモナに体をすり寄せる。

「ありがとうございます。モナ様」

 姫鶴も頭を下げる。
 経緯はともかく、兼光は一人前に育った。おそらく他の子ドラゴンよりも立派に育ったのだろう。
 モナも二人の関係を見てそれは十分に分かったはずだ。

『あ~もう! わかったわよ。うちの子をここまで立派に育ててくれたんだから、私が文句を言える立場じゃないわ。好きにしなさい!』
『やった~!』

 モナは大きくため息をつくと翼を広げた。

「待ってください。モナ様」
『まだ、何か用? あまりここにいると小うるさい連中が突っかかってきそうで嫌なのよ』
「そのことで相談があります。私たちと不可侵条約を結びませんか?」

 モナが人を襲わないという確証があれば、攻撃を加えないとマリアーヌは約束した。今後、兼光やモナがむやみな戦いに巻き込まれないためにも、この機を逃してはいけない。

「結んでいただければ、貴方も気軽に兼光がいる村に訪れることができます」
『……わかった。何をすればいい?』
「まずは、信頼を得ましょう」
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