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第三章
使用許可
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次の日、俺たちの馬車に荷物を全て移して借りている馬車を返し、その足で魔法技術院へ足を運ぶ。
俺とソフィアについては院長が話を通してくれていたようで、守衛もすんなりと通してくれた。
俺たちはソフィアの案内で院長室へ向かうとちょうど院長室から人が出てきた。
年の頃は四十代の眉間に皺を刻み込んだ難しそうな顔、鍛えられたがっしりとした体の女性。
アリシア救出を依頼したときに会った警備隊本部長。
向こうもこちらに気がついたようだが、お互い黙って会釈しただけで本部長は足早に去ってしまった。
「無事に帰って来られたのですね。それで講義の打ち合わせでしょうか?」
部屋に入った俺たちに院長に椅子に座るように促される。
「しばらく街を出られそうにないので、その打ち合わせは後日ゆっくりと。それとは別のご相談です」
「なんでしょうか?」
「今、郊外にドラゴンが出ているのはご存知ですね」
院長付きの男性秘書がコーヒーを持ってくる。
院長はコーヒーに手をつけ、口を開く。
「ドラゴンに関するお話ですか? あなた方とどのような関係が?」
俺は兼光のことは伏せて、昨日遭遇したドラゴンについて一部始終説明した。
「昨日、襲われた一般人ってあなた方なのですか? よくまあ、無事でしたわね。まさか、ドラゴン退治でひと山当てようなんて考えているのではないでしょうね。止めておきなさい。ドラゴンのことはグランドマスターと警備隊に任せておけばいいのです」
「先ほどの本部長殿は魔法技術院へのドラゴン討伐の支援要請ではないのですか?」
「本部長を知っているのですか?」
俺はアリシア救出についてかいつまんで話をする。
「そうですか。警備隊に知り合いが多いのですね。たしかに警備隊から魔法技術院に支援要請は来ました。ただし、魔法技術院はあくまで後方支援。隊員の介護、街の守りの助力です。元々、魔法技術院の職員は攻撃系の魔法を持つものは少ないのですよ。研究機関ですからね」
「……懲罰部隊はいるのでしょう」
以前、ソフィアに聞いたことがある。
むやみに魔法を習得させていると魔法技術院から刺客が来ると……。
院長は目を大きく見開いて、俺とソフィアを交互に見る。
「懲罰部隊って、ふふふ」
院長はおかしくてたまらないというふうに笑っている。
「都市伝説ですよ。魔法技術院の意向に逆らう者は静粛される……ですか? ここはただの研究機関ですよ。魔法のあり方、使い方、種類などを研究してより良い社会にするための研究機関にそんな悪の組織のような物はありませんよ。ふふふ」
そう言って笑う隊長の目は笑っていないような気がした。これ以上は触れない方がいいのかもしれない。
「ところでドラゴンでしたか。私どもは魔法の研究がメインですが、文献は有ると思いますよ」
「人がドラゴンを倒したと言う話は聞いたことがありますか? 夢物語ではなく、現実として」
院長はコーヒーを静かに飲むと口を開く。
「人がドラゴンを倒す……聞いたことがないですね。そもそも十年以上、ドラゴンの目撃情報すらありませんでしたからね」
十年以上目撃情報がなかったのに、ここのところ急に目撃情報が増えた上に人里まで出てくる。ドラゴン側に何かあったのだろうか?
何か原因があるのであれば、その原因さえ取り除けばドラゴンも立ち去ってくれるのではないだろうか。
院長の話ではこの街の誰に聞いてもまともな情報は得られそうにない。
それほど、ドラゴンと言う種に出会うことは稀のようだ。
それであれば文献に頼るしかない。
ドラゴンの弱点以外にも生態がわかれば、兼光の今後に役立つはずだ。
「ドラゴンのことが載っている本はありませんか?」
「そうですね。ここには蔵書が多いですから、中にはあるかもしれませんね……それこそソフィア、あなたの方が詳しいのではないですか?」
それまで静かに俺たちの話を聞いていたソフィアは急に振られて慌てる。
「え、あ? あたしは何も……」
「どういう事ですか?」
「この子は書庫の主と言われるくらい、いつも書庫で本を読んでいたのですよ。おかげで自分の研究以外の知識も豊富だと他の研究員から評判でしたのよ。コミュニケーション以外は……」
そう、院長に言われてソフィアは顔を伏せてどうしたらいいか困っている。
そう言えば初めて話した時もやたらと「本にそう書いていた」と言っていたような気がする。
「ソフィア、読んだ記憶はあるか?」
「すみませんご主人様。魔法関連ばかり読んでいたもので……」
恋愛とか性とかの本もかなり読んでただろうというツッコミはぐっと抑えた。
「とりあえず、書庫の使用許可をいただきたい。あとは私とソフィアで探します」
「ええ、許可いたしましょう。ただし、有益な情報がありましたら報告をお忘れなく」
俺たちはあっさり書庫の使用許可をもらいドラゴンに関する文献を探すことになった。
俺とソフィアについては院長が話を通してくれていたようで、守衛もすんなりと通してくれた。
俺たちはソフィアの案内で院長室へ向かうとちょうど院長室から人が出てきた。
年の頃は四十代の眉間に皺を刻み込んだ難しそうな顔、鍛えられたがっしりとした体の女性。
アリシア救出を依頼したときに会った警備隊本部長。
向こうもこちらに気がついたようだが、お互い黙って会釈しただけで本部長は足早に去ってしまった。
「無事に帰って来られたのですね。それで講義の打ち合わせでしょうか?」
部屋に入った俺たちに院長に椅子に座るように促される。
「しばらく街を出られそうにないので、その打ち合わせは後日ゆっくりと。それとは別のご相談です」
「なんでしょうか?」
「今、郊外にドラゴンが出ているのはご存知ですね」
院長付きの男性秘書がコーヒーを持ってくる。
院長はコーヒーに手をつけ、口を開く。
「ドラゴンに関するお話ですか? あなた方とどのような関係が?」
俺は兼光のことは伏せて、昨日遭遇したドラゴンについて一部始終説明した。
「昨日、襲われた一般人ってあなた方なのですか? よくまあ、無事でしたわね。まさか、ドラゴン退治でひと山当てようなんて考えているのではないでしょうね。止めておきなさい。ドラゴンのことはグランドマスターと警備隊に任せておけばいいのです」
「先ほどの本部長殿は魔法技術院へのドラゴン討伐の支援要請ではないのですか?」
「本部長を知っているのですか?」
俺はアリシア救出についてかいつまんで話をする。
「そうですか。警備隊に知り合いが多いのですね。たしかに警備隊から魔法技術院に支援要請は来ました。ただし、魔法技術院はあくまで後方支援。隊員の介護、街の守りの助力です。元々、魔法技術院の職員は攻撃系の魔法を持つものは少ないのですよ。研究機関ですからね」
「……懲罰部隊はいるのでしょう」
以前、ソフィアに聞いたことがある。
むやみに魔法を習得させていると魔法技術院から刺客が来ると……。
院長は目を大きく見開いて、俺とソフィアを交互に見る。
「懲罰部隊って、ふふふ」
院長はおかしくてたまらないというふうに笑っている。
「都市伝説ですよ。魔法技術院の意向に逆らう者は静粛される……ですか? ここはただの研究機関ですよ。魔法のあり方、使い方、種類などを研究してより良い社会にするための研究機関にそんな悪の組織のような物はありませんよ。ふふふ」
そう言って笑う隊長の目は笑っていないような気がした。これ以上は触れない方がいいのかもしれない。
「ところでドラゴンでしたか。私どもは魔法の研究がメインですが、文献は有ると思いますよ」
「人がドラゴンを倒したと言う話は聞いたことがありますか? 夢物語ではなく、現実として」
院長はコーヒーを静かに飲むと口を開く。
「人がドラゴンを倒す……聞いたことがないですね。そもそも十年以上、ドラゴンの目撃情報すらありませんでしたからね」
十年以上目撃情報がなかったのに、ここのところ急に目撃情報が増えた上に人里まで出てくる。ドラゴン側に何かあったのだろうか?
何か原因があるのであれば、その原因さえ取り除けばドラゴンも立ち去ってくれるのではないだろうか。
院長の話ではこの街の誰に聞いてもまともな情報は得られそうにない。
それほど、ドラゴンと言う種に出会うことは稀のようだ。
それであれば文献に頼るしかない。
ドラゴンの弱点以外にも生態がわかれば、兼光の今後に役立つはずだ。
「ドラゴンのことが載っている本はありませんか?」
「そうですね。ここには蔵書が多いですから、中にはあるかもしれませんね……それこそソフィア、あなたの方が詳しいのではないですか?」
それまで静かに俺たちの話を聞いていたソフィアは急に振られて慌てる。
「え、あ? あたしは何も……」
「どういう事ですか?」
「この子は書庫の主と言われるくらい、いつも書庫で本を読んでいたのですよ。おかげで自分の研究以外の知識も豊富だと他の研究員から評判でしたのよ。コミュニケーション以外は……」
そう、院長に言われてソフィアは顔を伏せてどうしたらいいか困っている。
そう言えば初めて話した時もやたらと「本にそう書いていた」と言っていたような気がする。
「ソフィア、読んだ記憶はあるか?」
「すみませんご主人様。魔法関連ばかり読んでいたもので……」
恋愛とか性とかの本もかなり読んでただろうというツッコミはぐっと抑えた。
「とりあえず、書庫の使用許可をいただきたい。あとは私とソフィアで探します」
「ええ、許可いたしましょう。ただし、有益な情報がありましたら報告をお忘れなく」
俺たちはあっさり書庫の使用許可をもらいドラゴンに関する文献を探すことになった。
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第三第章進行中!年内完結予定(予定)予定だよ。酷評上等! ただし具体的にね。表紙は「かわいいおんなのこメーカー」で作ってみたレイティアです。イメージですけどね。
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