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第三章

マリアーヌへの要求

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 隊長の声に他の隊員たちも剣を抜き、レイティアに槍を向ける。

「マリアーヌ様、この男の命が惜しければ、ドラゴン退治はあきらめて王都へお帰りください!」

 彼女たちはマリアーヌを待ち構えていたようだ。
 しかし、なぜグランドマスターの仕事を諦めさせようとしているのか?

「ま、マリ……」
「マリアーヌ様! ここは落ち着いてください!」

 俺はレイティアの言葉を遮る。
 彼らの真意がわからないうちには出方がわからない。
 何のために彼女たちはマリアーヌを王都へ帰らせようとしているのか?
 俺を人質にしてまで。

「王都なにかあったのですか? マリアーヌ様が急ぎ戻らなかればならないような」

 俺は依然、剣を首に当てられたまま、後ろの隊長に声をかける。
 俺としてはマリアーヌにさっさと帰って欲しいのだが、このような暴挙に出られるとその理由が気になる。

「お前は黙っていろ。我々はマリアーヌ様と話しているのだ! 殺すぞ」
「そうは言ってもマリアーヌ様も突然のことで、言葉も出ないようです。なぜ、あなたたちはマリアーヌ様を王都に連れ戻りたいのですか?」

 俺はそーっと剣を首から離そうとするが、逆にぐっと押し付けられる。

「マリアーヌ様、我々の要求を素直に聞いていただけないでしょうか?」

 そうは言ってもレイティアに判断できるわけもない。
 レイティアは困った顔で俺を見る。
 当然そうだろう。

「何故、あなたたちがこのような方法でマリアーヌ様へそんな強硬な手段を……王都で何かあったのですか?」
「……我々はマリアーヌ様に王都へ帰っていただきたい訳ではない! さあ、マリアーヌさま、ご決断を!」

 帰って欲しいわけではない?
 それもそうだ、王都に何かあったのであれば、上の者からただ帰還命令を出せばいいだけだ。
 ドラゴン退治をあきらめて、と言っていたな。

 つまりマリアーヌの任務失敗を望んでいる。

 マリアーヌの失脚が狙いか?

 マリアーヌにドラゴン退治を成功させて名声が上がるのを嫌った連中の差し金か。
 連中の狙いはわかった。

 それならば適当に約束をして、やり過ごすのが手っ取り早い。
 しかしレイティアは状況が飲み込めていないようだ。

 どうやら、なんとか武力で俺を取り戻そうと考えている。
 しかし俺を捕まえている一人なら、レイティアとソフィアの連携でどうにかできるにしても、その他が数が多すぎる。

 その上、練度が高い。
 あっと言う間に制圧、最悪は全滅させられてしまう。

 素直に要求を聞くにしても、マリアーヌでないと知れたら、口封じに殺されてしまうかも知れない。

「マリアーヌ様、あなたの恋人がどうなってもいいのですか?」

 俺がマリアーヌの恋人!?
 なんでそんなことになってる?

「ちがっ……」
「何を寝ぼけたことを言っている! そのような下賎の者がマリアーヌさまの恋人であるわけがないだろう!」

 街道沿いの森から馬に乗った赤毛の護衛隊長が怒りを露わに現れた。
 その後ろにはマリアーヌが乗っている。
 馬に乗った護衛兵たちが後に続いた。

「サンドラ! 貴様! どこに隠れていた」
「賊ごときに名前を呼ばれるいわれはないぞ」
「マ、マリアーヌ様がなぜそこに!」

 サンドラとマリアーヌの突然の登場に驚いたのは俺だけではなかった。
 思わず剣をおろし、レイティアとマリアーヌを交互に見比べる。

 俺はソフィアに合図を送る。

「バイブレーション!」

 抑えられていた腕の力が抜けた瞬間に捕縛から逃れる。

「隊長!」

 崩れ落ちる隊長に気をとられた瞬間に、レイティアは馬車から降りて、隊員たちから逃れて俺たちの方に走り寄る。

「殺していい! やれ!」

 脳震とうから立ち直った隊長が叫ぶ!
 それに呼応して隊員たちが叫ぶ。

「ファイアボール!」
「危ない!」

 こちらに走り寄るレイティアの後ろから複数の火の玉が迫る。
 俺も走り寄り、後ろにレイティアを隠すと盾を構える。

 迫りくる火の玉を盾で弾く。
 ひとつ、ふたつと次々に襲いかかる火の玉を盾で弾き、防ぐ。

「サンダー」
「グッファ!」

 火の玉に気をとられていた隙に雷が俺に襲いかかる。
 衝撃と痺れで膝をつく。

「キヨ!」

 まずい! 逃げろ!
 奴らの目的はマリアーヌだ。レイティアは間違えられているだけだ。

「ファイアボール!」

 襲いかかる火の玉!
 痺れで立ち上がれない。
 
 動け!
 守れ!
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