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第三章
ドラゴンの素材
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「姫鶴! 起きてくれ! 兼光が!」
俺は慌てて姫鶴を起こす。
一瞬で飛び起きた姫鶴が兼光に近づき、冷たくなっている体を触る。
「兼光! 兼光しっかりし~、うちを残して死ぬんやない!」
「すまん。……俺が目を離しているうちに……」
姫鶴の瞳から止めどなく涙がこぼれる。
神様はなんて残酷なんだろう。
シリルに続き、兼光まで姫鶴から奪っていくのか。
「兼光! 返事してや~」
姫鶴の悲鳴が朝日差し込む部屋に響く。
『なに? ママ~』
兼光の声が聞こえるようだ。
姫鶴にだけ甘えるように話す口調で。
『ママ、なんで泣いてるの?』
ん!? 気のせいじゃない。俺たちの後ろから声が聞こえる。
俺たちは一斉に後ろを振り返るとそこには元気そうな姿の兼光がいた。
俺たちの前には息をしていない兼光。
俺たちの後ろには普通に話している兼光。
どういうことだ?
「兼光。 え、ほんまに兼光!?」
『え、僕、兼光だよ。ちょっとトイレに行ってただけなのどうしたの?』
「じゃあ、こっちはなんだ?」
俺は動かない兼光を指さした。
『なんか、脱げちゃった』
てへぺろと擬音がつきそうな表情をした。
脱げた!?
は!?
よく見るとこっちの兼光は中身がなかった。
硬い鱗もそのままついているため、ぺったりとしておらず、ある程度形を保っている。
「ぬ、抜け殻? 脱皮かよ~」
俺は膝から崩れ落ちた。
姫鶴は涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、兼光に抱きついた。
「兼光! 兼光! 兼光!」
抱きついたまま、泣きながら兼光を連呼する姫鶴。
どうしたらいいのか、兼光は姫鶴の様子にオロオロするばかりだった。
「兼光、体の調子はどうだ? まだ熱があるとか、体がかゆいとかは収まったか?」
『もう大丈夫だよ。前より体が軽いくらいだよ。今ならおじさんをぺろりと丸のみできちゃうよ』
姫鶴に抱きつかれたまま、明るく答える。
その口調はいつもの兼光だった。
ひとつドラゴンの生態がわかった。
脱皮をする。
そしてその前に具合が悪くなる。
しかし、病気じゃなくてよかった。
「どうしたの、姫鶴ちゃん」
交代のためにレイティアたちが部屋にやってきて、二人いる兼光を見て驚きの声を響かせる。
村のみんなもレイティアたちもドラゴンが脱皮をするなんてことは誰も知らなかった。
真っ白な産毛から、黒い鱗に生え変わった時は特に異変なく変わったので、成長するにしてもあんなになるとは予想できなかった。
「脱皮したってことは抜けた鱗が使えるのですか?」
「なんか、歯も抜けたみたいだぞ」
「牙まで! それを僕に譲ってくれませんか?」
兼光の様子を見に来たガンドがドラゴンの抜け殻を見て興奮気味に俺に詰め寄る。
「いや~あいつの看病に結構な量のマナ石使ったから、あれで補填(ほてん)しようと思ってるんだけどな」
脱皮後の鱗や牙などの貴重性は俺も気がついていた。
兼光に抜け殻をどうするか聞いたら、捨てるだけだと言うので俺が貰い受けることにはなっている。
「そうですか……」
ガンドが残念そうにうなだれる。
工房主としては一度は扱ってみたい材料何だろう。
ガンドの職人として好奇心が疼いているように見える。
「まあ、牙一本ならいいぞ」
「本当ですか!」
「まあ、俺たちからの引っ越し祝いだと思ってくれ。そうだ、ダニエルさんが手紙欲しがってたぞ。ここの事を知らせる必要はないが、元気だということぐらい連絡してやったらどうだ」
「……そうですね。シャーロッドにも相談してみます」
やはり、ドワーフの村長たちに引っかかるものがあるのだろう。
こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかないのかもしれない。
俺たちはマナ石、ドワーフ製武具とともにサンプルとして燻製と蕎麦粉、そしてマヨネーズを積んで街に戻る事にした。
ムサシマルはもうすぐ刀が完成すると言う事で、ドワーフの村に単独で向かう。
アータルも新しい食材の研究のために村にしばらく残ると言いだした。
そうすると俺たちは三人だけになってしまう。
タマラも行こうか? そう言いだしたのだが、マルゴットが村長命令で引き止めた。
新しい食材のこと、新しい住人のこと、冬越えの準備など村長の右腕となってやってもらうことが山積みなのだそうだ。
村にとって優秀な人材を出すほど、今は余裕が無いようだ。
レイティアとソフィアの仲が良くなった分、タマラが加わるとどうなるか非常に怖ったので、俺は少しホッとする。
馬車二台に対し三人と非常に心もとないが、一台はレンタルなのだから街に戻れば適正な人数になるだろう。
ドラゴンの素材。
どれほどの値が付くか今から非常に楽しみだ。
俺は慌てて姫鶴を起こす。
一瞬で飛び起きた姫鶴が兼光に近づき、冷たくなっている体を触る。
「兼光! 兼光しっかりし~、うちを残して死ぬんやない!」
「すまん。……俺が目を離しているうちに……」
姫鶴の瞳から止めどなく涙がこぼれる。
神様はなんて残酷なんだろう。
シリルに続き、兼光まで姫鶴から奪っていくのか。
「兼光! 返事してや~」
姫鶴の悲鳴が朝日差し込む部屋に響く。
『なに? ママ~』
兼光の声が聞こえるようだ。
姫鶴にだけ甘えるように話す口調で。
『ママ、なんで泣いてるの?』
ん!? 気のせいじゃない。俺たちの後ろから声が聞こえる。
俺たちは一斉に後ろを振り返るとそこには元気そうな姿の兼光がいた。
俺たちの前には息をしていない兼光。
俺たちの後ろには普通に話している兼光。
どういうことだ?
「兼光。 え、ほんまに兼光!?」
『え、僕、兼光だよ。ちょっとトイレに行ってただけなのどうしたの?』
「じゃあ、こっちはなんだ?」
俺は動かない兼光を指さした。
『なんか、脱げちゃった』
てへぺろと擬音がつきそうな表情をした。
脱げた!?
は!?
よく見るとこっちの兼光は中身がなかった。
硬い鱗もそのままついているため、ぺったりとしておらず、ある程度形を保っている。
「ぬ、抜け殻? 脱皮かよ~」
俺は膝から崩れ落ちた。
姫鶴は涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、兼光に抱きついた。
「兼光! 兼光! 兼光!」
抱きついたまま、泣きながら兼光を連呼する姫鶴。
どうしたらいいのか、兼光は姫鶴の様子にオロオロするばかりだった。
「兼光、体の調子はどうだ? まだ熱があるとか、体がかゆいとかは収まったか?」
『もう大丈夫だよ。前より体が軽いくらいだよ。今ならおじさんをぺろりと丸のみできちゃうよ』
姫鶴に抱きつかれたまま、明るく答える。
その口調はいつもの兼光だった。
ひとつドラゴンの生態がわかった。
脱皮をする。
そしてその前に具合が悪くなる。
しかし、病気じゃなくてよかった。
「どうしたの、姫鶴ちゃん」
交代のためにレイティアたちが部屋にやってきて、二人いる兼光を見て驚きの声を響かせる。
村のみんなもレイティアたちもドラゴンが脱皮をするなんてことは誰も知らなかった。
真っ白な産毛から、黒い鱗に生え変わった時は特に異変なく変わったので、成長するにしてもあんなになるとは予想できなかった。
「脱皮したってことは抜けた鱗が使えるのですか?」
「なんか、歯も抜けたみたいだぞ」
「牙まで! それを僕に譲ってくれませんか?」
兼光の様子を見に来たガンドがドラゴンの抜け殻を見て興奮気味に俺に詰め寄る。
「いや~あいつの看病に結構な量のマナ石使ったから、あれで補填(ほてん)しようと思ってるんだけどな」
脱皮後の鱗や牙などの貴重性は俺も気がついていた。
兼光に抜け殻をどうするか聞いたら、捨てるだけだと言うので俺が貰い受けることにはなっている。
「そうですか……」
ガンドが残念そうにうなだれる。
工房主としては一度は扱ってみたい材料何だろう。
ガンドの職人として好奇心が疼いているように見える。
「まあ、牙一本ならいいぞ」
「本当ですか!」
「まあ、俺たちからの引っ越し祝いだと思ってくれ。そうだ、ダニエルさんが手紙欲しがってたぞ。ここの事を知らせる必要はないが、元気だということぐらい連絡してやったらどうだ」
「……そうですね。シャーロッドにも相談してみます」
やはり、ドワーフの村長たちに引っかかるものがあるのだろう。
こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかないのかもしれない。
俺たちはマナ石、ドワーフ製武具とともにサンプルとして燻製と蕎麦粉、そしてマヨネーズを積んで街に戻る事にした。
ムサシマルはもうすぐ刀が完成すると言う事で、ドワーフの村に単独で向かう。
アータルも新しい食材の研究のために村にしばらく残ると言いだした。
そうすると俺たちは三人だけになってしまう。
タマラも行こうか? そう言いだしたのだが、マルゴットが村長命令で引き止めた。
新しい食材のこと、新しい住人のこと、冬越えの準備など村長の右腕となってやってもらうことが山積みなのだそうだ。
村にとって優秀な人材を出すほど、今は余裕が無いようだ。
レイティアとソフィアの仲が良くなった分、タマラが加わるとどうなるか非常に怖ったので、俺は少しホッとする。
馬車二台に対し三人と非常に心もとないが、一台はレンタルなのだから街に戻れば適正な人数になるだろう。
ドラゴンの素材。
どれほどの値が付くか今から非常に楽しみだ。
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