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第三章
ミクス村の賭け
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「なんや、あのキヨにぃの悪いところを煮詰めたような男は」
「おい! その表現はちょっと心外なんだが……まあいいや。そういえばガンドたちはもう村に来たか?」
「ああ、子供おじさんか? ちょっと前に二人で来たで。村長と話して村はずれの山行って穴掘っとるはずや」
そうか、ガンドたちも来たか。本格的にミクス村で商売を始められる。
「姫鶴、先に戻ってマルゴットに俺たちが戻って来たことを伝えてもらえるか? 今後のことを話したいんだ」
「村長? ええで。兼光行っくでー」
とんとこと二、三歩軽く走ると、大きく翼を広げてふわりと空に飛びあがり、村の方へと消えていった。
「もう、行ったか?」
兼光が見えなくなるとアータルが荷台から顔を出した。
「ブラザー、いきなり村長なんて何するつもりだい?」
「この村で新しい食品を作るんだよ。それを俺が街に行って売り出すんだ。その打ち合わせをするんだよ」
「新しい食品!? うまいのかそれ?」
アータルは食品と言う言葉に食いついた。
女以外に食いつくのはやっぱり食事関係なんだな。
「とりあえずは保存がメインだ。それからうまいものになるように試行錯誤するさ」
「アホか? ブラザー! この世の女の子はうまいものが大好きなんだぜ。うまいが先で保存は二の次だ。味を優先しようぜ。そっちのほうが売れるぞ」
そうなんだよな。商品として考えたとき、味は絶対条件だ。それをどうするかが一番の問題だ。
どちらかといえば、自分の料理は不味くなければ良いと言うレベルなので、知識も腕もない。
「じゃあ、お前が味見をしてアドバイスをくれよ」
「それは良い案ね。アンタも働きなさいよ。そうじゃないと帰ってからアレックスに言いつけるわよ」
「嫌だね。オレは女の子のために働くのはいいけど、働かされるのは大っ嫌いなんだよ」
アータルは不貞腐れて荷台に引っ込んだ。
まあ、そもそも当てにしてなかったからいいんだけどな。
俺たちがマルゴットの家に近づくと、人だかりが出来ていた。
村人の半数以上が集まっているじゃないだろうか?
「お帰り、キヨさん」
マルゴットが村の代表として俺たちを出迎えてくれた。
「ちょっと遅くなったが、約束通り食糧を持って来た。運ぶのを手伝ってくれ」
「うーおー!!」
「食糧だ!」
「本当に持って来た!」
「くっそう、またあのニイちゃんに損させられっちまった!」
俺が荷台の食糧を見せると、村人が歓声とともにガッカリとした声も飛んでくる。
「おいおい、なんだ? この騒ぎは」
「すみませんね。キヨさんが食糧を持って帰って来るか、村のみんなで賭けてたんです」
相変わらず賭け事が好きな連中だ。
娯楽の少ない村だからって、自分たちが冬を越せるかどうかの問題だろう。
「それで俺たちが食糧を持って帰るっていうのは大穴か?」
「帰って来ないが二、帰って来ても食糧が少ないが二、帰って来ても食糧があるが一の割合だったからまあ、穴は穴だね」
普通はこんな量を持って来るとは思わないだろう。
「じゃあ、儲かったな」
「ええ、ありがたいことにね。ただ一番儲かったのはあの娘だけどね」
俺たちが軽口を叩きながら、荷物を運んでいると髪の毛も肌も真っ白な猫耳の女性が無表情のまま、こちらに近づいて来た。
「あんたの話を村のみんなに話した時に、やっぱりみんなから疑いの声が上がったんだよ。全財産をかけてもいいって言ったのがあの娘さ。それから賭けの話が盛り上がって、約束通り帰って来たらみんな、あんたの話に乗るってことになったのさ。あたしが村を説得するって言ったけど、タマラに持っていかれちまったよ」
マルゴットは嬉しそうに話しているとワーキャットの混じり者のタマラが話ができる距離まで近づいて来た。
「おかえりなさい。ご無事で何よりです」
白い肌に映える真っ赤な瞳で真っ直ぐ俺を見つめる。相変わらずの無表情で。
「ただいま。タマラが村のみんなを説得してくれたみたいだね。ありがとう」
「タマラは自分が信じたことをみんなに伝えただけです。特別なことはしていませんよ」
相変わらず何を考えているのか表情からは読み取れない。
「あー! 泥棒猫!」
「お嬢ちゃん。猫を泥棒の代名詞にするのは失礼だと前にも言いましたよね」
「あんたがキヨの唇を奪っていったじゃない! そうよね、ソフィア」
ソフィアはどう答えていいかわからず、とりあえず首を縦に降る。
「雪のように美しいお嬢様、この男はこのように二股どころか、街にもう一人、超高級レストランでデートをした女性がいる三股男ですよ。あなたのような真面目な女性には私のような男はいかがでしょうか? 決して浮気などはいたしませんよ」
さっきまで荷物の運搬を暇そうに見ていたアータルタマラを口説きはじめた。
「……いいですよ。あなたがキヨより強くて良い男なら」
タマラはお肉は美味しい方が良い、と言った風に淡々と答えた。
「では……」
「キヨは、ドラゴンの母親が狂獸化したのを体を張って止めたのだけど、あなたはそれ以上のことができる?」
タマラはウサギを取って来れる? という雰囲気でアータルに言葉を投げかける。
タマラの言葉に間違いはないが、受け取り方によっては怒り狂った成龍相手に俺一人が立ち向かったようになってるが、姫鶴を止めただけだからな。
「ブ、ブラザー……お前何者だ?」
なんか勘違いされているが、面倒くさいので放置することにした。
「おい! その表現はちょっと心外なんだが……まあいいや。そういえばガンドたちはもう村に来たか?」
「ああ、子供おじさんか? ちょっと前に二人で来たで。村長と話して村はずれの山行って穴掘っとるはずや」
そうか、ガンドたちも来たか。本格的にミクス村で商売を始められる。
「姫鶴、先に戻ってマルゴットに俺たちが戻って来たことを伝えてもらえるか? 今後のことを話したいんだ」
「村長? ええで。兼光行っくでー」
とんとこと二、三歩軽く走ると、大きく翼を広げてふわりと空に飛びあがり、村の方へと消えていった。
「もう、行ったか?」
兼光が見えなくなるとアータルが荷台から顔を出した。
「ブラザー、いきなり村長なんて何するつもりだい?」
「この村で新しい食品を作るんだよ。それを俺が街に行って売り出すんだ。その打ち合わせをするんだよ」
「新しい食品!? うまいのかそれ?」
アータルは食品と言う言葉に食いついた。
女以外に食いつくのはやっぱり食事関係なんだな。
「とりあえずは保存がメインだ。それからうまいものになるように試行錯誤するさ」
「アホか? ブラザー! この世の女の子はうまいものが大好きなんだぜ。うまいが先で保存は二の次だ。味を優先しようぜ。そっちのほうが売れるぞ」
そうなんだよな。商品として考えたとき、味は絶対条件だ。それをどうするかが一番の問題だ。
どちらかといえば、自分の料理は不味くなければ良いと言うレベルなので、知識も腕もない。
「じゃあ、お前が味見をしてアドバイスをくれよ」
「それは良い案ね。アンタも働きなさいよ。そうじゃないと帰ってからアレックスに言いつけるわよ」
「嫌だね。オレは女の子のために働くのはいいけど、働かされるのは大っ嫌いなんだよ」
アータルは不貞腐れて荷台に引っ込んだ。
まあ、そもそも当てにしてなかったからいいんだけどな。
俺たちがマルゴットの家に近づくと、人だかりが出来ていた。
村人の半数以上が集まっているじゃないだろうか?
「お帰り、キヨさん」
マルゴットが村の代表として俺たちを出迎えてくれた。
「ちょっと遅くなったが、約束通り食糧を持って来た。運ぶのを手伝ってくれ」
「うーおー!!」
「食糧だ!」
「本当に持って来た!」
「くっそう、またあのニイちゃんに損させられっちまった!」
俺が荷台の食糧を見せると、村人が歓声とともにガッカリとした声も飛んでくる。
「おいおい、なんだ? この騒ぎは」
「すみませんね。キヨさんが食糧を持って帰って来るか、村のみんなで賭けてたんです」
相変わらず賭け事が好きな連中だ。
娯楽の少ない村だからって、自分たちが冬を越せるかどうかの問題だろう。
「それで俺たちが食糧を持って帰るっていうのは大穴か?」
「帰って来ないが二、帰って来ても食糧が少ないが二、帰って来ても食糧があるが一の割合だったからまあ、穴は穴だね」
普通はこんな量を持って来るとは思わないだろう。
「じゃあ、儲かったな」
「ええ、ありがたいことにね。ただ一番儲かったのはあの娘だけどね」
俺たちが軽口を叩きながら、荷物を運んでいると髪の毛も肌も真っ白な猫耳の女性が無表情のまま、こちらに近づいて来た。
「あんたの話を村のみんなに話した時に、やっぱりみんなから疑いの声が上がったんだよ。全財産をかけてもいいって言ったのがあの娘さ。それから賭けの話が盛り上がって、約束通り帰って来たらみんな、あんたの話に乗るってことになったのさ。あたしが村を説得するって言ったけど、タマラに持っていかれちまったよ」
マルゴットは嬉しそうに話しているとワーキャットの混じり者のタマラが話ができる距離まで近づいて来た。
「おかえりなさい。ご無事で何よりです」
白い肌に映える真っ赤な瞳で真っ直ぐ俺を見つめる。相変わらずの無表情で。
「ただいま。タマラが村のみんなを説得してくれたみたいだね。ありがとう」
「タマラは自分が信じたことをみんなに伝えただけです。特別なことはしていませんよ」
相変わらず何を考えているのか表情からは読み取れない。
「あー! 泥棒猫!」
「お嬢ちゃん。猫を泥棒の代名詞にするのは失礼だと前にも言いましたよね」
「あんたがキヨの唇を奪っていったじゃない! そうよね、ソフィア」
ソフィアはどう答えていいかわからず、とりあえず首を縦に降る。
「雪のように美しいお嬢様、この男はこのように二股どころか、街にもう一人、超高級レストランでデートをした女性がいる三股男ですよ。あなたのような真面目な女性には私のような男はいかがでしょうか? 決して浮気などはいたしませんよ」
さっきまで荷物の運搬を暇そうに見ていたアータルタマラを口説きはじめた。
「……いいですよ。あなたがキヨより強くて良い男なら」
タマラはお肉は美味しい方が良い、と言った風に淡々と答えた。
「では……」
「キヨは、ドラゴンの母親が狂獸化したのを体を張って止めたのだけど、あなたはそれ以上のことができる?」
タマラはウサギを取って来れる? という雰囲気でアータルに言葉を投げかける。
タマラの言葉に間違いはないが、受け取り方によっては怒り狂った成龍相手に俺一人が立ち向かったようになってるが、姫鶴を止めただけだからな。
「ブ、ブラザー……お前何者だ?」
なんか勘違いされているが、面倒くさいので放置することにした。
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