上 下
158 / 186
第三章

旅は道連れ

しおりを挟む
「あんた、お姉さまに変なことしてないでしょうね!」

 ソフィアのいつもと違う雰囲気を察したシルビアが俺を睨みつける。

「何もしてないっ! なあ」

 俺は同意を求めて、ソフィアへ振り向く。

「ええ、最近は何もしてくれないですね」
「ちょ、ソフィアさん、何言ってるんですか? 朝から酔っ払ってますか?」
「まあ、いいわ。あんたの荷物は全部揃ったわよ。いつでも取りにきてちょうだい。ただし、生き物もあるから早めにね。預かってるあいだに死んでも補償はしないからね」

 シルビアは俺を睨んだまま、話しを進める。
 俺は火酒の支払いを行い、明日の朝早くに取りに来る約束をした。

 商会を出るとその足で馬車を借りに行く。
 シルビアの名刺を見せると相手も慣れた様子で話が進み、相場の半額で借りることができた。
 
 さすがとしか言いようがなかった。
 これで準備が整い、やっと明日の朝、ミクス村に出発だ。

 午後は旅への最後の準備をして、夜はいつもの酒場にいつものメンバーが集まった。

「今回は馬車が二台になるんじゃろ。儂ら四人で大丈夫かのう? 姫鶴たちがいると全然違うんじゃがな」
「確かにひとつの馬車に二人は心細いが、明日の出発で急に知らない人間を入れてもそれはそれで心配だ。ミクス村まで行けば、姫鶴もいるし、ガンドの来てるだろう。数日、ガマンしてくれ」
「でも上手く馬車を御せないのはキヨだけよ。大丈夫?」

 レイティアが心配そうに俺を見つめる。
 普通に走らせることはできるが、暴れたり嫌がったときはかなり心配だ。

「ああ、だから申し訳ないけど、火酒の方は三人にお願いするよ」

 兼光に引いてもらうにしても、他の馬の関係があるから難しい問題だ。ロゼッタに来てもらえると嬉しいんだが、家の事があるからと街の外に出たがらない。

「師匠は俺と同じ馬車だからな。道中に売り物飲まれたらかなわないからな」
「それは構わんが、あの二人が一緒で構わんのか?」
「もう大丈夫よね。ソフィア」
「ええ、レイ様」

 にっこり笑い合う二人を見て、これならレイティアたちが使った金なんて安いもんだと安心した。



 出発の日の朝、俺たちは馬車に荷物を載せて街の出口の門に向かう。
 入る時と違って出る時は比較スムーズに進む。

「ちょっと、どいてくれ! 道をあけてくれ!」

 あと二組で外に出られるころ、どこかで聞いた声が近づいて来た。
 俺は声がする方を見ると天然パーマの黒髪の男が何かから逃げるように必死にこちらに近づいて来る。

「アータル!」
「お、ブラザー! ちょうどいいところに! ちょっと隠れさせてくれ!」

 そう言ってアータルが俺の馬車に潜り込んだ時、赤毛の兵士が駆け込んできた。

「おお、お前たち! 今ここに黒いチリチリ頭の軽薄そうなクソ男が来なかったか?」
「いや、来てないが、そいつがサンドラに何かしたのか?」
「いや、来てないならいい……それでは!」

 そう言ってマリアーヌの赤毛の護衛は鬼の形相のまま、どこかへ行ってしまった。

「おい、俺たちはこのまま街の外に行くんだが、どうするんだ?」
「悪いなブラザー。オレもそのまま一緒に連れて行ってくれないか? ほとぼりが冷めるまで、ここを離れたいんだ」

 そうして俺たち四人はクズ男アータルを旅の仲間に加えて、ミクス村に向かう事になった。



「あんた、今度は何やったのよ」

 昼になり、休憩のためにひらけた街道沿いに馬車を止めて、食事をすることにする。
 レイティアは馬の世話をしながらアータルに文句を言った。

「おお、レイティア。太陽のように輝く君がそんなしかめっ面をしていると雨が降るだろう。ほら、笑っておくれよ」
「アータル、あんたね。キヨがお人好しだからってそれにつけ込んで、何ちゃっかりついて来てるのよ」

 アータルの言葉を全く無視してレイティアは詰め寄る。
 俺ってお人よしに思われてたのか。

「まあ、成り行きとは言え、ついて来てしまったんだ。まあ仕方がない。しかし、アータル。うちは少人数だ。ついてくるなら働いてもらうぞ。お前は料理人だろう。俺と一緒に食事係だ」
「オッケー、ブラザー。レイティアとそこのお嬢さんの分はオレに任せとけ!」

 そう言って食材を物色し始めた。

「キヨ、やめさせて! 一日で食材なくなるわよ!」

 そうだった!
 こいつは料理に関しては妥協を知らない男だった。
 後先考えずに食材を使われたらたまったもんじゃない。

「アータル! すまん! 料理は俺がする。アドバイスだけしてくれ」
「えーそうかー。オレは人に教えるの苦手なんだけどな」

 そう言うと両手一杯に抱えていた食材を馬車に戻した。

「それで、結局お前は何をやらかしたんだ? 昨日、マリアーヌとドラゴンを探しに行ったんだろう。そこで何かかしたのか?」

 俺は相変わらず野菜と肉のスープを作る。
 それを見てアータルは野菜や肉の切り方から俺に指導(文句)をする。

「いや~、ドラゴンは見つからなくて、しょうがなくて帰ったんだが、帰り際にちょっとほっぺの横に軽くキスをしたんだ。それで今朝、さっきの凛々しい女性がオレに文句を言って来て、大変だったんだ。殺されるかと思った」

 まあ、あの形相なら確実に殺(や)りに来てたな。

「しかし、ほっぺで大げさだな」
「キヨ! よく聞いてなかったのほっぺの横よ。アータルが言ってるのはつまりここ」

 レイティアはそう言って可愛らしい唇を指差した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

異世界を服従して征く俺の物語!!

猫ノ謳
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん
ファンタジー
「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ」白い部屋で目覚めた俺は、獣人達のいる魔法世界に一人放り出された。女神様にもらえたものはサバイバルグッズと1本の剣だけ。 これだけで俺はこの世界を生き抜かないといけないのか? あそこにいるのはオオカミ獣人の女の子か。モフモフを愛して止まない俺が、この世界で生き抜くためジタバタしながらも目指すは、スローライフ。 無双などできない普通の俺が、科学知識を武器にこの世界の不思議に挑んでいく、俺の異世界暮らし。 ―――――――――――――――――――――――――――― 完結した小説を改訂し、できた話から順次更新しています。基本毎日更新します。 ◇基本的にのんびりと、仲間と共にする異世界の日常を綴った物語です。 ※セルフレイティング(残酷・暴力・性描写有り)作品

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸
ファンタジー
 かつて大切な人を失った青年――。  全てはそれを取り戻すために、全てを捨てて放浪の旅へ。  長い、長い旅で心も体も擦り減らし、もはやかつてとは別人のように成り果ててもなお、自らの願いのためにその身を捧げた。  そして、もはやその旅路が終わりに差し掛かった、その時。……青年が決断する事とは。 ——  本編最終話には創音さんから頂いた、イラストを掲載しました!

転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった! 食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪ ※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。 ※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。 ※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。 ※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。

処理中です...