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第三章
旅は道連れ
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「あんた、お姉さまに変なことしてないでしょうね!」
ソフィアのいつもと違う雰囲気を察したシルビアが俺を睨みつける。
「何もしてないっ! なあ」
俺は同意を求めて、ソフィアへ振り向く。
「ええ、最近は何もしてくれないですね」
「ちょ、ソフィアさん、何言ってるんですか? 朝から酔っ払ってますか?」
「まあ、いいわ。あんたの荷物は全部揃ったわよ。いつでも取りにきてちょうだい。ただし、生き物もあるから早めにね。預かってるあいだに死んでも補償はしないからね」
シルビアは俺を睨んだまま、話しを進める。
俺は火酒の支払いを行い、明日の朝早くに取りに来る約束をした。
商会を出るとその足で馬車を借りに行く。
シルビアの名刺を見せると相手も慣れた様子で話が進み、相場の半額で借りることができた。
さすがとしか言いようがなかった。
これで準備が整い、やっと明日の朝、ミクス村に出発だ。
午後は旅への最後の準備をして、夜はいつもの酒場にいつものメンバーが集まった。
「今回は馬車が二台になるんじゃろ。儂ら四人で大丈夫かのう? 姫鶴たちがいると全然違うんじゃがな」
「確かにひとつの馬車に二人は心細いが、明日の出発で急に知らない人間を入れてもそれはそれで心配だ。ミクス村まで行けば、姫鶴もいるし、ガンドの来てるだろう。数日、ガマンしてくれ」
「でも上手く馬車を御せないのはキヨだけよ。大丈夫?」
レイティアが心配そうに俺を見つめる。
普通に走らせることはできるが、暴れたり嫌がったときはかなり心配だ。
「ああ、だから申し訳ないけど、火酒の方は三人にお願いするよ」
兼光に引いてもらうにしても、他の馬の関係があるから難しい問題だ。ロゼッタに来てもらえると嬉しいんだが、家の事があるからと街の外に出たがらない。
「師匠は俺と同じ馬車だからな。道中に売り物飲まれたらかなわないからな」
「それは構わんが、あの二人が一緒で構わんのか?」
「もう大丈夫よね。ソフィア」
「ええ、レイ様」
にっこり笑い合う二人を見て、これならレイティアたちが使った金なんて安いもんだと安心した。
出発の日の朝、俺たちは馬車に荷物を載せて街の出口の門に向かう。
入る時と違って出る時は比較スムーズに進む。
「ちょっと、どいてくれ! 道をあけてくれ!」
あと二組で外に出られるころ、どこかで聞いた声が近づいて来た。
俺は声がする方を見ると天然パーマの黒髪の男が何かから逃げるように必死にこちらに近づいて来る。
「アータル!」
「お、ブラザー! ちょうどいいところに! ちょっと隠れさせてくれ!」
そう言ってアータルが俺の馬車に潜り込んだ時、赤毛の兵士が駆け込んできた。
「おお、お前たち! 今ここに黒いチリチリ頭の軽薄そうなクソ男が来なかったか?」
「いや、来てないが、そいつがサンドラに何かしたのか?」
「いや、来てないならいい……それでは!」
そう言ってマリアーヌの赤毛の護衛は鬼の形相のまま、どこかへ行ってしまった。
「おい、俺たちはこのまま街の外に行くんだが、どうするんだ?」
「悪いなブラザー。オレもそのまま一緒に連れて行ってくれないか? ほとぼりが冷めるまで、ここを離れたいんだ」
そうして俺たち四人はクズ男アータルを旅の仲間に加えて、ミクス村に向かう事になった。
「あんた、今度は何やったのよ」
昼になり、休憩のためにひらけた街道沿いに馬車を止めて、食事をすることにする。
レイティアは馬の世話をしながらアータルに文句を言った。
「おお、レイティア。太陽のように輝く君がそんなしかめっ面をしていると雨が降るだろう。ほら、笑っておくれよ」
「アータル、あんたね。キヨがお人好しだからってそれにつけ込んで、何ちゃっかりついて来てるのよ」
アータルの言葉を全く無視してレイティアは詰め寄る。
俺ってお人よしに思われてたのか。
「まあ、成り行きとは言え、ついて来てしまったんだ。まあ仕方がない。しかし、アータル。うちは少人数だ。ついてくるなら働いてもらうぞ。お前は料理人だろう。俺と一緒に食事係だ」
「オッケー、ブラザー。レイティアとそこのお嬢さんの分はオレに任せとけ!」
そう言って食材を物色し始めた。
「キヨ、やめさせて! 一日で食材なくなるわよ!」
そうだった!
こいつは料理に関しては妥協を知らない男だった。
後先考えずに食材を使われたらたまったもんじゃない。
「アータル! すまん! 料理は俺がする。アドバイスだけしてくれ」
「えーそうかー。オレは人に教えるの苦手なんだけどな」
そう言うと両手一杯に抱えていた食材を馬車に戻した。
「それで、結局お前は何をやらかしたんだ? 昨日、マリアーヌとドラゴンを探しに行ったんだろう。そこで何かかしたのか?」
俺は相変わらず野菜と肉のスープを作る。
それを見てアータルは野菜や肉の切り方から俺に指導(文句)をする。
「いや~、ドラゴンは見つからなくて、しょうがなくて帰ったんだが、帰り際にちょっとほっぺの横に軽くキスをしたんだ。それで今朝、さっきの凛々しい女性がオレに文句を言って来て、大変だったんだ。殺されるかと思った」
まあ、あの形相なら確実に殺(や)りに来てたな。
「しかし、ほっぺで大げさだな」
「キヨ! よく聞いてなかったのほっぺの横よ。アータルが言ってるのはつまりここ」
レイティアはそう言って可愛らしい唇を指差した。
ソフィアのいつもと違う雰囲気を察したシルビアが俺を睨みつける。
「何もしてないっ! なあ」
俺は同意を求めて、ソフィアへ振り向く。
「ええ、最近は何もしてくれないですね」
「ちょ、ソフィアさん、何言ってるんですか? 朝から酔っ払ってますか?」
「まあ、いいわ。あんたの荷物は全部揃ったわよ。いつでも取りにきてちょうだい。ただし、生き物もあるから早めにね。預かってるあいだに死んでも補償はしないからね」
シルビアは俺を睨んだまま、話しを進める。
俺は火酒の支払いを行い、明日の朝早くに取りに来る約束をした。
商会を出るとその足で馬車を借りに行く。
シルビアの名刺を見せると相手も慣れた様子で話が進み、相場の半額で借りることができた。
さすがとしか言いようがなかった。
これで準備が整い、やっと明日の朝、ミクス村に出発だ。
午後は旅への最後の準備をして、夜はいつもの酒場にいつものメンバーが集まった。
「今回は馬車が二台になるんじゃろ。儂ら四人で大丈夫かのう? 姫鶴たちがいると全然違うんじゃがな」
「確かにひとつの馬車に二人は心細いが、明日の出発で急に知らない人間を入れてもそれはそれで心配だ。ミクス村まで行けば、姫鶴もいるし、ガンドの来てるだろう。数日、ガマンしてくれ」
「でも上手く馬車を御せないのはキヨだけよ。大丈夫?」
レイティアが心配そうに俺を見つめる。
普通に走らせることはできるが、暴れたり嫌がったときはかなり心配だ。
「ああ、だから申し訳ないけど、火酒の方は三人にお願いするよ」
兼光に引いてもらうにしても、他の馬の関係があるから難しい問題だ。ロゼッタに来てもらえると嬉しいんだが、家の事があるからと街の外に出たがらない。
「師匠は俺と同じ馬車だからな。道中に売り物飲まれたらかなわないからな」
「それは構わんが、あの二人が一緒で構わんのか?」
「もう大丈夫よね。ソフィア」
「ええ、レイ様」
にっこり笑い合う二人を見て、これならレイティアたちが使った金なんて安いもんだと安心した。
出発の日の朝、俺たちは馬車に荷物を載せて街の出口の門に向かう。
入る時と違って出る時は比較スムーズに進む。
「ちょっと、どいてくれ! 道をあけてくれ!」
あと二組で外に出られるころ、どこかで聞いた声が近づいて来た。
俺は声がする方を見ると天然パーマの黒髪の男が何かから逃げるように必死にこちらに近づいて来る。
「アータル!」
「お、ブラザー! ちょうどいいところに! ちょっと隠れさせてくれ!」
そう言ってアータルが俺の馬車に潜り込んだ時、赤毛の兵士が駆け込んできた。
「おお、お前たち! 今ここに黒いチリチリ頭の軽薄そうなクソ男が来なかったか?」
「いや、来てないが、そいつがサンドラに何かしたのか?」
「いや、来てないならいい……それでは!」
そう言ってマリアーヌの赤毛の護衛は鬼の形相のまま、どこかへ行ってしまった。
「おい、俺たちはこのまま街の外に行くんだが、どうするんだ?」
「悪いなブラザー。オレもそのまま一緒に連れて行ってくれないか? ほとぼりが冷めるまで、ここを離れたいんだ」
そうして俺たち四人はクズ男アータルを旅の仲間に加えて、ミクス村に向かう事になった。
「あんた、今度は何やったのよ」
昼になり、休憩のためにひらけた街道沿いに馬車を止めて、食事をすることにする。
レイティアは馬の世話をしながらアータルに文句を言った。
「おお、レイティア。太陽のように輝く君がそんなしかめっ面をしていると雨が降るだろう。ほら、笑っておくれよ」
「アータル、あんたね。キヨがお人好しだからってそれにつけ込んで、何ちゃっかりついて来てるのよ」
アータルの言葉を全く無視してレイティアは詰め寄る。
俺ってお人よしに思われてたのか。
「まあ、成り行きとは言え、ついて来てしまったんだ。まあ仕方がない。しかし、アータル。うちは少人数だ。ついてくるなら働いてもらうぞ。お前は料理人だろう。俺と一緒に食事係だ」
「オッケー、ブラザー。レイティアとそこのお嬢さんの分はオレに任せとけ!」
そう言って食材を物色し始めた。
「キヨ、やめさせて! 一日で食材なくなるわよ!」
そうだった!
こいつは料理に関しては妥協を知らない男だった。
後先考えずに食材を使われたらたまったもんじゃない。
「アータル! すまん! 料理は俺がする。アドバイスだけしてくれ」
「えーそうかー。オレは人に教えるの苦手なんだけどな」
そう言うと両手一杯に抱えていた食材を馬車に戻した。
「それで、結局お前は何をやらかしたんだ? 昨日、マリアーヌとドラゴンを探しに行ったんだろう。そこで何かかしたのか?」
俺は相変わらず野菜と肉のスープを作る。
それを見てアータルは野菜や肉の切り方から俺に指導(文句)をする。
「いや~、ドラゴンは見つからなくて、しょうがなくて帰ったんだが、帰り際にちょっとほっぺの横に軽くキスをしたんだ。それで今朝、さっきの凛々しい女性がオレに文句を言って来て、大変だったんだ。殺されるかと思った」
まあ、あの形相なら確実に殺(や)りに来てたな。
「しかし、ほっぺで大げさだな」
「キヨ! よく聞いてなかったのほっぺの横よ。アータルが言ってるのはつまりここ」
レイティアはそう言って可愛らしい唇を指差した。
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