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第三章
アータルとマリアーヌの約束
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ドアが開くと清潔そうな真っ白のタキシードに身を包んだ、軽薄そうな男が白い帽子を手にやって入ってきた。
アータルはこの格好で料理を作っているのだろうか?
「私どもの店にお越しいただき、ありがとうございます。初めてのご来店ですと、本日の魚料理に驚いていらっしゃるのではないかと思い、説明に伺いました」
俺はアータルの挨拶を聞きながら、タタキを口にする。
「あれ? ブラザー、これを食べたことがあるの?」
「ああ、俺の故郷ではタタキと呼ばれる調理方法だな。しかし、新鮮な魚で作るはずだが、そこはどうしてるんだ。川魚じゃできないだろう」
アータルは露骨にガッカリしている。
「美しいお嬢様、あなたのパートナーはなんて残酷なんでしょうか! 料理人はお客様が驚き、美味しそうに料理をいただく顔が見たくて、必死で料理を研究しているというのに、当店のスペシャリティをあんなにあっさりと……」
アータルはマリアーヌがまだ手をつけていないのを見て立ち直った。
「豊作の麦畑のような美しいお嬢様。こちらの料理は先ほどまで生きていた魚を調理したものです。本来、生でも食べられますが、焼きと生の両方が一度に楽しめる一品です。怖がらずにどうぞ召し上がってください」
満面のイケメン風、笑顔で料理を進める。
俺が普通に食べるのを見て思い切って、口に入れるマリアーヌ。
「あら、不思議な食感。それにあっさりとして美味しいわ」
ひとくち食べて安心したのか、他の魚も食べて行く。
「生きた魚を持って来てるのか? イケスか何かに入れて! 大変だろう」
「お、ブラザー! よくわかるな。大変は大変だけど、最高級の味を出すための努力なんてどこの料理屋だってやってることだろう。可愛い女の子が美味しそうにオレの料理を食べてくれるなら、ドラゴンだって生け捕りにするぜ」
アータルのドラゴンと言う言葉に俺とマリアーヌの体がピクリと反応する。
「そなたはドラゴンの居場所を知っているのですか?」
マリアーヌは持っていたフォークとナイフを置きながら、アータルに問いかける。
彼女の目的の一つにドラゴン退治があるのは確実だろう。
その手掛かりは未だにつかめていないようだ。
「ええ、知ってますよ。なんだったら明日にでもご案内しましょうか? ただし、案内だけなので、あなたと私のふたりきりで……ですが」
一瞬、兼光のことを知っているのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「わかりました。明日ですね」
「明日の昼過ぎにどうですか? どこに泊まっています? 迎えに行きますよ。ブラザーいいかい?」
「どうぞ、お好きに」
ドラゴンにかこつけてナンパしてるだけだと、確信した俺はホッとした。
「よし! では残りの料理もお楽しみください」
そう言ってアータルは部屋を出て行った。
その後の料理も素晴らしかった。
俺とマリアーヌは酒が入ったせいか、食事のおかげか色々な話で盛り上がり、親交を深めた。
なぜマリアーヌがこの店に来たがったのかというと、貴族友達がこの店に来て大変満足したから、一度行くように言われたらしい。
ただし、この店の敷居の高さは教えられなかったと言うことから、単純に店を勧めたというよりもマリアーヌが門前払いを食らって、その友人は自分の自己顕示欲を満足させようとしただけのようだ。
マリアーヌ自身はそのことに気がついていないようだったので、俺は黙っていた。
グランドマスターの責務があるが、根はおとなしく、どちらかというと気の弱い女の子だとわかった。シルビアがいつも心配する気持ちが理解出来た気がする。
夜遅く、俺たちは家路に着いた。
「今日は本当にありがとうございます。このお礼はいつかさせていただきますわ」
「これは仲直りの印だと言っただろう。礼は不要だよ。楽しんでもらえればそれで十分だ。それではお休み」
この一晩でかかった金額と俺を含めた色々な人の労力を考えると楽しんでもらってなければ大損だ。
俺は無事に家に戻ると、気疲れからか、あっという間に眠りについた。
「おはようございます。昨晩はいかがですか?」
俺が次の日の朝、台所に行くとロゼッタがいつものように朝食の準備をしながら、話しかける。
しかし、この人は本当にいつ休んでいるのだろうか? 昨晩遅くに俺が帰ってきた時にもまだ起きていたはずだ。
「おはようございます。おかげさまで上手くエスコート出来たと思います」
「そうですか。それは良かったです。今度はお嬢様をエスコートしてあげてくださいね」
ソフィアファーストがブレない人だな。
そういえば昨日マリアーヌが話していた、シルビアの守りたい人っていうのもソフィアのことだろう。
おそらく、ソフィアは自分が思っている以上に周りに愛されている。
ゼロだった時代に周りの人の期待を裏切ったという思いから、自己評価がかなり低くなってしまったために、周りの「愛」が「同情」と思ってしまってるのだろうが。
「おはようございます。ご主人様」
「おはよう、今日も可愛いな」
「え、あ、ありがとう、ござ、います~」
そう言いながら、真っ赤になったソフィアは俺から離れてどこかに行ってしまった。
しまった!
鬼教官の教えで反射的に褒めてしまった!
「グッジョブです。キヨ様」
その後も照れて俺を見られないソフィアと朝食を取ったあと、シルビアのところへ行くことにした。
アータルはこの格好で料理を作っているのだろうか?
「私どもの店にお越しいただき、ありがとうございます。初めてのご来店ですと、本日の魚料理に驚いていらっしゃるのではないかと思い、説明に伺いました」
俺はアータルの挨拶を聞きながら、タタキを口にする。
「あれ? ブラザー、これを食べたことがあるの?」
「ああ、俺の故郷ではタタキと呼ばれる調理方法だな。しかし、新鮮な魚で作るはずだが、そこはどうしてるんだ。川魚じゃできないだろう」
アータルは露骨にガッカリしている。
「美しいお嬢様、あなたのパートナーはなんて残酷なんでしょうか! 料理人はお客様が驚き、美味しそうに料理をいただく顔が見たくて、必死で料理を研究しているというのに、当店のスペシャリティをあんなにあっさりと……」
アータルはマリアーヌがまだ手をつけていないのを見て立ち直った。
「豊作の麦畑のような美しいお嬢様。こちらの料理は先ほどまで生きていた魚を調理したものです。本来、生でも食べられますが、焼きと生の両方が一度に楽しめる一品です。怖がらずにどうぞ召し上がってください」
満面のイケメン風、笑顔で料理を進める。
俺が普通に食べるのを見て思い切って、口に入れるマリアーヌ。
「あら、不思議な食感。それにあっさりとして美味しいわ」
ひとくち食べて安心したのか、他の魚も食べて行く。
「生きた魚を持って来てるのか? イケスか何かに入れて! 大変だろう」
「お、ブラザー! よくわかるな。大変は大変だけど、最高級の味を出すための努力なんてどこの料理屋だってやってることだろう。可愛い女の子が美味しそうにオレの料理を食べてくれるなら、ドラゴンだって生け捕りにするぜ」
アータルのドラゴンと言う言葉に俺とマリアーヌの体がピクリと反応する。
「そなたはドラゴンの居場所を知っているのですか?」
マリアーヌは持っていたフォークとナイフを置きながら、アータルに問いかける。
彼女の目的の一つにドラゴン退治があるのは確実だろう。
その手掛かりは未だにつかめていないようだ。
「ええ、知ってますよ。なんだったら明日にでもご案内しましょうか? ただし、案内だけなので、あなたと私のふたりきりで……ですが」
一瞬、兼光のことを知っているのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「わかりました。明日ですね」
「明日の昼過ぎにどうですか? どこに泊まっています? 迎えに行きますよ。ブラザーいいかい?」
「どうぞ、お好きに」
ドラゴンにかこつけてナンパしてるだけだと、確信した俺はホッとした。
「よし! では残りの料理もお楽しみください」
そう言ってアータルは部屋を出て行った。
その後の料理も素晴らしかった。
俺とマリアーヌは酒が入ったせいか、食事のおかげか色々な話で盛り上がり、親交を深めた。
なぜマリアーヌがこの店に来たがったのかというと、貴族友達がこの店に来て大変満足したから、一度行くように言われたらしい。
ただし、この店の敷居の高さは教えられなかったと言うことから、単純に店を勧めたというよりもマリアーヌが門前払いを食らって、その友人は自分の自己顕示欲を満足させようとしただけのようだ。
マリアーヌ自身はそのことに気がついていないようだったので、俺は黙っていた。
グランドマスターの責務があるが、根はおとなしく、どちらかというと気の弱い女の子だとわかった。シルビアがいつも心配する気持ちが理解出来た気がする。
夜遅く、俺たちは家路に着いた。
「今日は本当にありがとうございます。このお礼はいつかさせていただきますわ」
「これは仲直りの印だと言っただろう。礼は不要だよ。楽しんでもらえればそれで十分だ。それではお休み」
この一晩でかかった金額と俺を含めた色々な人の労力を考えると楽しんでもらってなければ大損だ。
俺は無事に家に戻ると、気疲れからか、あっという間に眠りについた。
「おはようございます。昨晩はいかがですか?」
俺が次の日の朝、台所に行くとロゼッタがいつものように朝食の準備をしながら、話しかける。
しかし、この人は本当にいつ休んでいるのだろうか? 昨晩遅くに俺が帰ってきた時にもまだ起きていたはずだ。
「おはようございます。おかげさまで上手くエスコート出来たと思います」
「そうですか。それは良かったです。今度はお嬢様をエスコートしてあげてくださいね」
ソフィアファーストがブレない人だな。
そういえば昨日マリアーヌが話していた、シルビアの守りたい人っていうのもソフィアのことだろう。
おそらく、ソフィアは自分が思っている以上に周りに愛されている。
ゼロだった時代に周りの人の期待を裏切ったという思いから、自己評価がかなり低くなってしまったために、周りの「愛」が「同情」と思ってしまってるのだろうが。
「おはようございます。ご主人様」
「おはよう、今日も可愛いな」
「え、あ、ありがとう、ござ、います~」
そう言いながら、真っ赤になったソフィアは俺から離れてどこかに行ってしまった。
しまった!
鬼教官の教えで反射的に褒めてしまった!
「グッジョブです。キヨ様」
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