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第三章
商談成立(火酒)
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俺たちはシルビアの馬車で家に送ってもらった。
明日の午前中にシルビアの所に行き、途中だった契約書のサイン、頼んでいた荷物の状況、現金の受け渡しをすることを約束して別れることになった。
「ご主人様、すみませんでした」
家に着くなり、ソフィアが俺に頭を下げる。
「本当だよ。心配したぞ。魔法技術院へ行くなら行くで、ロゼッタさんに言付けしてもらっていれば、もっと早くに助けに行けただろうに」
俺は水を一杯飲みながら、食事の用意をするロゼッタの元へ行こうとする。
「いえ、そうではなく……ご主人様の魔法のことが魔法技術院に知られてしまったことです。あたしがグランドマスターに口を滑らせなかったらこんなことにはならなかったのに……すみません。すみません」
そう言って、今にも泣き出しそうな目で俺を見つめる。
「なんだ、そのことか。気にする必要なんて何一つないさ。これから先、俺は必要があればこの魔法を使うつもりだし、そうすれば遅かれ早かれ、彼女らの耳に入るだろう。それにそもそも、俺を助けるためにマリアーヌを説得しようとしてくれた結果なんだろう。ありがとう。お礼をいうのはこっちのほうだよ。それより疲れただろう。食事にするから休んでいなよ」
「……ご主人様」
ソフィアはその豊満な胸を押し当てて、俺をギュッと抱きしめる。
「おいおい、これじゃあ食事の準備ができなよ」
「キヨ様、こちらは大丈夫ですから、お嬢様をよろしくお願いします」
こちらの様子が見えていないはずなのに、奥の台所から声が飛んでくる。
あの人だけは敵に回してはいけないのではなかろうかと思ってしまう。
「尋問を受けて疲れただろう。すこし横になったらどうだ?」
「疲れたので、こうして回復しております」
ソフィアはそう言って余計、優しく力を込める。
しょうがなく、俺はそのふわりとした茶色い髪を撫でてやる。
こうしてグランドマスター、マリアーヌの勘違いから引き起こされた怒涛の一日が幕を下ろした。
次の日、爽やかな朝日と小鳥の鳴き声とともにレイティアが訪ねてきた。
「おはよう、レイティア。とりあえず、今日の仕事はないよ。朝からシルビアのところに行って来るから、夕方いつもの酒場で今後の打ち合わせをしよう。だから今日も自由にしてもらっていいよ。師匠に会ったらそう伝えておいてくれないか?」
「わかったわ」
そう言ってロゼッタとソフィアとともに朝食を取っている俺の隣に座る。
「レイティア様、コーヒーでよろしいですか?」
「ロゼッタさん、ありがとう」
俺は今朝焼いたばかりのパンを飲み込んだ。
「なんで、ここで落ち着こうとしてるんだ?」
「え? 今日は私自由にしてていいんでしょう。だからキヨについて行こうかと思ってるんだけど? 昨日みたいにおかしなことに巻き込まれないようにね」
そう言って金色の髪を揺らし、ニッコリと微笑む。
「わかった。今日は三人でシルビアのところに行こうか」
シルビアは準備を済ませて待っていた。
「いろいろあったけど。まず換金した三千七百八十五万マルを渡すわね」
シルビアの隣に控えていたマリアが四つのバッグを取り出した。
「一つに約一千万マル入っているわ。確認してちょうだい」
「ああ、ありがとう。それで頼んでいた物は?」
俺はバッグを受けとるとマリアがノートを開いて状況を教えてくれる。
長期保管の効く穀物や野菜類それに塩は明日には集まる。家畜の鶏とひよこは明後日には準備ができるということだった。
さすがはこの街屈指の流通商会だ。仕事が早い。
「俺たちはこの荷物を持ってドワーフの村に行くが、なにか仕事はないか? あそこの村とは永久に商売できる約束を取り交わしてきたんだ。せっかく行くなら一緒に商売もしたいのだけど」
マリアはシルビアを見るとシルビアは頷いた。
「それでは、お願いしてよろしいでしょうか?」
さすが、シルビア流通商会だ、すぐに仕事があるとは……。
「ありがとうございます。それで運ぶ荷はなんでしょうか?」
「お酒です。ご存知のとおり、ドワーフ族は酒好きですから、悪くない商売になると思いますが……」
酒ならドワーフ族だけでなく、どこに行っても売れる。行商人として扱いやすい商材のはずだがそれをなぜ、俺たちに……。
「それで、どんな問題点があるんですか?」
「そういうとこだけは鋭いわよね。まずこのお酒は火酒と言って火がつくわ。だから火気厳禁よ」
シルビアは手をパッと広げて燃え広がるジェスチャーをする。
「以前、魔物が出る街道とご連絡いたしましたが、その後、山賊やドラゴンが目撃されるようになり、街道の危険度がますます上がっております。安全には十分お気をつけてください」
シルビアの横に座る気の強そうな女性は俺たちに注意する。
まあ、魔物はいずれ沈静化するだろうし、山賊もドラゴンももう出ない安全な街道になっているのは、まだこの街では知られていないようだ。
「了解しました。それで量と引き取り単価を教えてください」
「量は百八十リットル樽が二十樽。合計三千六百リットルです。ひと樽百万マルになります」
二千万マルか。まあ、今の俺たちの運営資金を知っての量の設定だろう。
しかし、問題が一つある。俺たちの二頭立て馬車で四トン近い荷物が運べるだろうか? ミクス村への食糧もある。
「ひとつ質問だが、この荷物を運べる馬車の貸し出しはしていないか? 俺たちの馬車は二頭立ての上に、食糧も積むからこの重量は引き切らないと思う」
ソフィアは黙ってシルビアを見る。
「マリア」
「はい、社長。社長のサインの入ったこの名刺を裏の貸し馬車屋へ持っていけば当商会協定価格にてお借りできます」
ソフィアが名刺を受け取っている間に契約書にサインをして支払いを済ませる。
「それでさっきから気になってたんだけど、なんでマリーが貴方達と一緒にいるの?」
明日の午前中にシルビアの所に行き、途中だった契約書のサイン、頼んでいた荷物の状況、現金の受け渡しをすることを約束して別れることになった。
「ご主人様、すみませんでした」
家に着くなり、ソフィアが俺に頭を下げる。
「本当だよ。心配したぞ。魔法技術院へ行くなら行くで、ロゼッタさんに言付けしてもらっていれば、もっと早くに助けに行けただろうに」
俺は水を一杯飲みながら、食事の用意をするロゼッタの元へ行こうとする。
「いえ、そうではなく……ご主人様の魔法のことが魔法技術院に知られてしまったことです。あたしがグランドマスターに口を滑らせなかったらこんなことにはならなかったのに……すみません。すみません」
そう言って、今にも泣き出しそうな目で俺を見つめる。
「なんだ、そのことか。気にする必要なんて何一つないさ。これから先、俺は必要があればこの魔法を使うつもりだし、そうすれば遅かれ早かれ、彼女らの耳に入るだろう。それにそもそも、俺を助けるためにマリアーヌを説得しようとしてくれた結果なんだろう。ありがとう。お礼をいうのはこっちのほうだよ。それより疲れただろう。食事にするから休んでいなよ」
「……ご主人様」
ソフィアはその豊満な胸を押し当てて、俺をギュッと抱きしめる。
「おいおい、これじゃあ食事の準備ができなよ」
「キヨ様、こちらは大丈夫ですから、お嬢様をよろしくお願いします」
こちらの様子が見えていないはずなのに、奥の台所から声が飛んでくる。
あの人だけは敵に回してはいけないのではなかろうかと思ってしまう。
「尋問を受けて疲れただろう。すこし横になったらどうだ?」
「疲れたので、こうして回復しております」
ソフィアはそう言って余計、優しく力を込める。
しょうがなく、俺はそのふわりとした茶色い髪を撫でてやる。
こうしてグランドマスター、マリアーヌの勘違いから引き起こされた怒涛の一日が幕を下ろした。
次の日、爽やかな朝日と小鳥の鳴き声とともにレイティアが訪ねてきた。
「おはよう、レイティア。とりあえず、今日の仕事はないよ。朝からシルビアのところに行って来るから、夕方いつもの酒場で今後の打ち合わせをしよう。だから今日も自由にしてもらっていいよ。師匠に会ったらそう伝えておいてくれないか?」
「わかったわ」
そう言ってロゼッタとソフィアとともに朝食を取っている俺の隣に座る。
「レイティア様、コーヒーでよろしいですか?」
「ロゼッタさん、ありがとう」
俺は今朝焼いたばかりのパンを飲み込んだ。
「なんで、ここで落ち着こうとしてるんだ?」
「え? 今日は私自由にしてていいんでしょう。だからキヨについて行こうかと思ってるんだけど? 昨日みたいにおかしなことに巻き込まれないようにね」
そう言って金色の髪を揺らし、ニッコリと微笑む。
「わかった。今日は三人でシルビアのところに行こうか」
シルビアは準備を済ませて待っていた。
「いろいろあったけど。まず換金した三千七百八十五万マルを渡すわね」
シルビアの隣に控えていたマリアが四つのバッグを取り出した。
「一つに約一千万マル入っているわ。確認してちょうだい」
「ああ、ありがとう。それで頼んでいた物は?」
俺はバッグを受けとるとマリアがノートを開いて状況を教えてくれる。
長期保管の効く穀物や野菜類それに塩は明日には集まる。家畜の鶏とひよこは明後日には準備ができるということだった。
さすがはこの街屈指の流通商会だ。仕事が早い。
「俺たちはこの荷物を持ってドワーフの村に行くが、なにか仕事はないか? あそこの村とは永久に商売できる約束を取り交わしてきたんだ。せっかく行くなら一緒に商売もしたいのだけど」
マリアはシルビアを見るとシルビアは頷いた。
「それでは、お願いしてよろしいでしょうか?」
さすが、シルビア流通商会だ、すぐに仕事があるとは……。
「ありがとうございます。それで運ぶ荷はなんでしょうか?」
「お酒です。ご存知のとおり、ドワーフ族は酒好きですから、悪くない商売になると思いますが……」
酒ならドワーフ族だけでなく、どこに行っても売れる。行商人として扱いやすい商材のはずだがそれをなぜ、俺たちに……。
「それで、どんな問題点があるんですか?」
「そういうとこだけは鋭いわよね。まずこのお酒は火酒と言って火がつくわ。だから火気厳禁よ」
シルビアは手をパッと広げて燃え広がるジェスチャーをする。
「以前、魔物が出る街道とご連絡いたしましたが、その後、山賊やドラゴンが目撃されるようになり、街道の危険度がますます上がっております。安全には十分お気をつけてください」
シルビアの横に座る気の強そうな女性は俺たちに注意する。
まあ、魔物はいずれ沈静化するだろうし、山賊もドラゴンももう出ない安全な街道になっているのは、まだこの街では知られていないようだ。
「了解しました。それで量と引き取り単価を教えてください」
「量は百八十リットル樽が二十樽。合計三千六百リットルです。ひと樽百万マルになります」
二千万マルか。まあ、今の俺たちの運営資金を知っての量の設定だろう。
しかし、問題が一つある。俺たちの二頭立て馬車で四トン近い荷物が運べるだろうか? ミクス村への食糧もある。
「ひとつ質問だが、この荷物を運べる馬車の貸し出しはしていないか? 俺たちの馬車は二頭立ての上に、食糧も積むからこの重量は引き切らないと思う」
ソフィアは黙ってシルビアを見る。
「マリア」
「はい、社長。社長のサインの入ったこの名刺を裏の貸し馬車屋へ持っていけば当商会協定価格にてお借りできます」
ソフィアが名刺を受け取っている間に契約書にサインをして支払いを済ませる。
「それでさっきから気になってたんだけど、なんでマリーが貴方達と一緒にいるの?」
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第三第章進行中!年内完結予定(予定)予定だよ。酷評上等! ただし具体的にね。表紙は「かわいいおんなのこメーカー」で作ってみたレイティアです。イメージですけどね。
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