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第三章
牢屋を出て
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な、なぜだ! 冤罪で死刑だと! 弁解の余地も与えられずに……。
「誰がそれを決定したんだっ! 俺の言い分も聞いてくれて!」
俺は思わず鉄格子を叩いた。それを見てレイティアがアレックスに抗議してくれる。
「アレックス! こんな時に冗談を言うのはやめて! あなたがそうやって帽子で顔を隠している時って嘘をつく時の癖よね」
レイティアはぷっくりと頬を膨らませる。
「ごめんよハニー。キヨ、びっくりしたかい。君は釈放だそうだ。子猫ちゃん、鍵を開けてやってもらえないか?」
アレックスは青い瞳をウインクさせてノブエに鍵を開けるように促す。
頭の上にピンク色のハートを飛ばせたノブエが牢の鍵を開けると、俺は晴れて自由の身となった。
「ア~レックス!! お前、冗談にもほどがあるぞ!」
「まあまあ、僕もソフィア嬢と一緒に君の開放のためにグランドマスターを説得したんだから、これくらいの冗談は愛嬌として許してくれたまえ」
そう言ってアレックスはニヤリと笑う。そのいたずらっ子の笑いがこの美青年風の顔に良く似合って余計に腹が立つ。
「今度、レイティアとアータルの店に行くから、その代金はお前にツケるからな!」
「ちょっと、勘弁してくれたまえ。あいつの店がどんな店か知って言っているのかね?」
「ちょっと待って、キヨ。何であなたがアータルの事を知ってるの?」
俺たちの話にレイティアが割り込んできた。
「ああ、俺がここに入れられた時にアータルがすでに入ってたんだよ。なぜだかわからないけど、名刺までもらって今度グランドマスターと一緒に店に来てくれって言われたんだけど、せっかくなら俺はマリアーヌなんかより君と一緒に行きたいんだが……」
レイティアはアレックスを見ると、男装の麗人は首を横に振る。
「だめよキヨ。アータルがグランドマスターとって言ったんだったら、その名刺があったとしてもわたしとでは店に入れないわよ」
「……どういうことだ? ただの酒場だろう? そもそもこんな名刺がなくても行けば良いだけだろう?」
俺はアレックスからもらった名刺をひらひらと振って見せた。
「そうか、やはり君はアータルの店の事を知らないのか。あいつの店はこの街一番、いや、この王国でも十本の指に数えられる高級レストランだ。常連客、もしくはその名刺を持っていないと店に入ることもできない。その名刺の端が赤いだろう。それはアレックスの血なんだ。店の入り口の獣人に見せろと言われなかったか?」
「ああ、言われた」
「彼女はその名刺についているアータルの血の匂いでその名刺が本物かどうか判断している。もちろん名刺を持っていたからと言ってドレスコードその他、店にふさわしくないと判断された場合は名刺を没収された上に入店すらできない。その上、一人の食事代だけで十万マルはかかると言われている高級レストランだよ。それでもあいつの店に行きたいと思っている富裕層は多くて、その名刺一つでもかなりの値が付くもんなんだよ」
俺はアータルの名刺をまじまじと見てしまった。あの男がそんなにすごい男だったのか?
「ちょっと待て! その話、おかしくないか? あいつは女性から愛情の一環として金をもらってるって言ってたぞ。そんな高級レストランのオーナーなら金に困っていないだろう?」
「なあ、キヨ。あいつは金のために料理を作っているって言ってたか?」
俺はアータルとの会話を思い出す。
「いや、女にもてるために料理をしていると言っていた……」
「そう、あいつ自身、生活に困らないくらい金は持っているだろう。ただ、店の金も女性客を喜ばせるために最高の食材、最高の調度品、最高のスタッフに金を使っている。女性からもらったお金もおそらくその女性を喜ばせるための最高級の食材なんかを買うために使っているんだと思うよ。あいつは徹底した女好きだからね」
俺はアレックスとアータルの関係を思い出した。
「アレックスはあいつの婚約者なんだろう。店に呼ばれたり、食事を作ってもらったりしてるんだろう。それほど美味いのか?」
レイティアが大きく開けた口を手で覆ったまま首を横に振って、それを言っちゃダメと俺に合図を送るが、とき既に遅かった。
「キ~ヨ! 確かに僕はアータルの婚約者だ。だが、僕にも好みの相手という物がある。それと同じようにあの馬鹿にも一応、好みの女性のタイプがあるようで、僕はどうやらそこに入っていないようなんだよ」
アレックスは怒りを抑えて、なるべく感情を抑えて、説明してくれた。
しかし、アレックスが来た時のアータルは表には出していなかったが、少しうれしそうに見えたのは俺の気のせいなのだろうか?
「でも、レイティアだったらグランドマスターを連れてきたと言ってもばれないんじゃないか?」
「え? どういうこと?」
「ああ、やっぱり君もそう思ったか。レイティア、君はグランドマスターのマリアーヌ様に瓜二つなんだよ」
アレックスは俺に同意を求めるようにレイティアに説明する。
「また冗談なの? どうせ髪の色が同じとか背丈が近いってだけでしょう。それよりキヨ、まだ契約終わってないんじゃないの?」
「ああ、しかしもう、夕方か。今日はもう疲れたので明日の朝一番にシルビアのところに行ってくる」
俺は冷たい牢屋をあとにして、ソフィアの家に帰ることにした。
「誰がそれを決定したんだっ! 俺の言い分も聞いてくれて!」
俺は思わず鉄格子を叩いた。それを見てレイティアがアレックスに抗議してくれる。
「アレックス! こんな時に冗談を言うのはやめて! あなたがそうやって帽子で顔を隠している時って嘘をつく時の癖よね」
レイティアはぷっくりと頬を膨らませる。
「ごめんよハニー。キヨ、びっくりしたかい。君は釈放だそうだ。子猫ちゃん、鍵を開けてやってもらえないか?」
アレックスは青い瞳をウインクさせてノブエに鍵を開けるように促す。
頭の上にピンク色のハートを飛ばせたノブエが牢の鍵を開けると、俺は晴れて自由の身となった。
「ア~レックス!! お前、冗談にもほどがあるぞ!」
「まあまあ、僕もソフィア嬢と一緒に君の開放のためにグランドマスターを説得したんだから、これくらいの冗談は愛嬌として許してくれたまえ」
そう言ってアレックスはニヤリと笑う。そのいたずらっ子の笑いがこの美青年風の顔に良く似合って余計に腹が立つ。
「今度、レイティアとアータルの店に行くから、その代金はお前にツケるからな!」
「ちょっと、勘弁してくれたまえ。あいつの店がどんな店か知って言っているのかね?」
「ちょっと待って、キヨ。何であなたがアータルの事を知ってるの?」
俺たちの話にレイティアが割り込んできた。
「ああ、俺がここに入れられた時にアータルがすでに入ってたんだよ。なぜだかわからないけど、名刺までもらって今度グランドマスターと一緒に店に来てくれって言われたんだけど、せっかくなら俺はマリアーヌなんかより君と一緒に行きたいんだが……」
レイティアはアレックスを見ると、男装の麗人は首を横に振る。
「だめよキヨ。アータルがグランドマスターとって言ったんだったら、その名刺があったとしてもわたしとでは店に入れないわよ」
「……どういうことだ? ただの酒場だろう? そもそもこんな名刺がなくても行けば良いだけだろう?」
俺はアレックスからもらった名刺をひらひらと振って見せた。
「そうか、やはり君はアータルの店の事を知らないのか。あいつの店はこの街一番、いや、この王国でも十本の指に数えられる高級レストランだ。常連客、もしくはその名刺を持っていないと店に入ることもできない。その名刺の端が赤いだろう。それはアレックスの血なんだ。店の入り口の獣人に見せろと言われなかったか?」
「ああ、言われた」
「彼女はその名刺についているアータルの血の匂いでその名刺が本物かどうか判断している。もちろん名刺を持っていたからと言ってドレスコードその他、店にふさわしくないと判断された場合は名刺を没収された上に入店すらできない。その上、一人の食事代だけで十万マルはかかると言われている高級レストランだよ。それでもあいつの店に行きたいと思っている富裕層は多くて、その名刺一つでもかなりの値が付くもんなんだよ」
俺はアータルの名刺をまじまじと見てしまった。あの男がそんなにすごい男だったのか?
「ちょっと待て! その話、おかしくないか? あいつは女性から愛情の一環として金をもらってるって言ってたぞ。そんな高級レストランのオーナーなら金に困っていないだろう?」
「なあ、キヨ。あいつは金のために料理を作っているって言ってたか?」
俺はアータルとの会話を思い出す。
「いや、女にもてるために料理をしていると言っていた……」
「そう、あいつ自身、生活に困らないくらい金は持っているだろう。ただ、店の金も女性客を喜ばせるために最高の食材、最高の調度品、最高のスタッフに金を使っている。女性からもらったお金もおそらくその女性を喜ばせるための最高級の食材なんかを買うために使っているんだと思うよ。あいつは徹底した女好きだからね」
俺はアレックスとアータルの関係を思い出した。
「アレックスはあいつの婚約者なんだろう。店に呼ばれたり、食事を作ってもらったりしてるんだろう。それほど美味いのか?」
レイティアが大きく開けた口を手で覆ったまま首を横に振って、それを言っちゃダメと俺に合図を送るが、とき既に遅かった。
「キ~ヨ! 確かに僕はアータルの婚約者だ。だが、僕にも好みの相手という物がある。それと同じようにあの馬鹿にも一応、好みの女性のタイプがあるようで、僕はどうやらそこに入っていないようなんだよ」
アレックスは怒りを抑えて、なるべく感情を抑えて、説明してくれた。
しかし、アレックスが来た時のアータルは表には出していなかったが、少しうれしそうに見えたのは俺の気のせいなのだろうか?
「でも、レイティアだったらグランドマスターを連れてきたと言ってもばれないんじゃないか?」
「え? どういうこと?」
「ああ、やっぱり君もそう思ったか。レイティア、君はグランドマスターのマリアーヌ様に瓜二つなんだよ」
アレックスは俺に同意を求めるようにレイティアに説明する。
「また冗談なの? どうせ髪の色が同じとか背丈が近いってだけでしょう。それよりキヨ、まだ契約終わってないんじゃないの?」
「ああ、しかしもう、夕方か。今日はもう疲れたので明日の朝一番にシルビアのところに行ってくる」
俺は冷たい牢屋をあとにして、ソフィアの家に帰ることにした。
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