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第二章

マリアーヌとの再会

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「最低でもキロ百五万マル、百三十キロで一億三千六百五十万マル。極上品の上、今はマナ石の値が上がっていますのよ。よくドワーフがこんな品を出してきたわね。本来ならあなたの言い値で引き取らせていただきますが、シルビア流通商会は真っ当な仕事をしている誇りとお姉さまのおかげで今回はまけておいてあげるわ。これからはもっと商品を見る目を鍛えなさい!」

 一億三千六百五十万マル!? 八千六百五十万マルも儲けが出た!?

 俺が呆けてているとマリアが書類の作成をしようとしていた。

「ちょっと待ってくれ!」
「なによ。この金額では不満だというの? 無駄な欲は自分を滅ぼすわよ」

 シルビアはゴミを見るような眼で俺を睨みつけた。

「いや、違う! 金額はそちらのご厚意に甘えてその価格でお願いします。塩の仕入れ価格を引いた利益で購入したいものがあります。それとの差額を換金したい」

 俺はタマラから預かったメモをマリアに渡すとシルビアものぞき込むように内容を確認する。

「はあ~。お姉さま、やっぱりこの人は商売の才能がありませんよ。今年は作物が豊作で値崩れを起こしているのですよ。それを仕入れても大した儲けにはならないというのに」
「いや、それはわかっている。このリストの物でそのまま商売するつもりはない。逆に値が安いなら量を増やしてほしい。おおよそどのくらいの予算になりますか?」

 俺の真剣な目つきにマリアはシルビアを見る。シルビアはコクリと無言で頭を縦に振る。

「確認ですが、この塩に関しては三級品でよろしいのですね」

 俺たちが今回運んだ塩は混じりけの少ない一級品のため、価格が高かった。品質によって二級品、三級品が存在する。

「いや、二級品と三級品を各々お願いします」

 俺たちが考えている食品加工用では三級品で十分なはずだ。しかしその加工食品を売り物とするなら二級品を使用して品質を上げたい。

「そうしますと三千万マルあればこと足りると思います。正確な価格はきちんと出さなければなりませんが……」
「それでは三千万マルを上限として余った分は小麦粉を増やしてください。足りないようですとどのくらいオーバーするか教えていただけます?」
「わかりました。ただし、物の準備には少しお時間をいただきます」

 俺はそれを了承するとマリアは書類を作成し始めた。

 まずこちらからの支払いで塩の代金に利息が付き五千五百万マル、ミクス村への食料代に三千万マルで合計八千五百万マル。それに税金が一割持っていかれるので千三百六十五万マル。
 一億三千六百五十万マルから引くと三千七百八十五万マルが手元に残る計算になる。
 レイティア達の給料と次の品物の仕入れ資金を考えると、ソフィアの両親の借金はまた、後回しになってしまう。
 しょうがない。また、ソフィアの両親に頭を下げに行こう。
 それでも運用資金が三千万マル近くになったのはありがたいことだ。

 マリアが作成した書類を二人で確認して俺はサインをしたその時、ドアがノックされた。

「だれ?」

 シルビアが不満げな声を出す。この後のお姉ちゃん大好きタイムが遅くなるのを嫌がっているのだろうか?

「わたくしです、シル。マリアーヌですわ」
「マリー! ちょっと待って!」

 シルビアは慌ててドアを開けに行く。

 なんでグランドマスターがここにきているんだ?
 シルビアは様付けどころか愛称で呼んでいる。どういう関係だ?

「マリー、どうしたの?」
「あら、昨日、いつでも遊びにおいでと言ったのはあなたよ。あらお客様?」

 レイティアそっくりの金髪の美少女は金色の瞳をそっと伏せ、その白地に金糸のレースの入ったスカートをちょこんとつまみ、こちらに挨拶をする。

「ごきげんよう」

 非常に気品高きレイティアと言うべきマリアーヌは鈴のような声であいさつをする。

「ご機嫌麗しく、マリアーヌ様」

 ソフィアとマリアはすぐに椅子から立ち上がり、スカートを持ち上げ、片膝をついて頭を下げる。
 俺も慌てて、片膝立ちになる。

「あら、そちらのかたはあの時の……その後、腕は大丈夫ですの?」
「マリー、そこのヒモ男の事を知ってるの?」

 ヒモ男っていうな!

 俺は心の中で毒づきながら、成り行きを見守っていた。

「あら、ヒモ男っていうと例の?」

 マリアーヌはその可愛らしい唇をか細い手でふさぎ、驚きの声を上げる。

「そちらがわたくしのお姉さまよ」

 シルビアはソフィアを紹介する。

「姉の……ソフィアで……ございます」

 相変わらずか細い声で頑張って挨拶をする。

「それでこっちがヒモ男のキヨよ」
「あの、お姉さんの財産を狙って近づいたヒモ男。やさしいお姉さんに付け込んであんなことやこんなことをしている……」

 マリアーヌはわなわなと小さく震えていた。

 おい! シルビア! 俺の事を普段どんな風に言っているんだよ。

「サンドラ! サンドラ!」

 マリアーヌが叫ぶとあの時、俺を完全に無視していた赤毛の護衛隊長が即座に部屋に入ってきた。

「およびですか、マリアーヌ様!」
「その男を捕らえて、牢に入れてちょうだい!」
「かしこまりました」

 サンドラはそう言い終わらないうちに俺をロープで捕縛すると、肩に抱え上げて部屋を出た。
 部屋の中でいろいろと叫び声が響いていたが、あっという間に部屋から離れ、聞こえなくなる。
 サンドラは警備隊本部に駆け込み、牢屋に俺を放りこむとカギをかけた。

 あっという間の出来事に思考が追い付かない俺の背中は冷たい石畳に打ち付けられ、痛みと同時に現実的な思考を取り戻した。

「ちょっと待て! 俺が何をしたっていうんだ。ここを出してくれ!」

 俺は鉄格子に手をかけ、抗議の声を上げる。

「マリアーヌ様のご指示だ。今後の処分は追って指示する」

 こうして訳も分からず、俺は牢屋の中に入れられてしまった。


ーーーーー 第二章完結 -----
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