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第二章
村の一員
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次の日、朝食をすませ、村を出発する準備をする。
「なあ、師匠、姫鶴。昨夜の事なんだが……」
アツシの事が実は俺の夢だったのではないかと不安になる。
その俺の不安を知ってか知らずか、ムサシマルは平然と答える。
「ああ、儂はダニエルに注文しておる刀ができるまでは帰らんから安心せい。それまでは二人ともみっちりしごいてやるからのう」
「この世界にやり残したことってそれか! しかし、やっぱりあれは夢じゃなかったんだな」
「まあ、うちも夢かとおもとったけど、二人とも覚えてるっていうことはほんまの事やったんやな」
俺たちはちょうど三人きりになったときに昨夜の確認をする。
「キヨ~! 馬選ぶのは私任せでいいの?」
レイティアが馬小屋から俺に声をかけてくる。
これまで、兼光が馬車を引いてきてくれていたのだが、それができないためしょうがなく、馬を買うことにした。
マルゴットは貸してくれると申し出てくれたのだが、今後の事を考えると馬は必要になる。それなりの出費になるが、買い取った方が無難だろう。
「ああ、俺にはさっぱりだから任せるよ」
レイティアは了解の意味で手を挙げて、馬小屋へと戻っていった。
俺とソフィアは、マルゴットとタマラが待っているマルゴットの家へ向かった。
「今日の昼過ぎに俺たちは街へ戻る。その前にいろいろと話がしておきたいが、いいか?」
「もう少しゆっくりしていけばよろしいのに」
「そうしたいのはやまやまなんだが、ドワーフの村で予想以上に時間を食ったのと、例のグランドマスターの動向も気になるからな」
「あら、そうですか。わかりました。では何の話から始めましょうか?」
「まずはこちらの支払いからだ。今、レイティアが選んでいる馬二頭でいくらになる?」
すでに二頭譲ってもらえることで話がついているが、村にとって馬は貴重な労働力だ。当然、無償とはいかない。
マルゴットは少し考えて、口を開いた。
「どの子を選ぶかわかりませんが、一頭四十万マルでいかがでしょうか?」
俺はソフィアを見ると、その顔は妥当だと示していた。
「わかった。次に今回の俺たちのこの村での滞在費用だ」
「え、それは受け取れません。あなたたちは村の客人です。キヨさんが魔物の発生を止めてくれなければ、あたしたちは来年以降もどうなっていたかわかりません。そんな恩人に滞在費用なんていただけませんよ。あたしたちはそんな薄情ではないですよ」
マルゴットの言葉には少し怒りを含んでいた。
「わかった。それでは姫鶴と兼光の事だが、あいつらの滞在費用は受け取ってくれ。いつまでこの村にかくまってもらうかわからないし、かくまっていることが分かるとこの村にも迷惑をかけるかもしれない」
マルゴットは大きくため息をついて俺を見る。
「キヨさん。あなたは生まれ育った村に帰ったとき、その村に滞在費用を払いますか? 姫鶴ちゃんはシリルの嫁です。もう、この村の住人の一人です。あの子がそのうちこの村を旅立つ日が来るかもしれませんが、この村はもうあの子を住民と認めています。そりゃあ、村の一員として働いてもらいますが、それ以外にあなたからも、あの子からも私たちは何ももらおうとは思っていません。見てください」
そう言ってマルゴットは立ち上がると、ドアを大きく開け放った。
そこから遠くに見える畑には何やら黒いものがせっせと動いていた。
「兼光ちゃんは畑仕事を手伝ってくれています。あれだけ力があれば、開墾するときにも役に立ってくれるでしょう。姫鶴ちゃんも村の事を手伝ってくれると言ってくれてます」
そうか、俺の杞憂だったのか。混じり者の村だからなのか、この世界には異質な存在である俺たちを快く受け入れてくれる。
「悪かった。では切り良く二頭の馬代として百万マル払おう。多い分は先ほどの言葉の謝罪分だと思ってくれ」
俺は百万マルを取り出す。それを見てマルゴットは受け取るのを躊躇する。
「親方様、キヨさんに恥をかかせる気ですか?」
タマラがそういうと、あきらめたようにマルゴットは金を受け取った。
「ありがたく頂戴(ちょうだい)します」
「次に今後のことを話し合いたい」
「なあ、師匠、姫鶴。昨夜の事なんだが……」
アツシの事が実は俺の夢だったのではないかと不安になる。
その俺の不安を知ってか知らずか、ムサシマルは平然と答える。
「ああ、儂はダニエルに注文しておる刀ができるまでは帰らんから安心せい。それまでは二人ともみっちりしごいてやるからのう」
「この世界にやり残したことってそれか! しかし、やっぱりあれは夢じゃなかったんだな」
「まあ、うちも夢かとおもとったけど、二人とも覚えてるっていうことはほんまの事やったんやな」
俺たちはちょうど三人きりになったときに昨夜の確認をする。
「キヨ~! 馬選ぶのは私任せでいいの?」
レイティアが馬小屋から俺に声をかけてくる。
これまで、兼光が馬車を引いてきてくれていたのだが、それができないためしょうがなく、馬を買うことにした。
マルゴットは貸してくれると申し出てくれたのだが、今後の事を考えると馬は必要になる。それなりの出費になるが、買い取った方が無難だろう。
「ああ、俺にはさっぱりだから任せるよ」
レイティアは了解の意味で手を挙げて、馬小屋へと戻っていった。
俺とソフィアは、マルゴットとタマラが待っているマルゴットの家へ向かった。
「今日の昼過ぎに俺たちは街へ戻る。その前にいろいろと話がしておきたいが、いいか?」
「もう少しゆっくりしていけばよろしいのに」
「そうしたいのはやまやまなんだが、ドワーフの村で予想以上に時間を食ったのと、例のグランドマスターの動向も気になるからな」
「あら、そうですか。わかりました。では何の話から始めましょうか?」
「まずはこちらの支払いからだ。今、レイティアが選んでいる馬二頭でいくらになる?」
すでに二頭譲ってもらえることで話がついているが、村にとって馬は貴重な労働力だ。当然、無償とはいかない。
マルゴットは少し考えて、口を開いた。
「どの子を選ぶかわかりませんが、一頭四十万マルでいかがでしょうか?」
俺はソフィアを見ると、その顔は妥当だと示していた。
「わかった。次に今回の俺たちのこの村での滞在費用だ」
「え、それは受け取れません。あなたたちは村の客人です。キヨさんが魔物の発生を止めてくれなければ、あたしたちは来年以降もどうなっていたかわかりません。そんな恩人に滞在費用なんていただけませんよ。あたしたちはそんな薄情ではないですよ」
マルゴットの言葉には少し怒りを含んでいた。
「わかった。それでは姫鶴と兼光の事だが、あいつらの滞在費用は受け取ってくれ。いつまでこの村にかくまってもらうかわからないし、かくまっていることが分かるとこの村にも迷惑をかけるかもしれない」
マルゴットは大きくため息をついて俺を見る。
「キヨさん。あなたは生まれ育った村に帰ったとき、その村に滞在費用を払いますか? 姫鶴ちゃんはシリルの嫁です。もう、この村の住人の一人です。あの子がそのうちこの村を旅立つ日が来るかもしれませんが、この村はもうあの子を住民と認めています。そりゃあ、村の一員として働いてもらいますが、それ以外にあなたからも、あの子からも私たちは何ももらおうとは思っていません。見てください」
そう言ってマルゴットは立ち上がると、ドアを大きく開け放った。
そこから遠くに見える畑には何やら黒いものがせっせと動いていた。
「兼光ちゃんは畑仕事を手伝ってくれています。あれだけ力があれば、開墾するときにも役に立ってくれるでしょう。姫鶴ちゃんも村の事を手伝ってくれると言ってくれてます」
そうか、俺の杞憂だったのか。混じり者の村だからなのか、この世界には異質な存在である俺たちを快く受け入れてくれる。
「悪かった。では切り良く二頭の馬代として百万マル払おう。多い分は先ほどの言葉の謝罪分だと思ってくれ」
俺は百万マルを取り出す。それを見てマルゴットは受け取るのを躊躇する。
「親方様、キヨさんに恥をかかせる気ですか?」
タマラがそういうと、あきらめたようにマルゴットは金を受け取った。
「ありがたく頂戴(ちょうだい)します」
「次に今後のことを話し合いたい」
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