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第二章

贖罪(しょくざい)

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 俺の提案に二人は同意した。

「キヨ、お主は案外残酷だのう」

 村長の家を出たムサシマルは俺に話しかける。

「師匠もそう思うか。だが、あのままあっさりと死んでもらってはシリルと姫鶴に合わす顔がない」

 俺が二人に提案した条件は二つ。
 一つは今回の首謀者はサイゾウが行ったこととして、真実は墓まで持って行ってもらう。当然、姫鶴にもミクス村の住人にも謝罪はさせない。一生その罪を心に背負って生きてもらう。
 もう一つは一生ミクス村のために働いてもらう。マルゴットと相談をするが、ミクス村に移住してミクス村の発展に勤めてもらう。二人で。

 ガンドをシャーロッドのもとに残した俺たちはダニエルの店に向かう。
 二つの馬車の片方にマナ石が山積みに積まれていた。

「ダニエルさんお墨付きの良質マナ石、百三十キロ。間違いなく載せといたよ」
「ありがとよ。婆さん、今日はもう仕事納めか? 今後の長い仕事の付き合いになるんだ。飲みにいかないか? 今日は俺がおごるからさ。マルゴットたちも来るだろう」
「お、気前がいいね。ただし、あたしはまだ婆さんって呼ばれる年じゃないよ。まだまだ八十だよ。人生の折り返し地点も来てやしないまだまだぴちぴちさ」

 八十で折り返し地点に来ていない? エルフと同じ長命種か。

「わかったよ、ダニエル姉さん。これからもよろしくな」

 俺はダニエルと握手をする。
 今日は潰れるまで酒を飲みたい気分だ。陽気に騒いで忘れたい。

 俺たちはドワーフの酒場へ繰り出した。
 蛇の塩焼き、キノコと猪の煮込み、モグラの唐揚げ、幼虫の蒸し焼きはどれも味が濃く酒が進む。
 ビールは苦味もアルコールも強い。

 今日の俺にはちょうどいい。

 ドワーフたちは平気で度数の高いウイスキーをロックで煽る。

 俺も同じように煽り、笑う。
 ムサシマルがマルゴットとサリアに連れられて店を出て行くのが見えたが、気にしない。

 歌い、踊り、食べて、飲んで、笑い、騒ぐ。

 今、このひと時、全てを忘れて。




 頭が痛い。

 ズキズキと頭が痛い。
 胃がムカムカと吐き気がする。
 いかん、上がって来た!

 俺は起き上がり、都合よく隣に用意されていたバケツに胃酸と酒と食べ物をぶちまける。

「キヨ、水よ」

 渡された水を飲み、また吐く。
 それを何度か繰り返すと少し気分が良くなり、また眠りにつく。




 次の日の朝、二日酔いで頭と折れた左腕がズキズキと傷んだ。
 
「ご主人様、大丈夫ですか? 昨日はかなり飲んでいましたけど」
「ああ、すまないが、水をもらえるか?」
「はい。どうぞ」

 ひんやりとした岩が気持ちよかったが、起き上がると酒場には死屍累々の酔っぱらいが眠っていた。
 見回すとレイティアがとなりで寝息をたてていた。ムサシマル、マルゴットとサリアは見当たらなかった。
 ダニエルはコンタに抱きついたまま眠っている。かわいそうにコンタは悪夢を見ているように唸っている。
 
「店長、熱いコーヒーを入れてくれるか? それも濃い目で、人数分。あと会計をいいか?」
「ああ、今からお湯を沸かすからちょっと待っててくれ。その間に会計だが、二十万三千七百マルだけど、二十万マルちょうどでいいぞ」

 俺は痛む頭を抱えてソフィアに聞いた。

「俺たち、何人いた?」
「八人ですよ」
「つまり、一人当たり二万五千マル? 高すぎないか?」
「ああ、そういうことでしたら、ご主人様が『今日は俺のおごりだ!』と言って、店にいた人の分も払うことになってますよ」

 あ~やっちまった! 記憶にない!
 ソフィアがそう言うなら、俺がそう約束したんだろう。
 俺は金を払い、コーヒーを待つ。

「ソフィア、俺は昨夜、何か言ってたか?」
「いいえ、特には……ただ」
「ただ?」

 ソフィアの持ってきてくれた濡れた布で俺が顔を拭く。特に口の周りの吐瀉物(としゃぶつ)を拭き取る。

「いつも以上に陽気でしたよ。ご主人様が歌ってるの初めて聞きました。すごく楽しそうでしたよ」
「そうか、周りのみんなも楽しそうだったか?」
「ええ、それは楽しそうでしたよ。シャーロッドさんも救出されてドワーフさんたちもすごく喜んでいましたよ」
「ソフィアも楽しかったか?」
「ええ、あたしも楽しかったですよ」
「それなら、二十万マルも安いもんだな」

 熱々の真っ黒なコーヒーがお猪口より少し大きいくらいのコップに入って運ばれてきた。

「なんだこれは?」
「ドワーフコーヒーだよ、にいちゃん初めてかい? コーヒー粉が底に沈んでいるから上澄みだけそっと飲むんだよ。これもセットだよ」
「レイティア、起きてくれ。朝のコーヒーが来たよ」

 レイティアは目をこすり、大きくひとつ伸びをする。
 店長はクッキーを二枚、コーヒーの横に置く。
 俺はコーヒーにそっと口をつける。
 コーヒーの濃縮液だ。

 苦い。

 目が覚める苦さ。
 人生の苦さなのかもしれない。

 クッキーを一枚、口にする。
 甘くそして少ししょっぱい。塩クッキーか。
 苦いこのコーヒーをよく引き立たせる。

「よし! 少し元気が出た」

 そう言った俺を覗き込んだレイティアは太陽のような笑顔を見せる。

「そう、良かった。ちょっと元気なかったもんね」

 レイティアはそう言って、自分のコーヒーに口をつける。
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