133 / 186
第二章
贖罪(しょくざい)
しおりを挟む
俺の提案に二人は同意した。
「キヨ、お主は案外残酷だのう」
村長の家を出たムサシマルは俺に話しかける。
「師匠もそう思うか。だが、あのままあっさりと死んでもらってはシリルと姫鶴に合わす顔がない」
俺が二人に提案した条件は二つ。
一つは今回の首謀者はサイゾウが行ったこととして、真実は墓まで持って行ってもらう。当然、姫鶴にもミクス村の住人にも謝罪はさせない。一生その罪を心に背負って生きてもらう。
もう一つは一生ミクス村のために働いてもらう。マルゴットと相談をするが、ミクス村に移住してミクス村の発展に勤めてもらう。二人で。
ガンドをシャーロッドのもとに残した俺たちはダニエルの店に向かう。
二つの馬車の片方にマナ石が山積みに積まれていた。
「ダニエルさんお墨付きの良質マナ石、百三十キロ。間違いなく載せといたよ」
「ありがとよ。婆さん、今日はもう仕事納めか? 今後の長い仕事の付き合いになるんだ。飲みにいかないか? 今日は俺がおごるからさ。マルゴットたちも来るだろう」
「お、気前がいいね。ただし、あたしはまだ婆さんって呼ばれる年じゃないよ。まだまだ八十だよ。人生の折り返し地点も来てやしないまだまだぴちぴちさ」
八十で折り返し地点に来ていない? エルフと同じ長命種か。
「わかったよ、ダニエル姉さん。これからもよろしくな」
俺はダニエルと握手をする。
今日は潰れるまで酒を飲みたい気分だ。陽気に騒いで忘れたい。
俺たちはドワーフの酒場へ繰り出した。
蛇の塩焼き、キノコと猪の煮込み、モグラの唐揚げ、幼虫の蒸し焼きはどれも味が濃く酒が進む。
ビールは苦味もアルコールも強い。
今日の俺にはちょうどいい。
ドワーフたちは平気で度数の高いウイスキーをロックで煽る。
俺も同じように煽り、笑う。
ムサシマルがマルゴットとサリアに連れられて店を出て行くのが見えたが、気にしない。
歌い、踊り、食べて、飲んで、笑い、騒ぐ。
今、このひと時、全てを忘れて。
頭が痛い。
ズキズキと頭が痛い。
胃がムカムカと吐き気がする。
いかん、上がって来た!
俺は起き上がり、都合よく隣に用意されていたバケツに胃酸と酒と食べ物をぶちまける。
「キヨ、水よ」
渡された水を飲み、また吐く。
それを何度か繰り返すと少し気分が良くなり、また眠りにつく。
次の日の朝、二日酔いで頭と折れた左腕がズキズキと傷んだ。
「ご主人様、大丈夫ですか? 昨日はかなり飲んでいましたけど」
「ああ、すまないが、水をもらえるか?」
「はい。どうぞ」
ひんやりとした岩が気持ちよかったが、起き上がると酒場には死屍累々の酔っぱらいが眠っていた。
見回すとレイティアがとなりで寝息をたてていた。ムサシマル、マルゴットとサリアは見当たらなかった。
ダニエルはコンタに抱きついたまま眠っている。かわいそうにコンタは悪夢を見ているように唸っている。
「店長、熱いコーヒーを入れてくれるか? それも濃い目で、人数分。あと会計をいいか?」
「ああ、今からお湯を沸かすからちょっと待っててくれ。その間に会計だが、二十万三千七百マルだけど、二十万マルちょうどでいいぞ」
俺は痛む頭を抱えてソフィアに聞いた。
「俺たち、何人いた?」
「八人ですよ」
「つまり、一人当たり二万五千マル? 高すぎないか?」
「ああ、そういうことでしたら、ご主人様が『今日は俺のおごりだ!』と言って、店にいた人の分も払うことになってますよ」
あ~やっちまった! 記憶にない!
ソフィアがそう言うなら、俺がそう約束したんだろう。
俺は金を払い、コーヒーを待つ。
「ソフィア、俺は昨夜、何か言ってたか?」
「いいえ、特には……ただ」
「ただ?」
ソフィアの持ってきてくれた濡れた布で俺が顔を拭く。特に口の周りの吐瀉物(としゃぶつ)を拭き取る。
「いつも以上に陽気でしたよ。ご主人様が歌ってるの初めて聞きました。すごく楽しそうでしたよ」
「そうか、周りのみんなも楽しそうだったか?」
「ええ、それは楽しそうでしたよ。シャーロッドさんも救出されてドワーフさんたちもすごく喜んでいましたよ」
「ソフィアも楽しかったか?」
「ええ、あたしも楽しかったですよ」
「それなら、二十万マルも安いもんだな」
熱々の真っ黒なコーヒーがお猪口より少し大きいくらいのコップに入って運ばれてきた。
「なんだこれは?」
「ドワーフコーヒーだよ、にいちゃん初めてかい? コーヒー粉が底に沈んでいるから上澄みだけそっと飲むんだよ。これもセットだよ」
「レイティア、起きてくれ。朝のコーヒーが来たよ」
レイティアは目をこすり、大きくひとつ伸びをする。
店長はクッキーを二枚、コーヒーの横に置く。
俺はコーヒーにそっと口をつける。
コーヒーの濃縮液だ。
苦い。
目が覚める苦さ。
人生の苦さなのかもしれない。
クッキーを一枚、口にする。
甘くそして少ししょっぱい。塩クッキーか。
苦いこのコーヒーをよく引き立たせる。
「よし! 少し元気が出た」
そう言った俺を覗き込んだレイティアは太陽のような笑顔を見せる。
「そう、良かった。ちょっと元気なかったもんね」
レイティアはそう言って、自分のコーヒーに口をつける。
「キヨ、お主は案外残酷だのう」
村長の家を出たムサシマルは俺に話しかける。
「師匠もそう思うか。だが、あのままあっさりと死んでもらってはシリルと姫鶴に合わす顔がない」
俺が二人に提案した条件は二つ。
一つは今回の首謀者はサイゾウが行ったこととして、真実は墓まで持って行ってもらう。当然、姫鶴にもミクス村の住人にも謝罪はさせない。一生その罪を心に背負って生きてもらう。
もう一つは一生ミクス村のために働いてもらう。マルゴットと相談をするが、ミクス村に移住してミクス村の発展に勤めてもらう。二人で。
ガンドをシャーロッドのもとに残した俺たちはダニエルの店に向かう。
二つの馬車の片方にマナ石が山積みに積まれていた。
「ダニエルさんお墨付きの良質マナ石、百三十キロ。間違いなく載せといたよ」
「ありがとよ。婆さん、今日はもう仕事納めか? 今後の長い仕事の付き合いになるんだ。飲みにいかないか? 今日は俺がおごるからさ。マルゴットたちも来るだろう」
「お、気前がいいね。ただし、あたしはまだ婆さんって呼ばれる年じゃないよ。まだまだ八十だよ。人生の折り返し地点も来てやしないまだまだぴちぴちさ」
八十で折り返し地点に来ていない? エルフと同じ長命種か。
「わかったよ、ダニエル姉さん。これからもよろしくな」
俺はダニエルと握手をする。
今日は潰れるまで酒を飲みたい気分だ。陽気に騒いで忘れたい。
俺たちはドワーフの酒場へ繰り出した。
蛇の塩焼き、キノコと猪の煮込み、モグラの唐揚げ、幼虫の蒸し焼きはどれも味が濃く酒が進む。
ビールは苦味もアルコールも強い。
今日の俺にはちょうどいい。
ドワーフたちは平気で度数の高いウイスキーをロックで煽る。
俺も同じように煽り、笑う。
ムサシマルがマルゴットとサリアに連れられて店を出て行くのが見えたが、気にしない。
歌い、踊り、食べて、飲んで、笑い、騒ぐ。
今、このひと時、全てを忘れて。
頭が痛い。
ズキズキと頭が痛い。
胃がムカムカと吐き気がする。
いかん、上がって来た!
俺は起き上がり、都合よく隣に用意されていたバケツに胃酸と酒と食べ物をぶちまける。
「キヨ、水よ」
渡された水を飲み、また吐く。
それを何度か繰り返すと少し気分が良くなり、また眠りにつく。
次の日の朝、二日酔いで頭と折れた左腕がズキズキと傷んだ。
「ご主人様、大丈夫ですか? 昨日はかなり飲んでいましたけど」
「ああ、すまないが、水をもらえるか?」
「はい。どうぞ」
ひんやりとした岩が気持ちよかったが、起き上がると酒場には死屍累々の酔っぱらいが眠っていた。
見回すとレイティアがとなりで寝息をたてていた。ムサシマル、マルゴットとサリアは見当たらなかった。
ダニエルはコンタに抱きついたまま眠っている。かわいそうにコンタは悪夢を見ているように唸っている。
「店長、熱いコーヒーを入れてくれるか? それも濃い目で、人数分。あと会計をいいか?」
「ああ、今からお湯を沸かすからちょっと待っててくれ。その間に会計だが、二十万三千七百マルだけど、二十万マルちょうどでいいぞ」
俺は痛む頭を抱えてソフィアに聞いた。
「俺たち、何人いた?」
「八人ですよ」
「つまり、一人当たり二万五千マル? 高すぎないか?」
「ああ、そういうことでしたら、ご主人様が『今日は俺のおごりだ!』と言って、店にいた人の分も払うことになってますよ」
あ~やっちまった! 記憶にない!
ソフィアがそう言うなら、俺がそう約束したんだろう。
俺は金を払い、コーヒーを待つ。
「ソフィア、俺は昨夜、何か言ってたか?」
「いいえ、特には……ただ」
「ただ?」
ソフィアの持ってきてくれた濡れた布で俺が顔を拭く。特に口の周りの吐瀉物(としゃぶつ)を拭き取る。
「いつも以上に陽気でしたよ。ご主人様が歌ってるの初めて聞きました。すごく楽しそうでしたよ」
「そうか、周りのみんなも楽しそうだったか?」
「ええ、それは楽しそうでしたよ。シャーロッドさんも救出されてドワーフさんたちもすごく喜んでいましたよ」
「ソフィアも楽しかったか?」
「ええ、あたしも楽しかったですよ」
「それなら、二十万マルも安いもんだな」
熱々の真っ黒なコーヒーがお猪口より少し大きいくらいのコップに入って運ばれてきた。
「なんだこれは?」
「ドワーフコーヒーだよ、にいちゃん初めてかい? コーヒー粉が底に沈んでいるから上澄みだけそっと飲むんだよ。これもセットだよ」
「レイティア、起きてくれ。朝のコーヒーが来たよ」
レイティアは目をこすり、大きくひとつ伸びをする。
店長はクッキーを二枚、コーヒーの横に置く。
俺はコーヒーにそっと口をつける。
コーヒーの濃縮液だ。
苦い。
目が覚める苦さ。
人生の苦さなのかもしれない。
クッキーを一枚、口にする。
甘くそして少ししょっぱい。塩クッキーか。
苦いこのコーヒーをよく引き立たせる。
「よし! 少し元気が出た」
そう言った俺を覗き込んだレイティアは太陽のような笑顔を見せる。
「そう、良かった。ちょっと元気なかったもんね」
レイティアはそう言って、自分のコーヒーに口をつける。
0
第三第章進行中!年内完結予定(予定)予定だよ。酷評上等! ただし具体的にね。表紙は「かわいいおんなのこメーカー」で作ってみたレイティアです。イメージですけどね。
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)


初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました
陽好
ファンタジー
ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。
東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。
青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。
彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。
彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。
無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。
火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。
そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。
瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。
力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる