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第二章
ダニエルとの交渉
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マルゴットは慣れたように馬車ごと洞窟の中に入り、ドワーフの村へと到着する。
ガンドの工房から商品の塩と置いておいた道具を馬車に積み直した。
俺は左手が折れているため、ミクス村の三人に荷を積む作業を行ってもらった。
「ダニエルさん、いるかい?」
宿屋に向かう前にマルゴットはダニエルの店に向かう。
「ああ、マルゴットじゃないかい。あんた自ら来るとは何事だい?」
洞窟にテーブルの置かれた、誰もいないダニエルの店に入るなり、マルゴットが叫んだ。
奥からどっしりとしたドワーフの女性が、めんどくさそうに出てきた。
「あんた、うちの村の恩人にとんでもない商売を吹っかけたみたいだね」
「恩人? 誰だい、それは?」
「塩を売りに来たこの人のことだよ。シリルまで付けといたのに……あんたにはがっかりだよ」
マルゴットは俺をぐいっとダニエルの前につき出す。
ダニエルは俺をちらりと見る。
「ああ、あんたかい。自分じゃ商売一つもできないから、母ちゃん連れてきたのかい。ふん」
「ふざけるな。マルゴットは別件で一緒に来ただけだ。それで再度、交渉に来たんだが、話を聞く気はあるか?」
「なんだい。あたしは忙しいんだ」
俺は一枚の紙を取り出した。
「何だい、これは?」
俺はダニエルにも見えるようにテーブルの上に置く。
「あんたの甥っ子の奴隷契約書だよ」
「甥っ子って……ガンドじゃないかい! 何してるんだい、あの子は!」
「見てわかるように俺があいつの主人となっている。おっと、見るのは構わないが触るなよ」
ダニエルは契約書を穴が開くように見て、震えていた。
「そ、それであんたはこれをあたしに見せてどうするつもりだい。これをあたしに買わせようっていうのかい?」
「いいや、条件によってはただで譲ってやる」
「……条件ってなんだい」
「簡単な条件だよ。あはは、あんたのこれまでの態度を考えれば分かるだろう」
俺はじっとダニエルの顔を見ると、ダニエルがゴクリと唾液を飲み込む。
ダニエルも俺に対する態度が決して良いものではないと自覚しているようだ。
その上、奴隷契約書なんて人一人の人生との交換条件だ。どんな無茶な条件を出されてもおかしくないと思っている顔だ。
「条件はたった一つだ。今後、永久に俺たちと通常の条件で取引を行うこと」
「……それだけ?」
「それだけ」
ダニエルはあんぐりと口を開けて聞きなおす。
「ガ、ガンドの一生がその程度のものだというのか?」
「商人である俺たちには永久に取引を行える相手が居ることがどんなに大切なことか、商人であるあなたならわかるだろう。それとももっと条件をつけたほうがいいのか?」
「え、あ、いや……わかった。塩百キロだったね。品質は確認させてもらうが、金なら六千五百万マル、マナ石なら九十キロでどうだい」
どちらにしろ、ここでマナ石を仕入れてシルビア商会に持ち帰る予定だった。マナ石がいいだろうが、問題は……。
「マナ石の目利きにガンドをお願いしたい。この契約書のこともあるから、詳しくはガンドを交えていいか?」
「あははは! 君の言う通りの人物だね」
「そうでしょう。キヨさんは信用できる人物ですよ」
まるでガンドの話が出るのを待っていたかのように、ガンドはドワーフの女性を連れて、店に入ってきた。
シャーロッドを太らせたような、こげ茶のくせ毛に特徴的な団子鼻、意志の強そうな緑色の瞳を持つ女性だ。
「村長、なんでここに。それに、ガンド! どういうことだい」
「ガンド、いつから来ていたんだ? それにその女性は?」
俺とダニエルが同時に口を開く。
「ダニエル、そこのギヨさんは私の娘の恩人だそうだ。ダニエルと一緒に私の娘を救出してくれたのだ。それだけでなく、魔王を倒して魔王と魔物の脅威からこの村を守ってくれた村の恩人でもある。しかし、先程のやり取りでその話を一つも交渉の材料にしないだけでなく、ただ、通常の条件で商売をしてくれというのはどれだけ商人としての誇りを持っているのか。私は感動したよ。私からのお礼に良質のマナ石三十キロを準備させてもらった」
「あんた! なんでその話を先にしないんだよ! まるであたしが恩知らずみたいじゃないか! こっちも良質のマナ石を百キロ用意するよ。ガンドなんかじゃなく、あたしの目利きだ。安心しな」
村長の言葉にダニエルは慌てて俺に文句を言う。
「ああ、あれはガンドの依頼を遂行しただけの話だ。そもそもレイティアが受けると言わなければ、受けるつもりが無かった依頼だ。だからダニエルさん、あんたには関係のないことだろう」
「馬鹿かい! あんたはこの村はシャーロッド姫の誘拐と魔王の要求のせいでどれだけ大変な状態だったのか知らなかったのかね……ああ、だからあの時、あんなにとぼけた感じで来たのかい。道理で腹が立つはずだね」
え、それって俺のせいなのか? 村についてすぐの俺たちがそんなことまでわかるわけないだろう。
しかし、これで良質のマナ石が百三十キロ手に入る。
キロ当たり七十万マルだとしても九千百万マル。シルビア商会からの仕入れ金五千万マルを差し引いても四千百万マル。ソフィアの両親の借金が二千万マルあるから、二千百万マルは手元に残る。運用資金を一千万マル残して諸経費で百万マルとして、俺たち五人と一匹で分けた場合、一人当たり約百六十万マルか。ひと月強の給料としては十分だろう。
俺が金勘定をしていると、村長が話しかけてきた。
「ギヨさん、マナ石を準備する間、娘に会っていただけますか? 娘がお話したいことがあるそうです」
ガンドの工房から商品の塩と置いておいた道具を馬車に積み直した。
俺は左手が折れているため、ミクス村の三人に荷を積む作業を行ってもらった。
「ダニエルさん、いるかい?」
宿屋に向かう前にマルゴットはダニエルの店に向かう。
「ああ、マルゴットじゃないかい。あんた自ら来るとは何事だい?」
洞窟にテーブルの置かれた、誰もいないダニエルの店に入るなり、マルゴットが叫んだ。
奥からどっしりとしたドワーフの女性が、めんどくさそうに出てきた。
「あんた、うちの村の恩人にとんでもない商売を吹っかけたみたいだね」
「恩人? 誰だい、それは?」
「塩を売りに来たこの人のことだよ。シリルまで付けといたのに……あんたにはがっかりだよ」
マルゴットは俺をぐいっとダニエルの前につき出す。
ダニエルは俺をちらりと見る。
「ああ、あんたかい。自分じゃ商売一つもできないから、母ちゃん連れてきたのかい。ふん」
「ふざけるな。マルゴットは別件で一緒に来ただけだ。それで再度、交渉に来たんだが、話を聞く気はあるか?」
「なんだい。あたしは忙しいんだ」
俺は一枚の紙を取り出した。
「何だい、これは?」
俺はダニエルにも見えるようにテーブルの上に置く。
「あんたの甥っ子の奴隷契約書だよ」
「甥っ子って……ガンドじゃないかい! 何してるんだい、あの子は!」
「見てわかるように俺があいつの主人となっている。おっと、見るのは構わないが触るなよ」
ダニエルは契約書を穴が開くように見て、震えていた。
「そ、それであんたはこれをあたしに見せてどうするつもりだい。これをあたしに買わせようっていうのかい?」
「いいや、条件によってはただで譲ってやる」
「……条件ってなんだい」
「簡単な条件だよ。あはは、あんたのこれまでの態度を考えれば分かるだろう」
俺はじっとダニエルの顔を見ると、ダニエルがゴクリと唾液を飲み込む。
ダニエルも俺に対する態度が決して良いものではないと自覚しているようだ。
その上、奴隷契約書なんて人一人の人生との交換条件だ。どんな無茶な条件を出されてもおかしくないと思っている顔だ。
「条件はたった一つだ。今後、永久に俺たちと通常の条件で取引を行うこと」
「……それだけ?」
「それだけ」
ダニエルはあんぐりと口を開けて聞きなおす。
「ガ、ガンドの一生がその程度のものだというのか?」
「商人である俺たちには永久に取引を行える相手が居ることがどんなに大切なことか、商人であるあなたならわかるだろう。それとももっと条件をつけたほうがいいのか?」
「え、あ、いや……わかった。塩百キロだったね。品質は確認させてもらうが、金なら六千五百万マル、マナ石なら九十キロでどうだい」
どちらにしろ、ここでマナ石を仕入れてシルビア商会に持ち帰る予定だった。マナ石がいいだろうが、問題は……。
「マナ石の目利きにガンドをお願いしたい。この契約書のこともあるから、詳しくはガンドを交えていいか?」
「あははは! 君の言う通りの人物だね」
「そうでしょう。キヨさんは信用できる人物ですよ」
まるでガンドの話が出るのを待っていたかのように、ガンドはドワーフの女性を連れて、店に入ってきた。
シャーロッドを太らせたような、こげ茶のくせ毛に特徴的な団子鼻、意志の強そうな緑色の瞳を持つ女性だ。
「村長、なんでここに。それに、ガンド! どういうことだい」
「ガンド、いつから来ていたんだ? それにその女性は?」
俺とダニエルが同時に口を開く。
「ダニエル、そこのギヨさんは私の娘の恩人だそうだ。ダニエルと一緒に私の娘を救出してくれたのだ。それだけでなく、魔王を倒して魔王と魔物の脅威からこの村を守ってくれた村の恩人でもある。しかし、先程のやり取りでその話を一つも交渉の材料にしないだけでなく、ただ、通常の条件で商売をしてくれというのはどれだけ商人としての誇りを持っているのか。私は感動したよ。私からのお礼に良質のマナ石三十キロを準備させてもらった」
「あんた! なんでその話を先にしないんだよ! まるであたしが恩知らずみたいじゃないか! こっちも良質のマナ石を百キロ用意するよ。ガンドなんかじゃなく、あたしの目利きだ。安心しな」
村長の言葉にダニエルは慌てて俺に文句を言う。
「ああ、あれはガンドの依頼を遂行しただけの話だ。そもそもレイティアが受けると言わなければ、受けるつもりが無かった依頼だ。だからダニエルさん、あんたには関係のないことだろう」
「馬鹿かい! あんたはこの村はシャーロッド姫の誘拐と魔王の要求のせいでどれだけ大変な状態だったのか知らなかったのかね……ああ、だからあの時、あんなにとぼけた感じで来たのかい。道理で腹が立つはずだね」
え、それって俺のせいなのか? 村についてすぐの俺たちがそんなことまでわかるわけないだろう。
しかし、これで良質のマナ石が百三十キロ手に入る。
キロ当たり七十万マルだとしても九千百万マル。シルビア商会からの仕入れ金五千万マルを差し引いても四千百万マル。ソフィアの両親の借金が二千万マルあるから、二千百万マルは手元に残る。運用資金を一千万マル残して諸経費で百万マルとして、俺たち五人と一匹で分けた場合、一人当たり約百六十万マルか。ひと月強の給料としては十分だろう。
俺が金勘定をしていると、村長が話しかけてきた。
「ギヨさん、マナ石を準備する間、娘に会っていただけますか? 娘がお話したいことがあるそうです」
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第三第章進行中!年内完結予定(予定)予定だよ。酷評上等! ただし具体的にね。表紙は「かわいいおんなのこメーカー」で作ってみたレイティアです。イメージですけどね。
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