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第二章

グランドマスター

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「助太刀感謝する」

 馬から降りた乗馬兵はカブトを脱いでこちらに挨拶する。

 マルゴットに劣らず真っ赤な髪は短く切りそろえられ、その深い緑色の瞳はキュッと釣り上がり、眉間のシワは深い刻まれている。厚みの薄い唇はへの字に結ばれて、気難しいイメージを持つ。

「街道の脅威は街道を使う者の敵ですから、当然の事です」

 そう答えた俺を一瞥して、マルゴットに話しかける。

「私は護衛隊長のサンドラと申す者です。よければお名前を頂戴してよろしいだろうか?」

 マルゴットはちらりとこちらを見て答える。

「あたしはミクス村のマルゴット、同じくサリア。そしてこちらが……」
「そうか。ところでお前たちは獣人か?」

 マルゴットの言葉を遮って問いかける。

「私たちは……混じり者です」
「やはりな。まあ、今回は助太刀いただいた礼に聞いてやる。この辺りで最近、魔王と名乗る者が無許可で魔法を習得させたり、ドラゴンを従えて、先程のような魔物を使役し操っていると報告があったのだが、何か心あたりはあるか?」

 マルゴットはまた、ちらりとこちらを見る。困った顔で。
 俺は小さく首を振る。

「先程のようにこのあたりは魔物が多くなったのは確かです。しかし魔王とか、ましてやドラゴンなんて聞いたこともございません」
「そうか、何か情報があれば近隣の警備隊に報告しろ。グランドマスターであるマリアーヌ様がこんな辺境に出向いたのだ。魔王もドラゴンも退治してくれよう」

 先程の女の子がマリアーヌと言うのか?
 
 護衛隊長のサンドラはそれだけ言いすてるとカブトをかぶる。乗馬をすると馬車の横に移動して、御者に合図をだすと、一段は移動し始めた。

 一団が見えなくなるのを確認してからマルゴットが話しかけてくる。

「あれは貴族ですね。あたしたちはともかく、キヨさんにまであんな態度するなんて、感じが悪いですね。探している魔王は目の前にいますよって言いたくなりそうになりましたよ」
「は? ちょっと待て! 魔物を操ってたのは話したようにサイゾウだし、兼光は姫鶴の言うことしか聞かないんだぞ。そう言う意味ならサイゾウを倒した姫鶴が魔王だろう」
「あら、そう言われればそうですね。その魔王を従えているキヨさんは真の魔王ですか? あはは」

 兼光を連れて来なくて良かったと心底ホッとする。
 マナ核を食べさせてやれなかったのは惜しかったが、あいつらに見つかるよりはよっぽどいい。兼光は口ではああ言っているが、人間には危害を加えないだろう。あいつらに攻撃されたら無抵抗でやられる可能性が高い。なんとか奴らの目から隠さないとまずいな。

「そういえば、グランドマスターとか言っていたな、あれはどう言う称号なんだ?」
「ああ、あれは五つ持ちのことですよ。世界でも十人いるかどうかと言われている最高位の称号ですね」

 左腕の使えない俺に代わって御者になったマルゴットが答える。

「そんな人が居たのなら、さっさと出てきて魔物をやっつければ良いんですよね。馬車の中に引っ込んで無くて」
「まったくだ。しかし、グランドマスターって貴族にしかなれないのか?」
「いいえ、グランドマスター自体いつどこで生まれてもおかしくないですからね。ただしグランドマスターになれたなら国の要職に就くことも可能ですから、出世物語にはよく出てきますが、見たのは初めてですよ。ましてや貴族のグランドマスターなんてすごいですね。どの爵位かわかりませんが、次期王位候補になるかもしれませんね。まあ、あたしたちには関係のない話ですけどね」

 グランドマスターが魔法界のトップ、達人だと聞いていたが、あのレイティアそっくりな少女がそうなのか? イメージが違う。
 俺はアリシアさんの上位互換を想像していたが、予想は裏切られてしまった。

 そんな一悶着があったが、日暮れ前にドワーフの村に到着することが出来た。
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