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第二章

二人の決断

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 万が一のために部屋の出入り口が見えるところに位置取る。

「ところでご主人様、選ばせると言っていましたが、魔法を忘れさせることも可能なのですか?」
「ソフィア、一応確認だが、魔法を忘れさせる方法は習得の儀と同じ手順でやっているんだよな」
「ええ、その通りです……ということは、ご主人様」
「ああ、その”魔法” も一緒に覚えていたようだ」
「魔法を忘れさせるのは上級のライセンサーでも半分は失敗してしまうと言われているのですが……流石ご主人様」

 記憶の封印と同じ手順だろう。
 記憶のすり替えより難度が上がるが、できなくはない。
 ソフィアはつながりを”切る” と表現したが、それは記憶を”忘れる” ことだが、これはできない。
 あくまで、つながりのスイッチを”オフ” にし、記憶を”封印” するしかない。
 記憶の箱に鍵をかける。 

「それで奴らが“死” を選んだ時は誰がその役割を全うするんじゃ? 姫鶴にやらせるか?」

 シリルの敵討ちか。
 ムサシマルはそう考えているようだ。

「いや、どっちを選ぶにせよ、シャーロッドのことは姫鶴には教えない。その役割は俺が請け負う。二人とも姫鶴には何も言わないでくれ」

 全ての元凶は死んだサイゾウに背負ってもらった方が姫鶴のためでもあると俺は思ったのだ。

「……わかった。じゃあ、キヨ。そこに座るんじゃ」

 ムサシマルは真剣な顔で地面に指差す。
 こういう顔をした時は素直に従った方がいいことは経験上わかっていた。
 俺は素直に座るとムサシマルが後ろに立つ。

「ここじゃ、ここからまっすぐ刺すと心臓に達する。素人が失敗が少なく、確実に殺せる方法じゃ」

 俺の左の鎖骨と肩の間のくぼみを軽く押さえる。

「首を落とすのも、正面から心臓を刺すのも骨が邪魔でキヨの腕では無闇に苦しませるぞ。後ろから真っ直ぐに刃を立てて、体重をかけて一気に刺すんじゃぞ。中途半端は苦しませるだけじゃからな。万が一の時は儂が介錯してやるからすぐ言うんじゃぞ」

 ムサシマルはそう言って自分の細長い短剣を渡す。

「あ、ありがとう。ただし、まだそうと決まったわけじゃないからな」
「そうか? さっさと責任を取らせればいいじゃろうに」

 不思議そうな顔で俺を見る。

「俺としてはシリルの死を無駄にしたくない。あいつらには生きて償って欲しいと思っている。死んだらそれで終わりだ」
「そんなもんかのう。生き恥を晒すよりパッと散る方が儂は好みじゃがのう」

 別にムサシマルの考えを否定するつもりはない。そういう意味ではどういう結果でも、あの二人の決定を否定するつもりも無い。

「おまたせしました」

 ガンドが悲痛な面持ちで俺たちに声をかけてきた。
 どちらを選択しても二人には辛い選択になるはずだ。

「それで……どうする?」

 ガンドはベットに腰掛けてシャーロッドの手をぎゅっと握りしめて、口を開く。

「シャーロッドの魔法を忘れさせてください。お願いします。彼女が生きてさえいてくれれば、僕はそれで良いのです」
「シャーロッドもそれで良いんだな」
「はい。わたしが死ぬならガンドも一緒に死ぬと言うのです。それでは何のためにわたしが力を求めたのかわかりません」

 俺は一つ大きく息を吐く。
 安直に死を選ばなかっただけ、少しホッとした。

「じゃあ、シャーロッドと二人きりにしてくれ。師匠は入口の見張りをお願いする」
「僕も立会います!」

 ガンドは慌ててそう言った。
 俺はジッとガンドを見る。

「シャーロッドが心配なら、俺の武器を全てお前が持っていろ。だからお前は出て行け!」
「しかし……」

 それでも食い下がろうとするガンドに俺は近づいて、耳打ちする。

「自分が俺の奴隷だということを忘れていないだろうな。黙って主人の言うことを聞け!」
「ッ!! ……わかりました。ですがご提案の通り武器は預からせていただきます」

 ガンドは俺の武器を根こそぎ取り上げて部屋を出た。
 二人きりになった部屋で俺はまず、シャーロッドに水を少し飲ませて落ち着かせる。

「それでは始めるぞ」

 シャーロッドを催眠状態に誘導して一度全部の魔法を表層意識へと引っ張り出す。昔から覚えている魔法も最近覚えた魔法も全て引っ張り出す。
 それをシャーロッドがイメージできる一番頑丈な箱にそれを詰めて鍵をかける。
 言葉の鍵。キーワード。
 これで無意識的集合体につながる魔法の記憶を封印が完成する。
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