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第二章

姫鶴の意地

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「レイティア! マックスのファイアボムはあと何発打てる?」

 俺は広場の周りを観察しながら問いかける。

「二つは連続で大丈夫よ。ちょっと時間もらえればもう一つ打てるわ! 何故かマナの溜まりが早いのよ」
「マナを貯めておいてくれ」

 暴れ象を避けながら、レイティアは軽く手を上げて答える。

「師匠、姫鶴! 四つ足の胴体を真っ二つにしてくれ!」
「師匠!うちに合わせてや」
「どいつもこいつも無茶ばかり言いよる」

 姫鶴が左に回り込み、ムサシマルは右へ移動する。

「いっくで~~~! マジックウエポン!」

 姫鶴の合図とともに姫鶴が象の胴体を半分くらい切る。再生の間を与えず、ムサシマルが残った部分を骨ごと切り離す。
 象の胴体はローストビーフを切ったかのような綺麗な断面で二つに分かれる。それは象の足を持つ熊が一匹出来上がったのと壁で隠れてしまったような象のお尻のふたつを見ているようだ。
 黒いモヤがそのふたつの生物をまた、一つに戻そうとしていた。

「ファイアボムを熊の足元に打て!!」

 合図を待っていたレイティアは左手を熊の足元の床に打つ。
 レイティアの最大パワーのファイアボムは木の床で爆発的に燃え上がっる。

 ガックン!

 古く乾いた床はその強力な熱量に負けて一気に炭化し、その強度を失い巨体が沈み込む。

 よし!

 しかし、キメラも落ちまいと床に爪をかけて抵抗する。

「バイブレーション!」
「ファイアボム!」

 しがみつく化け物に魔法でとどめを刺す二人。
 地を揺るがす叫び声あげながら、その巨体は奈落の底へと落ちていった。

 象のお尻は胴体の断面から黒いモヤがかかり、上半身を探すように怪しくうごめいている。

「レイティア!」
「少し待って!」

 無駄とわかっていながら、俺はボーガンで矢を打つ。少しでも再生が遅れればそれで良い。
 流石に連戦の疲れのため、姫鶴が肩で息をしていた。

「姫鶴! 無理をするな。さがれ!」
「うちはあの人を守るって約束したんや! こんくらいのことで……こんくらいでへばってられるか!!」

 姫鶴……。
 気持ちもわかるが、すでに気力だけで動いているのが、素人目にもわかる。これ以上は危ない。

「姫鶴、その先じゃ。その苦しみの先に剣の道が見えてくるはずじゃ。気力を燃やせ!」

 武術バカが!!
 レイティア! 早く!

 レイティアは後方でマナが貯まるのをじっと待っていた。
 暴れる象の下半身を避け、切り込もうとした瞬間、姫鶴の膝ががくりと折れる。体力の限界だ。
 ここぞとばかりに二匹の大蛇が姫鶴へ襲い掛かる。

 ガッキン!

 何とか俺が姫鶴の前に滑り込み、一匹を防ぐ。

「バイブレーション!」 

 もう一匹はソフィアが脳震とうを起こさせる。

「ひ、姫鶴さん……。あなたに……なにかあったら、シリルさんが悲しみますよ」

 ソフィアが勇気を振り絞って、姫鶴に話しかける。
 その真剣なまなざしのソフィアの気持ちが届いたのか、姫鶴は黙って化け物の半身から距離を取る。

「みんな下がって!」

 レイティアの言葉にムサシマルは化け物の残りの足を切り離し、動きを止める。

「ファイアボム!」

 上半身の時と同様、床木を大きく燃やし尽くすレイティアの炎は床とともにキメラも炎に包む。
 真っ赤に燃え上がったその体は漆黒の闇を照らしながら縦穴の底へ消えて行った。

 地下で上半身と合体するのだろうな。そんなことをぼんやりと考えながら、俺は不死の化け物を見送る。

「シリル!!!」

 姫鶴はすでに足が上がらなくなっているのか、何度か躓きながらシリルと兼光のもとへ走り寄った。
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