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第二章
終わらない戦い
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『ママ~! 呼んだ~?』
奈落の底まで続いているような穴から真っ白な羽毛が全て抜け落ち、全身真っ黒な鱗に包まれたドラゴンが、二人の女性を背に乗せて現れた。
「なんなのあれ!?」
ドラゴンの背にいる乱れた金髪の少女がキメラを見て感嘆の声を上げる。
「話しは後だ! 兼光! こっち来い! シリルが危ない!」
魔物の始末が終わったムサシマルと剣を拾った姫鶴がキメラと対峙しているスキに兼光がシリルのもとに来る。
「きゃ!」
「シリル、大丈夫?」
「どうにかなるか?」
『そんなの僕にはわかんないよ。でもマナがほとんどないよ』
血の海に横たわるシリルを見て悲鳴に似た声を上げる二人を下ろして、兼光はシリルを傷口を舐め始める。
みるみる傷口がふさがっていく。
「兼光、任せたぞ。レイティア、ソフィア、姫鶴たちを助けに行くぞ!」
俺はボウガンに矢をつがえながら、姫鶴たちのところへ向かう。
「気をつけるんじゃ、でかい割には素早いぞ!」
熊の爪を受け止めながら、ムサシマルが声をかける。
「レイねぇ、足止めて!」
三匹の蛇を相手しながら姫鶴が叫ぶ。
「ストップ!」
今まさに姫鶴を蹴ろうとして後ろ足の動きがゆっくりとなる。
「マジックウエポン!」
光る姫鶴の剣。
姫鶴は三匹の蛇の攻撃をかいくぐり、その小さな体を生かして、象足元に潜り込み、腹を裂く。
ぼたぼたと音を立てて流れ落ちる血をかいくぐり、姫鶴は足元からすり抜ける。
「バイブレーション!」
熊の頭がぐらりと揺れ、手でめまいを押さえたスキに俺がキメラの前に出る。
「師匠!」
ムサシマルが俺に向かって走りこんでくる。ムサシマルは俺の組んだ手のひらに右足を乗せ、飛び上がる。熊の左肩から袈裟に斬りつけると血が噴き出した。
「グオーン!」
上下の同時攻撃に流石の巨体も叫び声を上げる。
やったか?
致命傷に見える傷を二ヶ所も負った怪物は、より一層暴れ始める。その動きは収まることがない。
これくらいでは死なないか?
よく見ると大きく開いた傷口に黒いモヤがかかり、傷口を修復していた。
不死身!?
「こっちの傷も治っているわよ。どうする!?」
「永遠に治るって事は無いだろう。とりあえず刻め! 師匠、奴の首を落としてくれ!」
振り回される俺の胴ほどある毛むくじゃらの腕を避けながら指示を出す。
「姫鶴! 前足を落とせ!」
レイティアと連携を取りながら、二人で象の前足に斬りつける。
片方のみ切り離されて、レイティアの剣は骨に阻まれて途中で止まる。しかしそれだけで巨体を支えきれなくなり、頭が下がる。
「バイブレーション!」
「ストップ!」
首を狙うムサシマルに反応して腕を振り上げる熊の上半身に二人の魔法で援護する。
ゴトッ!
ムサシマルの流れるような一閃に、よだれを垂らして牙を剥いたまま、熊の頭が落ちる。
これでどうだ! 頭を落として死なない生物はいないだろう。
しかし、まるで帽子でも落ちたように拾い上げた。首の上に黒いモヤがかかり、頭を置くとモヤが傷口を覆った。
黒い球!
その傷口からちらりと見えた黒い球から黒いモヤが出ているのを俺は見逃さなかった。
「師匠! 見たか!? こいつら魔物の球を埋め込められている。それを砕きさえすれば、こいつの再生能力は無くなるはずだ!」
「砕くのは構わんが、どこにあるんじゃ?」
「傷をつければ再生のために傷口に出て来るはずだ、そこを狙え!」
「お主は無茶な注文ばかり出す雇い主じゃのう」
「俺は出来ることしか頼まないよ」
やれやれ、と呟きながらも出来ないとは言わないムサシマルだ。
「姫鶴聞こえたな! 出来なきゃ防御に徹して消耗するな!」
「あほいいな! こちとら頭に血、のぼっとんじゃい!」
姫鶴が切り込み、レイティアが傷口にファイアボムを打ち込む。大きく開いた傷口を防ごうと出てきた黒い球を姫鶴が砕く。
ムサシマルも傷口を大きくすることに主題を置くように胸を大きく十字に斬りつけ、球を見つけては砕いた。
明らかにキメラの再生能力が落ちてきている。
もう一息だ!
「ゴギュギャ!!」
空気を震わせる叫び声に洞窟に広がり、それに呼応するように魔物たちが集まってきた。
その数、数十匹!
「まずい! 一度化け物から距離を取って魔物を先に片付けるぞ!」
数が多いと死角ができる。魔物は魔法も使う、先に倒しておかないと面倒だ。
しかし、俺の予想に反して魔物たちは俺たちに見向きもしなかった。
魔物たちは次々とキメラの元に集まると、次々とキメラと融合していった。
「これじゃあ、いつまで経っても倒せないじゃ無い! これが魔王の力?」
「きりないやん!」
俺たちの体力にも魔力にも限界がある。
魔王退治なんて言うのは勇者の仕事と相場が決まっている。いくらムサシマルのような達人級がいても、俺たちは商人なんだよ!
ふいにシルビア商会のマリアさんの言葉を思い出す。
「あなた方は商人ですので討伐する必要はありません」
奈落の底まで続いているような穴から真っ白な羽毛が全て抜け落ち、全身真っ黒な鱗に包まれたドラゴンが、二人の女性を背に乗せて現れた。
「なんなのあれ!?」
ドラゴンの背にいる乱れた金髪の少女がキメラを見て感嘆の声を上げる。
「話しは後だ! 兼光! こっち来い! シリルが危ない!」
魔物の始末が終わったムサシマルと剣を拾った姫鶴がキメラと対峙しているスキに兼光がシリルのもとに来る。
「きゃ!」
「シリル、大丈夫?」
「どうにかなるか?」
『そんなの僕にはわかんないよ。でもマナがほとんどないよ』
血の海に横たわるシリルを見て悲鳴に似た声を上げる二人を下ろして、兼光はシリルを傷口を舐め始める。
みるみる傷口がふさがっていく。
「兼光、任せたぞ。レイティア、ソフィア、姫鶴たちを助けに行くぞ!」
俺はボウガンに矢をつがえながら、姫鶴たちのところへ向かう。
「気をつけるんじゃ、でかい割には素早いぞ!」
熊の爪を受け止めながら、ムサシマルが声をかける。
「レイねぇ、足止めて!」
三匹の蛇を相手しながら姫鶴が叫ぶ。
「ストップ!」
今まさに姫鶴を蹴ろうとして後ろ足の動きがゆっくりとなる。
「マジックウエポン!」
光る姫鶴の剣。
姫鶴は三匹の蛇の攻撃をかいくぐり、その小さな体を生かして、象足元に潜り込み、腹を裂く。
ぼたぼたと音を立てて流れ落ちる血をかいくぐり、姫鶴は足元からすり抜ける。
「バイブレーション!」
熊の頭がぐらりと揺れ、手でめまいを押さえたスキに俺がキメラの前に出る。
「師匠!」
ムサシマルが俺に向かって走りこんでくる。ムサシマルは俺の組んだ手のひらに右足を乗せ、飛び上がる。熊の左肩から袈裟に斬りつけると血が噴き出した。
「グオーン!」
上下の同時攻撃に流石の巨体も叫び声を上げる。
やったか?
致命傷に見える傷を二ヶ所も負った怪物は、より一層暴れ始める。その動きは収まることがない。
これくらいでは死なないか?
よく見ると大きく開いた傷口に黒いモヤがかかり、傷口を修復していた。
不死身!?
「こっちの傷も治っているわよ。どうする!?」
「永遠に治るって事は無いだろう。とりあえず刻め! 師匠、奴の首を落としてくれ!」
振り回される俺の胴ほどある毛むくじゃらの腕を避けながら指示を出す。
「姫鶴! 前足を落とせ!」
レイティアと連携を取りながら、二人で象の前足に斬りつける。
片方のみ切り離されて、レイティアの剣は骨に阻まれて途中で止まる。しかしそれだけで巨体を支えきれなくなり、頭が下がる。
「バイブレーション!」
「ストップ!」
首を狙うムサシマルに反応して腕を振り上げる熊の上半身に二人の魔法で援護する。
ゴトッ!
ムサシマルの流れるような一閃に、よだれを垂らして牙を剥いたまま、熊の頭が落ちる。
これでどうだ! 頭を落として死なない生物はいないだろう。
しかし、まるで帽子でも落ちたように拾い上げた。首の上に黒いモヤがかかり、頭を置くとモヤが傷口を覆った。
黒い球!
その傷口からちらりと見えた黒い球から黒いモヤが出ているのを俺は見逃さなかった。
「師匠! 見たか!? こいつら魔物の球を埋め込められている。それを砕きさえすれば、こいつの再生能力は無くなるはずだ!」
「砕くのは構わんが、どこにあるんじゃ?」
「傷をつければ再生のために傷口に出て来るはずだ、そこを狙え!」
「お主は無茶な注文ばかり出す雇い主じゃのう」
「俺は出来ることしか頼まないよ」
やれやれ、と呟きながらも出来ないとは言わないムサシマルだ。
「姫鶴聞こえたな! 出来なきゃ防御に徹して消耗するな!」
「あほいいな! こちとら頭に血、のぼっとんじゃい!」
姫鶴が切り込み、レイティアが傷口にファイアボムを打ち込む。大きく開いた傷口を防ごうと出てきた黒い球を姫鶴が砕く。
ムサシマルも傷口を大きくすることに主題を置くように胸を大きく十字に斬りつけ、球を見つけては砕いた。
明らかにキメラの再生能力が落ちてきている。
もう一息だ!
「ゴギュギャ!!」
空気を震わせる叫び声に洞窟に広がり、それに呼応するように魔物たちが集まってきた。
その数、数十匹!
「まずい! 一度化け物から距離を取って魔物を先に片付けるぞ!」
数が多いと死角ができる。魔物は魔法も使う、先に倒しておかないと面倒だ。
しかし、俺の予想に反して魔物たちは俺たちに見向きもしなかった。
魔物たちは次々とキメラの元に集まると、次々とキメラと融合していった。
「これじゃあ、いつまで経っても倒せないじゃ無い! これが魔王の力?」
「きりないやん!」
俺たちの体力にも魔力にも限界がある。
魔王退治なんて言うのは勇者の仕事と相場が決まっている。いくらムサシマルのような達人級がいても、俺たちは商人なんだよ!
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