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第二章
サイゾウ
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俺たちは一旦、広場から出て休息を取ることにした。
広場が見えるところに見張りを残して他の者は見張りが見える程度に下がる。
火が使えないため、パンと干し肉で軽く食事を済ませる。
ムサシマルは食事を済ませると土の上に横になる。
姫鶴とシリルはゴロンと転がった兼光に寄りかかり、休みはじめた。
「この作戦で救出出来ると思う?」
金髪の美少女は頬が当たりそうな距離でささやく。
「七、三で失敗だな。作戦自体大雑把すぎる」
「やっぱり……。わかっててなんで何も言わなかったの?」
「相手の情報も、人質がどこに捕まっているかわからない今の状況では俺に考えられる手がないんだよ」
「つまりは……」
「出たとこ勝負! まあ、時間稼ぎという事ならどうにかなるだろう」
小さく深いため息が洞窟に漏れる。
「慎重なキヨにしては珍しいわね」
「仕方がないだろう。君が突っ走っちゃうんだから」
「後ろは任せたわよ」
「後ろは君だ、俺が前に出る」
「弱いくせに……男は黙って女に守られてなさい」
レイティアはそう言いながら、人差し指で俺のおでこをツンと押す。
「ご主人様」
見張りをしていたソフィアの小さな呼び声が流れる。
その声にいち早く、ムサシマルが反応して音もなく広場が見える位置へ移動する。
遅れた俺にはムサシマルの背中がピクンと何かに反応した気がした。
俺がそっと広場を覗くと置かれた食料を物色している男がひとり。
身長は百六十センチ程度で小柄、さほど長くはない黒髪を後ろで結んでいるようだ。
目は細く、飄々(ひょうひょう)と皮肉を言いそうな面構え。動きやすいを重視している体にぴったりの服の上から見える体つきは、体操選手を思い出されるような、しなやかなものだった。
男は座り込んで広場の真ん中から動かない。
出て行こうとする俺をムサシマルが制し、先に広場へ入って行った。
「こんなところでお主に会えるとは思っていなかったぞ。サイゾウ」
無精髭を生やした偉丈夫は剣を腰にしまったまま、無造作に距離を詰める。
「やっと出てきましたか、お待ちしていましたよムサシマル」
細目の男はゆっくりと立ち上がって、旧友を受け入れるために両手を広げた。
「お仲間は出て来ないんですか?」
サイゾウは通路に隠れていた俺たちを指差した。
「キヨ……」
「ムサシマルの知り合いのようだし、出て行ってみるか」
俺たちは警戒をしながらムサシマルたちに近づいた。
「こやつはサイゾウ、昔一緒に戦っておったんじゃ」
俺はその細い目の色が黒いことを確認して、ムサシマルの前の世界での知り合いだと確信した。
「はじめまして、一緒に戦ったといってもワタクシはただ、情報を集めるだけの仕事でしたから、ちょっと語弊がありますが……まあ、同じ大名のもとにいたと言うだけですよ。この食料はあなたたちのものですか? よければ、ワタクシに少し分けていただけないでしょうか?」
そう言ってガンドが運んできたパンや干し肉、りんごなどを指さした。
「お主が運ばせたものではないのか?」
「なんのことですか? この山になぜか動物がいないので困り果てて、この洞窟を探索していたら食料があるじゃないですか。いただいていいものなのか思案していたらあなたが急に現れて、びっくりしていたところですよ」
びっくりしたと言っているが、俺の目にはずっと笑みを浮かべたままのように見えた。
「この洞窟に魔王と呼ばれる奴がおるらしくてのう、それはそいつの供え物じゃ」
「魔王ですか~ということは第六天魔王ですか? それならワタクシもお手伝いいたしましょうか? そうすればこのお供えものを魔王に渡す必要はないですよね」
「まあ、そうじゃのう。お主に手伝ってもらえれば、心強いのう」
「そうと決まれば……」
サイゾウはりんごを一つかじり始めた。
「ちなみにその魔王というのはどんなやつなんですか?」
「魔物を操って国を支配しようとしているということ以外、何も分かっておらんのじゃ」
「ほう、魔物を操るとは興味深いですね。魔物相手ということは魔法だよりだと思うのですが、そちらの女性三人はどんな魔法を使われるんですか? ご参考までにお教えいただけないでしょうか?」
俺たちはムサシマル、俺の魔法と兼光以外の事を話した。
「ほう、皆さんすごい魔法を使われるんですね。それは心強いです。ムサシマル、少し私から質問しても良いですか?」
「なんじゃい。あんまりゆっくりとしておると魔王がきちまうぞ」
「その魔王のことなんですがね。ワタクシたちで魔王に仕えるというのはいかがでしょうか? どうせワタクシたちは元の世界に戻ってもだれかに仕えるなら、この世界で魔王に仕えるのも変わりはないでしょう。いかがですか?」
笑いの張り付いたサイゾウの目の奥の表情が見えなかった。
広場が見えるところに見張りを残して他の者は見張りが見える程度に下がる。
火が使えないため、パンと干し肉で軽く食事を済ませる。
ムサシマルは食事を済ませると土の上に横になる。
姫鶴とシリルはゴロンと転がった兼光に寄りかかり、休みはじめた。
「この作戦で救出出来ると思う?」
金髪の美少女は頬が当たりそうな距離でささやく。
「七、三で失敗だな。作戦自体大雑把すぎる」
「やっぱり……。わかっててなんで何も言わなかったの?」
「相手の情報も、人質がどこに捕まっているかわからない今の状況では俺に考えられる手がないんだよ」
「つまりは……」
「出たとこ勝負! まあ、時間稼ぎという事ならどうにかなるだろう」
小さく深いため息が洞窟に漏れる。
「慎重なキヨにしては珍しいわね」
「仕方がないだろう。君が突っ走っちゃうんだから」
「後ろは任せたわよ」
「後ろは君だ、俺が前に出る」
「弱いくせに……男は黙って女に守られてなさい」
レイティアはそう言いながら、人差し指で俺のおでこをツンと押す。
「ご主人様」
見張りをしていたソフィアの小さな呼び声が流れる。
その声にいち早く、ムサシマルが反応して音もなく広場が見える位置へ移動する。
遅れた俺にはムサシマルの背中がピクンと何かに反応した気がした。
俺がそっと広場を覗くと置かれた食料を物色している男がひとり。
身長は百六十センチ程度で小柄、さほど長くはない黒髪を後ろで結んでいるようだ。
目は細く、飄々(ひょうひょう)と皮肉を言いそうな面構え。動きやすいを重視している体にぴったりの服の上から見える体つきは、体操選手を思い出されるような、しなやかなものだった。
男は座り込んで広場の真ん中から動かない。
出て行こうとする俺をムサシマルが制し、先に広場へ入って行った。
「こんなところでお主に会えるとは思っていなかったぞ。サイゾウ」
無精髭を生やした偉丈夫は剣を腰にしまったまま、無造作に距離を詰める。
「やっと出てきましたか、お待ちしていましたよムサシマル」
細目の男はゆっくりと立ち上がって、旧友を受け入れるために両手を広げた。
「お仲間は出て来ないんですか?」
サイゾウは通路に隠れていた俺たちを指差した。
「キヨ……」
「ムサシマルの知り合いのようだし、出て行ってみるか」
俺たちは警戒をしながらムサシマルたちに近づいた。
「こやつはサイゾウ、昔一緒に戦っておったんじゃ」
俺はその細い目の色が黒いことを確認して、ムサシマルの前の世界での知り合いだと確信した。
「はじめまして、一緒に戦ったといってもワタクシはただ、情報を集めるだけの仕事でしたから、ちょっと語弊がありますが……まあ、同じ大名のもとにいたと言うだけですよ。この食料はあなたたちのものですか? よければ、ワタクシに少し分けていただけないでしょうか?」
そう言ってガンドが運んできたパンや干し肉、りんごなどを指さした。
「お主が運ばせたものではないのか?」
「なんのことですか? この山になぜか動物がいないので困り果てて、この洞窟を探索していたら食料があるじゃないですか。いただいていいものなのか思案していたらあなたが急に現れて、びっくりしていたところですよ」
びっくりしたと言っているが、俺の目にはずっと笑みを浮かべたままのように見えた。
「この洞窟に魔王と呼ばれる奴がおるらしくてのう、それはそいつの供え物じゃ」
「魔王ですか~ということは第六天魔王ですか? それならワタクシもお手伝いいたしましょうか? そうすればこのお供えものを魔王に渡す必要はないですよね」
「まあ、そうじゃのう。お主に手伝ってもらえれば、心強いのう」
「そうと決まれば……」
サイゾウはりんごを一つかじり始めた。
「ちなみにその魔王というのはどんなやつなんですか?」
「魔物を操って国を支配しようとしているということ以外、何も分かっておらんのじゃ」
「ほう、魔物を操るとは興味深いですね。魔物相手ということは魔法だよりだと思うのですが、そちらの女性三人はどんな魔法を使われるんですか? ご参考までにお教えいただけないでしょうか?」
俺たちはムサシマル、俺の魔法と兼光以外の事を話した。
「ほう、皆さんすごい魔法を使われるんですね。それは心強いです。ムサシマル、少し私から質問しても良いですか?」
「なんじゃい。あんまりゆっくりとしておると魔王がきちまうぞ」
「その魔王のことなんですがね。ワタクシたちで魔王に仕えるというのはいかがでしょうか? どうせワタクシたちは元の世界に戻ってもだれかに仕えるなら、この世界で魔王に仕えるのも変わりはないでしょう。いかがですか?」
笑いの張り付いたサイゾウの目の奥の表情が見えなかった。
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