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第二章

ガンドの策

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 俺はレイティアに二人を任せて、戦いの後片付けをする。
 
「師匠、周りに人はいたか?」
「儂は感じんかったのう。気をつけておったのじゃが、遠すぎたか……それとも儂では感じられない相手だったか」

 ムサシマルは自分の魔剣の手入れをしながら首を振った。

 やはりムサシマルも魔物を操っている奴が近くにいると思っていたか。
 魔物を操る魔王。奴を倒せばそれでこの依頼は終わると思っていたのだが、遠距離からでも魔物を操れるのかもしれない。厄介な相手だな。
 しかし、さっきは危なかった。兼光が飛べるようになっていなければ人質にされていたか、最悪は落とされて殺されていた。
 落下自体はレイティアの魔法で落下スピードを落とせることがわかっていたが、魔法がどこまで届くかが問題だ。
 それにしても先ほどの兼光の姿はなんだ。
 今までは白い羽毛に包まれた姿だったのが羽毛は首の周り以外、全て抜け落ち黒光りする鱗が現れている。
 まるでひよこから鶏に変化するように成龍へと変態している途中なのか?
 しかし、こんなに急激に変化するものなのか?

『ママ~もうあの黒い玉なぁ~い? 火を吐いたらお腹すいちゃった』

 以前は白い羽毛のおかげで愛嬌のある体だったのが、今はふた回りほど大きくなり威圧感さえ感じる。
 魔物の玉を大量に取り込んだため、成長したのだろうか?

 そんな思いを巡らせながら、雑草が深くなる山道で俺たちは山頂を目指す。

「ここです」

 ガンドが指差した先には洞窟の入口が開けていた。
 集落のそれとは違い、茶色い岩肌にまとわりつく蔓で隠された洞窟の入口は人が出入りしているためか、雑草が軽く踏みしめられ、簡単に見つけることができた。
 ガンドは迷うことなく奥へと進む。
 俺たちも後に続く。
 中は薄暗く、人工の洞穴には木の櫓(やぐら)で崩落を防いでおり、外の暑さを忘れるようにひんやりとして湿度が高く、ところどころ屋根から水滴が落ちている場所もある。
 床に設置されたトロッコ用のレールがマナ石鉱山の面影を残していた。
 そのため、体の大きくなった兼光でも洞窟の奥に進むのに問題ない大きさだった。
 ガンドはライトを持ち、先頭をしばらく歩くと、立ち止まってこちらを振り向く。

「この先が食料の引き渡し場所です」

 通路の先に大きく開けた場所に出た。
 これまでの通路とは違いどこまで続いているのかわからないほど高い天井、兼光が暴れ回っても問題無さそうは広さ。ところどころに火が燃えて、その広い空間を照らす。床には木の板が引きつめられている。

「ここはもともとマナ石の集積所なのです。山から噴き出すガスをここまで引いて明かりに使用しているんです。大きな縦穴にこの足場を作っているので、足場が腐っているところは気をつけてくださいね。万が一落ちるとどこまで行くかわかりません」

 ガンドは背中に背負っていた荷物を降ろしながら説明する。
 古くなったトロッコやスコップなどの廃材が端に捨てられていた。

「それでこれからどうするつもりだ?」
「奴が食料を受け取りに奥から現れるはずです。奴が中央に来たら注意を引きつけてください。その隙に僕が奥に侵入してシャーロッドを救出します」

 ムサシマルの左目が歪むように上がる。

「儂らは囮か?」
「いえいえ、戦っていただく必要はありません。ちょっと姿を見せて気を引いていただくだけで結構です。僕が奥に侵入できれば、ここを出て山を下っていただいて結構です」

 重そうな兜を横に振り、ガンドが慌てて説明する。

「まあ、兼光が顔出したら、それだけで十分じゃないか? 相手もびっくりするだろう」
『おじさん、今僕の悪口言った?』

 ちょっとやめろ、俺の頭を咥えるな! よだれがつく!

「悪口なんて言ってないぞ。 兼光の愛くるしい姿を見たら相手が見惚れるって意味だからな! だから、離れろ!」

 大きなクチバシを外し、爬虫類のような瞳をジト目で俺を見る。

『……まあ、いいや』

 黒い鱗と白い羽毛を持つドラゴンはそう言って母親の方へ歩いて行った。
 ガンドは奥側のライトのバルブを閉め、影を作り、廃材に埋もれて息をひそめる。
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