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第二章

姫鶴の危機

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「言っただろう。あいつらがいれば魔物にも対処は出来るんだよ」

 戦いの結果そのものより姫鶴の魔法の発動、レイティアのマナ量の調整など不安材料が払拭されて俺はホッとした。後先を考えなければムサシマルとレイティアの魔法で魔物の一匹や二匹くらい問題ないと思っている。

『まん丸の方がおいし~い。まだまだいっぱいいるから、食べたいな~』

 兼光は真っ赤な長い舌でぺろりと口の周りを舐めると姫鶴にその柔らかいウロコの頬をすりすりしながら満足そうに話しているのが聞こえた。
 砕かずそのままの方が美味いのか。あいつはマナが多い方が美味く感じるようだから、マナがそのまま残っている球体を飲み込んだほうがそう感じるのは当たり前かも知れない。

 ちょっと待て!
 ……まだまだ、いっぱいいる!?

「兼光! 魔物の気配がわかるか!? 全員警戒!! 何匹くらいいるんだ?」
『十匹より多いかな?』

 道から少し離れた場所にある腰より高い深緑の雑草群が、ざわざわと揺れ動く。それは一ヶ所や二ヶ所ではなく、俺たちを取り囲むように多数揺れ動く。

 囲まれたのか!?

 俺は前をみると山頂へ向かう道にはまだ魔物が見当たらない。

「囲まれるぞ! 走れ!」
「きゃ~!」

 先頭を切って走っていたシリルが叫び声をあげる。
 まるで待ち伏せをしていたかのように草むらに潜んでいた虎型の魔物が、牙を剥きシリルに襲いかかる。
 体をよじり避ける。
  
「いたっ!」

 シリルの尻餅をつき、体を支えてた左腕から血が滴り落ちる。
 完全には避けきらなかったようで、破れた服の下にえぐれた肉が真っ赤な血に覆われているのが見えた。
 魔物はすぐに振り向くと地面で動けないでいる小さな男の子に襲いかかる。

「あかん! 兼光、シリルの回復!」

 姫鶴は間一髪、魔物とシリルの間に入り、飛びかかってくる黒い巨体を真っ二つにする。
 兼光がシリルのもとに走るのを確認して、姫鶴は魔物を引きつけてシリルたちから距離を取る。
 姫鶴は光の剣を油断なく正眼に構えていた。
 兼光はシリルの首根っこを咥えて草むらへと消える。
 俺たちも姫鶴の援護に入ろうとするも、魔物がそれを阻止しようと動く。

 組織的に動いている?

 一人になった姫鶴に草むらから出てきた魔物たちは距離を取り、取り囲む。
 おそらく姫鶴が無作為に距離を詰めようものなら、その輪は一気に姫鶴を飲み込むだろう。

「「「「グギャウォーンァ!!」」」」

 魔物たちは奇声を上げ、顔の部分が真っ二つに裂けるのかのごとく開いた口に現れた雷の玉は徐々に大きさを増す。

「逃げろ! 魔法の多重攻撃が来るぞ!」

 他の魔物が邪魔で姫鶴の援護に行けない! そしてそれは他のみんなも同じ状況だった。

「ブォーン!」

 一匹の魔物の合図で魔物たちが一斉に雷の玉を吐き出す。

「姫姉ちゃん!!!」

 草むらからシリルの悲痛な叫び声が響く。
 無慈悲にも複数の雷の玉が姫鶴に襲いかかる。逃げ道はない。
 姫鶴がなにか叫んでいたが、バリバリという雷の音にかき消されてしまった。
 姫鶴を中心に光と音の爆発が起こり、土煙が俺たちの視界を遮る。

「姫鶴ちゃん!!」
「姫鶴!」

 まだだ! 死んでさえいなければ兼光がいる!
 そんなささやかな希望を打ち砕くように、まだ雷が鳴り響く場所へ魔物たちが襲いかかる。 
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