上 下
112 / 186
第二章

姫鶴の魔法

しおりを挟む
「少し時間をくれ」

 俺はそう言って姫鶴のもとへ行く。

「姫鶴、ちょっと来てくれ」

 俺は姫鶴を引っ張ってここまで運んできた木製の馬車で二人きりになる。

「出発前に魔法を覚えてもらう。時間もないからどんな魔法を覚えるかは成り行きにさせてもらう」

 切れ長の瞳はキョトンとした後、俺の言葉の意味を理解したようだ。

「でもうちには催眠術は効かへんで」
「お前がミクス村で暴れた時、自己催眠状態だったんだよ。そもそも、催眠術は身内にはかけづらい性質があるんだよ。時間がないから詳細は省く。だからお前にも催眠術はかかる。あとはお前が魔法を覚えたいかどうかだ。これから通常武器の通じない魔物が出る可能性が高い。俺としてはお前のためにもぜひ覚えて欲しいんだが、こればっかりはお前の意思次第だ」
「うちは魔法を覚えてみたいって前に言っとったよね。いい機会やお願いするわ。それでうちは何したらええの?」

 薄暗い馬車の中で素直に俺の話を聞く黒髪の少女は軽く首をかしげながら何を当たり前のことを聞いてるんだろうか? とこっちを見ている。
 俺はいつものように姫鶴を催眠状態へと導き、魔法習得の儀を終える。
 この間、およそ十分。あまりにもあっさりと催眠状態になる姫鶴を見て軽く笑みさえ浮かんでしまう。

「どうだ?」

 その小さいながらもしなやかな体を軽く伸びをしている姫鶴に問いかける。

「……そやね。二つ覚えたっぽいね」
「どんな魔法だ?」
「一つは武器に魔法属性を与える魔法見たいやね。ってこれガンちゃんが言っとった魔具とおんなじちゃうの?」

 そう言って面白くないな~と頭を抱える姫鶴にもう一つの魔法について尋ねた。

「もう一つは……あ、え? ……ああ使いようがない魔法やね」

 そう言う姫鶴は何か恥ずかしそうにしている。
 魔法は道具と同じだ。一見、使いようがなさそうに見えても、使い方一つで大きな戦力になりうる可能性がある。

「使い方は考えてやるから、どんな魔法か教えてくれ!」
「……いやや。こんな魔法絶対使わへんからええやろ。それよりみんな待っとるさかい」

 迫る俺から視線を外し、ささっと外に出て行ってしまった。

「……なんだ、あいつ? そんなに人に話せない魔法ってあるのか?」

 まあ、ああ言っていたが武器に魔法属性を与えるだけでも姫鶴の剣術と組み合わせれば大きな戦力アップになる。
 俺たちは必要な道具のみリュックに移し、馬車をガンドの工房に隠した。
 ガンドの工房は集落に行く途中の洞穴の一つにあり、集落から少し離れていた。魔具の研究のためいつ事故が起こっても周囲に損害を与えないためらしい。
 その分、空間は大きく取られ、出入りのドアも頑丈になってる。中にはレンガで作られた炉やマナ石を加工するためだと言うよくわからない器具などが揃えられていた。
 そこに馬車ごと荷物を置き、鍵をかける。そしてガンドは鍵の一つを俺に渡す。

「この工房も含めて貴方の物になります。ギヨ様」
「なあ、なんで俺たちの名前を必ず濁音で間違えるんだ? 俺はキヨだ」

 俺は太く無骨な鉄の鍵を受け取りながら、ガンドに尋ねる。

「申し訳ありません。僕たちドワーフ族は名前に必ず濁音が入るので、そのくせでつい……気をつけます」

 ガンド、シャーロッド、ダニエルそしてシド。確かに濁音が入っている。なんかおかしな風習だな。

「まあ、これから長い付き合いになるんだから気をつけてくれ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。  曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

★★★★★★六つ星ユニークスキル【ダウジング】は伝説級~雑魚だと追放されたので、もふもふ白虎と自由気ままなスローライフ~

いぬがみとうま
ファンタジー
■あらすじ 主人公ライカは、この国始まって以来、史上初の六つ星ユニークスキル『ダウジング』を授かる。しかし、使い方がわからずに、西の地を治める大貴族である、ホワイトス公爵家を追放されてしまう。 森で魔獣に襲われている猫を助けた主人公。実は、この猫はこの地を守護する伝説の四聖獣『白虎』であった。 この白虎にダウジングの使い方を教わり、自由気ままなスローライフを求めてる。しかし、待ち構えていたのは、度重なり降りかかる災難。それは、ライカがダウジングで無双していく日々の始まりであった。

処理中です...