上 下
108 / 186
第二章

条件

しおりを挟む
「……百万マル程度です」

 ガンドは申し訳なさそうに答える。決して安くはないが、俺たち六人分としては余りにも少ない。

「話にならんのう。こいつは彼女の姉を助けるために三千万マル用意したんじゃぞ。その借金返済の為に今、行商をしておる。ろくに魔法も使えん、剣術もまだまだなこいつは好いた女の姉を助けるために、いろいろな人に交渉して金を集め、人を集め、自分自身も体を張ったんじゃぞ。お主と幼馴染の関係は儂らは知らんが、儂にはお主がこいつのような覚悟はあるようには見えんがのう」
「……」

 ガンドは唇を噛んでムサシマルと俺をみると、黙って立ち上がった。

「……そうですね。僕に覚悟が足りませんでした。……あなたたちはいつまでこちらにいらっしゃいますか?」
「わからない。塩さえ売れればこんなところさっさと出ていきたいんだがな」
「ありがとうございます」
「ちょっとまって!」

 うなだれ、集落に帰ろうとするドワーフ族の青年にレイティアが声をかける。

「その幼馴染ってあなたにとってただの幼馴染なの?」
「……恋人です。髭の生えない僕に昔から優しくしてくれた大事な恋人です」
「やっぱり、そうなのね。恋人が誘拐されたなんてかわいそうに……。キヨ、どうにかできないの?」

 優しいレイティアの言葉だが、仲間に危険が及ぶことに何のメリットもなく感情だけで動く訳にはいかない。

「恋人を誘拐されたのは同情するが、この商隊のリーダーとしてはそれだけの理由では手助けできない」
「分かりました。また来ます」

 ガンドは失意の中、集落に帰っていった。



「それでどうするんじゃ、キヨ」

 夕食を済ませ、酒を飲みながら問いかけてくる。
 
「ガンドに口利きしてもらうと交渉が楽になるんだろうけど、それと依頼の内容が釣り合っていないよな」
「また来ると言ったのう。どういう条件なら受ける気じゃ?」

 降りかかる火の粉は全力で振り払うが、基本的に危険は避けたい。

「基本的には受けたくないけど、レイティアはどう思う?」
「私は助けてあげたいかな。恋人が誘拐なんて私は耐えられないわ。」
「それはそうだが、だと言ってレイティアたちを危険に合わせるのは本末転倒だろう。そうだろう師匠!」
「儂か? それなりの金、酒、武器がもらえればそれでいいがのう」
「姫鶴はどう思う?」
 
 嫁取りの儀から惚けていることが多くなった姫鶴に話しかける。

「え!? うち? 何の話?」
「さっきのガンドの話だよ。どんな条件なら受けるかっていう話だよ」
「あ~。……うち難しいことはようわからん。キヨにぃに任せる。」
「……そうか。そう言えばシリルはこれからどうするんだ? とりあえず集落の位置もわかったし、洞窟の中もメモを取ったから迷わずいけると思う」

 急に話を振られたシリルはその可愛らしいシルバーアイをぱちぱちと瞬きする。

「皆さんがミクス村に戻られるまで、一緒にいますよ。ダメですか?」

 上目遣いで大きな瞳を俺と姫鶴に向ける。

「う、うち、兼光のところに行ってくる」

 姫鶴は兼光の体を拭くためにタオルとバケツを持って、行ってしまった。

「なんだ? あいつは? まあ、シリルがそれでいいなら良いけど、色々やってもらうぞ」
「はい!」
「ご主人様、ちょっといいですか?」

 いつも黙って俺のそばにいるソフィアが珍しく自分から口を開いた。

「あたしはご主人様に危険なことはしていただきありません。ご主人様は商人ですよ。荷を運び、売買をするのが本分です。危険はなるべく避けるべきです」

 そう言えばシルビアのところにマリアさんにもそんなことを言われたな。

「襲われた時はしょうがありませんが、ご主人様がファイアーボールを掴んだ時、あたしは心臓が止まるかと思いました。おそらく奥様も同じ気持ちだったと思います」

 確かにあの時は兼光が居たから助かったが、心配をかけてたな。

「悪かった。無茶はしないようにするよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

異世界を服従して征く俺の物語!!

猫ノ謳
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯
ファンタジー
どの世界でも不遇職はやはり不人気。モンスターからは格好の標的にもなりえり、それは人間の汚い部分の標的にもなりやすい。 だが、なりたい自分、譲れない信念を貫いていく―― そんな主人公が己が力と仲間で逆境を切り開いていくそんな物語。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸
ファンタジー
 かつて大切な人を失った青年――。  全てはそれを取り戻すために、全てを捨てて放浪の旅へ。  長い、長い旅で心も体も擦り減らし、もはやかつてとは別人のように成り果ててもなお、自らの願いのためにその身を捧げた。  そして、もはやその旅路が終わりに差し掛かった、その時。……青年が決断する事とは。 ——  本編最終話には創音さんから頂いた、イラストを掲載しました!

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

処理中です...