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第二章

条件

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「……百万マル程度です」

 ガンドは申し訳なさそうに答える。決して安くはないが、俺たち六人分としては余りにも少ない。

「話にならんのう。こいつは彼女の姉を助けるために三千万マル用意したんじゃぞ。その借金返済の為に今、行商をしておる。ろくに魔法も使えん、剣術もまだまだなこいつは好いた女の姉を助けるために、いろいろな人に交渉して金を集め、人を集め、自分自身も体を張ったんじゃぞ。お主と幼馴染の関係は儂らは知らんが、儂にはお主がこいつのような覚悟はあるようには見えんがのう」
「……」

 ガンドは唇を噛んでムサシマルと俺をみると、黙って立ち上がった。

「……そうですね。僕に覚悟が足りませんでした。……あなたたちはいつまでこちらにいらっしゃいますか?」
「わからない。塩さえ売れればこんなところさっさと出ていきたいんだがな」
「ありがとうございます」
「ちょっとまって!」

 うなだれ、集落に帰ろうとするドワーフ族の青年にレイティアが声をかける。

「その幼馴染ってあなたにとってただの幼馴染なの?」
「……恋人です。髭の生えない僕に昔から優しくしてくれた大事な恋人です」
「やっぱり、そうなのね。恋人が誘拐されたなんてかわいそうに……。キヨ、どうにかできないの?」

 優しいレイティアの言葉だが、仲間に危険が及ぶことに何のメリットもなく感情だけで動く訳にはいかない。

「恋人を誘拐されたのは同情するが、この商隊のリーダーとしてはそれだけの理由では手助けできない」
「分かりました。また来ます」

 ガンドは失意の中、集落に帰っていった。



「それでどうするんじゃ、キヨ」

 夕食を済ませ、酒を飲みながら問いかけてくる。
 
「ガンドに口利きしてもらうと交渉が楽になるんだろうけど、それと依頼の内容が釣り合っていないよな」
「また来ると言ったのう。どういう条件なら受ける気じゃ?」

 降りかかる火の粉は全力で振り払うが、基本的に危険は避けたい。

「基本的には受けたくないけど、レイティアはどう思う?」
「私は助けてあげたいかな。恋人が誘拐なんて私は耐えられないわ。」
「それはそうだが、だと言ってレイティアたちを危険に合わせるのは本末転倒だろう。そうだろう師匠!」
「儂か? それなりの金、酒、武器がもらえればそれでいいがのう」
「姫鶴はどう思う?」
 
 嫁取りの儀から惚けていることが多くなった姫鶴に話しかける。

「え!? うち? 何の話?」
「さっきのガンドの話だよ。どんな条件なら受けるかっていう話だよ」
「あ~。……うち難しいことはようわからん。キヨにぃに任せる。」
「……そうか。そう言えばシリルはこれからどうするんだ? とりあえず集落の位置もわかったし、洞窟の中もメモを取ったから迷わずいけると思う」

 急に話を振られたシリルはその可愛らしいシルバーアイをぱちぱちと瞬きする。

「皆さんがミクス村に戻られるまで、一緒にいますよ。ダメですか?」

 上目遣いで大きな瞳を俺と姫鶴に向ける。

「う、うち、兼光のところに行ってくる」

 姫鶴は兼光の体を拭くためにタオルとバケツを持って、行ってしまった。

「なんだ? あいつは? まあ、シリルがそれでいいなら良いけど、色々やってもらうぞ」
「はい!」
「ご主人様、ちょっといいですか?」

 いつも黙って俺のそばにいるソフィアが珍しく自分から口を開いた。

「あたしはご主人様に危険なことはしていただきありません。ご主人様は商人ですよ。荷を運び、売買をするのが本分です。危険はなるべく避けるべきです」

 そう言えばシルビアのところにマリアさんにもそんなことを言われたな。

「襲われた時はしょうがありませんが、ご主人様がファイアーボールを掴んだ時、あたしは心臓が止まるかと思いました。おそらく奥様も同じ気持ちだったと思います」

 確かにあの時は兼光が居たから助かったが、心配をかけてたな。

「悪かった。無茶はしないようにするよ」
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