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第二章
ガンド
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帰り道は比較的簡単だった。
風が洞窟の入口から吹いてくるため、風上へ風上へと歩いて行く洞窟の外に出た。
外は薄暗くなりはじめ、少し離れた広場にレイティアたちが焚き火をして、俺たちを待っていた。
「おかえり、キヨ。どうだった?」
「全然ダメだ。何か作戦を考えないといけないよ」
俺はお手上げポーズをして答える。
「だめじゃったのに、なんで客を連れてきたんじゃ?」
ムサシマルの言葉に剣を抜きざま、後ろを振り返る。
「誰だ!」
俺の言葉に洞窟からドワーフの青年が一人現れた。
ドワーフにしては珍しい髭のない、幼く見える青年である。
「君は確か、ダニエルさんのところにいた……」
「はい、ガンドと申します。あなたたちにお願いがあって来ました」
「シリル、気がつかなかったのか?」
「すみません。風下にいたみたいで匂いに気がつきませんでした」
ガンドが自己紹介している時にシリルにそっと聞いてみた。
俺も今後の事をどうするか悩みながら歩いていたため全く気が付かなかった。
「それでどんな内容だ? 言っておくけどダニエルさんのおかげで、虫の居所が悪いからな」
楽な交渉だとは思っていなかったが、知り合いのシリルがいて、取り付く島もないのには腹ただしい。
「お願いを聞いていただければ、ダニエル叔母さんに口利きをさせていただきます。それでどうでしょうか?」
「……内容による」
「誘拐された僕の幼馴染を一緒に助けに行って欲しいのです!」
ガンドは堀の深い目をゆがめ、真剣な顔で俺たちにお願いをする。
「ちょっと待て! 立ち話ですむ内容でもないだろう」
薄暗い山の開けた場所で俺たちは焚き火の周りに座り、飲み物をガンドに渡す。
「それで、なぜ誘拐された? 犯人は分かっているのか?」
「犯人は人族ということは分かっています。奴は自分の国を作るために村の長の娘である彼女を誘拐して、我々には奴隷になれと要求しています」
「相手は何人じゃ? ドワーフ族は魔法の数は少ないが強化系が得意でマナ量も多いと聞くが、お主たちでも対応できないくらいそいつらは多いのか?」
ムサシマルの問いかけに首を振る。
「確認できているだけでは一人です。ただそいつがやたら強い上にシャーロッドを人質に取られています。そしてなにより魔物が奴を守っているのです!」
「魔物が守ってるってどういうこと? 魔物を操れるっていうこと?」
レイティアの質問ガンドは何かを思い出すように、コーヒーを一口すすり、また首を振る。
「わかりません。ただ、僕も奴の声に従っている魔物を見ました。先程言われたように僕たちは直接攻撃をする魔法を持っている者は稀です。そのため魔物への対処が難しいのです」
俺はそこである疑問が浮かぶ。
「ドワーフ族って武具の製作が得意なんだろう?」
「得意というか、武器の製作とマナ鉱石の採掘で生活しているようなものです」
ガンドはなぜ当たり前のことを言っているんだろうと不思議そうな顔をしている。
「こういうのは作っていないのか?」
俺はソフィアの両親から預かっている魔法剣を見せた。
「……魔具ですね。昔、魔具の開発をしてた人がいたのですが、使用者のマナを吸いすぎてしまうため、開発は中止させられたと聞いています。そういえばその盾も魔具ですよね。シドさんの知り合いですか?」
「誰だ? シドって? この盾はさっき話したように拾い物だし、この剣はソフィアの両親から預かった物だ」
俺はそう言ってソフィアを指差す。
「ゾフィアさんはシドってご存知ですか?」
「ぇ、ぁ……」
初対面がソフィアとまともに話せるはずがない。
ソフィアは俺の陰に隠れてしまった。
「ガンドさん、ゾフィアじゃなくてソフィアだ。ソフィアは恥ずかしがり屋だから勘弁してくれ。それで知っているか?」
「すみません、知りません」
「だ、そうだ。ちなみにこの盾も魔具なのか?」
そういえばえらく性能がいい盾だとは思ってたけど、魔法の盾とは。
「つまり、シドという人しか魔具が作れず、その人がいないため魔物に対応する力がドワーフ族にはないということか?」
「そういうことです。あなたたちは魔物を倒したと聞きました。僕と一緒に彼女を助けに行ってもらえませんか?」
なんとなく状況は掴めた。
「それで、俺たちに何のメリットがあるんだ。そいつが国を作ろうが、世界征服をしようが、ハーレム王になろうがただの行商人の俺たちには関係ない話だぞ」
「……先ほどお話ししたようにダニエル叔母さんへ口利きさせていただきます。ダニエル叔母さんは僕の母の妹なんです」
「命懸けの救出作戦に、口利きのみの報酬か……。悪いが割に合わないな。俺たちの荷物は別の街に持って行ってもいいんだ。そもそもそれはドワーフ族の問題だろう。だいたいあのくそ婆にあんな態度されて、なんで俺たちに助けてもらえると思った? お引き取り願おう」
「僕の全財産もお渡しします。お願いします! あなたたちしか頼れる人はいないんです」
そう言って茶色いくせ毛の頭を下げ、土下座をするガントにムサシマルは話しかける。
「いくらあるんじゃ?」
風が洞窟の入口から吹いてくるため、風上へ風上へと歩いて行く洞窟の外に出た。
外は薄暗くなりはじめ、少し離れた広場にレイティアたちが焚き火をして、俺たちを待っていた。
「おかえり、キヨ。どうだった?」
「全然ダメだ。何か作戦を考えないといけないよ」
俺はお手上げポーズをして答える。
「だめじゃったのに、なんで客を連れてきたんじゃ?」
ムサシマルの言葉に剣を抜きざま、後ろを振り返る。
「誰だ!」
俺の言葉に洞窟からドワーフの青年が一人現れた。
ドワーフにしては珍しい髭のない、幼く見える青年である。
「君は確か、ダニエルさんのところにいた……」
「はい、ガンドと申します。あなたたちにお願いがあって来ました」
「シリル、気がつかなかったのか?」
「すみません。風下にいたみたいで匂いに気がつきませんでした」
ガンドが自己紹介している時にシリルにそっと聞いてみた。
俺も今後の事をどうするか悩みながら歩いていたため全く気が付かなかった。
「それでどんな内容だ? 言っておくけどダニエルさんのおかげで、虫の居所が悪いからな」
楽な交渉だとは思っていなかったが、知り合いのシリルがいて、取り付く島もないのには腹ただしい。
「お願いを聞いていただければ、ダニエル叔母さんに口利きをさせていただきます。それでどうでしょうか?」
「……内容による」
「誘拐された僕の幼馴染を一緒に助けに行って欲しいのです!」
ガンドは堀の深い目をゆがめ、真剣な顔で俺たちにお願いをする。
「ちょっと待て! 立ち話ですむ内容でもないだろう」
薄暗い山の開けた場所で俺たちは焚き火の周りに座り、飲み物をガンドに渡す。
「それで、なぜ誘拐された? 犯人は分かっているのか?」
「犯人は人族ということは分かっています。奴は自分の国を作るために村の長の娘である彼女を誘拐して、我々には奴隷になれと要求しています」
「相手は何人じゃ? ドワーフ族は魔法の数は少ないが強化系が得意でマナ量も多いと聞くが、お主たちでも対応できないくらいそいつらは多いのか?」
ムサシマルの問いかけに首を振る。
「確認できているだけでは一人です。ただそいつがやたら強い上にシャーロッドを人質に取られています。そしてなにより魔物が奴を守っているのです!」
「魔物が守ってるってどういうこと? 魔物を操れるっていうこと?」
レイティアの質問ガンドは何かを思い出すように、コーヒーを一口すすり、また首を振る。
「わかりません。ただ、僕も奴の声に従っている魔物を見ました。先程言われたように僕たちは直接攻撃をする魔法を持っている者は稀です。そのため魔物への対処が難しいのです」
俺はそこである疑問が浮かぶ。
「ドワーフ族って武具の製作が得意なんだろう?」
「得意というか、武器の製作とマナ鉱石の採掘で生活しているようなものです」
ガンドはなぜ当たり前のことを言っているんだろうと不思議そうな顔をしている。
「こういうのは作っていないのか?」
俺はソフィアの両親から預かっている魔法剣を見せた。
「……魔具ですね。昔、魔具の開発をしてた人がいたのですが、使用者のマナを吸いすぎてしまうため、開発は中止させられたと聞いています。そういえばその盾も魔具ですよね。シドさんの知り合いですか?」
「誰だ? シドって? この盾はさっき話したように拾い物だし、この剣はソフィアの両親から預かった物だ」
俺はそう言ってソフィアを指差す。
「ゾフィアさんはシドってご存知ですか?」
「ぇ、ぁ……」
初対面がソフィアとまともに話せるはずがない。
ソフィアは俺の陰に隠れてしまった。
「ガンドさん、ゾフィアじゃなくてソフィアだ。ソフィアは恥ずかしがり屋だから勘弁してくれ。それで知っているか?」
「すみません、知りません」
「だ、そうだ。ちなみにこの盾も魔具なのか?」
そういえばえらく性能がいい盾だとは思ってたけど、魔法の盾とは。
「つまり、シドという人しか魔具が作れず、その人がいないため魔物に対応する力がドワーフ族にはないということか?」
「そういうことです。あなたたちは魔物を倒したと聞きました。僕と一緒に彼女を助けに行ってもらえませんか?」
なんとなく状況は掴めた。
「それで、俺たちに何のメリットがあるんだ。そいつが国を作ろうが、世界征服をしようが、ハーレム王になろうがただの行商人の俺たちには関係ない話だぞ」
「……先ほどお話ししたようにダニエル叔母さんへ口利きさせていただきます。ダニエル叔母さんは僕の母の妹なんです」
「命懸けの救出作戦に、口利きのみの報酬か……。悪いが割に合わないな。俺たちの荷物は別の街に持って行ってもいいんだ。そもそもそれはドワーフ族の問題だろう。だいたいあのくそ婆にあんな態度されて、なんで俺たちに助けてもらえると思った? お引き取り願おう」
「僕の全財産もお渡しします。お願いします! あなたたちしか頼れる人はいないんです」
そう言って茶色いくせ毛の頭を下げ、土下座をするガントにムサシマルは話しかける。
「いくらあるんじゃ?」
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