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第二章

嫉妬

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『なにがどうしたの?』

 食事をして少しウトウトしていた兼光が姫鶴の声に反応して起きてくる。

「ああ、どうやらお前のパパができそうだぞ。」

 いつも俺を食おうとする兼光にイタズラをしたくなった。

『!!!パパ!? 僕、そんなのいらない~! ママだけいればいい』
「そうだよな。パパにママ取られちゃうもんな」
『ママ取られちゃうの! やだやだ! パパなんていらない。パパってどこいるの? 食べちゃう!』

 バタバタと足踏みする。

『あ~モヤモヤする~!』
「兼光。それは嫉妬って言うもんだ……」

 モヤモヤする? ミクス村でレイティアを見た時に感じた気持ちと同じ。
 ああ、俺は嫉妬してたんだな。シリルや別の男と話しをするレイティアを見て。

「ああ、専門家のくせに、自分のこととなるとダメだな」

 誰に言うでもなくつぶやく。

「なあ、兼光。大丈夫だ。ママはお前のこと大好きだ。さっきのは冗談だ。悪かったな。それじゃあ出発するぞ」



「ここが入り口になります」

 活火山なのか頂上に煙がたなびくその山の入口は、街道から一時間ほど外れたところにある。
 街道からのびる道は途中で幾重にも分岐があり、シリルはその度にドワーフの匂いを嗅ぎわけ、洞窟の入口まで案内した。
 分岐の度に一人でも来れるように、正解の道をメモしながら進んだ。
 入口だと言われた場所は大きな岩が蔓と木々に囲われた場所である。

「この岩に仕掛けで動くのか?」

 ゴブリンの巣での出来事を思い出す。

「この岩はダミーです。岩がないと思って入ってください」
「これがダミー?」

 俺は岩の触感を確認する。
 冷たく硬いざらついた岩の感触。

「僕に続いてください」
「姫鶴と師匠、念のためレイティアもここで待っていてくれ、日暮れまでには戻ってくる」
「わたしも行くわ」

 レイティアが心配そうに金色の瞳で俺を見る。

「万が一、魔物が出た場合、君の魔法がないと対処できないんだ。ここから先がドワーフの集落なら危険はないはずだ。相手がドワーフならソフィアの力で対処できるだろう」
「……わかったわ」
「それでは行きます」

 シリルは何もないように岩に飲み込まれて行く。

「ご主人様……」

 ソフィアが不安そうに俺の服をギュッと握る。
 俺はソフィアの手を握る。
  
 レイティアは怒りと悲しみとイライラをごった煮したような不思議な表情をするのが見えた。

 俺たちはすぐ戻ると言って岩に飲み込まれる。
 洞窟の中は明るく馬車ごと入れるほど大きい。
 入口を振り返ると岩など何もないようにレイティアの不安そうな顔が見える。
 手を振ってみたが、あちらからは見えないようだ。

「先に進みますよ」

 洞窟の中も分岐が続く。偶然なのか意図的に迷わせようとしているのか、複雑怪奇な洞窟をシリルは分岐点ごとに匂いを確認してどんどん進む。

「あとどれくらいだ?」
「匂いが強くなってきていますのでもう少しだと思います」

 いくつかの分岐の後、急に開けたところに出た。
 そこは地中にある、小さな村のようだった。
 中央にやぐらがあり、ガッシリとした背の低い人々がせわしなく歩き回っている。
 武器や防具、鉱石や水、運ぶものは人によっていろいろ違うが、暇そうにしている人を見かけない。

「あの~」

 シリルが道行く人に声をかける。

「ダニエルさんはどこにいますか? ミクス村のシリルといいます」

 ヒゲを豊かにたくわえたガッシリとした男性はじろりとシリルを見る。

「ああ、行商人かい。ダニエルさんなら、右の二つ目の穴のにいるよ」

 俺たちは指さされた穴に向かう。
 そこは食料などを持った人々が頻繁に出入りしている穴だった。
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