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第二章
狂獣化
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「狂獣化を止める方法はあるのか?」
俺はタマラに問い詰める。
「本人が疲れ果てて気絶するか、気絶をさせるか。意識を失わせれば止まります。しかし狂獣化した相手は一筋縄ではいきません」
気絶させる。
催眠(さいみん)状態は睡眠(すいみん)状態にすることによって解除することは可能なのだが、本人の体力切れを待つにしても、ムサシマルがいつまで抑えてくれるか。
ムサシマルに気絶をさせるにしても、姫鶴が無事で済まないだろう。
ムサシマルは激しさを増す姫鶴の攻撃に嫌気を差して大きく避ける。
姫鶴は勢いあまり、村人の群れに突っ込む。
村人の悲鳴!
既に姫鶴にはムサシマルと村人の区別が付いていなようで、村人にも襲いかかる。
俺が止めるしかないか。
「レイティア、ストップ! 師匠はその隙に武器を奪ってくれ! ソフィアは俺が失敗したら迷わず姫鶴を止めろ!」
俺の体の傷は兼光に任せるしかない。
俺は大きく一つ深呼吸して、走る。
「姫鶴!」
俺が叫ぶ!
姫鶴がこちらに反応する。
「ストップ!」
レイティアの魔法に姫鶴の動きが緩慢になり、鈍い音が響く。
ムサシマルは姫鶴の右小手に打ち込み、木剣を落とさせる。
痛みを感じないのか、姫鶴はそのまま左で攻撃をしようとする。
ムサシマルは木剣を離し、振り下ろされる姫鶴の左手を抑え、勢いを殺さないように利用しながら体をひねり、投げ飛ばす。
ムサシマルの手には姫鶴の木剣があり、地面に落ちた木剣も全てマルゴットが回収した。
「後は任せたぞ、キヨ」
俺は武器と敵を探す姫鶴に襲いかかる。
姫鶴の掌底を避け、肘をガードしたが、膝が脇腹に刺さる。
ゴキッ!
嫌な音がした。
痛みに耐えながら姫鶴の膝を抱え、押し倒し動きを止める。
「汝は人なり! 恐れも痛みも理性も知性も持つ一体の人なり! 汝、一文字姫鶴は刀にあらず! ただ人なり!」
姫鶴の自己暗示を打ち消す。
俺が打撃を受けながら暗示文を唱える。何度も何度も。
姫鶴の黒い瞳に生気が戻る。
「……あ、ああ。なんでにいちゃんが? ムサシマルと戦ってたはずじゃ? 痛ッ!」
無事に解けたようだ。
ホッとした瞬間、俺は何者かに跳ね飛ばされ、地面を転がった。
『ママをいじめるな~!』
勘弁してくれ~。それはムサシマルがつけた打撲だぞ。
兼光の無駄な一撃で、俺の姫鶴に受けた傷に加え、身体中擦り傷だらけになった。
村人に大した被害はなく、ムサシマルと姫鶴の二人の戦いに驚嘆の声をかけていた。
俺に対しては魔法無しならもう少し頑張れと元気づけられる。
「最後のはなんだ。意識がなくなってただろ」
俺はソフィアに治療してもらいながら、姫鶴に質問する。
傷ばっかり増えていくな。
「百鬼阿修羅っちゅう技というか舞というか、九字切りで恐怖と痛みを消して決められた連続技を叩き込むんや」
疲れからか、姫鶴は地面に座り込んだままだ。
「それはいつも、あんなトランス状態になるのか?」
「いやいや、こんなん初めてや、なんか夢の中で戦っとるようで異様に体が軽うて、疲れも感じんかったわ。ただ,目の前の相手にひたすら刀を振らないかんっていう考えだけが頭に一杯になってもうた」
薄々思っていたのだが、この世界は催眠状態に落ち易いのではないか?
「悪いが、その九字切りと自己暗示は今後使うな。身体の限界を越すぞ」
「わかった。にいちゃんがうちを止めてくれたんか。……ありがとうな」
姫鶴は落ち込んだ顔で礼を言う。
「俺だけじゃない、俺たち全員でだ。それに俺たちは仲間だろう、気にするな。それより手は大丈夫か?」
「おおきに。手は兼光が舐めてくれてるから、痛みないねん。さっきは生意気な口聞いてえろうすいませんでした」
よっぽどショックなのか素直に礼を言う姫鶴がなんだかいじらしい。
「まあ、俺が弱いのは間違いないじゃないからな。しかしお前、恐ろしく強いな。見直したよ」
「そう? そうでもないけどな」
姫鶴は嬉しそうに照れた。
「いやいや、可愛いし、強いし、すごいぞ」
「そんな褒めんといて~。恥ずかしいわ」
とりあえず持ち直したな。
俺は姫鶴の元を離れて、賭け金の分配をしているマルゴットに話しかけた。
「マルゴット、悪かったな。怪我人はいなかったか?」
「みんなすぐに逃げたから大丈夫でした。恐らく怪我はキヨさんが一番酷いと思いますよ」
そう、クスっと笑われてしまった。
「しかし、見応えのある試合でしたね。娯楽の少ない村人は大満足だったでしょう。定期的に行いませんか?」
マルゴットは興奮気味に話す。
「おいおい、俺たちは行商人で剣闘士じゃないんだぞ。それより……」
「はい、二対ゼロでムサシマルさんの勝ちでしたのでこちらが配当金になります」
俺は倍になった配当金を受け取った。
俺はタマラに問い詰める。
「本人が疲れ果てて気絶するか、気絶をさせるか。意識を失わせれば止まります。しかし狂獣化した相手は一筋縄ではいきません」
気絶させる。
催眠(さいみん)状態は睡眠(すいみん)状態にすることによって解除することは可能なのだが、本人の体力切れを待つにしても、ムサシマルがいつまで抑えてくれるか。
ムサシマルに気絶をさせるにしても、姫鶴が無事で済まないだろう。
ムサシマルは激しさを増す姫鶴の攻撃に嫌気を差して大きく避ける。
姫鶴は勢いあまり、村人の群れに突っ込む。
村人の悲鳴!
既に姫鶴にはムサシマルと村人の区別が付いていなようで、村人にも襲いかかる。
俺が止めるしかないか。
「レイティア、ストップ! 師匠はその隙に武器を奪ってくれ! ソフィアは俺が失敗したら迷わず姫鶴を止めろ!」
俺の体の傷は兼光に任せるしかない。
俺は大きく一つ深呼吸して、走る。
「姫鶴!」
俺が叫ぶ!
姫鶴がこちらに反応する。
「ストップ!」
レイティアの魔法に姫鶴の動きが緩慢になり、鈍い音が響く。
ムサシマルは姫鶴の右小手に打ち込み、木剣を落とさせる。
痛みを感じないのか、姫鶴はそのまま左で攻撃をしようとする。
ムサシマルは木剣を離し、振り下ろされる姫鶴の左手を抑え、勢いを殺さないように利用しながら体をひねり、投げ飛ばす。
ムサシマルの手には姫鶴の木剣があり、地面に落ちた木剣も全てマルゴットが回収した。
「後は任せたぞ、キヨ」
俺は武器と敵を探す姫鶴に襲いかかる。
姫鶴の掌底を避け、肘をガードしたが、膝が脇腹に刺さる。
ゴキッ!
嫌な音がした。
痛みに耐えながら姫鶴の膝を抱え、押し倒し動きを止める。
「汝は人なり! 恐れも痛みも理性も知性も持つ一体の人なり! 汝、一文字姫鶴は刀にあらず! ただ人なり!」
姫鶴の自己暗示を打ち消す。
俺が打撃を受けながら暗示文を唱える。何度も何度も。
姫鶴の黒い瞳に生気が戻る。
「……あ、ああ。なんでにいちゃんが? ムサシマルと戦ってたはずじゃ? 痛ッ!」
無事に解けたようだ。
ホッとした瞬間、俺は何者かに跳ね飛ばされ、地面を転がった。
『ママをいじめるな~!』
勘弁してくれ~。それはムサシマルがつけた打撲だぞ。
兼光の無駄な一撃で、俺の姫鶴に受けた傷に加え、身体中擦り傷だらけになった。
村人に大した被害はなく、ムサシマルと姫鶴の二人の戦いに驚嘆の声をかけていた。
俺に対しては魔法無しならもう少し頑張れと元気づけられる。
「最後のはなんだ。意識がなくなってただろ」
俺はソフィアに治療してもらいながら、姫鶴に質問する。
傷ばっかり増えていくな。
「百鬼阿修羅っちゅう技というか舞というか、九字切りで恐怖と痛みを消して決められた連続技を叩き込むんや」
疲れからか、姫鶴は地面に座り込んだままだ。
「それはいつも、あんなトランス状態になるのか?」
「いやいや、こんなん初めてや、なんか夢の中で戦っとるようで異様に体が軽うて、疲れも感じんかったわ。ただ,目の前の相手にひたすら刀を振らないかんっていう考えだけが頭に一杯になってもうた」
薄々思っていたのだが、この世界は催眠状態に落ち易いのではないか?
「悪いが、その九字切りと自己暗示は今後使うな。身体の限界を越すぞ」
「わかった。にいちゃんがうちを止めてくれたんか。……ありがとうな」
姫鶴は落ち込んだ顔で礼を言う。
「俺だけじゃない、俺たち全員でだ。それに俺たちは仲間だろう、気にするな。それより手は大丈夫か?」
「おおきに。手は兼光が舐めてくれてるから、痛みないねん。さっきは生意気な口聞いてえろうすいませんでした」
よっぽどショックなのか素直に礼を言う姫鶴がなんだかいじらしい。
「まあ、俺が弱いのは間違いないじゃないからな。しかしお前、恐ろしく強いな。見直したよ」
「そう? そうでもないけどな」
姫鶴は嬉しそうに照れた。
「いやいや、可愛いし、強いし、すごいぞ」
「そんな褒めんといて~。恥ずかしいわ」
とりあえず持ち直したな。
俺は姫鶴の元を離れて、賭け金の分配をしているマルゴットに話しかけた。
「マルゴット、悪かったな。怪我人はいなかったか?」
「みんなすぐに逃げたから大丈夫でした。恐らく怪我はキヨさんが一番酷いと思いますよ」
そう、クスっと笑われてしまった。
「しかし、見応えのある試合でしたね。娯楽の少ない村人は大満足だったでしょう。定期的に行いませんか?」
マルゴットは興奮気味に話す。
「おいおい、俺たちは行商人で剣闘士じゃないんだぞ。それより……」
「はい、二対ゼロでムサシマルさんの勝ちでしたのでこちらが配当金になります」
俺は倍になった配当金を受け取った。
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